泡が消えたら要注意―早産児の呼吸窮迫をマイクロバブルテストで見抜く
第99回医師国家試験 F問題 第40問
国試問題にチャレンジ
日齢0の新生児。出生後30分ころから多呼吸を認めた。在胎32週,出生体重1,600g。体温37.3℃。呼吸数64/分。心拍数160/分,整。チアノーゼ,陥没呼吸および呼気時の呻吟を認める。外表奇形は認めない。心雑音を聴取しない。 この患児で重要な検査はどれか。
- a.新生児マススクリーニング
- b.マイクロバブルテスト
- c.PIVKA-Ⅱ
- d.血清IgM
- e.CRP
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生まとめ
早産児が出生直後から多呼吸、陥没呼吸、呼気性呻吟、チアノーゼを示す場合は、新生児呼吸窮迫症候群(RDS)をまず考えます。RDSの本態はII型肺胞上皮細胞が産生する肺サーファクタントの欠乏で、十分量となる在胎34週前後より前に生まれた児ほど発症しやすく、出生直後の胃液や気管吸引液を用いたマイクロバブルテストで安定微小気泡が乏しいことから迅速に評価できます。新生児マススクリーニングは先天代謝異常・内分泌疾患、PIVKA-IIはビタミンK欠乏、血清IgM高値は胎内感染の評価に用いる検査であり、CRPは感染の鑑別には役立つもののサーファクタント欠乏は評価できません。治療は人工サーファクタントの気管内投与と呼吸管理、予防は早産が予想される母体へのステロイド投与です。病態の本質を直接評価する検査を選ぶという考え方は、新生児医療に限らず診断の基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・在胎32週で出生した早産児(出生体重1,600gの低出生体重児) ・出生後30分ころという「生直後」から多呼吸(呼吸数64/分。新生児では60/分以上を多呼吸とする)が出現 ・チアノーゼ、陥没呼吸、呼気時の呻吟(うめき声)という呼吸窮迫の三徴がそろっている ・体温37.3℃と発熱はなく、外表奇形・心雑音もない
診断へのプロセス
早産児が出生直後から呼吸窮迫症状を呈し、しかも時間とともに進行していく場合、まず考えるべきは新生児呼吸窮迫症候群(RDS:respiratory distress syndrome)である。RDSは肺胞表面を覆う肺サーファクタント(界面活性物質)の不足によって、呼気時に肺胞が虚脱してしまう疾患である。サーファクタントはII型肺胞上皮細胞で産生され、十分量が分泌されるのは在胎34週前後以降であるため、それ以前に生まれた児ほど発症しやすい。 呼気時の呻吟は、声門を狭めて呼気に抵抗をかけ、肺胞の虚脱を防ごうとする代償反応であり、RDSをはじめとする肺胞虚脱性の病態を強く示唆する所見である。 鑑別としては、新生児一過性多呼吸(TTN:肺水の吸収遅延、成熟児の帝王切開出生に多く、軽症で数日以内に改善)、胎便吸引症候群(MAS:過期産児、羊水混濁)、新生児肺炎・敗血症(特にB群溶血性レンサ球菌〈GBS〉感染症。RDSと臨床像が酷似する)、先天性心疾患(心雑音、チアノーゼの酸素反応性)、気胸などが挙がる。本例は在胎32週の早産児で、発熱や感染を示唆する情報がなく、心雑音もないことから、RDSが最も考えやすい。なお、Wilson-Mikity症候群は生後1〜2週以降に呼吸障害が出現する慢性肺疾患であり、日齢0で発症する本例には当てはまらない。
設問の考え方
RDSの本態は「サーファクタントの欠乏」であるから、それを直接評価する検査が最も重要となる。出生直後に採取した胃液(出生時の胃内容は児が飲み込んだ羊水であり、肺から出た肺液を含む)や気管吸引液を用いて、サーファクタントの有無を迅速に判定できるのがマイクロバブルテストである。結果は短時間で得られ、サーファクタント補充療法を行うかどうかの判断に直結する。
選択肢考察
- ×a. 新生児マススクリーニング
新生児マススクリーニングは、フェニルケトン尿症などの先天代謝異常症、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)、先天性副腎過形成症などを、症状が出る前に発見するための検査である。通常は哺乳が確立した生後4〜6日ころに足底から採血した乾燥ろ紙血で行う(低出生体重児では後日再検査を行うこともある)。RDSは対象疾患に含まれておらず、日齢0の急性呼吸障害の診断には役立たない。
- ○b. マイクロバブルテスト
出生直後の胃液(または気管吸引液、羊水)をピペットで泡立て、スライドガラス上で一定時間静置した後に、直径15μm以下の安定した微小気泡(stable microbubble)の数を顕微鏡で数える検査である。サーファクタントが十分にあれば表面張力が低下して微小気泡が安定して残るが、不足していると気泡はすぐに消失する。微小気泡がごく少ない場合(1mm²あたり2個未満など)はRDSの可能性が高いと判定する。ベッドサイドで短時間に結果が得られ、サーファクタントの気管内投与の適応を判断する根拠となるため、本例で最も重要な検査である。
- ×c. PIVKA-Ⅱ
PIVKA-II(protein induced by vitamin K absence or antagonist-II)は、ビタミンK不足下で産生される、カルボキシル化が不十分な異常プロトロンビンである。新生児・乳児のビタミンK欠乏性出血症(新生児メレナ、頭蓋内出血など)の診断や、成人では肝細胞癌の腫瘍マーカーとして用いられる。本例には出血症状がなく、呼吸障害の評価には関係しない。
- ×d. 血清IgM
IgMは分子量が大きく胎盤を通過しないため、新生児の血清IgMはほぼ児自身が産生したものである。正常新生児では20mg/dL程度以下と低値であり、高値であれば胎内で抗原刺激を受けたこと、すなわち胎内感染(TORCH症候群など)や絨毛膜羊膜炎への曝露を示唆する。本例には胎内感染を疑わせる所見(発熱、肝脾腫、発疹、小頭症など)がなく、RDSの診断に直接役立つ検査ではない。
- ×e. CRP
CRP(C反応性蛋白)は炎症・細菌感染症のマーカーである。新生児肺炎や敗血症(特にGBS感染症)はRDSと類似した呼吸障害を起こすため、実臨床では鑑別目的で測定されることも多い。しかし本例では発熱などの感染徴候がなく、しかも出生直後の新生児ではCRPの上昇が遅れて検出されにくい。RDSの本態であるサーファクタント欠乏を評価できる検査ではないため、本問で「重要な検査」として選ぶべきものではない。
新生児呼吸窮迫症候群(RDS)の概要
・病態:肺サーファクタント(主成分はリン脂質のジパルミトイルホスファチジルコリン〈DPPC〉とサーファクタント蛋白)の欠乏により肺胞の表面張力が高まり、呼気時に肺胞が虚脱する。無気肺が広がり、換気血流比不均等・肺内シャントによる低酸素血症と、高二酸化炭素血症をきたす。 ・危険因子:早産(特に在胎34週未満)、男児、母体糖尿病(高インスリン血症がサーファクタント産生を抑制)、帝王切開(陣痛発来前)、仮死、多胎の第2子など。 ・症状:出生直後〜数時間以内に出現する多呼吸、陥没呼吸、呼気性呻吟、鼻翼呼吸、チアノーゼ。無治療では生後数日にかけて悪化する。 ・胸部エックス線所見:肺野の網状顆粒状陰影、気管支透亮像(air bronchogram)、肺容量の減少。重症になると心陰影・横隔膜との境界が不鮮明となり、最重症では肺野全体が白くなる(white out)。重症度分類としてBomsel分類(I〜IV度)が知られる。 ・サーファクタント評価法:マイクロバブルテスト(胃液・気管吸引液・羊水)、シェイクテスト(羊水や胃液をエタノールと混ぜて振り、泡の残り方をみる)、羊水中のレシチン/スフィンゴミエリン比(L/S比。2以上で肺成熟と判定)など。 ・治療:人工肺サーファクタントの気管内投与、持続陽圧呼吸(CPAP)や人工呼吸管理、保温・輸液などの全身管理。 ・予防:早産が予想される場合、母体への副腎皮質ステロイド(ベタメタゾン)投与により胎児の肺成熟を促す。 ・合併症:気胸などのエアリーク、動脈管開存症、脳室内出血、慢性肺疾患(気管支肺異形成)など。
新生児の呼吸障害の主な鑑別
・新生児一過性多呼吸(TTN):成熟児・帝王切開出生に多い。肺水の吸収遅延。胸部エックス線で肺門部の線状陰影、葉間胸水。多くは2〜3日で改善。 ・胎便吸引症候群(MAS):過期産児、羊水混濁。斑状陰影と過膨張、気胸を合併しやすい。 ・新生児肺炎・敗血症:GBS感染症が代表。前期破水、母体発熱などが手がかり。RDSとの区別が難しく、感染検査を並行して行う。 ・Wilson-Mikity症候群:早産児に生後1〜2週以降から呼吸障害が現れる慢性肺疾患。胸部エックス線で泡沫状の嚢胞性陰影。絨毛膜羊膜炎との関連が指摘されている。
POINT
・早産児+出生直後からの多呼吸・陥没呼吸・呻吟・チアノーゼ → 新生児呼吸窮迫症候群(RDS)を考える。 ・RDSの本態はII型肺胞上皮細胞が産生する肺サーファクタントの欠乏。サーファクタントが十分量になるのは在胎34週前後以降。 ・サーファクタントの有無は、胃液・気管吸引液・羊水を用いたマイクロバブルテスト(安定微小気泡数)やシェイクテスト、羊水L/S比で評価する。 ・胸部エックス線は網状顆粒状陰影、air bronchogram、重症でwhite out。 ・治療は人工サーファクタント気管内投与と呼吸管理、予防は母体へのステロイド投与。 ・PIVKA-IIはビタミンK欠乏、血清IgM高値は胎内感染、マススクリーニングは先天代謝異常・内分泌疾患が対象で、いずれもRDSの診断には用いない。
