「病巣をにらむ」左片麻痺―ペースメーカ患者の脳卒中で最初に撮るべき画像は?
第99回医師国家試験 F問題 第41問
国試問題にチャレンジ
73歳の男性。起床時に左上下肢の力の入りにくさと,ろれつの回りにくさとに気付き,救急車で搬送された。5年前,洞不全症候群のため,ペースメーカ埋込術を施行されている。意識混濁。身長160cm,体重58kg。脈拍60/分,整。血圧110/68mmHg。左片麻痺を認め,左Babinski徴候陽性。右共同偏視がある。 まず行う検査はどれか。
- a.脳脊髄液検査
- b.脳波検査
- c.ミエログラフィ
- d.頭部単純CT
- e.頭部単純MRI
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
急性発症の左片麻痺と右共同偏視は、右大脳半球、特に中大脳動脈領域の病変を示し、大脳の破壊性病変では両眼が「病巣をにらむ」方向に偏位します。洞不全症候群は徐脈頻脈症候群として心房細動を伴いやすく、ペースメーカがあっても心原性脳塞栓症の原因となりえますが、症状だけで脳出血と区別することはできません。脳卒中の急性期に最初に行うのは、出血を迅速・確実に判定できる頭部単純CTであり、ペースメーカ植込み患者ではMRIが原則として施行できない点からもCTが適しています。画像確認前の腰椎穿刺は脳ヘルニアの危険があり、脳波やミエログラフィは急性期の病型判定に役立ちません。「まず出血を除外して治療方針を分ける」という初期対応の原則は、rt-PAや血栓回収療法の適応判断の出発点として、救急現場で必ず求められる知識です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・73歳男性。起床時に気付いた左上下肢の脱力と構音障害(ろれつが回らない)=突然発症の神経脱落症状 ・5年前に洞不全症候群でペースメーカ植込み術 ・意識混濁あり ・左片麻痺+左Babinski徴候陽性 → 左上下肢の上位運動ニューロン(錐体路)障害 ・右共同偏視
病巣と病態の推定
錐体路は延髄で交叉するため、左半身の麻痺は右大脳半球(またはその下行路)の障害を意味する。前頭葉には眼球を反対側へ向ける中枢(前頭眼野)があり、右大脳半球が障害されると左方視ができなくなって、両眼が病側である右を向く(「病巣をにらむ」共同偏視)。片麻痺・共同偏視・意識障害をそろえて呈していることから、右大脳半球の比較的広い範囲、特に右中大脳動脈領域の病変が推定される。 急性発症の局所神経症状であり、まず脳血管障害(脳梗塞または脳出血)を考える。洞不全症候群には徐脈と心房細動などの頻脈が交互に出る徐脈頻脈症候群が含まれ、心房細動を合併しやすい。そのため心原性脳塞栓症の可能性が高いが、臨床症状だけで脳出血と区別することはできない。
設問の考え方
急性期脳卒中の初期対応で最初に必要なのは、「出血か否か」の判定である。脳出血か脳梗塞かで治療(血栓溶解療法・抗血栓療法を行うか、血圧管理や外科治療を行うか)がまったく異なるからである。頭部単純CTは短時間で撮影でき、急性期の出血を高吸収域として明瞭に描出できる。しかも本例は体内にペースメーカがあり、MRIは原則として施行できない。したがって、まず行うべき検査は頭部単純CTである。
選択肢考察
- ×a. 脳脊髄液検査
腰椎穿刺による脳脊髄液検査は、髄膜炎・脳炎、あるいはCTで検出できないくも膜下出血を疑うときに行う検査である。本例は片麻痺や共同偏視などの局所症状(巣症状)が主体であり、これらの疾患を積極的に疑う状況ではない。さらに、意識障害を伴う大きな頭蓋内病変があれば頭蓋内圧が亢進している可能性があり、画像で確認しないまま腰椎穿刺を行うと脳ヘルニアを誘発する危険がある。最初に行う検査として不適切である。
- ×b. 脳波検査
脳波検査はてんかん発作や意識障害の原因(非けいれん性てんかん重積、代謝性脳症など)の評価に用いる。脳卒中の急性期に脳出血と脳梗塞を区別することはできず、検査に時間もかかるため、まず行う検査ではない。けいれん後の一過性麻痺(Todd麻痺)が疑われるような場合に追加で検討する程度である。
- ×c. ミエログラフィ
ミエログラフィ(脊髄腔造影)は、くも膜下腔に造影剤を注入して脊柱管内の圧迫病変(椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、脊髄腫瘍など)を評価する検査である。本例は共同偏視や構音障害を伴い、病変は脊髄ではなく大脳にあると考えられるため適応がない。侵襲的な検査でもあり、急性期に行う理由はない。
- ○d. 頭部単純CT
急性期脳卒中が疑われる患者で最初に行う画像検査である。脳出血は発症直後から高吸収域として明瞭に描出されるため、出血の有無を迅速・確実に判定でき、血栓溶解療法などの治療方針決定に直結する。脳梗塞は発症早期には明らかな低吸収域を示さないことが多いが、early CT sign(皮髄境界の不明瞭化、レンズ核の輪郭不明瞭化、脳溝の消失、中大脳動脈の高吸収所見〈hyperdense MCA sign〉など)から広範な虚血を推定できる。撮影が短時間で済み、ペースメーカがあっても施行できる点でも、本例に最適である。
- ×e. 頭部単純MRI
MRI、特に拡散強調画像(DWI)は超急性期の脳梗塞を鋭敏に描出でき、一般には脳梗塞診断に有用である。しかし従来型のペースメーカ植込み患者では、強い磁場や高周波によって機器の誤作動・リード先端の発熱・ペーシング不全などが起こりうるため、MRIは禁忌である。本例は5年前(本試験の時点)に植込まれた従来型機器と考えられ、施行できない。なお現在はMRI対応(条件付きMRI対応)ペースメーカが普及しており、機種・リードの組み合わせや撮像条件を確認したうえで撮影できる場合もあるが、その場合でも急性期にまず行う検査はCTである。
急性期脳卒中の初期評価
・バイタルサインの安定化(気道・呼吸・循環)と同時に、神経学的重症度(NIHSSなど)を評価し、発症時刻(または最終健常確認時刻)を確認する。 ・起床時に症状に気付いた場合(wake-up stroke)は、就寝前の最終健常確認時刻を発症時刻とみなす。 ・血糖測定:低血糖は片麻痺など脳卒中類似の症状を起こすため、必ず確認する。 ・画像検査:頭部CT(出血の除外)→ 必要に応じてMRI(DWI、FLAIR、MRA)、CT血管造影・CT灌流画像。 ・血栓溶解療法(rt-PA静注)は発症4.5時間以内が適応の目安であり、頭蓋内出血があれば禁忌となる。主幹動脈閉塞例では血管内治療(機械的血栓回収療法)も検討される。 ・心電図・心エコー:心房細動などの塞栓源の検索。
CTにおける脳出血と脳梗塞
・脳出血:発症直後から高吸収域(白く写る)。 ・脳梗塞:発症後数時間はほぼ正常か、early CT signのみ。多くは発症後6〜24時間ころから低吸収域(黒く写る)が明瞭になる。
共同偏視の向き
・大脳半球(前頭眼野)の破壊性病変:病側をにらむ(本例は右病変で右共同偏視)。 ・大脳半球のてんかん発作(刺激性病変):健側を向く。 ・橋の病変:健側を向く(橋の側方注視中枢〈PPRF〉の障害)。 ・視床出血:鼻先を見つめるような内下方への偏視が特徴的。
洞不全症候群と脳塞栓
洞不全症候群はRubenstein分類でI型(持続性洞徐脈)、II型(洞停止・洞房ブロック)、III型(徐脈頻脈症候群)に分けられる。III型では心房細動・心房粗動を伴い、左房内血栓による心原性脳塞栓症の危険が高い。ペースメーカは徐脈を補うが、心房細動の発生そのものは防げない。
ペースメーカとMRI
従来型ペースメーカはMRI禁忌とされてきた。日本では2012年以降、条件付きMRI対応ペースメーカが導入され、本体とリードがともに対応機種で、所定の条件(磁場強度、撮像部位、機器のモード設定変更など)を満たせば撮影可能である。
POINT
・急性発症の片麻痺・構音障害・共同偏視 → 脳血管障害を疑い、まず頭部単純CTで出血の有無を確認する。 ・脳出血はCTで発症直後から高吸収域、脳梗塞は超急性期には所見に乏しい(early CT signに注意)。 ・大脳半球の破壊性病変では「病巣をにらむ」共同偏視(本例は右半球病変で右共同偏視+左片麻痺)。 ・洞不全症候群(特に徐脈頻脈症候群)は心房細動を伴いやすく、心原性脳塞栓症の原因となる。 ・従来型ペースメーカ植込み患者はMRI禁忌(現在は条件付きMRI対応機種もある)。 ・頭蓋内圧亢進の可能性がある状態で、画像確認前に腰椎穿刺を行ってはならない。
