単語は出るのに文にならない―2歳半の発達を「領域ごと」に読み解く
第102回医師国家試験 B問題 第50問
国試問題にチャレンジ
2歳6か月の男児。発達の遅れを心配して来院した。身長89cm,体重13.5kg。手すりにつかまって階段を下りるが,片足跳びはできない。積み木を5個積むが,まねて丸を描くことはできない。簡単な洋服は自分で着るが,一人で顔は洗えない。パパ,ママ,ワンワンは言うが「○○は××」という文では話さない。ごっこ遊びをするがうんちは知らせない。母親を識別する。 遅れているのはどれか。
- a.身体発育
- b.粗大運動
- c.微細運動
- d.言語
- e.社会性
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
乳幼児の発達は身体発育・粗大運動・微細運動・言語・社会性の領域ごとに、月齢相応の目安と照らして評価します。2歳6か月では片足跳び(4歳前後)や丸の模写(3歳)はまだできなくてよく、手すりを使った階段昇降や積み木5個、ごっこ遊びは年齢相応です。一方、二語文は通常2歳ごろまでに出現するため、単語のみにとどまる本例は言語の遅れと判断します。言語のみの遅れをみたら、まず難聴を除外し、そのうえで自閉スペクトラム症、知的能力障害、発達性言語障害、養育環境の問題などを鑑別します。主要なマイルストーンを領域別に押さえておくことは、乳幼児健診で遅れを見逃さず、保護者の不安に根拠をもって応えるための土台になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
2歳6か月の男児について、発達を領域ごとに分けて評価する問題である。発達評価では、身体発育・粗大運動・微細運動・言語・社会性(生活習慣を含む)の各領域について、その月齢で通常獲得されている「発達の目安(マイルストーン)」と照らし合わせる。ある領域だけが大きく遅れていないかを見るのがポイントである。 ・身体発育:身長89cm、体重13.5kg。2歳6か月の平均はおおよそ身長90cm前後、体重13kg前後であり、標準範囲内である。 ・粗大運動(体幹や手足を大きく使う運動):手すりにつかまって階段を下りる(2歳ごろに可能)。片足跳び(けんけん)はできないが、これは4歳前後で獲得されるので現時点でできなくてよい。 ・微細運動(手指の細かい動き):積み木を5個積む(2歳で6個前後が目安で、年齢相応の範囲)。まねて丸を描くのは3歳ごろなので、できなくてよい。 ・言語:「パパ、ママ、ワンワン」など単語(一語文)は話すが、「○○は××」のような二語文が出ていない。二語文は通常2歳ごろまでに出現し、2歳6か月で出ていないのは明らかな遅れである。 ・社会性・生活習慣:ごっこ遊び(見立て遊び)をし、母親を識別し、簡単な衣服を自分で着る。いずれも年齢相応である。排便を知らせない、一人で顔を洗えないことは、この年齢では個人差の範囲として扱ってよい。
考え方
以上から、他の領域はおおむね年齢相応であるのに、言語表出(話すこと)のみが遅れている。ごっこ遊びができ母親を識別していることから、対人関係や象徴機能は保たれていると考えられる。言語だけが遅れる場合、まず難聴(聴力障害)の除外が重要であり、そのうえで言語発達遅滞(発達性言語障害)、自閉スペクトラム症、知的能力障害などを鑑別していく。本問で問われているのは「どの領域が遅れているか」であり、答えは言語である。
選択肢考察
- ×a. 身体発育
身長89cm、体重13.5kgは2歳6か月男児の標準的な値である。体重は出生時約3kgが1歳で約3倍(約9kg)、2歳半で約4倍(12〜13kg)になるという目安にも合致し、身体発育の遅れはない。
- ×b. 粗大運動
手すりにつかまって階段を昇り降りすることは2歳ごろに可能となり、本児はこれができている。片足跳び(けんけん)は4歳前後、片足立ちでも3歳ごろに獲得される運動であり、2歳6か月でできないのは正常である。粗大運動に遅れはない。
- ×c. 微細運動
積み木を5個積めること、簡単な衣服を自分で着られることから、手指の巧緻性は年齢相応である。まねて丸を描く(円の模写)のは3歳ごろ、十字は4歳ごろ、四角は4歳半〜5歳ごろに可能となるため、2歳6か月で丸が描けなくても遅れとはいえない。
- ○d. 言語
意味のある単語(初語)はおよそ1歳ごろに出現し、「ママ、だっこ」のような二語文は通常2歳ごろまでに話し始める。本児は2歳6か月で単語のみにとどまり二語文が出ていないため、言語(表出)の発達が遅れていると判断できる。他の領域が年齢相応であることから、言語領域に限局した遅れであり、まず聴力検査で難聴を除外する必要がある。
- ×e. 社会性
ごっこ遊び(物を別の物に見立てる遊び)は2〜3歳ごろにみられる社会性・象徴機能の発達の表れであり、本児はこれができている。母親を識別し、簡単な衣服を自分で着るなど、社会性や生活習慣も年齢相応である。排便の予告や一人での洗顔は2〜4歳にかけて個人差をもって自立していくもので、これだけで社会性の遅れとはいえない。
乳幼児の主な発達の目安
・1歳:一人で立つ〜歩き始める。意味のある単語(初語)を話す。身長約75cm、体重は出生時の約3倍(約9kg)。 ・1歳6か月:一人で上手に歩く。単語をいくつか話す。積み木を2〜3個積む。 ・2歳:走る。手すりにつかまって階段を昇り降りする。二語文を話す。積み木を6個前後積む。体重は出生時の約4倍。 ・3歳:片足立ちが数秒できる。三輪車をこぐ。丸をまねて描く。自分の名前が言え、三語文を話す。ごっこ遊びが盛んになり、友達と順番を待つなどの社会性が育つ。身長は出生時の約2倍(約95cm)。 ・4歳:片足跳び(けんけん)。十字を描く。 ・5歳:スキップ。四角・三角を描く。
言語発達の遅れをみたときの鑑別
・難聴:最初に除外すべき。聴性脳幹反応(ABR)や年齢に応じた聴力検査を行う。 ・自閉スペクトラム症:言葉の遅れに加え、視線が合いにくい、指さしをしない、ごっこ遊びをしない、こだわりが強いなどの特徴を伴う。 ・知的能力障害:言語だけでなく運動や生活習慣など複数領域で遅れがみられることが多い。 ・発達性言語障害(言語発達遅滞):聴力や知的能力、社会性に問題がなく、言語領域のみが遅れる。 ・養育環境の問題(ネグレクト等)も考慮する。
POINT
・発達評価は身体発育・粗大運動・微細運動・言語・社会性の領域ごとに、月齢相応かを判断する。 ・二語文は2歳ごろまでに出現する。2歳6か月で出ていなければ言語の遅れである。 ・片足跳び(4歳前後)、丸の模写(3歳)は2歳6か月でできなくてよい。 ・言語のみの遅れでは、まず難聴を除外する。
