大動脈は左、下大静脈は右―たった一つの配置から読み解く腎周囲の脈管
第101回医師国家試験 B問題 第25問
国試問題にチャレンジ
脈管の走行について正しいのはどれか。
- a.左腎静脈は右腎静脈より短い。
- b.左副腎静脈は下大静脈に流入する。
- c.左卵巣静脈は下大静脈に流入する。
- d.左腎静脈は左腎動脈の背側を走行する。
- e.右腎動脈は下大静脈の背側を走行する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
後腹膜では腹部大動脈が左寄り・やや背側、下大静脈が右寄り・やや腹側にあり、この配置が腎周囲の脈管の左右差を説明する出発点になります。下大静脈から遠い左側では、左腎静脈が長くなり、左副腎静脈と左性腺静脈は左腎静脈に流入します。一方、右副腎静脈と右性腺静脈は下大静脈に直接注ぎます。動脈は逆に右腎動脈のほうが長く、下大静脈の背側を通って右腎門に至ります。腎門部では腹側から静脈・動脈・尿管(V-A-U)の順に並びます。左精索静脈瘤の好発、ナットクラッカー現象、副腎静脈サンプリングの難しさ、ドナー腎の選択など、多くの臨床事象がこの解剖で説明できるため、丸暗記ではなく位置関係から理解しておくことが大切です。
解答・解説
正解はeです
テーマ
腎臓周囲の動脈・静脈の位置関係と、左右差のある静脈還流路を問う解剖学の問題である。
考え方の出発点:大動脈と下大静脈の位置
後腹膜腔では、腹部大動脈が脊柱のやや左前方を、下大静脈(IVC)が脊柱の右前方を下行・上行している。つまり大動脈は左寄り・やや背側、下大静脈は右寄り・やや腹側にある。この配置から、次の二つの原則が導ける。 ①静脈について:下大静脈が右にあるため、右の臓器の静脈は下大静脈に直接注ぎやすく距離も短い。一方、左の臓器の静脈は正中を越えて下大静脈まで達する必要があり、左腎静脈は長くなる。そのため左副腎静脈や左性腺静脈(卵巣静脈・精巣静脈)は、下大静脈ではなく近くを通る左腎静脈にいったん合流する。 ②腹背の関係について:腎門部では、腹側から腎静脈→腎動脈→腎盂(尿管)の順に並ぶ。左腎静脈は大動脈の腹側(上腸間膜動脈との間)を横切って下大静脈に入り、右腎動脈は大動脈から出て下大静脈の背側を通って右腎門に至る。 この二つの原則を押さえれば、各選択肢の正誤は判断できる。
選択肢考察
- ×a. 左腎静脈は右腎静脈より短い。
誤り。下大静脈は脊柱の右側にあるため、右腎静脈は短い距離で下大静脈に注ぐ。左腎静脈は腹部大動脈の前面を横切って正中を越え、右側の下大静脈まで走行するので、右腎静脈より長い(左はおよそ右の2〜3倍の長さとされる)。この長さの違いが、生体腎移植のドナー腎として血管吻合のしやすい左腎が選ばれやすい理由の一つとなっている。
- ×b. 左副腎静脈は下大静脈に流入する。
誤り。左副腎静脈は下方へ走行して左腎静脈に流入する(しばしば左下横隔静脈と合流してから注ぐ)。下大静脈に直接流入するのは右副腎静脈であり、右副腎静脈は非常に短く、下大静脈の後壁に直接注ぐ。この違いは、副腎静脈サンプリング(原発性アルドステロン症の局在診断)で右副腎静脈へのカテーテル挿入が難しい理由にもなっている。
- ×c. 左卵巣静脈は下大静脈に流入する。
誤り。左卵巣静脈(男性では左精巣静脈)は左腎静脈に、ほぼ直角に合流する。右卵巣静脈(右精巣静脈)は下大静脈に直接鋭角に流入する。左側は合流角度が直角で流路も長く、さらに左腎静脈の圧が上がりやすいため逆流が起こりやすい。そのため精索静脈瘤は左側に多い(約9割)。
- ×d. 左腎静脈は左腎動脈の背側を走行する。
誤り。左右とも腎静脈は腎動脈の腹側(前方)を走行する。腎門部では腹側から静脈(Vein)→動脈(Artery)→尿管・腎盂(Ureter)の順に並び、頭文字を取ってV-A-Uと覚える。なお、まれな変異として左腎静脈が大動脈の背側を通る大動脈後左腎静脈(retroaortic left renal vein)があるが、腎門部で動脈より腹側にある関係は通常変わらない。
- ○e. 右腎動脈は下大静脈の背側を走行する。
正しい。右腎動脈は脊柱のやや左前方にある腹部大動脈から起始し、右方へ向かう途中で、その腹側にある下大静脈の背側(後方)を通過して右腎門に達する。大動脈が下大静脈よりも背側・左側に位置することから説明できる。右腎動脈は大動脈から右腎までの距離が長いため、左腎動脈より長い(静脈とは逆の関係)。
腎周囲の脈管の左右差の整理
・腎動脈:大動脈が左寄りにあるため、右腎動脈の方が長い。右腎動脈は下大静脈の背側を通る。 ・腎静脈:下大静脈が右寄りにあるため、左腎静脈の方が長い。左腎静脈は大動脈の腹側、上腸間膜動脈(SMA)の背側を通って下大静脈に入る。 ・副腎静脈:右は下大静脈へ直接、左は左腎静脈へ。 ・性腺静脈(卵巣静脈・精巣静脈):右は下大静脈へ直接、左は左腎静脈へ。 ・動脈側は左右とも大動脈から直接分岐する(副腎動脈は上・中・下の3系統があり、下副腎動脈は腎動脈から出る。性腺動脈は腎動脈起始部のやや下方で大動脈から直接出る)。
臨床との関連
・ナットクラッカー現象(症候群):左腎静脈が大動脈とSMAの間で挟まれて圧迫され、左腎静脈圧が上昇する。血尿(左腎からの出血)、左側腹部痛、左精索静脈瘤、女性では骨盤内うっ血症候群の原因となる。やせ型の若年者に多い。 ・左精索静脈瘤:左精巣静脈が長く、左腎静脈に直角に流入することに加え、ナットクラッカー現象も関与して左側に好発する。男性不妊の原因となる。 ・左腎腫瘍・腎細胞癌と精索静脈瘤:左腎静脈内に腫瘍塞栓が進展すると、左精巣静脈の流出が障害され、急に左精索静脈瘤が出現することがある。右側の精索静脈瘤が単独で新たに出現した場合は、下大静脈の閉塞や後腹膜腫瘍を疑う契機となる。 ・腎移植:ドナー腎には静脈が長い左腎が選ばれることが多い。
腎門部の構造の並び
腹側から腎静脈→腎動脈→腎盂(V-A-U)。ただし腎動脈の枝の一部(後区域枝)は腎盂の背側を走ることがある。
POINT
・大動脈は左寄り(やや背側)、下大静脈は右寄り(やや腹側)→これが左右差の出発点。 ・左腎静脈は右より長い/右腎動脈は左より長い。 ・右腎動脈は下大静脈の背側を通る。左腎静脈は大動脈の腹側・SMAの背側を通る(ナットクラッカー現象)。 ・左副腎静脈・左性腺静脈は左腎静脈へ、右副腎静脈・右性腺静脈は下大静脈へ直接流入する。 ・腎門部は腹側から静脈→動脈→尿管(V-A-U)。 ・精索静脈瘤は左に多い。
