StudyMed医師国家試験

「午前中に頑張って午後は楽に」は逆効果―VDT作業の頸肩腕症候群と産業医の指導

第101回医師国家試験 A問題 第59問

国試問題にチャレンジ

第101回 A問題 第59問

24歳の女性。VDT作業者の健康診断で,頸肩腕部の痛みとしびれ感とが持続すると訴えている。4年前からコンピュータ端末を使用したデータ入力作業に従事している。就労開始後,痛みとしびれ感とを感じはじめ,1か月前から症状が強くなった。 産業医の指導として誤っているのはどれか。

  1. a.作業の前後,休憩時に体操を実施する。
  2. b.作業ローテーションの導入を検討する。
  3. c.キーボードの位置を肘の高さに調整する。
  4. d.午前中の作業量を増やし午後の負担を軽くする。
  5. e.空調の冷気が頸肩腕部に直接当たらないようにする。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は産業保健の問題だ。パソコンでのデータ入力を続ける若い女性の頸肩腕部の痛みとしびれに対して、産業医としてどんな指導をするか。考えるときの軸は、労働衛生の3管理、つまり作業環境管理・作業管理・健康管理だよ。そして「誤っているもの」を選ぶ問題だという点を忘れずに。
医学生医学生
まず病態としては、VDT作業による頸肩腕症候群ですよね。でも、なぜキーボード入力でしびれまで出るのか、正直イメージしにくいです。
ドクタードクター
いい疑問だね。キーボード入力は、同じ姿勢を長時間保ったまま、腕や指の同じ動きを延々と繰り返す作業なんだ。頸から肩、上肢の筋に持続的な緊張がかかると、血流が落ちて疲労が回復しきらない。それが毎日積み重なって、こり・痛み・しびれ・だるさが慢性化していく。
医学生医学生
だから就労を始めてから症状が出て、続けるうちに悪化しているんですね。増悪因子には何がありますか。
ドクタードクター
合っていない机や椅子・機器の高さによる不自然な姿勢、寒さ、長すぎる連続作業、それに心理的ストレスが代表的だ。対策はこの裏返しになる。では選択肢を見ていこう。作業の前後や休憩時の体操はどうかな。
医学生医学生
固まった筋を動かして血流を戻すので、適切だと思います。3管理でいえば健康管理の保健指導ですね。
ドクタードクター
その通り。ガイドラインでも作業休止時間や作業の前後にストレッチや体操をすることが勧められている。次に作業ローテーションの導入は?
医学生医学生
入力作業ばかりではなく、電話対応や書類整理などを挟めば、同じ姿勢の時間が短くなります。作業管理としてよさそうです。
ドクタードクター
正解。特定の筋群に負荷が集中するのを分散できる有効な対策だ。キーボードを肘の高さに調整する、というのはどうだろう。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、肘を90度くらいに曲げて前腕が水平になる位置がいいと習いました。でも、高めのほうが楽な気もしてしまいます。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。キーボードが高すぎると肩をすくめる姿勢になって僧帽筋などが緊張しっぱなしになる。逆に低すぎると前かがみになって頸や肩に負担がかかる。肘の高さ付近が基本で、手首を反らしすぎないことも大事。これは作業環境管理の人間工学的な配慮だ。
医学生医学生
空調の冷気を頸や肩に当てないのも、寒さで血管が縮んで筋の血流が落ちるからですね。
ドクタードクター
そう。寒冷刺激は筋緊張を高めて症状を悪化させる。吹出口の向きを変える、席を移す、衣類で保温するといった工夫が必要だ。さて残るのは、午前中に作業量を増やして午後を軽くする、という指導だ。
医学生医学生
1日の総量が同じなら問題ないようにも思えたんですが、午前中に詰め込むと休憩を取りにくくなりそうです。
ドクタードクター
まさにそこが問題なんだ。作業を特定の時間帯に集中させると、その時間の連続作業が長くなり、疲労が回復しないまま積み重なる。午後が楽になっても、午前に過重な負荷がかかれば症状は悪化してしまう。だからこれが誤った指導で、正解になる。原則は、作業量を1日の中で平均化して、連続作業を短く区切ることだ。
医学生医学生
具体的には、どのくらいで区切ればいいんでしょうか。
ドクタードクター
現在の「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」では、一連続作業時間は1時間を超えないようにして、次の連続作業までに10〜15分の作業休止時間を設け、さらに連続作業の途中にも1〜2回の小休止を入れることが示されている。以前はVDT作業のガイドラインと呼ばれていたけれど、タブレットやスマートフォンも含める形で2019年に改められたんだ。
医学生医学生
ディスプレイの位置にも決まりがありましたよね。CBTの勉強で40cmという数字を見た気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。視距離はおおむね40cm以上、画面の上端は眼の高さとほぼ同じかやや下にする。書類やキーボード上の照度は300ルクス以上で、画面への映り込みも防ぐ。健康管理としては配置前と1年以内ごとの定期健康診断で、眼精疲労やドライアイ、頸肩腕部や腰の痛み、ストレス症状を確認する。凝視でまばたきが減るから、ドライアイも見逃せない。
医学生医学生
筋骨格系だけでなく、眼やメンタル面も含めて見ていく必要があるんですね。
ドクタードクター
その通り。産業医の仕事は、症状が出た人を治療するだけでなく、職場の環境や働き方そのものを整えて次の発症を防ぐことにある。この患者さんの場合も、症状が強くなっているから、必要に応じて整形外科などへの受診を勧めつつ、作業時間や配置の見直しを事業者と一緒に検討していくことになるよ。

まとめ

VDT(情報機器)作業による頸肩腕症候群は、同一姿勢と反復動作による筋の持続的緊張と血流低下が積み重なって生じ、不適切な姿勢、寒冷、長時間の連続作業、心理的ストレスで増悪します。対策は労働衛生の3管理で整理でき、体操・ストレッチ(健康管理)、作業ローテーション(作業管理)、キーボードを肘の高さに合わせることや冷気を避けること(作業環境管理)はいずれも適切です。一方、作業量を午前中に集中させると連続作業が長くなって疲労が蓄積するため誤りで、作業量は1日の中で平均化し、一連続作業時間を1時間以内に区切って10〜15分の作業休止時間と小休止を設けるのが原則です。ディスプレイの視距離40cm以上や画面上端を眼の高さ以下にする配置、眼・筋骨格系・精神面を確認する健康診断も含め、2019年の情報機器作業ガイドラインの考え方を押さえておくことは、産業医としての予防的な視点を身につけるうえで役立ちます。

解答・解説

正解はdです

状況の整理

24歳女性で、4年前からコンピュータ端末を用いたデータ入力作業に従事している。就労開始後から頸部・肩・上肢(頸肩腕部)の痛みとしびれ感が出現し、最近1か月で増悪している。VDT(visual display terminals、ディスプレイ・キーボードなどの表示端末機器)作業に伴う典型的な訴えであり、作業関連性の頸肩腕症候群(頸肩腕障害)と考えられる。

頸肩腕症候群の成り立ち

キーボード入力のように、同じ姿勢を長時間保ちながら上肢の同じ動作を反復する作業では、頸部・肩・上肢の筋に持続的な緊張がかかり、血流が低下して疲労が回復しきらない。これが積み重なることで、こり・痛み・しびれ・だるさが慢性化する。不適切な作業姿勢(機器の高さや位置が合っていない)、寒冷、長い連続作業時間、心理的ストレスが増悪因子となる。

設問の考え方

産業医の指導は、労働衛生の3管理(作業環境管理・作業管理・健康管理)の観点から考える。 ・作業環境管理:机・椅子・キーボード・ディスプレイの配置、照明、空調などを整える。 ・作業管理:連続作業時間を短く区切って休止をはさみ、負荷が特定の時間や特定の人に集中しないようにする。 ・健康管理:健康診断、体操・ストレッチなどの保健指導。 この原則に照らすと、作業量を午前中に偏らせる指導は、連続作業時間を長くし負荷を集中させるため、原則に反する。本問は「誤っているもの」を選ぶ問題である点に注意する。

選択肢考察

  1. ×a.  作業の前後,休憩時に体操を実施する。

    適切な指導である。作業中に固定されていた頸部・肩・上肢の筋を体操やストレッチで動かすことで、筋の緊張がほぐれて血流が回復し、疲労の蓄積や痛みの予防・軽減につながる。VDT作業に関する指針でも、作業休止時間や作業の前後に体操・ストレッチを行うことが推奨されている。

  2. ×b.  作業ローテーションの導入を検討する。

    適切な指導である。VDT作業とそれ以外の業務(電話対応、書類整理、移動を伴う業務など)を交互に割り当てることで、同じ姿勢・同じ動作の継続時間が短くなり、特定の筋群への負荷が分散される。作業管理として有効な対策である。

  3. ×c.  キーボードの位置を肘の高さに調整する。

    適切な指導である。椅子に深く腰掛け、上腕を自然に下ろして肘をおよそ90度に曲げたとき、前腕がほぼ水平になる高さ(肘の高さ付近)にキーボードを置くのがよい。キーボードが高すぎると肩をすくめる姿勢となって僧帽筋などが緊張し、低すぎると前かがみで頸部・肩に負担がかかる。手首も過度に反らさないようにする。作業環境管理(人間工学的配慮)の基本である。

  4. ○d.  午前中の作業量を増やし午後の負担を軽くする。

    誤った指導であり、これが正解である。作業量を特定の時間帯に集中させると、その時間帯の連続作業が長くなり、休止が取りにくくなって筋の疲労が回復しないまま蓄積する。頸肩腕症候群の予防・改善には、1日の作業量を時間的に平均化し、一連続作業時間を短く区切って(指針ではおおむね1時間以内)、その間に作業休止時間や小休止をはさむことが求められる。午後の負担が軽くなっても、午前中に過重な負荷がかかれば症状の悪化を招く。

  5. ×e.  空調の冷気が頸肩腕部に直接当たらないようにする。

    適切な指導である。寒冷刺激は末梢血管を収縮させて筋の血流を低下させ、筋緊張を高めるため、こりや痛み・しびれを増悪させる。空調の吹出口の向きを変える、席の配置を工夫する、衣類で保温するなど、頸肩腕部を冷やさない作業環境管理が必要である。

VDT作業・情報機器作業の労働衛生管理

VDT作業については、かつて「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(2002年)が示されていたが、2019年にパソコン・タブレット・スマートフォンなど多様な機器を対象とした「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」に改められた。主な内容は次のとおりである。 ・作業時間管理:一連続作業時間は1時間を超えないようにし、次の連続作業までの間に10〜15分の作業休止時間を設ける。一連続作業時間内にも1〜2回程度の小休止を設ける。作業量が過度にならないよう配慮する。 ・作業環境:ディスプレイは概ね40cm以上の視距離を確保し、画面の上端が眼の高さとほぼ同じかやや下になるように置く。書類上・キーボード上の照度は300ルクス以上とし、画面へのグレア(まぶしさ・映り込み)を防ぐ。椅子・机は高さ調整が可能なものがよい。 ・健康管理:配置前健康診断と定期健康診断(1年以内ごとに1回)を行い、眼の症状(眼精疲労、ドライアイ)、筋骨格系の症状(頸肩腕部・腰部の痛み)、ストレス症状などを確認する。 ・その他:体操・ストレッチなどの健康保持増進、労働者への教育。

VDT作業による健康障害

・眼の障害:眼精疲労、ドライアイ(凝視によりまばたきが減る)、視力低下感 ・筋骨格系の障害:頸肩腕症候群、腰痛 ・精神的な障害:ストレス、抑うつ、睡眠障害

労働衛生の3管理+2

作業環境管理・作業管理・健康管理の3管理に、総括管理と労働衛生教育を加えて「5管理」とも呼ぶ。本問の選択肢は、a=健康管理(保健指導)、b・d=作業管理、c・e=作業環境管理に対応する。

POINT

・VDT(情報機器)作業による頸肩腕症候群は、同一姿勢・反復動作・寒冷・長時間連続作業で増悪する。 ・対策は労働衛生の3管理(作業環境管理・作業管理・健康管理)で整理する。 ・作業量は時間的に平均化し、特定の時間帯に集中させない。一連続作業時間は1時間以内、間に10〜15分の作業休止時間。 ・キーボードは肘の高さ、ディスプレイは40cm以上離し上端を眼の高さ以下に。 ・体操・ストレッチ、作業ローテーション、冷気を避けることはいずれも有効。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。