40代で目を覚ます先天性心疾患―Ⅱ音の固定性分裂から読み解く心房中隔欠損症の画像
第120回医師国家試験 A問題 第20問
国試問題にチャレンジ
42歳の女性。易疲労感を主訴に受診した。幼少時に心房中隔欠損症を指摘され,定期的に受診していた。しかし,大学進学後は日常生活において症状がなく,病院を受診していなかった。1か月前から日常生活での息切れと疲れやすさを自覚し,改善しないため受診した。意識は清明。身長157cm,体重54kg。体温36.2℃。脈拍76/分,整。血圧124/80mmHg。呼吸数18/分。SpO2 97%(room air)。心音はⅡ音の固定性分裂と胸骨左縁第2肋間にLevine 2/6の収縮期駆出性雑音を聴取する。呼吸音に異常を認めない。四肢に浮腫は認めない。チアノーゼは認めない。 この患者で予想される検査所見はどれか。
- a.心電図でST上昇
- b.心電図で左室肥大
- c.心エコー図で右→左シャント優位
- d.胸部エックス線写真で左第2弓の突出
- e.胸部エックス線写真で肺血管陰影の減弱
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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医学生まとめ
心房中隔欠損症では左房から右房への左→右シャントにより右心系に容量負荷がかかり、肺血流が増加します。そのため聴診ではⅡ音の固定性分裂と相対的肺動脈弁狭窄による収縮期駆出性雑音を聴取し、胸部エックス線では肺動脈拡張による左第2弓の突出、右第2弓の突出、肺血管陰影の増強がみられます。心電図は不完全右脚ブロックや右軸偏位が典型的で、シャント血流が左室を通らないため左室肥大は生じにくく、SpO2が保たれチアノーゼがなければEisenmenger化による右→左シャントは否定的です。本症は加齢に伴いシャント量が増え、40歳前後から息切れや心房細動、右心不全で顕在化しやすく、有意なシャントがあればカテーテルまたは外科的閉鎖を検討します。血液の流れと負荷のかかる部屋を追う考え方は、先天性心疾患の所見を理解する土台になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・42歳の女性。幼少時に心房中隔欠損症(atrial septal defect: ASD)を指摘されていたが、大学進学後は無症状のため通院が途絶えていた。 ・1か月前から日常生活での息切れと易疲労感が出現している。 ・脈拍76/分で整(心房細動ではない)、SpO2 97%(室内気)で、チアノーゼはない。 ・聴診でⅡ音の固定性分裂と、胸骨左縁第2肋間のLevine 2/6の収縮期駆出性雑音を聴取する。呼吸音は正常、浮腫はない。
病態の考え方
Ⅱ音の固定性分裂はASDに最も特徴的な聴診所見である。ASDでは心房レベルで左房から右房へ血液が流れ込む(左→右シャント)ため、右房・右室・肺動脈に流れる血液量が増える(右心系の容量負荷)。右室の拍出量が多いため肺動脈弁の閉鎖が遅れてⅡ音が広く分裂し、さらに呼吸で静脈還流が変化しても両心房間で圧が均等化されるため、分裂幅が呼吸で変動しない(固定性分裂)。胸骨左縁第2肋間の収縮期駆出性雑音は、正常な肺動脈弁を大量の血液が通過することで生じる相対的肺動脈弁狭窄による雑音であり、欠損孔を通る血流そのものの音ではない。 ASDは小児期には無症状のことが多いが、加齢とともに左室の拡張性が低下して左→右シャント量が増え、成人期(特に40歳前後以降)に労作時息切れ、易疲労感、心房細動・心房粗動などの不整脈、右心不全、肺高血圧などで症状が顕在化しやすい。本例はこの経過に合致する。 一方、SpO2が正常でチアノーゼもないことから、肺血管抵抗が上昇してシャントが右→左に逆転したEisenmenger症候群には至っておらず、現在も左→右シャントが主体であると判断できる。
設問への考え方
左→右シャントが主体のASDでは、肺血流量の増加と右心系の拡大を反映した所見が予想される。胸部エックス線写真では、肺動脈の拡張による左第2弓(肺動脈弓)の突出と、肺血管陰影の増強がみられる。心電図では右室の容量負荷を反映して不完全右脚ブロックや右軸偏位が典型的である。
選択肢考察
- ×a. 心電図でST上昇
心電図のST上昇は、急性心筋梗塞などの貫壁性心筋虚血、急性心膜炎、冠攣縮性狭心症の発作時、たこつぼ型心筋症などでみられる所見である。ASDは心房間のシャントによる容量負荷の疾患であり、心筋虚血を起こす病態ではないため、ST上昇は予想されない。
- ×b. 心電図で左室肥大
ASDのシャント血流は左房→右房→右室→肺動脈→肺静脈→左房と循環し、左室を通らない。そのため負荷がかかるのは右房・右室であり、心電図では不完全右脚ブロック(V1誘導のrsR'型)や右軸偏位、右室肥大所見がみられる。左室肥大は高血圧や大動脈弁狭窄症など左室に圧負荷がかかる疾患、あるいは心室中隔欠損症や動脈管開存症など左室に容量負荷がかかる疾患でみられる所見であり、ASDでは生じにくい。
- ×c. 心エコー図で右→左シャント優位
右→左シャントが優位になると、酸素の少ない静脈血が体循環に混入するため、低酸素血症やチアノーゼが出現する。ASDで右→左シャント優位となるのは、長期の肺血流増加により肺血管抵抗が不可逆的に上昇し、右心系の圧が左心系を上回ったEisenmenger症候群の段階である。本例はSpO2 97%でチアノーゼを認めないため、現時点では左→右シャント優位と考えられる。
- ○d. 胸部エックス線写真で左第2弓の突出
胸部エックス線写真正面像の左第2弓は肺動脈幹(主肺動脈)に相当する。ASDでは左→右シャントにより肺血流量が増加し、肺動脈が拡張するため、左第2弓が突出する。あわせて右房拡大による右第2弓の突出、右室拡大による心拡大(心尖部の挙上)、肺血管陰影の増強がみられるのが典型的である。本例は症状が出現した未治療のASDであり、これらの所見が予想される。
- ×e. 胸部エックス線写真で肺血管陰影の減弱
肺血管陰影の減弱は肺血流量が減少していることを示し、Fallot四徴症や肺動脈閉鎖、三尖弁閉鎖など肺への血流が乏しいチアノーゼ性心疾患でみられる所見である。左→右シャントのASDでは肺血流量が増加するため、逆に肺血管陰影は増強する(なお、Eisenmenger化した段階では中枢の肺動脈が太く末梢が急に細くなる所見を呈するが、本例はその段階ではない)。
心房中隔欠損症(ASD)の概要
・先天性心疾患の中で頻度が高く、成人になってから初めて見つかる先天性心疾患として最も多い。女性に多い。 ・病型: 二次孔欠損型(卵円窩付近の欠損。最も多く、約7〜8割)、一次孔欠損型(房室中隔欠損の不完全型。僧帽弁裂隙を伴いやすい)、静脈洞型(上大静脈型では部分肺静脈還流異常を合併しやすい)、冠静脈洞型。 ・自然経過: 小さな欠損は乳幼児期に自然閉鎖することがあるが、一定以上の大きさの欠損は成人まで残る。加齢とともにシャント量が増え、40歳以降に心房細動・心房粗動、右心不全、肺高血圧が出現しやすい。
主な検査所見
・聴診: Ⅱ音の固定性分裂、胸骨左縁第2肋間の収縮期駆出性雑音(相対的肺動脈弁狭窄)。シャント量が多いと胸骨左縁下部に拡張期ランブル(相対的三尖弁狭窄)を聴取する。肺高血圧を合併するとⅡ音の肺動脈成分(ⅡP)が亢進する。 ・心電図: 不完全右脚ブロック(rsR'型)、右軸偏位(二次孔型)、右室肥大。一次孔型では左軸偏位を示すのが特徴。心房細動・心房粗動の出現もある。 ・胸部エックス線: 右第2弓(右房)・左第2弓(肺動脈)の突出、右室拡大による心拡大、肺血管陰影の増強。大動脈弓(左第1弓)は相対的に小さく見える。 ・心エコー: 右房・右室の拡大、心房中隔の欠損とカラードプラでの左→右シャント血流、心室中隔の奇異性運動(右室容量負荷の所見)。経食道心エコーで欠損孔の形態・辺縁を詳しく評価する。 ・心臓カテーテル: 右房で酸素飽和度が上昇する(step-up)。肺体血流比(Qp/Qs)や肺血管抵抗を測定する。
治療
・右心系の容量負荷(右室拡大)がある、あるいはQp/Qsがおおむね1.5以上の有意なシャントがあれば、症状の有無にかかわらず閉鎖を検討する。 ・二次孔型で欠損孔の辺縁が十分あれば経皮的カテーテル閉鎖術(閉鎖栓〈デバイス〉による閉鎖)が広く行われ、一次孔型・静脈洞型・大きな欠損では外科的閉鎖術を行う。 ・肺血管抵抗が高度に上昇し、右→左シャントとなったEisenmenger症候群では閉鎖は禁忌となり、肺血管拡張薬などで対応する。 ・成人期に閉鎖しても症状や右心機能の改善が期待できるが、閉鎖時の年齢が高いほど心房性不整脈は残りやすい。
POINT
・ASDの聴診: Ⅱ音の固定性分裂+胸骨左縁第2肋間の収縮期駆出性雑音(相対的肺動脈弁狭窄)。 ・左→右シャントで右心系に容量負荷 → 右房・右室拡大、肺血流増加。 ・胸部エックス線: 左第2弓(肺動脈)・右第2弓(右房)の突出、肺血管陰影の増強。 ・心電図: 不完全右脚ブロック、右軸偏位(一次孔型では左軸偏位)。左室肥大は生じにくい。 ・チアノーゼ・低SpO2がなければEisenmenger化(右→左シャント)は否定的。 ・ASDは成人期(40歳前後以降)に息切れ・心房細動・右心不全で顕在化しやすい。
