StudyMed医師国家試験

入院中の肺炎は「静かな誤嚥」から―院内肺炎を市中肺炎と比べて読み解く

第102回医師国家試験 B問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第102回 B問題 第24問

院内肺炎で正しいのはどれか。

  1. a.誤嚥は院内肺炎の原因になる。
  2. b.高齢者は若年者よりも予後がよい。
  3. c.院内感染症の中で最も頻度が高い。
  4. d.最も多い起因菌は肺炎球菌である。
  5. e.喀痰検査で起因菌は容易に同定できる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は院内肺炎の基本的な特徴を問う問題だ。コツは、皆がよく知っている市中肺炎と並べて「誰が・どうやって・どの菌で・どれくらい重く」なるのかを比べること。まず、院内肺炎の定義から確認しておこうか。
医学生医学生
入院してから発症した肺炎、ですよね。入院当日に熱が出た場合も含まれるんでしょうか。
ドクタードクター
そこは大事なポイントだね。院内肺炎は入院後48時間以上たってから新たに発症した肺炎を指す。入院時にすでに潜伏期にあったものは含めないんだ。さらに、人工呼吸器を装着して48時間以降に起こるものは人工呼吸器関連肺炎、いわゆるVAPと呼ばれ、院内肺炎の重要な一型になる。
医学生医学生
呼吸器内科の講義で、市中肺炎・医療介護関連肺炎・院内肺炎の3つに分けると習いました。
ドクタードクター
そう、日本のガイドラインではその3分類だ。では、院内肺炎はどうやって起こると思う?入院患者がどんな状態にあるかを思い浮かべてみて。
医学生医学生
高齢で寝たきりの方や、脳梗塞後で飲み込みが悪い方が多いので、誤嚥でしょうか。でも、むせているところはあまり見ない気がします。
ドクタードクター
鋭いね。まさにそこがポイントで、主な経路は本人も周りも気づかない「不顕性誤嚥」なんだ。睡眠中などに、口腔や咽頭にたまった細菌を含む分泌物が少しずつ気道に流れ込む。入院中は口の中の常在菌叢がグラム陰性桿菌などに置き換わりやすいから、それを誤嚥すると肺炎になる。だから「誤嚥は院内肺炎の原因になる」という記述が正解だ。
医学生医学生
鎮静中の方や経鼻胃管の入っている方もリスクが高そうですね。
ドクタードクター
その通り。仰臥位の保持、気管挿管、経鼻胃管、鎮静薬、それに胃酸分泌抑制薬で胃の中で細菌が増えやすくなることも誤嚥のリスクを高める。次は予後。高齢者と若年者ではどちらが良いと思う?
医学生医学生
それは若年者ですよね。高齢者は免疫も嚥下機能も落ちていて、基礎疾患も多いので。
ドクタードクター
正解。高齢であることは院内肺炎の予後不良因子だ。しかも高齢者は発熱や白血球増加が目立たず、「なんとなく元気がない」「食べない」だけで始まることもあって、診断が遅れやすい。高齢者のほうが予後が良いという記述は誤りだね。
医学生医学生
起因菌については、肺炎といえば肺炎球菌というイメージが強いです。CBTでも肺炎球菌ばかり出てきた気がします。
ドクタードクター
そのイメージがひっかけどころなんだ。肺炎球菌が最多なのは市中肺炎。院内肺炎では緑膿菌、クレブシエラ、エンテロバクター、アシネトバクターなどのグラム陰性桿菌と、MRSAを含む黄色ブドウ球菌が主体になる。誤嚥が絡めば口腔内の嫌気性菌も関わる。健常者には病原性の低い弱毒菌や薬剤耐性菌が多いのが特徴だよ。
医学生医学生
だから初期治療では緑膿菌までカバーする広域の抗菌薬を選ぶんですね。では、喀痰を調べれば菌はすぐ分かるのでは?
ドクタードクター
実はそう簡単ではない。高齢者や意識障害のある人は良い痰を出せないし、喀痰は口腔内の菌で汚染されやすい。入院患者の気道にはグラム陰性桿菌が定着していることも多く、検出された菌が起因菌なのか単なる定着菌なのか判断しにくい。嫌気性菌は空気に触れる喀痰では培養しづらいし、すでに抗菌薬が入っていることも多い。だから「容易に同定できる」は誤りで、必要に応じて気管吸引痰や気管支肺胞洗浄液、血液培養を組み合わせて評価するんだ。
医学生医学生
最後に、院内感染症の中で肺炎が一番多いというのはどうでしょう。重症なイメージがあるので、正しそうに見えました。
ドクタードクター
そう感じるのも無理はない。でも古くから院内感染症で最も多いとされてきたのは尿路感染症で、その多くは尿道カテーテルに関連したものだ。肺炎は手術部位感染や血流感染と並んでそれに次ぐ頻度だけれど、死亡への寄与はいちばん大きい感染症とされている。なお、近年の欧米の調査ではカテーテル管理の改善で尿路感染症が減り、肺炎が最多になったという報告もあるので、時代とともに変わりうる点は頭の片隅に置いておこう。
医学生医学生
まとめると、院内肺炎は誤嚥がきっかけで、耐性のグラム陰性桿菌やMRSAが多く、高齢者ほど予後が悪くて、菌の同定も難しい、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に臨床での注意点として予防を押さえておこう。基本は手指衛生と口腔ケア、ベッドの頭側を30~45度挙げること、不要な鎮静薬や胃酸分泌抑制薬の見直し、人工呼吸器からの早期離脱、そして早期離床とリハビリだ。
医学生医学生
臨床実習で病棟を回ったとき、看護師さんが毎食後に口腔ケアをしていたのは肺炎予防の意味もあったんですね。
ドクタードクター
その通り。歯科衛生士さんや言語聴覚士さんと連携した口腔ケアや嚥下評価、食形態の調整は、抗菌薬に負けないくらい大切な「治療」なんだ。入院患者が急に元気をなくしたら、まず肺炎と誤嚥を疑う習慣をつけておこう。

まとめ

院内肺炎は入院後48時間以上たってから発症する肺炎で、人工呼吸器関連肺炎を含み、その主な発症機序は口腔・咽頭分泌物の不顕性誤嚥です。起因菌は市中肺炎で最多の肺炎球菌ではなく、緑膿菌などのグラム陰性桿菌やMRSAが主体で、誤嚥が関与すれば嫌気性菌も加わります。高齢者は予後不良因子であり、喀痰では起因菌と定着菌の区別が難しく嫌気性菌も培養しにくいため、起因菌の同定は容易ではありません。院内感染症で古典的に最多とされるのはカテーテル関連が多い尿路感染症です。市中肺炎との対比で整理し、口腔ケアや頭部挙上などの予防策まで結びつけて理解することが、病棟診療に直結する力になります。

解答・解説

正解はaです

院内肺炎(hospital-acquired pneumonia:HAP)の特徴を、市中肺炎(community-acquired pneumonia:CAP)との対比で理解しているかを問う問題である。

院内肺炎の定義

入院後48時間以上経過してから新たに発症した肺炎をいう。入院時にすでに感染していた(潜伏期にあった)ものは含まない。人工呼吸器装着後48時間以降に発症するものは人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia:VAP)と呼ばれ、院内肺炎の重要な一型である。

市中肺炎との違い

・患者背景:院内肺炎の患者は、基礎疾患、手術、意識障害、嚥下機能低下、栄養不良、免疫抑制などを抱えていることが多い。 ・発症機序:口腔・咽頭に定着した細菌を含む分泌物の不顕性誤嚥(本人が気づかない、むせのない誤嚥)が主要な経路である。入院中は口腔内の常在菌叢がグラム陰性桿菌などに置き換わりやすく、これが誤嚥されて肺炎を起こす。 ・起因菌:市中肺炎では肺炎球菌が最多であるのに対し、院内肺炎では緑膿菌、クレブシエラ、エンテロバクター、アシネトバクターなどのグラム陰性桿菌、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が主体で、誤嚥が関与する例では口腔内嫌気性菌も関わる。健常者には病原性の低い弱毒菌や薬剤耐性菌が多い。 ・予後:宿主の状態が悪く耐性菌も多いため、市中肺炎に比べて死亡率が高い。 これらの特徴に照らすと、誤嚥が院内肺炎の原因になるという記述だけが正しい。

選択肢考察

  1. ○a.  誤嚥は院内肺炎の原因になる。

    正しい。入院患者、特に高齢者、脳血管障害の既往がある者、鎮静中の者、経管栄養中の者などでは、嚥下反射や咳反射が低下している。そのため、口腔・咽頭の細菌を含む分泌物や、逆流した胃内容物を誤嚥しやすい。とくに睡眠中などに気づかないうちに起こる不顕性誤嚥は、院内肺炎の最も重要な発症機序である。また、胃酸分泌抑制薬の使用による胃内での細菌増殖や、仰臥位の保持、気管挿管・経鼻胃管の留置も誤嚥のリスクを高める。予防策として、口腔ケア、ベッド頭部の挙上(30~45度)、嚥下機能の評価と食形態の調整が行われる。

  2. ×b.  高齢者は若年者よりも予後がよい。

    誤り。高齢者は、細胞性・液性免疫の低下、栄養不良、心疾患・糖尿病・慢性呼吸器疾患などの基礎疾患の合併、嚥下機能や咳嗽力の低下などを抱えていることが多い。そのため肺炎は重症化・遷延しやすく、誤嚥を繰り返して再発しやすい。また、発熱や白血球増加などの典型的な症状が出にくく、食欲不振や意識レベル低下だけで発症して診断が遅れることもある。高齢であることは院内肺炎の予後不良因子であり、若年者より予後は悪い。

  3. ×c.  院内感染症の中で最も頻度が高い。

    誤り。院内感染症のうち古くから最も頻度が高いとされてきたのは尿路感染症で、その多くは尿道留置カテーテルに関連したもの(カテーテル関連尿路感染症)である。肺炎は手術部位感染や血流感染(中心静脈カテーテル関連血流感染など)とともにこれに次ぐ頻度であり、院内感染症の中では死亡への寄与が最も大きい感染症とされる。なお、近年の欧米の調査では、カテーテル管理の改善などによって尿路感染症が減少し、肺炎が最多となった報告もある。

  4. ×d.  最も多い起因菌は肺炎球菌である。

    誤り。肺炎球菌は市中肺炎で最も多い起因菌である。院内肺炎では、緑膿菌、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア属、アシネトバクター属などのグラム陰性桿菌と、MRSAを含む黄色ブドウ球菌が主な起因菌であり、誤嚥が関与する例では口腔内の嫌気性菌も加わる。これらは抗菌薬への耐性をもつことが多く、初期治療では緑膿菌を含むグラム陰性桿菌に有効な広域抗菌薬を選択し、MRSAのリスクがあれば抗MRSA薬を加えるなどの配慮が必要となる。

  5. ×e.  喀痰検査で起因菌は容易に同定できる。

    誤り。院内肺炎では起因菌の同定が難しいことが多い。理由として、(1) 高齢者や意識障害のある患者では良質な喀痰を喀出できない、(2) 喀痰は口腔内常在菌で汚染されやすく、入院患者では口腔・気道にグラム陰性桿菌などが定着しているため、検出菌が起因菌なのか単なる定着菌なのか判断しにくい、(3) 誤嚥に関与する嫌気性菌は、空気に触れる喀痰検体では培養が困難である、(4) 入院中にすでに抗菌薬が投与されていることが多い、などが挙げられる。そのため必要に応じて気管吸引痰、気管支鏡による気管支肺胞洗浄液などの検体や、血液培養を併用して評価する。

肺炎の分類(我が国の成人肺炎診療ガイドライン)

・市中肺炎(CAP):一般社会で生活する人に発症する肺炎。起因菌は肺炎球菌が最多で、インフルエンザ菌、マイコプラズマ、クラミドフィラ(クラミジア)、レジオネラなどが続く。 ・医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare-associated pneumonia:NHCAP):長期療養型病床群や介護施設の入所者、90日以内に退院した者、介護を必要とする高齢者・身体障害者、通院で継続的に血管内治療(透析、抗菌薬、化学療法、免疫抑制薬など)を受けている者に発症する肺炎。誤嚥性肺炎が多い。 ・院内肺炎(HAP):入院48時間以降に発症した肺炎。VAPを含む。

院内肺炎の主な危険因子

・宿主側:高齢、意識障害、嚥下障害、慢性肺疾患、低栄養、免疫抑制状態、術後(特に胸部・上腹部手術後の疼痛による喀痰排出障害) ・医療行為側:気管挿管・人工呼吸管理、経鼻胃管、鎮静薬、胃酸分泌抑制薬、長期間の抗菌薬投与(耐性菌の選択)、仰臥位

院内肺炎の主な起因菌

・グラム陰性桿菌:緑膿菌、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア属、アシネトバクター属、大腸菌 ・グラム陽性球菌:黄色ブドウ球菌(MRSAを含む) ・嫌気性菌:誤嚥が関与する場合(口腔内のPeptostreptococcus、Prevotella、Fusobacteriumなど)

予防の基本

手指衛生、口腔ケア、ベッド頭部挙上、不要な鎮静・胃酸分泌抑制薬の見直し、人工呼吸器からの早期離脱、早期離床・リハビリテーション。

院内感染症の主な種類

尿路感染症(カテーテル関連が多い)、肺炎、手術部位感染、血流感染(カテーテル関連が多い)、Clostridioides difficile感染症など。

POINT

・院内肺炎=入院後48時間以上経過して発症した肺炎。人工呼吸器関連肺炎(VAP)を含む。 ・主な発症機序は口腔・咽頭分泌物の不顕性誤嚥。 ・起因菌は緑膿菌などのグラム陰性桿菌とMRSAが主体(肺炎球菌が最多なのは市中肺炎)。 ・高齢者は予後不良。院内肺炎は市中肺炎より死亡率が高い。 ・喀痰では起因菌と定着菌の区別が難しく、嫌気性菌は培養困難なため、起因菌の同定は容易でない。 ・院内感染症で古典的に最多とされるのは尿路感染症。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。