漏れる膀胱、出ない膀胱―尿失禁のタイプ分類で見抜く「原因にならない」薬
第101回医師国家試験 B問題 第76問
国試問題にチャレンジ
尿失禁の原因として考えにくいのはどれか。
- a.二分脊椎
- b.Alzheimer病
- c.前立腺肥大症
- d.前立腺全摘術
- e.抗ヒスタミン薬の服用
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
尿失禁は、尿道閉鎖力の低下による腹圧性、排尿筋過活動による切迫性、尿閉に伴いあふれ出る溢流性(奇異性)、認知・運動機能の障害による機能性、脊髄損傷などによる反射性に分けて考えます。前立腺全摘術後は外尿道括約筋の損傷による腹圧性尿失禁、前立腺肥大症や二分脊椎による神経因性膀胱は溢流性尿失禁、Alzheimer病は機能性尿失禁、進行すると切迫性尿失禁の原因になります。一方、第一世代抗ヒスタミン薬は抗コリン作用で排尿筋の収縮を抑えるため、引き起こすのは主に排尿困難や尿閉であり、尿失禁の原因としては考えにくいものです。蓄尿と排尿の神経支配と薬の作用を結びつけて理解しておくと、高齢者の排尿トラブルで薬剤性の原因を見抜く力につながります。
解答・解説
正解はeです
尿失禁の原因を問う一般問題である。尿失禁は「尿が意図せず漏れる状態」であり、どのタイプの失禁かを機序から整理すると、各選択肢が原因になり得るかを判断しやすい。
尿失禁の主なタイプ
・腹圧性尿失禁:咳・くしゃみ・運動などで腹圧がかかったときに漏れる。尿道を閉じる力(尿道括約筋・骨盤底筋)の低下による。経産婦、閉経後女性、前立腺全摘術後に多い。 ・切迫性尿失禁:強い尿意(尿意切迫感)が急に起こり、トイレまで我慢できずに漏れる。膀胱の排尿筋が不随意に収縮する排尿筋過活動による。脳血管障害、Parkinson病、認知症など上位中枢の障害や、前立腺肥大症などの下部尿路閉塞、加齢に伴う過活動膀胱でみられる。 ・溢流性尿失禁(奇異性尿失禁):膀胱に大量の残尿があり、あふれ出るように少しずつ漏れる。排出障害(尿閉)が本態で、前立腺肥大症などの下部尿路閉塞や、糖尿病・骨盤内手術・二分脊椎などによる排尿筋収縮障害で起こる。 ・機能性尿失禁:膀胱・尿道の機能は保たれているが、認知機能障害や運動機能障害のためにトイレでの排尿行動がとれずに漏れる。 ・反射性尿失禁:仙髄より上位の脊髄損傷などで、尿意がないまま反射的に排尿筋が収縮して漏れる。 本問の選択肢では、二分脊椎、Alzheimer病、前立腺肥大症、前立腺全摘術はいずれかのタイプの尿失禁の原因となる。抗ヒスタミン薬は、抗コリン作用により排尿筋の収縮を抑える方向にはたらき、主に排尿困難や尿閉を引き起こす薬剤であるため、尿失禁の原因としては最も考えにくい。
選択肢考察
- ×a. 二分脊椎
尿失禁の原因となる。二分脊椎(脊髄髄膜瘤など)では、多くの場合、排尿を司る仙髄(S2〜S4)やその神経根が障害され、神経因性膀胱をきたす。排尿筋の収縮が弱く残尿が多いと溢流性(奇異性)尿失禁となり、尿道括約筋の閉鎖機能も障害されると腹圧時にも漏れやすくなる。上位の障害を伴う場合は排尿筋過活動による失禁もみられる。小児では清潔間欠導尿による管理が行われる。
- ×b. Alzheimer病
尿失禁の原因となる。Alzheimer病では、初期〜中期には記憶障害・見当識障害によってトイレの場所がわからない、排尿の手順がとれないといった理由で漏れる機能性尿失禁が中心となる。病期が進むと、大脳(前頭葉)による排尿反射の抑制が弱まり、排尿筋過活動による切迫性尿失禁も加わる。
- ×c. 前立腺肥大症
尿失禁の原因となる。前立腺肥大症では肥大した前立腺が尿道を圧迫して排尿障害(尿勢低下、残尿感)をきたす。進行して慢性尿閉となり膀胱が過伸展すると、膀胱内圧が尿道抵抗を上回ったときに尿があふれ出る溢流性(奇異性)尿失禁を生じる。また、下部尿路閉塞は排尿筋過活動を誘発するため、頻尿・尿意切迫感とともに切迫性尿失禁を伴うこともある。
- ×d. 前立腺全摘術
尿失禁の原因となる。前立腺全摘術(前立腺癌に対する根治手術)では前立腺とともに内尿道括約筋にあたる膀胱頸部の機能が失われ、尿禁制は主に外尿道括約筋(横紋筋)に依存するようになる。手術操作で外尿道括約筋やその支配神経が損傷されると、術後に腹圧性尿失禁をきたす。多くは骨盤底筋訓練などで時間とともに改善するが、一部は長く残存し、重症例では人工尿道括約筋の植込みが検討される。
- ○e. 抗ヒスタミン薬の服用
尿失禁の原因として考えにくい。第一世代の抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミンなど)は抗コリン作用をもち、膀胱排尿筋のムスカリン受容体を遮断して排尿筋の収縮を弱める。その結果として起こるのは排尿困難や残尿増加、急性尿閉であり、特に前立腺肥大症のある高齢男性では注意が必要で、添付文書上も下部尿路閉塞性疾患には慎重投与や禁忌とされる。抗コリン作用は過活動膀胱の治療に利用されるほどで、尿失禁を起こす方向にははたらかない。
蓄尿と排尿の神経支配
・副交感神経(骨盤神経、S2〜S4):排尿筋を収縮させ排尿を促す(ムスカリンM3受容体)。 ・交感神経(下腹神経、T11〜L2):排尿筋を弛緩(β3受容体)させ、膀胱頸部・内尿道括約筋を収縮(α1受容体)させて蓄尿を促す。 ・体性神経(陰部神経、S2〜S4):外尿道括約筋を収縮させ、随意的に尿を止める。 ・橋排尿中枢が蓄尿と排尿の切り替えを行い、大脳(前頭葉)がこれを抑制的に制御する。
排尿障害・尿閉を起こしやすい薬剤
抗コリン作用をもつ薬剤(第一世代抗ヒスタミン薬、三環系抗うつ薬、抗Parkinson病薬の一部、抗精神病薬、総合感冒薬、鎮痙薬)、α刺激薬(感冒薬中のエフェドリン類)、オピオイドなど。
尿失禁を起こしうる薬剤
α1遮断薬(尿道抵抗を下げ、女性で腹圧性尿失禁を悪化させることがある)、利尿薬(尿量増加で切迫性尿失禁を悪化)、睡眠薬・鎮静薬(覚醒や認知の低下による機能性尿失禁)、コリン作動薬など。
尿失禁の治療の概要
腹圧性:骨盤底筋訓練、β2刺激薬、中部尿道スリング手術。切迫性(過活動膀胱):抗コリン薬、β3作動薬、膀胱訓練。溢流性:原因(閉塞)の解除、α1遮断薬、清潔間欠導尿。機能性:排尿誘導、環境調整。
POINT
・尿失禁は腹圧性・切迫性・溢流性(奇異性)・機能性・反射性に分けて考える ・前立腺全摘術後は外尿道括約筋損傷による腹圧性尿失禁 ・前立腺肥大症と二分脊椎(神経因性膀胱)は溢流性尿失禁の原因となる ・認知症は機能性尿失禁、進行すると切迫性尿失禁も ・抗コリン作用をもつ薬(第一世代抗ヒスタミン薬など)は尿閉・排尿困難の原因
