暑さが運ぶ病―地球温暖化とオゾン層破壊を取り違えないために
第102回医師国家試験 B問題 第29問
国試問題にチャレンジ
地球温暖化で危惧されるのはどれか。2つ選べ。
- a.寒帯地域での白内障の増加
- b.温帯地域での皮膚癌の増加
- c.発展途上国での循環器疾患の増加
- d.マラリア感染危険地域の高緯度への拡大
- e.温帯地域で熱中症に罹患する高齢者の増加
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクターまとめ
地球温暖化は二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスによって気温が上昇する現象で、健康への影響としては熱中症(特に体温調節機能が低下した高齢者)の増加や、マラリア・デング熱など蚊媒介感染症の流行地域の高緯度・高地への拡大が代表的です。一方、皮膚癌や白内障は紫外線(UV-B)の増加、すなわちフロン類やハロンによるオゾン層の破壊に関連づけて理解します。発展途上国の循環器疾患の増加は主に生活習慣や人口構造の変化(疫学転換)によるもので、温暖化の典型的な影響とはされません。さらに温暖化では異常気象による災害や食料不足、水系感染症なども懸念され、対策として京都議定書・パリ協定、オゾン層ではモントリオール議定書が結ばれています。「熱」と「紫外線」で健康影響を整理する視点は、国試だけでなく、日常診療での熱中症予防指導にも役立ちます。
解答・解説
正解はd, eです
地球規模の環境問題はいくつもあるが、国家試験では「その問題の原因物質」と「予想される健康影響」を正しく対応づけられるかがよく問われる。特に混同しやすいのが、地球温暖化とオゾン層の破壊である。 ・地球温暖化:二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロン類などの温室効果ガスが増え、地表から宇宙へ逃げる赤外線(熱)が大気にとどまることで、地球の平均気温が上がる現象である。健康への影響としては、熱波による熱中症や暑熱関連死の増加、蚊などの媒介生物の生息域が広がることによる感染症の拡大、豪雨・洪水・干ばつなどの異常気象による被害や食料・水不足が懸念されている。 ・オゾン層の破壊:フロン類やハロンなどが成層圏のオゾンを分解し、有害な紫外線(特にUV-B)が地表に多く届くようになる現象である。健康への影響は、皮膚癌、白内障、免疫機能の低下などである。 本問では、気温の上昇から直接導かれる「マラリア流行地域の高緯度への拡大」と「高齢者の熱中症の増加」が温暖化で危惧される影響にあたる。白内障と皮膚癌は紫外線、すなわちオゾン層の破壊に結びつけて考える。
選択肢考察
- ×a. 寒帯地域での白内障の増加
誤り。白内障の増加が懸念されるのは、オゾン層の破壊によって地表に届く紫外線(UV-B)が増える場合である。南極上空のオゾンホールに代表されるように、オゾン層の減少は高緯度で目立つため、寒帯での紫外線増加はむしろオゾン層の問題として扱われる。気温の上昇そのものが白内障を増やすわけではない。なお、職業性の白内障としては、ガラス工や製鉄作業者などが強い赤外線を浴び続けて起こる例も知られている。
- ×b. 温帯地域での皮膚癌の増加
誤り。皮膚癌(基底細胞癌、有棘細胞癌、悪性黒色腫など)の増加は、紫外線曝露の増加、すなわちオゾン層の破壊によって懸念される健康影響である。フロン類はオゾン層破壊物質であると同時に温室効果ガスでもあるが、皮膚癌の増加は温暖化(気温の上昇)ではなく紫外線の増加に結びつけて理解する。
- ×c. 発展途上国での循環器疾患の増加
誤り。発展途上国で循環器疾患が増えている主な原因は、経済発展に伴う食生活の欧米化、運動不足、喫煙、高齢化といった生活習慣や人口構造の変化(疫学転換)であり、地球温暖化の代表的な健康影響としては挙げられない。ただし、熱波の際に高齢者などで心血管疾患による死亡が増えることは知られており、気温と循環器疾患がまったく無関係というわけではない。本問の選択肢の中では、温暖化の影響として典型的なものではないという位置づけである。
- ○d. マラリア感染危険地域の高緯度への拡大
正しい。マラリアはハマダラカが媒介する原虫感染症で、蚊の生息や原虫の発育には一定以上の気温が必要である。温暖化により、これまで寒冷のため流行しなかった高緯度地域や高地にまで媒介蚊と原虫が適する環境が広がり、流行地が拡大すると予測されている。デング熱など、ほかの蚊媒介感染症でも同様の懸念がある。
- ○e. 温帯地域で熱中症に罹患する高齢者の増加
正しい。温暖化によって平均気温が上がるだけでなく、猛暑日や熱波の頻度も増えるため、温帯地域でも熱中症が増えると予想される。高齢者は暑さやのどの渇きを感じにくく、発汗などの体温調節機能や体内の水分量も低下しているため、熱中症を起こしやすく重症化しやすい。日本でも熱中症による救急搬送や死亡の多くを高齢者が占めている。
地球温暖化の概要
主な温室効果ガスは二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロン類(代替フロンを含む)で、温暖化への寄与は二酸化炭素が最も大きい。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書(2021年)によると、世界平均気温は産業革命前と比べてすでに約1.1℃上昇しており、今世紀末には温室効果ガスの排出シナリオに応じて約1.0~5.7℃上昇すると予測されている。出題当時の第4次評価報告書(2007年)では、今世紀末までに1.1~6.4℃の気温上昇と18~59cmの海面上昇が予測されていた。
温暖化による健康影響
・直接的な影響:熱波による熱中症、暑熱に関連した死亡(循環器・呼吸器疾患を含む)の増加。 ・間接的な影響:マラリア、デング熱などの媒介生物による感染症の分布域拡大。水温上昇による水系・食物由来の感染症の増加。豪雨・洪水・高潮などの災害による外傷や死亡。干ばつによる食料不足と栄養不良。大気汚染(光化学オキシダントなど)の悪化。
オゾン層破壊との比較
・原因物質:フロン類(CFC)、ハロン、四塩化炭素など ・機序:成層圏オゾンが分解され、地表に届くUV-Bが増える ・健康影響:皮膚癌、白内障、免疫機能低下 ・国際的な対策:ウィーン条約(1985年)、モントリオール議定書(1987年)
温暖化対策の国際的な枠組み
気候変動枠組条約(1992年採択)、京都議定書(1997年採択、先進国に温室効果ガスの削減目標を設定)、パリ協定(2015年採択、世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求する)。
POINT
・地球温暖化で危惧される健康影響:熱中症の増加(特に高齢者)、マラリアなどの蚊媒介感染症の流行地域の拡大、異常気象による災害や食料不足。 ・皮膚癌と白内障は紫外線の増加、すなわちオゾン層の破壊に関連づける。 ・温暖化の主な原因物質は二酸化炭素・メタン・一酸化二窒素・フロン類、オゾン層破壊の原因物質はフロン類・ハロンなど。フロン類は両方に関わる。 ・国際的な対策:温暖化は京都議定書・パリ協定、オゾン層はモントリオール議定書。
