なぜ4週間待つのか―「生きている」ワクチンとウイルス干渉の話
第102回医師国家試験 B問題 第23問
国試問題にチャレンジ
予防接種後,他の予防接種までに4週以上の間隔をおいた方が良いのはどれか。2つ選べ。
- a.B型肝炎
- b.水痘
- c.日本脳炎
- d.破傷風
- e.麻疹
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
生ワクチンは体内で弱毒病原体が増殖して免疫を誘導するため、接種後しばらくは自然免疫が高まり、続けて別の生ワクチンを打つとウイルス干渉で効果が弱まるおそれがあります。そのため水痘や麻疹(MR)などの注射生ワクチンの後は27日以上(4週間)あけて次の生ワクチンを接種します。一方、B型肝炎や日本脳炎などの不活化ワクチン、破傷風などのトキソイドは増殖しないため干渉を起こさず、2020年10月の改正以降は他のワクチンとの間隔の制限もありません。生ワクチンは妊婦や免疫抑制者には原則禁忌であり、ガンマグロブリン投与後は一定期間あけて接種する点も重要です。ワクチンを「生きて増えるか」で分類して理解することは、予防接種スケジュールの組み立てや保護者への説明など、日常診療に直結する知識です。
解答・解説
正解はb, eです
異なる種類のワクチンを別々の日に接種するときの接種間隔を問う問題である。鍵となるのは、選択肢のワクチンを「生ワクチン」と「不活化ワクチン・トキソイド」に分けることである。
生ワクチン接種後に間隔を長くとる理由
生ワクチンは弱毒化した生きた病原体を接種し、体内で増殖させて免疫を誘導する。接種後しばらくは体内でウイルス増殖が続き、インターフェロンなどの自然免疫応答が高まる。この時期に別の生ワクチンを接種すると、先行する免疫応答によって後から接種したウイルスの増殖が抑えられ(ウイルス干渉)、十分な免疫が得られないおそれがある。このため、生ワクチン接種後は27日以上(すなわち4週間後の同じ曜日以降)あけて次の接種を行うとされてきた。
不活化ワクチン・トキソイドの場合
病原体は増殖しないため干渉は起こらない。接種後の発熱や局所反応などの副反応は通常1週間以内に治まるため、本問出題当時の規定では、次の接種まで6日以上(1週間後の同じ曜日以降)あければよいとされていた。 選択肢のうち生ワクチンは水痘と麻疹であり、これらが「4週以上の間隔をおいた方が良い」ワクチンに該当する。 なお、2020年10月に接種間隔の規定が改められた(下記の補足参照)。現行制度でも、注射で接種する生ワクチンの後に別の注射生ワクチンを接種する場合は27日以上の間隔が必要であり、本問の結論は変わらない。
選択肢考察
- ×a. B型肝炎
誤り。B型肝炎ワクチンは、遺伝子組換え技術で酵母に作らせたHBs抗原(B型肝炎ウイルスの表面抗原)を成分とする不活化ワクチン(組換えサブユニットワクチン)である。体内で増殖しないためウイルス干渉は起こらず、4週以上の間隔は不要である。出題当時の規定では次の接種まで6日以上あければよいとされ、現行制度では他のワクチンとの間隔の制限はない。なお、B型肝炎ワクチンは2016年10月から定期接種(1歳未満に3回)となっている。
- ○b. 水痘
正しい。水痘ワクチンは水痘・帯状疱疹ウイルスの弱毒株(Oka株)を用いた注射の生ワクチンである。接種後は体内でウイルスが増殖するため、次に別の生ワクチンを接種するとウイルス干渉によって効果が弱まるおそれがある。そのため27日以上(4週間)の間隔をあけて次の接種を行う。水痘ワクチンは2014年10月から定期接種となり、1歳以上3歳未満に2回接種する。
- ×c. 日本脳炎
誤り。現在用いられている日本脳炎ワクチンは、Vero細胞(培養細胞)で増やしたウイルスをホルマリンで不活化した乾燥細胞培養不活化ワクチンである。病原体が増殖しないため干渉の問題はなく、4週以上の間隔は不要である。出題当時は6日以上の間隔で次の接種が可能とされ、現行制度では他のワクチンとの間隔の制限はない。
- ×d. 破傷風
誤り。破傷風の予防に用いるのは、破傷風菌が産生する毒素(テタノスパスミン)をホルマリンで処理して毒性をなくし、抗原性だけを残したトキソイドである。生きた病原体を含まないため干渉は起こらず、4週以上の間隔は不要である。出題当時は6日以上の間隔でよいとされ、現行制度では他のワクチンとの間隔の制限はない。小児ではジフテリア・百日咳・ポリオ・Hib(インフルエンザ菌b型)などとの混合ワクチンとして定期接種される。
- ○e. 麻疹
正しい。麻疹ワクチンは弱毒化した麻疹ウイルスを用いる注射の生ワクチンで、我が国では通常、麻疹風疹混合(MR)ワクチンとして接種される。接種後に体内でウイルスが増殖するため、次に別の生ワクチンを接種する場合はウイルス干渉を避けるために27日以上(4週間)の間隔をあける。定期接種は第1期(1歳児)と第2期(小学校就学前の1年間)の2回である。
ワクチンの種類
1. 生ワクチン:弱毒化した生きた病原体を接種し、体内で増殖させて自然感染に近い免疫を誘導する。 ・注射:麻疹・風疹(MR)、おたふくかぜ、水痘、BCG(経皮)、黄熱 ・経口:ロタウイルス 2. 不活化ワクチン:病原体を殺したもの、またはその成分を用いる。 ・全粒子または精製ウイルス:日本脳炎、ポリオ(不活化、IPV)、A型肝炎、狂犬病 ・成分(サブユニット):百日咳(無細胞)、インフルエンザHA ・多糖体・結合型:肺炎球菌、Hib ・遺伝子組換え:B型肝炎、HPV(ヒトパピローマウイルス) 3. トキソイド:細菌毒素を無毒化し、抗原性を残したもの。ジフテリア、破傷風。
接種間隔の規定の変遷
・2020年9月まで:異なるワクチンを別の日に接種する場合、生ワクチンの後は27日以上、不活化ワクチン・トキソイドの後は6日以上あけるとされていた(本問出題時の規定)。 ・2020年10月以降:注射生ワクチンの後に別の注射生ワクチンを接種する場合のみ27日以上あける。それ以外の組み合わせ(不活化ワクチンの後、経口生ワクチンの後、注射生ワクチンの後に不活化ワクチンを接種する場合など)には間隔の制限がない。 ・同じワクチンを複数回接種する場合は、それぞれのワクチンで定められた接種間隔を守る。 ・医師が必要と認めれば、複数のワクチンを同時に接種することもできる(同時接種)。同時接種では干渉の問題は生じないとされる。
定期接種と任意接種
・定期接種:予防接種法に基づき市町村が実施する。対象疾病はA類(主に集団予防・重症化予防、努力義務あり)とB類(主に個人予防、努力義務なし、高齢者のインフルエンザなど)に分かれる。健康被害は予防接種法に基づく救済制度の対象となる。 ・任意接種:定期接種以外の接種や、定期接種の対象年齢外での接種。健康被害は医薬品医療機器総合機構(PMDA)法に基づく救済制度の対象となる。
生ワクチン接種時の注意
・妊婦には原則として接種しない(胎児への影響の可能性のため)。 ・免疫抑制状態の者には原則禁忌。 ・輸血やガンマグロブリン製剤の投与を受けた後は、含まれる抗体によってワクチンの効果が弱まるため、一定期間(通常3か月以上、大量投与後は6か月以上)あけて接種する。
POINT
・「4週以上あける」のは生ワクチン(ウイルス干渉を避けるため)。本問では水痘と麻疹。 ・不活化ワクチン(B型肝炎、日本脳炎など)とトキソイド(破傷風、ジフテリア)は増殖しないため干渉を起こさない。 ・2020年10月以降は、注射生ワクチンの後に別の注射生ワクチンを接種する場合のみ27日以上あける。その他の組み合わせには制限がない。 ・注射で接種する主な生ワクチン:麻疹・風疹、おたふくかぜ、水痘、BCG、黄熱。経口の生ワクチン:ロタウイルス。
