白く腫れた下鼻甲介が語るもの―通年性アレルギー性鼻炎は「感作の証明」で診断する
第101回医師国家試験 A問題 第52問
国試問題にチャレンジ
26歳の男性。水様鼻漏と鼻閉とを主訴に来院した。6年前から通年性に水様鼻漏,鼻閉およびくしゃみを認めていたが,6か月前から増悪した。副鼻腔エックス線単純写真では異常を認めない。鼻内の写真を別に示す。 診断に有用なのはどれか。2つ選べ。

- a.皮内テスト
- b.鼻汁細菌検査
- c.鼻汁中好中球検査
- d.鼻腔通気度検査
- e.血清抗原特異的IgE測定
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
くしゃみ・水様性鼻漏・鼻閉が通年性に続き、下鼻甲介粘膜の蒼白・浮腫状腫脹を認め、副鼻腔に異常がなければ、ハウスダストやダニを原因とする通年性アレルギー性鼻炎を考えます。診断には、鼻汁中好酸球検査、皮膚テスト(皮内・スクラッチ・プリック)または血清抗原特異的IgE測定、鼻誘発テストが用いられ、なかでも皮内テストと特異的IgE測定は原因抗原への感作を証明する検査です。鼻汁中で増えるのは好中球ではなく好酸球であり、鼻汁細菌検査は感染症の検査、鼻腔通気度検査は鼻閉の程度を評価する検査で、いずれもアレルギー性鼻炎の診断には直結しません。皮膚テストは抗ヒスタミン薬で偽陰性になりうる一方、特異的IgEは薬剤の影響を受けにくいといった特徴も押さえておくと実臨床で役立ちます。原因抗原の特定は抗原回避や舌下免疫療法といった治療選択にもつながるため、「何を証明するための検査か」を意識して選ぶ姿勢が重要です。
解答・解説
正解はa, eです
所見の整理
26歳の男性。6年前から季節を問わず(通年性に)水様性鼻漏・鼻閉・くしゃみが続いており、6か月前から悪化した。副鼻腔エックス線単純写真では異常がない。鼻内の写真(内視鏡の連続合成写真)では、下鼻甲介の粘膜が腫れて鼻腔を狭めており、粘膜の色は赤みが乏しく白っぽい(蒼白)。表面には水様の分泌物がみられる。
診断へのプロセス
くしゃみ・水様性鼻漏・鼻閉はアレルギー性鼻炎の三主徴である。症状が一年中続くことから、スギなどの花粉による季節性ではなく、ハウスダスト・ダニ(室内塵中のヤケヒョウヒダニなど)、ペットのふけ、カビなどを原因とする通年性アレルギー性鼻炎が最も考えられる。下鼻甲介粘膜の蒼白・浮腫状腫脹は、アレルギー性鼻炎に典型的な鼻内所見である。 鑑別として慢性副鼻腔炎が挙がるが、慢性副鼻腔炎では粘膿性~膿性の鼻漏や後鼻漏が主体で、副鼻腔の陰影がみられることが多い。本例は水様性鼻漏で副鼻腔エックス線に異常がないため、否定的である。そのほか、アレルギー以外の原因で同様の症状を来す血管運動性鼻炎(本態性鼻炎)や好酸球増多性鼻炎も鑑別に入る。これらと区別するには、I型(即時型)アレルギーの存在とその原因抗原を証明することが必要である。
設問の考え方
アレルギー性鼻炎の診断は、典型的な症状と鼻内所見に加え、(1)鼻汁中好酸球の増加(局所のアレルギー性炎症の証明)、(2)皮膚テスト(皮内テスト・スクラッチテスト・プリックテスト)または血清抗原特異的IgE抗体の検出(原因抗原に対する感作の証明)、(3)鼻誘発テスト(抗原を鼻粘膜に置いて症状が再現されるかをみる)のうち、2つ以上が陽性であれば確定するのが基本である。選択肢の中では、抗原に対する感作を証明できる皮内テストと血清抗原特異的IgE測定が診断に有用な検査となる。鼻汁の検査で調べるべきなのは好中球ではなく好酸球である点に注意する。
選択肢考察
- ○a. 皮内テスト
皮内テストは、希釈したアレルゲンエキスを前腕などの皮内に少量注射し、約15~20分後に出現する膨疹と発赤の大きさを対照(生理食塩水など)と比べて判定する検査である。皮膚のマスト細胞(肥満細胞)の表面に結合した抗原特異的IgEに抗原が結合すると、ヒスタミンなどが放出されて膨疹・発赤が生じるため、即時型(I型)アレルギーの有無と原因抗原を同時に調べることができる。感度が高く結果がすぐ得られる利点がある。一方で、まれに全身性のアレルギー反応を起こしうること、抗ヒスタミン薬を内服していると反応が抑えられて偽陰性になることに注意が必要である。より安全性の高いスクラッチテストやプリックテストが用いられることも多い。
- ×b. 鼻汁細菌検査
鼻汁の細菌検査(培養・同定・薬剤感受性)は、急性・慢性副鼻腔炎などの細菌感染症で起炎菌を特定し、抗菌薬を選ぶために行う検査である。アレルギー性鼻炎はI型アレルギーによる非感染性の炎症であり、細菌は病因に関与しないため、診断には役立たない。本例では水様性鼻漏で副鼻腔の異常もなく、細菌感染を疑う所見に乏しい。
- ×c. 鼻汁中好中球検査
鼻汁中の好中球が増えるのは、細菌感染などによる化膿性の炎症(急性鼻炎、副鼻腔炎など)の場合である。アレルギー性鼻炎では、I型アレルギーの遅発相反応などにより鼻粘膜や鼻汁中に好酸球が集まるため、診断に用いるのは鼻汁中好酸球検査(鼻汁をスライドに塗抹してHansel染色などで好酸球を確認する)である。好中球を調べてもアレルギー性鼻炎の診断にはつながらない。
- ×d. 鼻腔通気度検査
鼻腔通気度検査は、呼吸時の鼻腔を通る気流と圧の関係から鼻腔抵抗を測定し、鼻閉の程度を客観的に評価する検査である。鼻閉の重症度評価や、治療(薬物療法・手術)の効果判定には有用であるが、鼻閉は鼻中隔弯曲症、肥厚性鼻炎、鼻茸などさまざまな原因で生じるため、アレルギーの有無や原因抗原を判定することはできず、アレルギー性鼻炎の診断そのものには役立たない。
- ○e. 血清抗原特異的IgE測定
採血した血清中で、ダニ、ハウスダスト、スギ花粉、動物上皮、カビなど個々の抗原に対する特異的IgE抗体の量を測定する検査である(RAST法などに由来し、現在はイムノアッセイで多項目を同時に測定できる)。特異的IgEが陽性であれば、その抗原に感作されていることを示し、原因抗原の推定に役立つ。皮膚テストに比べて感度はやや劣るが、抗ヒスタミン薬内服中でも結果が影響されにくく、患者に全身反応の危険がなく、皮膚の状態にも左右されないという利点がある。なお総IgE値(非特異的IgE)はアレルギー体質の目安にはなるが、原因抗原の特定には特異的IgEの測定が必要である。
アレルギー性鼻炎の概要
鼻粘膜で起こるI型(即時型、IgE依存性)アレルギー疾患である。抗原(アレルゲン)が鼻粘膜に入ると、マスト細胞表面のIgEに結合してヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が放出される。ヒスタミンは知覚神経を刺激してくしゃみを、さらに反射性に鼻腺分泌を促して水様性鼻漏を起こす(即時相)。ロイコトリエンなどは血管の拡張・透過性亢進を通じて粘膜を腫脹させ、鼻閉を起こす。数時間後には好酸球などの炎症細胞が集まり、鼻閉が主体の遅発相反応が生じる。
分類
・通年性:ハウスダスト・ダニが代表的で、ペット、カビ、ゴキブリなども原因となる。 ・季節性(花粉症):日本ではスギ(2~4月)が最多で、ヒノキ、イネ科(初夏)、ブタクサ・ヨモギ(秋)などがある。花粉症では眼のかゆみなどアレルギー性結膜炎を合併しやすい。
鼻内所見
下鼻甲介粘膜の蒼白・浮腫状腫脹と水様性分泌物が典型的である。季節性の発症期には粘膜が発赤することもある。
診断の流れ
1. 問診:三主徴(くしゃみ・水様性鼻漏・鼻閉)、症状の時期、家族歴、他のアレルギー疾患(気管支喘息、アトピー性皮膚炎など)の合併 2. 鼻鏡・内視鏡検査:粘膜の蒼白・腫脹 3. 鼻汁好酸球検査:陽性ならアレルギー性炎症を示唆(ただし好酸球増多性鼻炎でも陽性となる) 4. 原因抗原の検索:皮膚テスト(スクラッチ・プリック・皮内)、血清抗原特異的IgE 5. 鼻誘発テスト:抗原ディスクを下鼻甲介に置き、症状の再現をみる 有症状者で、鼻汁好酸球検査・皮膚テスト(または特異的IgE)・誘発テストのうち2つ以上陽性であれば確診とし、1つのみでも所見が典型的であれば臨床的に診断してよいとされる。
アレルギー性鼻炎と鑑別を要する疾患
・血管運動性鼻炎(本態性鼻炎):症状は似るが、鼻汁好酸球・皮膚テスト・特異的IgEはいずれも陰性。 ・好酸球増多性鼻炎:鼻汁好酸球は陽性だが、皮膚テスト・特異的IgEは陰性。 ・慢性副鼻腔炎:粘膿性鼻漏・後鼻漏、副鼻腔陰影。好酸球性副鼻腔炎では嗅覚障害と鼻茸を伴いやすい。 ・急性鼻炎(かぜ):経過が短く、鼻汁は次第に粘性・膿性となり好中球が主体。
治療の概略
・抗原の除去・回避(掃除、寝具の管理など) ・薬物療法:第2世代抗ヒスタミン薬、鼻噴霧用ステロイド薬、抗ロイコトリエン薬、ケミカルメディエーター遊離抑制薬など。重症の花粉症では抗IgE抗体(オマリズマブ)も用いられる。 ・アレルゲン免疫療法:スギ花粉症やダニによる通年性アレルギー性鼻炎に対して舌下免疫療法が行われ、根本的な体質改善が期待できる唯一の治療法である。 ・手術療法:薬物で改善しない鼻閉に対する下鼻甲介粘膜のレーザー焼灼、粘膜下下鼻甲介骨切除、後鼻神経切断術など。
POINT
・くしゃみ・水様性鼻漏・鼻閉+下鼻甲介粘膜の蒼白・浮腫状腫脹→アレルギー性鼻炎 ・通年性の主な原因抗原はハウスダスト・ダニ ・診断の柱:鼻汁好酸球検査、皮膚テスト(皮内・スクラッチ・プリック)または血清抗原特異的IgE、鼻誘発テスト ・鼻汁中で増えるのは好酸球(好中球は細菌感染を示唆) ・鼻腔通気度検査は鼻閉の程度の評価で、原因診断はできない ・皮膚テストは抗ヒスタミン薬内服で偽陰性となりうる。特異的IgEは薬剤の影響を受けにくい
