地球温暖化の主役なのに基準がない?―大気汚染の環境基準と二酸化炭素の意外な関係
第102回医師国家試験 B問題 第31問
国試問題にチャレンジ
大気汚染に係る環境基準が設定されていないのはどれか。
- a.ベンゼン
- b.二酸化炭素
- c.二酸化窒素
- d.トリクロロエチレン
- e.テトラクロロエチレン
対話形式の解説
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ドクターまとめ
大気汚染に係る環境基準は、人の健康の保護と生活環境の保全のために「維持されることが望ましい」行政目標であり、二酸化硫黄・一酸化炭素・浮遊粒子状物質・二酸化窒素・光化学オキシダントの古典的大気汚染物質、ベンゼン・トリクロロエチレン・テトラクロロエチレン・ジクロロメタンの有害大気汚染物質、PM2.5、そしてダイオキシン類に設定されています。二酸化炭素は温室効果ガスとして地球温暖化対策の対象ではあるものの、通常の大気中濃度では健康被害を起こさないため、大気の環境基準は設定されていません。一方で室内では換気の指標として、建築物環境衛生管理基準で1,000ppm以下と定められており、大気の基準と室内空気の基準を区別することが重要です。環境基準の達成状況は物質により大きく異なり、光化学オキシダントは達成率が極めて低い状態が続いています。基準の目的と根拠法を意識して整理することは、国試対策だけでなく、産業保健や学校保健など予防医学の実務にも役立ちます。
解答・解説
正解はbです
環境基準とは、人の健康を保護し生活環境を保全するうえで「維持されることが望ましい基準」として、環境基本法に基づいて政府が定める行政上の目標値である。排出規制のように個々の事業者を直接縛る規制値ではなく、環境行政の到達目標という位置づけである。大気、水質、土壌、騒音などについて設定されている。 大気汚染に係る環境基準は、(1)古典的な大気汚染物質である二酸化硫黄、一酸化炭素、浮遊粒子状物質、二酸化窒素、光化学オキシダント、(2)有害大気汚染物質であるベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン、(3)微小粒子状物質(PM2.5)について環境基本法に基づき定められ、さらにダイオキシン類についてはダイオキシン類対策特別措置法に基づいて定められている。 二酸化炭素(CO2)は地球温暖化の原因となる温室効果ガスではあるが、通常の大気中濃度で健康被害を起こす物質ではないため、大気汚染に係る環境基準は設定されていない。したがって正解は二酸化炭素である。なお、CO2には室内空気の基準(建築物衛生法の建築物環境衛生管理基準など)が別に存在し、これと混同しないことが重要である。
選択肢考察
- ×a. ベンゼン
ベンゼンは自動車排出ガスやガソリンの蒸発などから大気中に放出される芳香族炭化水素である。長期曝露により骨髄障害(再生不良性貧血)や白血病を起こす発癌物質であり、有害大気汚染物質として環境基準が設定されている(年平均値0.003mg/m3以下)。
- ○b. 二酸化炭素
二酸化炭素は温室効果ガスとして地球温暖化対策(排出削減目標など)の対象にはなっているが、大気汚染に係る環境基準は設定されていない。屋外大気中の濃度(およそ400ppm台)では健康影響はなく、人の健康保護を目的とする大気の環境基準の対象ではないからである。一方、室内では換気の良否を示す指標として重要であり、建築物衛生法に基づく建築物環境衛生管理基準で1,000ppm(0.1%)以下と定められている。学校環境衛生基準にも換気の基準として含まれる。大気の環境基準と室内空気の基準を区別して覚えることが求められる。
- ×c. 二酸化窒素
二酸化窒素(NO2)は自動車や工場などでの高温燃焼により発生する窒素酸化物の一つで、気道を刺激し呼吸器疾患の原因となるほか、光化学オキシダントや酸性雨の原因物質にもなる。古典的な大気汚染物質として環境基準が設定されている(1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内またはそれ以下)。
- ×d. トリクロロエチレン
トリクロロエチレンは金属部品の脱脂洗浄などに用いられてきた有機塩素系溶剤である。中枢神経抑制作用、肝・腎障害のほか発癌性が問題となり、地下水汚染の原因物質としても知られる。有害大気汚染物質として大気の環境基準が設定されている(年平均値で定められている)。
- ×e. テトラクロロエチレン
テトラクロロエチレンはドライクリーニングの洗浄溶剤や金属の脱脂などに用いられる有機塩素系溶剤である。中枢神経抑制作用や肝障害、発癌性が懸念され、トリクロロエチレンと同様に有害大気汚染物質として大気の環境基準が設定されている(年平均値0.2mg/m3以下)。
大気汚染に係る環境基準が設定されている物質
・環境基本法に基づくもの 古典的大気汚染物質:二酸化硫黄(SO2)、一酸化炭素(CO)、浮遊粒子状物質(SPM)、二酸化窒素(NO2)、光化学オキシダント(Ox) 有害大気汚染物質:ベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン 微小粒子状物質(PM2.5):2009年に追加された ・ダイオキシン類対策特別措置法に基づくもの:ダイオキシン類 本問の出題当時(2008年)はPM2.5の基準がまだなく計10物質とされていたが、現在はPM2.5を加えた11物質となっている。
環境基準が設定されていない代表例
二酸化炭素、フロン、メタンなどの温室効果ガスやオゾン層破壊物質は、健康被害を直接起こす大気汚染物質としてではなく、地球環境問題の枠組み(地球温暖化対策推進法、オゾン層保護法など)で対策が取られており、大気の環境基準はない。
環境基準の達成状況
SO2、CO、NO2などは達成率が高い一方、光化学オキシダントはほとんどの測定局で未達成の状態が続いている。
室内空気の基準との区別
建築物環境衛生管理基準では、二酸化炭素1,000ppm以下、一酸化炭素6ppm以下(2022年に10ppmから改正)、浮遊粉じん0.15mg/m3以下、ホルムアルデヒド0.1mg/m3以下などが定められている。これらは建物内の空気環境の基準であり、大気の環境基準とは別物である。
POINT
・二酸化炭素には大気汚染に係る環境基準がない(頻出)。室内空気の基準(1,000ppm以下)はある。 ・大気の環境基準:SO2、CO、SPM、NO2、光化学オキシダント、ベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン、PM2.5(以上は環境基本法)、ダイオキシン類(ダイオキシン類対策特別措置法)。 ・環境基準は規制値ではなく、維持されることが望ましい行政目標である。
