赤い血が濃くなるのはなぜ?―「低酸素」と「血漿量」で読み解く赤血球増加症
第101回医師国家試験 B問題 第75問
国試問題にチャレンジ
赤血球増加の原因とならないのはどれか。
- a.高地居住
- b.ストレス
- c.大量喫煙
- d.感染性心内膜炎
- e.COPD
対話形式の解説
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ドクターまとめ
赤血球増加症は、血漿量の減少で見かけ上増える相対的赤血球増加症と、循環赤血球量そのものが増える絶対的赤血球増加症に分けて考えます。絶対的なもののうち二次性はEPO増加によるもので、高地居住やCOPD、チアノーゼ性心疾患、睡眠時無呼吸などの組織低酸素や、一酸化炭素ヘモグロビンが増える大量喫煙、EPO産生腫瘍が原因になります。ストレス多血症(Gaisböck症候群)は血漿量が減る相対的赤血球増加症の代表です。一方、感染性心内膜炎などの慢性炎症はヘプシジン増加による鉄利用障害を介してむしろ慢性疾患に伴う貧血をきたすため、赤血球増加の原因とはなりません。相対的か絶対的か、EPOは高いか低いか、という段階的な考え方は、多血症の鑑別や真性赤血球増加症の見逃し防止に直結します。
解答・解説
正解はdです
赤血球増加症(多血症)の原因を問う一般問題である。赤血球増加は、成因によって次のように整理すると判断しやすい。
赤血球増加症の分類
1. 相対的赤血球増加症:赤血球の総量(循環赤血球量)は正常だが、血漿量が減って見かけ上ヘマトクリットやヘモグロビン濃度が高くなる。脱水(下痢・嘔吐・熱傷・利尿薬)や、ストレス多血症(Gaisböck症候群)がこれにあたる。 2. 絶対的赤血球増加症:循環赤血球量そのものが増えている。 ・一次性:造血幹細胞の異常による腫瘍性の増殖で、真性赤血球増加症(真性多血症、JAK2遺伝子変異が高率)が代表。エリスロポエチン(EPO)は低値となる。 ・二次性:EPOの増加による。①組織の低酸素に対する生理的な代償(高地居住、COPDなどの慢性呼吸器疾患、右左短絡のあるチアノーゼ性心疾患、睡眠時無呼吸症候群、喫煙による一酸化炭素ヘモグロビン増加、高度肥満による低換気など)と、②低酸素がないのにEPOが不適切に産生される場合(腎細胞癌、肝細胞癌、小脳血管芽腫、子宮筋腫、腎嚢胞・水腎症、腎移植後など)がある。 本問では、選択肢のうち「組織低酸素によるEPO増加」または「血漿量の減少」のどちらかに当てはまるものが赤血球増加の原因となる。感染性心内膜炎はどちらにも当てはまらず、むしろ慢性炎症によって貧血をきたす疾患である。
選択肢考察
- ×a. 高地居住
赤血球増加の原因となる。高地では気圧が低く吸入気の酸素分圧が下がるため、動脈血酸素分圧が低下する。腎臓の尿細管周囲間質細胞は低酸素を感知してEPOの産生を増やし、骨髄での赤血球産生が亢進して酸素運搬能を補う。二次性(生理的代償性)赤血球増加症の代表例である。
- ×b. ストレス
赤血球増加の原因となる。ストレス多血症(Gaisböck症候群、ストレス赤血球増加症)は、循環赤血球量は正常であるのに血漿量が減少して、見かけ上ヘマトクリット・ヘモグロビン濃度が高くなる相対的赤血球増加症である。中年の男性に多く、精神的ストレスのほか、喫煙、肥満、飲酒と関連し、高血圧・脂質異常症・高尿酸血症を合併しやすい。血漿量が減る機序は十分には解明されていない。
- ×c. 大量喫煙
赤血球増加の原因となる。たばこの煙に含まれる一酸化炭素(CO)はヘモグロビンに酸素の200倍以上の親和性で結合し、一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)をつくる。CO-Hbは酸素を運べないうえ、残りのヘモグロビンの酸素解離曲線を左方移動させて組織へ酸素を渡しにくくする。動脈血酸素分圧は正常でも組織は低酸素となり、EPOが増加して赤血球が増える。さらに喫煙は血漿量の減少による相対的赤血球増加にも関与する(喫煙者多血症)。
- ○d. 感染性心内膜炎
赤血球増加の原因とならない。感染性心内膜炎は、心内膜・弁膜に細菌などが感染して疣贅(ゆうぜい)を形成する疾患で、発熱、新たな心雑音、塞栓症状、Osler結節・Janeway病変などを呈する。組織低酸素によるEPO増加も血漿量減少も生じないため、赤血球増加の原因にはならない。むしろ慢性炎症によりIL-6などのサイトカインが増え、肝臓でのヘプシジン産生亢進による鉄利用障害やEPO反応性の低下が起こるため、慢性疾患に伴う貧血(正球性〜小球性)をきたすことが多い。
- ×e. COPD
赤血球増加の原因となる。COPD(慢性閉塞性肺疾患)では、気道の閉塞と肺胞の破壊により換気血流比の不均等が生じ、慢性的な低酸素血症をきたす。低酸素刺激でEPOが増加し、二次性赤血球増加症を呈する。ヘマトクリットが高くなると血液粘稠度が上がり、肺高血圧や血栓症のリスクが増すため、在宅酸素療法の適応判断にも関わる所見となる。
赤血球増加症の鑑別の進め方
1. まず循環赤血球量の増加か(絶対的)、血漿量の減少か(相対的)を考える。脱水の有無や臨床背景を確認する。 2. 絶対的赤血球増加症では血清EPO値を測定する。 ・EPO低値:真性赤血球増加症を疑う。JAK2 V617F変異(またはJAK2 exon12変異)を調べる。白血球・血小板増加、脾腫、皮膚掻痒(入浴後)、血栓症を伴いやすい。 ・EPO正常〜高値:二次性を考え、動脈血酸素飽和度、呼吸機能、睡眠時無呼吸、CO-Hb、心疾患(右左短絡)、EPO産生腫瘍(腎・肝・小脳・子宮)を検索する。
貧血をきたす慢性炎症性疾患
感染性心内膜炎、結核、関節リウマチ、悪性腫瘍などの慢性炎症では、慢性疾患に伴う貧血(ACD)が生じる。血清鉄は低下するが、フェリチンは正常〜高値で、総鉄結合能(TIBC)は正常〜低値となる点が鉄欠乏性貧血との違いである。
POINT
・赤血球増加症は相対的(血漿量減少)と絶対的(赤血球量増加)に分けて考える ・相対的:脱水、ストレス多血症(Gaisböck症候群) ・二次性(EPO増加):高地居住、COPD、チアノーゼ性心疾患、睡眠時無呼吸、喫煙、EPO産生腫瘍(腎細胞癌、肝細胞癌、小脳血管芽腫、子宮筋腫) ・一次性:真性赤血球増加症(JAK2変異、EPO低値) ・感染性心内膜炎などの慢性炎症はむしろ貧血をきたす
