どこを測っても85%―酸素飽和度が「均一」な新生児が教える総肺静脈還流異常症
第119回医師国家試験 D問題 第58問
国試問題にチャレンジ
日齢14の男児。哺乳量の低下を主訴に母親に連れられて来院した。出生後から哺乳量の低下が認められていた。哺乳時に息苦しそうになり,途中で哺乳をやめてしまう。妊娠経過は異常なく,在胎38週5日,体重2,660g。身長49cm。Apgarスコア8点(1分),8点(5分)で出生した。意識は清明。体温37.2℃。脈拍140/分,整。血圧80/40mmHg。呼吸数60/分。SpO2 85%(room air)。心音と呼吸音とに異常を認めない。心エコー検査で先天性心疾患が疑われ,心臓カテーテル検査が行われた。検査結果を表に示す。 右心房 右心室 肺動脈 左心房 左心室 大動脈 酸素飽和度(%) 85.7 85.6 85.3 85.1 84.8 84.3 診断はどれか。
- a.Ebstein奇形
- b.Fallot四徴症
- c.大動脈離断症
- d.完全大血管転位症
- e.総肺静脈還流異常症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
心臓カテーテル検査で右心房から大動脈まで酸素飽和度がほぼ均一であれば、すべての肺静脈血が右心房に戻り体静脈血と完全に混合する総肺静脈還流異常症を考えます。本症では心房間交通を介した右→左短絡で体循環が保たれ、生後の肺血流増加に伴って多呼吸・哺乳困難などの心不全症状とチアノーゼが目立ち、心雑音は乏しいことが多いのが特徴です。Fallot四徴症は大動脈での飽和度低下、完全大血管転位症は肺動脈と大動脈の飽和度の逆転、Ebstein奇形や大動脈離断症も均一にはならず、飽和度のパターンで鑑別できます。Darling分類では上心臓型が最多で、下心臓型は肺静脈閉塞を来しやすく、閉塞例は緊急手術の対象となりPGE1は通常用いません。カテーテル検査の飽和度の上がり下がりから短絡の位置と方向を読む力は、先天性心疾患全般の病態理解の土台になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・日齢14の男児。出生後から哺乳量が少なく、哺乳中に息苦しくなって途中でやめてしまう(哺乳困難は乳児の心不全の代表的な症状である)。 ・妊娠経過は正常、在胎38週5日、体重2,660g、Apgarスコア8点/8点で新生児仮死はない。 ・呼吸数60/分(新生児の多呼吸の目安は60/分以上)、SpO2 85%(室内気)でチアノーゼがある。 ・心音・呼吸音に異常がない(明らかな心雑音がない)。 ・心臓カテーテル検査:右心房85.7%、右心室85.6%、肺動脈85.3%、左心房85.1%、左心室84.8%、大動脈84.3%と、右心系・左心系・大血管のすべてで酸素飽和度がほぼ同じである。
診断へのプロセス
正常の心臓では、右心系(右心房・右心室・肺動脈)には全身から戻った静脈血(酸素飽和度はおおむね70%前後)が、左心系(左心房・左心室・大動脈)には肺で酸素化された動脈血(95%以上)が流れ、両者の間に大きな差がある。 本例ではこの差が消失し、すべての部位が約85%で均一になっている。これは、静脈血と動脈血が心臓の入口で完全に混ざってしまい、混ざった血液が右心系と左心系の両方に分配されていることを意味する。 その代表が総肺静脈還流異常症(TAPVR/TAPVC)である。本症では4本の肺静脈がすべて左心房につながらず、体静脈系(上大静脈、冠静脈洞、門脈など)を経て右心房に戻る。そのため右心房に体静脈血と肺静脈血のすべてが集まって完全に混合し、その一部が心房間交通(卵円孔・心房中隔欠損)を通って左心房→左心室→大動脈へ流れる。結果として「右心房以降のすべての部位で酸素飽和度がほぼ等しい」という特徴的なパターンになる。 また、生後に肺血管抵抗が低下すると肺血流が増え、肺うっ血と右心系の容量負荷が進んで多呼吸・哺乳困難などの心不全症状が出てくる。本例の「生後から哺乳不良があり、日齢14で多呼吸・チアノーゼが目立つ」という経過もこれに合う。心房間の短絡は圧較差の小さい心房レベルの流れであるため、目立った心雑音を生じにくい点も合致する。
設問の考え方
先天性心疾患のカテーテル検査の表では、「どこで酸素飽和度が上がる(左→右短絡)か、下がる(右→左短絡)か」を読む。全部位で飽和度が均一なら、心房より手前ですべての血液が混ざる疾患、すなわち総肺静脈還流異常症を考える。
選択肢考察
- ×a. Ebstein奇形
Ebstein奇形は三尖弁の中隔尖・後尖が右心室側へ落ち込む(下方偏位する)奇形で、右心室の一部が心房化し、高度の三尖弁逆流を生じる。右心房圧が上がると卵円孔や心房中隔欠損を通じて右→左短絡が起こり、チアノーゼを呈する。この場合、右心房・右心室・肺動脈は体静脈血の低い飽和度のままで、左心房で肺静脈血と静脈血が混ざってから左心室・大動脈へ流れるため、右心系と左心房の飽和度には差が残り、全部位が均一にはならない。また三尖弁逆流による収縮期雑音を聴取することが多く、胸部X線で著明な心拡大(巨大な右心房)を示す。本例とは合致しない。
- ×b. Fallot四徴症
Fallot四徴症は、心室中隔欠損、肺動脈狭窄(右室流出路狭窄)、大動脈騎乗、右室肥大の4つを特徴とする。肺静脈から戻る左心房・左心室の血液は十分に酸素化されているが、心室中隔欠損を介した右→左短絡により大動脈で飽和度が低下する。一方、右心房・右心室・肺動脈は体静脈血の低い飽和度である。したがって右心系と左心房との間に明確な差があり、全部位が均一になることはない。また右室流出路狭窄による駆出性収縮期雑音を胸骨左縁で聴取するのが特徴で、肺血流が減少する疾患であるため新生児期に肺うっ血による心不全を起こすことはまれである。本例とは合致しない。
- ×c. 大動脈離断症
大動脈離断症は大動脈弓の一部が途切れている疾患で、多くは心室中隔欠損を伴い、22q11.2欠失症候群との関連が知られる。下行大動脈への血流は肺動脈から動脈管を通って供給されるため、下半身にだけチアノーゼが出る(差異性チアノーゼ)。左心房・左心室・上行大動脈は肺静脈由来の高い飽和度を保つため、全部位均一にはならない。動脈管が閉じると下半身の血流が途絶え、ショックや代謝性アシドーシス、無尿に陥る(動脈管依存性疾患)。上下肢の血圧差やSpO2差の記載のない本例とは合致しない。
- ×d. 完全大血管転位症
完全大血管転位症は、右心室から大動脈、左心室から肺動脈が起始する疾患である。体循環(右心房→右心室→大動脈)と肺循環(左心房→左心室→肺動脈)が並列に回るため、大動脈の飽和度は低く、肺動脈の飽和度は高いという「逆転」が起こる。生存には卵円孔・動脈管・心室中隔欠損などでの血液の混合が必須であり、飽和度は全部位で均一にはならない。心室中隔欠損のない型では、出生直後から高度のチアノーゼがみられ、動脈管・卵円孔が狭くなると急速に悪化するため、プロスタグランジンE1投与やバルーン心房中隔裂開術(BAS)が必要となる。本例の検査結果・経過とは合致しない。
- ○e. 総肺静脈還流異常症
すべての肺静脈が左心房ではなく体静脈系を経て右心房に戻るため、体静脈血と肺静脈血が右心房で完全に混合する。混合血は右心室・肺動脈へ流れると同時に、心房間交通を通る右→左短絡で左心房・左心室・大動脈にも送られる。そのため右心房から大動脈まで酸素飽和度がほぼ一様(本例では84〜86%)となり、カテーテル所見と完全に一致する。短絡は圧較差の小さい心房レベルで起こるため目立つ心雑音を欠くことが多く、生後に肺血流が増えるにつれて多呼吸・哺乳困難などの心不全症状とチアノーゼが目立ってくる経過も本例に合う。
総肺静脈還流異常症(TAPVR/TAPVC)の概要
肺静脈は胎生期に、肺の周囲にある静脈網が左心房の後面から伸びてきた共通肺静脈と癒合して形成される。この癒合がうまくいかないと、肺静脈が胎生期の体静脈系との古い交通を介して還流し、本症となる。先天性心疾患の約1〜2%を占める。生存には心房間交通(卵円孔開存または心房中隔欠損)が必須である。
Darling分類
・I型(上心臓型):最も多い。肺静脈が合流して垂直静脈となり、無名静脈を経て上大静脈へ還流する。乳児期以降の胸部X線で雪だるま状の心陰影(snowman sign、8字型)を示すことがある。 ・II型(傍心臓型):冠静脈洞または右心房へ直接還流する。 ・III型(下心臓型):垂直静脈が横隔膜を貫いて下行し、門脈や静脈管へつながる。還流路が長く狭窄(肺静脈閉塞)を起こしやすいため、生直後から高度の肺うっ血・チアノーゼを来し、最も緊急性が高い。 ・IV型(混合型):上記の組み合わせ。
病態と症状
・肺静脈狭窄がない場合:肺血管抵抗の低下とともに肺血流が増加し、右心系の容量負荷と肺うっ血が進む。新生児期〜乳児期早期に多呼吸、哺乳困難、体重増加不良、軽度〜中等度のチアノーゼを示す。聴診では肺血流増加による相対的肺動脈弁狭窄の柔らかい駆出性雑音やII音の固定性分裂がみられることもあるが、目立たないことが多い。 ・肺静脈狭窄がある場合:生直後から高度の肺うっ血、肺高血圧、重症チアノーゼを呈し、胸部X線ですりガラス様陰影がみられる。新生児呼吸窮迫症候群や胎便吸引症候群などの呼吸器疾患と紛らわしい。
診断と治療
心エコー検査で左心房に流入する肺静脈が見えないこと、共通肺静脈腔や垂直静脈、拡大した右心系を確認する。造影CTで還流経路を立体的に把握する。治療は外科手術で、共通肺静脈腔を左心房に吻合し、異常な還流路を閉じる。肺静脈閉塞を伴う例は緊急手術の適応である。肺静脈狭窄を伴う本症では、肺血流をさらに増やして肺うっ血を悪化させるおそれがあるため、プロスタグランジンE1による動脈管開存の維持は通常行わない。術後の肺静脈狭窄の再発が予後を左右する。
カテーテル検査での酸素飽和度の読み方
・左→右短絡(心房中隔欠損、心室中隔欠損、動脈管開存):短絡が流れ込む右心系の部位で飽和度が上がる(ステップアップ)。 ・右→左短絡(Fallot四徴症、Ebstein奇形など):左心系や大動脈で飽和度が下がる。 ・完全大血管転位症:肺動脈の飽和度が大動脈より高い逆転現象。 ・総肺静脈還流異常症:右心房以降のすべての部位でほぼ均一。 (単心室など心室レベルで完全に混合する疾患でも、心室以降では飽和度が均一に近づく。)
POINT
・心臓カテーテル検査で右心房から大動脈まで酸素飽和度がほぼ均一 → 総肺静脈還流異常症。 ・全肺静脈が右心房へ還流し、心房間交通(卵円孔・ASD)の右→左短絡で体循環が維持される。 ・心雑音が目立たない新生児のチアノーゼ+多呼吸・哺乳困難(肺血流増加による心不全)。 ・Darling分類:I型(上心臓型)が最多、III型(下心臓型)は肺静脈閉塞を起こしやすく最重症。 ・肺静脈閉塞例は緊急手術。PGE1は通常使用しない。 ・鑑別:Fallot四徴症(雑音あり、大動脈で飽和度低下)、完全大血管転位症(肺動脈>大動脈の逆転)、大動脈離断症(下半身のチアノーゼ、動脈管依存)、Ebstein奇形(三尖弁逆流、巨大右心房)。
