StudyMed医師国家試験

元気な6歳児の「固定性分裂」―心房中隔欠損症は急がず、でも放置せず

第99回医師国家試験 H問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第99回 H問題 第22問

6歳の男児。入学時の健康診断で心電図の異常を指摘されて来院した。生来元気で,易感染性もなかった。聴診で,胸骨左縁第2肋間に最強点を有する3/6度の駆出性収縮期雑音と胸骨左縁下部に2/6度の拡張期ランブルとを聴取する。Ⅱ音は固定性に分裂している。胸部エックス線写真では心胸郭比55% で,左第2弓の突出があり,肺血流の増加を認める。心電図を示す。 この患児について正しいのはどれか。

第99回 H問題 第22問の問題画像
  1. a.学校での運動を制限する。
  2. b.抜歯の際に感染性心内膜炎の予防を行う。
  3. c.強心薬の内服を開始する。
  4. d.待期的に根治手術を行う。
  5. e.緊急に根治手術を行う。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、学校心臓検診で見つかった先天性心疾患の診断と、その後の管理方針を問う問題だ。カギはⅡ音の性質と心電図。そして診断がついたあと、「この子に今なにが必要で、なにが不要か」を考えることがポイントになる。まず、聴診所見から何を考える?
医学生医学生
Ⅱ音の固定性分裂といえば、心房中隔欠損症ですよね。OSCEの心音シミュレーターで聴き比べた覚えがあります。
ドクタードクター
その通り。普通は吸気で静脈還流が増えて肺動脈弁の閉鎖が遅れ、分裂が広がる。心房中隔欠損症では左→右シャントで右室に常に多くの血液が流れ込み、しかも心房同士がつながっているので呼吸による還流の変動が打ち消される。だから分裂幅が呼吸で変わらないんだ。
医学生医学生
2つの心雑音は、欠損孔を血液が通る音でしょうか。
ドクタードクター
そう思いがちだけど、実は違う。心房間は圧較差が小さいので、シャント血流そのものはほとんど音を立てない。胸骨左縁第2肋間の駆出性収縮期雑音は、増えた血流が正常な肺動脈弁を通ることで生じる相対的肺動脈弁狭窄の音。胸骨左縁下部の拡張期ランブルは、同じく増えた血流が三尖弁を通る相対的三尖弁狭窄の音なんだ。
医学生医学生
器質的な弁狭窄ではなく、流れる量が多すぎるための音なんですね。
ドクタードクター
そう。特に拡張期ランブルが聴こえるのは、肺体血流比がおおむね2以上の大きなシャントを示唆する。心電図では右軸偏位と、V1のrsR'型、つまり不完全右脚ブロックのパターンがみられる。どちらも右室の容量負荷を反映した所見だ。胸部エックス線の左第2弓突出と肺血流増加も、肺動脈の拡張と肺への血流増加として矛盾しないね。
医学生医学生
左室には負荷がかからないんですよね。心室中隔欠損症や動脈管開存症が左心系の容量負荷になるのと対照的だと講義で習いました。
ドクタードクター
よく整理できているね。では管理方針に進もう。この子は生来元気で、心不全症状もない。でも心拡大と肺血流増加はある。どう対応する?
医学生医学生
心拡大があるなら、心臓を休ませるために運動を控えさせたほうがいい気がします。
ドクタードクター
そこが誤りやすいところ。心房中隔欠損症は運動しても血行動態が破綻しにくく、肺高血圧や不整脈がなければ閉鎖前でも通常は運動制限はいらない。不必要な制限は、子どもの心身の発達や生活の質を損なってしまう。強心薬も同じで、この子に心不全はないし、薬でシャントそのものを減らすこともできない。
医学生医学生
では抜歯のときの感染性心内膜炎の予防はどうですか。先天性心疾患なら必要だと思っていました。
ドクタードクター
多くの人がそう考えるね。感染性心内膜炎は、狭い孔を高速のジェット血流が通って内膜を傷つける部位にできやすい。二次孔型の心房中隔欠損症は圧較差が小さく血流が遅いので、先天性心疾患のなかでもリスクが最も低い部類だ。だから術前の単独の二次孔型では予防投与は推奨されていない。ただし、閉鎖術でパッチや閉鎖栓といった人工材料を使った場合は、内皮化が終わるまでの術後約6か月間は予防の対象になる。
医学生医学生
では、治療はやはり手術になるのでしょうか。症状がないなら様子を見てもいいようにも思えます。
ドクタードクター
そこが今回の正解につながる部分だ。二次孔型は乳児期を過ぎると自然閉鎖はほとんど期待できない。放置すると30〜40歳代以降に労作時息切れ、心房細動、右心不全、肺高血圧が出やすくなり、進めばEisenmenger症候群に至る。そうなると閉鎖は禁忌だ。一方で今は無症状で緊急性はない。だから、欠損孔の位置や大きさ、肺体血流比、肺血管抵抗を評価したうえで、待期的に根治手術を行うのが正しい方針になる。
医学生医学生
今すぐ危ないわけではないから緊急手術ではないけれど、将来のために計画的に閉じる、ということですね。
ドクタードクター
その通り。一般に肺体血流比がおおむね1.5以上で閉鎖の適応とされ、就学前後に行われることが多い。方法は外科的な直接縫合やパッチ閉鎖のほか、辺縁が十分ある二次孔型ではカテーテルで閉鎖栓を留置する方法も広く行われているよ。
医学生医学生
小児科の実習で、カテーテル閉鎖を受けて翌日には元気に歩いていた子がいました。
ドクタードクター
低侵襲な治療が選べるようになったのは大きいね。最後に発展知識を一つ。心電図で左軸偏位を示す場合は、一次孔型、つまり部分型房室中隔欠損を考える。僧帽弁の裂隙を伴いやすく、管理が変わってくる。また、心房中隔欠損症は成人になって初めて見つかる先天性心疾患として最も多い。成人の心房細動や右心拡大を見たとき、背景に隠れていないか思い浮かべることが大切だ。
医学生医学生
右軸偏位なら二次孔型、左軸偏位なら一次孔型、と心電図で病型の手がかりがつかめるんですね。
ドクタードクター
そう。聴診、心電図、エックス線を組み合わせて診断し、自然歴を踏まえて「急がないが、放置もしない」と判断する。これが心房中隔欠損症の管理の核心だよ。

まとめ

Ⅱ音の固定性分裂、相対的肺動脈弁狭窄による駆出性収縮期雑音、右軸偏位と不完全右脚ブロックは、右心系の容量負荷をきたす二次孔型心房中隔欠損症の典型所見です。拡張期ランブルや心拡大・肺血流増加は大きな左→右シャントを示し、放置すれば成人期に心房細動、右心不全、肺高血圧(Eisenmenger化)をきたしうるため、無症状でも評価のうえ待期的に閉鎖術(外科手術またはカテーテル閉鎖)を行います。一方で緊急性はなく、運動制限や強心薬は不要で、単独の二次孔型は感染性心内膜炎のリスクが低いため術前の抜歯時予防投与も推奨されません。心電図の軸で一次孔型との鑑別ができること、成人で初めて見つかる先天性心疾患として最多であることも併せて押さえておくと、学校検診から成人診療まで役立つ知識になります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・6歳男児、学校心臓検診(入学時の健康診断)で心電図異常を指摘された。生来元気で、易感染性(呼吸器感染を繰り返すなど)もない。つまり自覚症状・心不全症状はない。 ・聴診:胸骨左縁第2肋間に最強点をもつ3/6度の駆出性収縮期雑音、胸骨左縁下部に2/6度の拡張期ランブル、Ⅱ音の固定性分裂。 ・胸部エックス線:心胸郭比(CTR)55%と軽度の心拡大、左第2弓(肺動脈幹)の突出、肺血流の増加。 ・心電図:Ⅰ誘導で深いS波、Ⅲ誘導で高いR波を示し右軸偏位である。V1はrsR'型で、QRS幅の延長は目立たず不完全右脚ブロックのパターンである。右室の容量負荷を示す所見である。

診断に至るプロセス

Ⅱ音の固定性分裂は心房中隔欠損症(ASD:atrial septal defect)に特徴的な所見である。通常、吸気時には静脈還流が増えて肺動脈弁の閉鎖(ⅡP)が遅れ、Ⅱ音の分裂幅が広がる。ASDでは左→右シャントによって右室に常に多量の血液が流入しており、しかも心房間が交通しているため呼吸による左右の心房への還流量の変動が相殺される。その結果、分裂幅が呼吸で変化しない「固定性分裂」となる。 2つの心雑音はいずれも欠損孔そのものから生じる音ではない。心房間は圧較差が小さいため、シャント血流自体はほとんど雑音を生じない。胸骨左縁第2肋間の駆出性収縮期雑音は、増加した血流が正常の肺動脈弁を通過することで生じる相対的肺動脈弁狭窄の雑音であり、胸骨左縁下部の拡張期ランブルは、増加した血流が正常の三尖弁を通過することで生じる相対的三尖弁狭窄の雑音である。拡張期ランブルが聴取されるのは、一般に肺体血流比(Qp/Qs)が2程度以上の大きなシャントを示唆する。 胸部エックス線の左第2弓突出・肺血流増加、心電図の右軸偏位・不完全右脚ブロックも、右心系の容量負荷をきたすASDとして矛盾しない。

設問の考え方

本症例は、無症状ではあるが心拡大と肺血流増加を伴う、血行動態的に有意な左→右シャントのASDである。ASDは小児期には症状に乏しいことが多いが、放置すると成人期以降に右心不全、心房細動などの上室性不整脈、肺高血圧(重症化すればEisenmenger症候群)をきたしうる。したがって「現時点で緊急性はないが、将来の合併症を防ぐため、計画的に欠損孔を閉鎖する」というのが治療方針となる。この方針に照らして、日常生活管理(運動制限の要否)、感染性心内膜炎の予防の要否、薬物治療の要否、手術の時期を判断する。

選択肢考察

  1. ×a.  学校での運動を制限する。

    誤り。本児は生来元気で心不全症状もなく、肺高血圧や重篤な不整脈を示唆する所見もない。ASDは運動時にも血行動態の破綻をきたしにくく、閉鎖術前であっても通常は運動制限を必要としない。学校生活管理指導表でも、肺高血圧や不整脈などを伴わないASDでは原則として管理不要(または軽度の管理)とされる。不必要な運動制限は子どもの心身の発達や生活の質を損なう。

  2. ×b.  抜歯の際に感染性心内膜炎の予防を行う。

    誤り。感染性心内膜炎(IE)は、狭い孔や狭窄部を高速のジェット血流が通過して心内膜や血管内膜を傷つける部位に生じやすい。二次孔型ASDは心房間の圧較差が小さく、シャント血流が低速であるため内膜損傷が起こりにくく、先天性心疾患のなかでもIEのリスクが最も低い疾患の一つである。そのため、手術前の単独の二次孔型ASDでは抜歯時の抗菌薬予防投与は推奨されない。なお、閉鎖術で人工材料(パッチや閉鎖栓)を用いた場合は、内皮化が完了するまでの術後約6か月間は予防投与の対象となる。

  3. ×c.  強心薬の内服を開始する。

    誤り。ASDの小児が強心薬を必要とするほどの心不全をきたすことはまれである。本児は無症状で発育も良好であり、ジギタリスなどの強心薬を投与する適応はない。また、薬物療法でシャントそのものを減らすことはできず、根本的な治療は欠損孔の閉鎖である。

  4. ○d.  待期的に根治手術を行う。

    正しい。本児はCTR 55%の心拡大、肺血流増加、拡張期ランブルを伴っており、Qp/Qsの大きい血行動態的に有意なASDと考えられる。二次孔型ASDは乳児期を過ぎると自然閉鎖はほとんど期待できず、放置すれば成人期以降に右心不全、心房細動・心房粗動、肺高血圧(進行するとEisenmenger化)などをきたす。一方、現在は無症状で緊急性はない。したがって、心臓カテーテル検査などで欠損孔の位置・大きさやQp/Qs、肺血管抵抗を評価したうえで、計画的に閉鎖術を行う。一般にQp/Qsがおおむね1.5以上で閉鎖の適応とされ、就学前後の幼児〜学童期に行われることが多い。方法は外科的閉鎖(直接縫合またはパッチ閉鎖)のほか、欠損孔の辺縁が十分にある二次孔型ではカテーテルによる閉鎖栓(Amplatzer閉鎖栓など)の留置も広く行われている。

  5. ×e.  緊急に根治手術を行う。

    誤り。本児は無症状で心不全もなく、肺高血圧を示唆する所見(Ⅱ音の亢進、右左シャントによるチアノーゼなど)もないため、緊急手術を要する状況ではない。ASDは小児期の経過が緩徐な疾患であり、術前評価を十分に行ったうえで待期的に閉鎖するのが原則である。

心房中隔欠損症(ASD)の概要

・心房中隔に欠損孔があり、心房レベルで左→右シャントが生じる先天性心疾患である。先天性心疾患の約10%を占め、女性にやや多い。成人になって初めて診断される先天性心疾患としては最多である。 ・病型:二次孔型(卵円窩付近、最多で約70〜80%)、一次孔型(房室中隔欠損の部分型。僧帽弁裂隙を伴いやすい)、静脈洞型(上大静脈型では部分肺静脈還流異常を合併しやすい)、冠静脈洞型に分類される。

血行動態

左房→右房→右室→肺動脈と血流が増え、右房・右室・肺動脈が拡大する(右心系の容量負荷)。左室には負荷がかからない点が、左心系の容量負荷をきたす心室中隔欠損症(VSD)や動脈管開存症(PDA)と異なる。

診断のポイント

・聴診:Ⅱ音の固定性分裂、相対的肺動脈弁狭窄による駆出性収縮期雑音(胸骨左縁第2〜3肋間)、Qp/Qsが大きいと相対的三尖弁狭窄による拡張期ランブル(胸骨左縁下部)。 ・心電図:右軸偏位、不完全右脚ブロック(V1のrsR'型)。一次孔型では左軸偏位を示すのが鑑別点である。 ・胸部エックス線:右房拡大(右第2弓突出)、肺動脈拡張(左第2弓突出)、肺血流増加。 ・心エコー:欠損孔とシャント血流の確認、右房・右室の拡大、心室中隔の奇異性運動。確定診断と病型評価に有用で、経食道心エコーでより詳細に評価できる。

自然歴と治療

小児期は無症状のことが多く、学校心臓検診の心電図異常や心雑音で発見されることが多い。未治療のまま成人に達すると、30〜40歳代以降に労作時息切れ、心房細動、右心不全、肺高血圧が出現しやすくなる。治療は欠損孔の閉鎖(外科手術またはカテーテル閉鎖)であり、有意なシャント(Qp/Qs≧1.5程度、右心系の拡大)があれば待期的に行う。高度の肺高血圧で肺血管抵抗が不可逆的に上昇しEisenmenger症候群に至った場合は、閉鎖術は禁忌となる。

感染性心内膜炎の予防

単独の二次孔型ASDはIEの高リスク疾患ではなく、予防投与の対象外である。これに対し、VSD、PDA、ファロー四徴症などはジェット血流を伴うためIEのリスクがあり、特にチアノーゼ性心疾患や人工弁置換後などは高リスクとして歯科処置時の予防投与が推奨される。

POINT

・Ⅱ音の固定性分裂+右軸偏位+不完全右脚ブロック → 心房中隔欠損症(二次孔型)。 ・胸骨左縁第2肋間の駆出性収縮期雑音は相対的肺動脈弁狭窄、胸骨左縁下部の拡張期ランブルは相対的三尖弁狭窄によるもので、欠損孔自体の雑音ではない。 ・ASDは小児期に無症状が多い → 運動制限・強心薬は不要、有意なシャントがあれば待期的に閉鎖(外科手術またはカテーテル閉鎖)。 ・単独の二次孔型ASDは感染性心内膜炎のリスクが低く、抜歯時の予防投与は不要。 ・放置すると成人期に心房細動、右心不全、肺高血圧(Eisenmenger化)をきたしうる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。