StudyMed医師国家試験

膀胱は満タンか空っぽか―「尿閉」と「無尿」を分ける一本の線

第101回医師国家試験 B問題 第77問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第77問

尿閉の原因となるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.ショック
  2. b.異型輸血
  3. c.脊髄損傷
  4. d.急性腎不全
  5. e.子宮脱

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は尿閉の原因を選ぶ問題だ。ポイントは一つだけで、「尿閉」と「無尿・乏尿」をきちんと区別できるかどうか。この2つ、言葉は似ているけれど、起きている場所がまったく違うんだ。まず、尿閉とはどういう状態か説明できるかな。
医学生医学生
おしっこが出ない状態、ですよね。そう考えると、ショックや急性腎不全でも尿が出なくなるので、全部当てはまりそうに見えてしまいます。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だね。尿閉は「腎臓で尿は作られて膀胱にたまっているのに、外に出せない」状態。膀胱はパンパンで下腹部が膨らみ、導尿すると多量の尿が出てくる。一方、無尿や乏尿は「そもそも腎臓で尿が作られていない」状態で、膀胱は空っぽ。導尿してもほとんど出てこない。
医学生医学生
なるほど、問題が膀胱より上流にあるか、下流にあるかの違いなんですね。
ドクタードクター
その整理がまさに核心だ。では、排尿が成り立つには何が必要か考えてみよう。
医学生医学生
生理学の講義で習ったのは、膀胱の排尿筋が収縮することと、尿道括約筋がゆるむことでした。
ドクタードクター
そう。つまり、排尿筋がしっかり収縮すること、そして尿道という通り道が開いていること。この2つのどちらかが崩れると尿閉になる。前者は神経因性膀胱などの「収縮の障害」、後者は前立腺肥大症のような「出口の閉塞」だね。この視点で選択肢を見ていこう。まず脊髄損傷はどうかな。
医学生医学生
排尿の神経路が障害されるので、神経因性膀胱になりますよね。
ドクタードクター
正解。特に受傷直後の脊髄ショック期には、損傷部以下の反射がいったん消えてしまい、排尿筋が弛緩して収縮できなくなる。だから急性期は尿閉になり、間欠導尿や留置カテーテルで尿路を管理する必要がある。仙髄の排尿中枢より上の損傷では、回復後に排尿筋の過活動や、排尿筋と括約筋がうまく協調しない状態になることが多い。逆に仙髄や馬尾の損傷では、弛緩性膀胱による尿閉が続きやすいんだ。
医学生医学生
整形外科の実習で、脊損の患者さんにまず膀胱留置カテーテルが入っていたのはそのためだったんですね。では子宮脱は、出口の閉塞の側でしょうか。
ドクタードクター
その通り。子宮脱は骨盤底の支持組織が弱って子宮が腟の外へ下がってくる状態で、多くは膀胱瘤を合併する。高度になると下がった膀胱や子宮で尿道が屈曲・圧迫され、通り道が狭くなって排尿困難や残尿、さらには尿閉を起こす。脱出した臓器を手で戻すと排尿できるようになることが多いのも特徴だよ。
医学生医学生
機械的に出口がふさがれるわけですね。残りのショックはどうでしょう。
ドクタードクター
ショックでは血圧が下がって腎血流と糸球体濾過量が減るから、尿が作られなくなる。腎前性の乏尿・無尿だね。膀胱には尿がたまらないので尿閉ではない。ショック時の尿量は循環の指標として使われ、成人ではおおむね0.5 mL/kg/時以上を目安に管理するんだ。
医学生医学生
異型輸血も、溶血で腎臓がやられて尿が出なくなるイメージです。
ドクタードクター
そう。ABO不適合輸血では血管内溶血が起こり、遊離ヘモグロビンによる尿細管障害や低血圧、DICが重なって急性腎障害になる。初期にはヘモグロビン尿がみられ、その後乏尿・無尿に至ることがあるけれど、これも尿の生成障害で、排出障害の尿閉とは違う。
医学生医学生
急性腎不全はまさに尿が作られない病態なので、尿閉ではないですね。でも、腎後性の急性腎不全は尿の通り道の問題ではありませんでしたか。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。そこは因果の向きに注意しよう。尿閉のような下部尿路閉塞が長く続くと、両側水腎症から腎後性の急性腎障害を起こすことがある。つまり、尿閉は急性腎不全の原因になり得るけれど、急性腎不全が尿閉の原因になるわけではない。急性腎不全という状態そのものは、尿の生成が落ちた結果をみているんだ。
医学生医学生
向きを逆にすると引っかかるんですね。臨床で尿閉と無尿を見分けるには、どうすればいいですか。
ドクタードクター
下腹部の膨隆や圧痛、尿意の有無を確認して、腹部超音波で膀胱に尿がたまっているかを見るのが簡便だ。膀胱が充満していれば尿閉、空なら無尿・乏尿と考え、後者はさらに腎前性・腎性・腎後性に分けて原因を探す。
医学生医学生
尿閉の原因としては、ほかに何を押さえておけばいいでしょうか。
ドクタードクター
閉塞性なら高齢男性で最も多い前立腺肥大症、前立腺癌、尿道狭窄、骨盤内腫瘤による圧迫。神経因性なら糖尿病性神経障害や、子宮癌・直腸癌の根治術後の骨盤神経損傷。そして臨床で見落としやすいのが薬剤性で、抗コリン薬、三環系抗うつ薬、抗ヒスタミン薬を含む総合感冒薬などが、特に前立腺肥大症のある人で尿閉を誘発しやすい。急性尿閉ならまず導尿で膀胱を減圧し、それから原因を治療する、という順番を覚えておこう。

まとめ

尿閉は「尿は作られているが膀胱から出せない」状態で、膀胱は充満しており、尿が作られない無尿・乏尿とは区別されます。尿閉の原因は、脊髄損傷などによる排尿筋の収縮障害(神経因性膀胱)と、前立腺肥大症や子宮脱・膀胱瘤などによる下部尿路の閉塞に大別されます。ショック、異型輸血、急性腎不全はいずれも尿の生成が低下する乏尿・無尿の原因であり、尿閉の原因ではありません。鑑別には超音波などで膀胱内の尿貯留を確認するのが簡便で、薬剤性尿閉や長期の尿閉による腎後性腎障害にも注意が必要です。「膀胱より上流か下流か」という視点は、尿量異常を診る際の基本的な考え方になります。

解答・解説

正解はc, eです

本問の鍵は「尿閉」と「無尿」を区別することである。

尿閉と無尿の違い

尿閉とは、腎臓では尿が作られて膀胱にたまっているのに、それを排出できない状態である。膀胱は充満して下腹部が膨隆し、導尿(カテーテルで膀胱から尿を出すこと)をすると多量の尿が得られる。一方、無尿(1日尿量100 mL未満)・乏尿(1日尿量400 mL未満)は、腎臓で作られる尿そのものが減少している状態で、膀胱は空であり導尿しても尿はほとんど出ない。

尿閉の原因の考え方

排尿が成立するには、①膀胱の排尿筋が十分に収縮すること、②尿道が開いて通り道が確保されていることが必要である。したがって尿閉の原因は大きく二つに分けられる。 ・排尿筋の収縮障害(神経因性膀胱など):脊髄損傷、糖尿病性末梢神経障害、骨盤内手術後、抗コリン薬の副作用など ・膀胱出口〜尿道の閉塞(下部尿路閉塞):前立腺肥大症、前立腺癌、尿道狭窄、骨盤臓器脱、骨盤内腫瘤による圧迫など 選択肢のうち、ショック・異型輸血・急性腎不全はいずれも「尿が作られない(乏尿・無尿)」側の病態であり、尿閉とは機序がまったく異なる。膀胱より上流の問題か、膀胱から下流の問題かを整理すれば正解を選べる。

選択肢考察

  1. ×a.  ショック

    出血性ショックなどで血圧が低下すると腎血流量と糸球体濾過量が減少し、尿の生成が減って乏尿・無尿となる(腎前性の尿量減少)。膀胱には尿がたまらないので、尿閉ではない。ショック時の尿量は循環動態の指標として用いられ、成人ではおおむね0.5 mL/kg/時以上の維持が目標とされる。

  2. ×b.  異型輸血

    ABO不適合輸血では急性の血管内溶血が起こり、遊離ヘモグロビンによる尿細管障害、低血圧、播種性血管内凝固(DIC)などが重なって急性腎障害を生じる。その結果として乏尿・無尿(初期にはヘモグロビン尿)を呈するが、これは尿の生成障害であり、排出障害である尿閉とは異なる。

  3. ○c.  脊髄損傷

    脊髄損傷では排尿を制御する神経路が障害され、神経因性膀胱をきたす。受傷直後の脊髄ショック期(数日〜数週間)には損傷部以下の反射が消失し、膀胱排尿筋が弛緩して収縮できないため尿閉となる。そのため急性期には間欠導尿や留置カテーテルによる尿路管理が必要である。仙髄(S2〜S4、排尿中枢)より上位の損傷では、脊髄ショックからの回復後に排尿筋過活動と排尿筋・括約筋協調不全を呈することが多く、仙髄や馬尾の損傷では排尿筋低活動(弛緩性膀胱)による尿閉が持続しやすい。

  4. ×d.  急性腎不全

    急性腎不全(現在は急性腎障害、AKIと呼ぶ)は、腎前性・腎性・腎後性のいずれの原因でも尿の生成が低下し、乏尿・無尿を呈する。腎で尿が作られないので膀胱は空であり、尿閉ではない。なお逆の関係として、尿閉などの下部尿路閉塞が長く続くと両側水腎症から腎後性急性腎障害を起こすことがある。つまり尿閉は急性腎不全の原因になり得るが、急性腎不全が尿閉の原因になるわけではない。

  5. ○e.  子宮脱

    子宮脱は骨盤底の支持組織が弱くなり子宮が腟内から腟外へ下垂する状態で、多くは膀胱瘤(膀胱脱)を合併する。高度になると下垂した膀胱や子宮によって尿道が屈曲・圧迫され、膀胱尿道角が変化して尿の通り道が狭くなるため、排尿困難や残尿、さらには尿閉をきたす(膀胱出口の機械的閉塞)。脱出した臓器を用手的に戻すと排尿できるようになることが多いのが特徴である。

尿量異常の用語

・多尿:1日尿量が2,500〜3,000 mL以上 ・乏尿:1日尿量400 mL未満 ・無尿:1日尿量100 mL未満 ・尿閉:尿は生成されているが膀胱から排出できない状態。完全尿閉(全く出ない)と、一部は出るが多量の残尿がある不完全尿閉がある。

尿閉と無尿の鑑別

下腹部の膨隆・圧痛や尿意の有無、腹部超音波で膀胱内の尿貯留を確認するのが簡便である。膀胱に尿が充満していれば尿閉、空であれば無尿・乏尿と判断する。無尿の場合はさらに、腎前性(脱水・ショック)、腎性(急性尿細管壊死・糸球体腎炎など)、腎後性(両側尿管閉塞など)に分けて原因を探す。

尿閉の主な原因

・閉塞性:前立腺肥大症(高齢男性で最多)、前立腺癌、尿道狭窄、尿道結石、骨盤臓器脱(子宮脱・膀胱瘤)、妊娠後屈子宮の嵌頓、巨大子宮筋腫など骨盤内腫瘤による圧迫 ・神経因性:脊髄損傷、二分脊椎、腰部脊柱管狭窄症、糖尿病性神経障害、子宮癌・直腸癌根治術後の骨盤神経損傷、多発性硬化症など ・薬剤性:抗コリン薬、三環系抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、総合感冒薬など(特に前立腺肥大症患者で誘発されやすい) ・その他:術後・分娩後の一過性尿閉、心因性など

治療の基本

急性尿閉ではまず導尿で膀胱を減圧し、原因疾患を治療する。長期管理では清潔間欠導尿が第一選択となることが多い。

POINT

・尿閉=尿は作られているが出せない(膀胱は充満)。無尿・乏尿=尿が作られない(膀胱は空)。 ・尿閉の原因は、排尿筋収縮障害(神経因性膀胱:脊髄損傷など)と下部尿路閉塞(前立腺肥大症、子宮脱・膀胱瘤など)に大別される。 ・ショック、異型輸血、急性腎不全は乏尿・無尿の原因であって尿閉の原因ではない。 ・脊髄損傷急性期(脊髄ショック期)は弛緩性膀胱で尿閉となり、導尿管理が必要である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。