肺気腫の患者が熱と膿性痰で来院―急性増悪でまず測るべき2つのもの
第99回医師国家試験 F問題 第37問
国試問題にチャレンジ
75歳の男性。2日前から38℃ の発熱,咳嗽および膿性痰が出現し,労作時呼吸困難も強くなったので来院した。慢性肺気腫で通院治療を受けていた。呼吸困難はHugh-Jonesの分類Ⅳ度である。胸部エックス線写真に浸潤影を認めない。 次に行う検査はどれか。2つ選べ。
- a.気管支鏡検査
- b.胸部単純CT
- c.スパイロメトリ
- d.動脈血ガス分析
- e.喀痰Gram染色
対話形式の解説
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ドクターまとめ
COPD患者で呼吸困難の増悪、痰の増加、痰の膿性化がそろえば急性増悪と判断し、発熱を伴う場合は気道の細菌感染が主な誘因と考えます。初期対応で優先される検査は、低酸素血症・CO2貯留・呼吸性アシドーシスを評価して酸素投与量や換気補助の要否を決める動脈血ガス分析と、起炎菌を推定して抗菌薬選択の根拠とする喀痰Gram染色(培養・感受性検査も併せて)です。スパイロメトリは安定期の診断・病期分類の検査であり、気管支鏡は侵襲的、胸部CTは必要に応じて追加する検査と位置づけられます。治療は抗菌薬・気管支拡張薬・全身性ステロイドのABCアプローチが基本で、酸素はCO2ナルコーシスに注意してSpO2 88〜92%程度を目標とします。「急性期は重症度と原因、安定期は診断と病期」という検査の使い分けは、慢性呼吸器疾患の診療全般に通じる考え方です。
解答・解説
正解はd, eです
所見の整理
・75歳男性、慢性肺気腫(COPD:慢性閉塞性肺疾患の一病型)で通院中 ・2日前から38℃の発熱、咳嗽、膿性痰が出現 ・労作時呼吸困難が増悪し、Hugh-Jones分類Ⅳ度(50m以上歩くのに途中で休まなければならない程度) ・胸部エックス線写真で浸潤影はない
病態の考え方
COPD患者で、呼吸困難の増悪・痰の量の増加・痰の膿性化がそろっており、COPDの急性増悪(安定期の治療では対応できないほど症状が悪化した状態)と判断できる。発熱と膿性痰を伴うことから、その誘因として気道の細菌感染(急性気管支炎など)が最も考えられる。急性増悪の原因菌としてはインフルエンザ菌、肺炎球菌、モラクセラ・カタラーリスが代表的である。胸部エックス線で浸潤影がないため明らかな肺炎像はないが、脱水や肺気腫による構造変化で陰影が目立ちにくいこともあり、肺炎の合併を完全には否定できない。
次に行うべき検査
急性増悪の初期対応で優先されるのは、 ①呼吸不全の重症度評価:どの程度の低酸素血症があるか、CO2が貯留していないか、呼吸性アシドーシスがないかを確認し、酸素投与量や換気補助(非侵襲的陽圧換気:NPPVなど)の必要性を判断する。→動脈血ガス分析 ②感染の原因微生物の推定:抗菌薬を選択するため、喀痰を採取して起炎菌を推定する。→喀痰Gram染色(あわせて培養・感受性検査) である。精密な画像検査や侵襲的検査、呼吸機能検査は、まずこれらの評価と治療を開始した後に必要に応じて行う。
選択肢考察
- ×a. 気管支鏡検査
誤り。気管支鏡検査は侵襲的な検査であり、強い呼吸困難をきたしている急性増悪時には低酸素血症の悪化などの危険を伴う。本例は膿性痰を自力で喀出できており、喀痰で起炎菌検索が可能であるため、まず行う検査ではない。喀痰の自己喀出が困難な場合、治療に反応しない場合や、腫瘍・異物による閉塞などが疑われる場合に検討される。
- ×b. 胸部単純CT
誤り。胸部CTはエックス線写真で捉えにくい淡い浸潤影や気胸、腫瘍などの評価に有用で、行ってもよい検査ではある。しかし急性増悪時の初期対応としては、呼吸不全の程度の評価(動脈血ガス分析)と起炎菌の推定(喀痰検査)が優先され、治療方針を直ちに左右する検査ではない。エックス線で説明できない経過をたどる場合などに追加で考慮する。
- ×c. スパイロメトリ
誤り。スパイロメトリは1秒量(FEV1)・1秒率(FEV1/FVC)を測定し、COPDの診断(気管支拡張薬吸入後の1秒率70%未満)や安定期の病期分類に用いる検査である。最大努力での呼気を要するため、強い呼吸困難のある急性増悪期には患者の負担が大きく正確な測定も難しい。また急性増悪の治療方針決定には役立たないため、急性期に行う検査ではない。
- ○d. 動脈血ガス分析
正しい。COPDの急性増悪では、低酸素血症に加えて、肺胞低換気による高二酸化炭素血症(PaCO2上昇)と呼吸性アシドーシス(pH低下)をきたしうる。PaO2、PaCO2、pHを把握することで、呼吸不全の型(Ⅰ型かⅡ型か)と重症度を判定し、酸素投与量の調整(CO2ナルコーシスを避けるため過剰な酸素投与を避ける)や、NPPV・気管挿管による換気補助の要否を判断する。パルスオキシメータでは酸素飽和度しかわからず、CO2やpHは評価できないため、動脈血ガス分析が必須である。
- ○e. 喀痰Gram染色
正しい。膿性痰と発熱から細菌感染による急性増悪が考えられ、抗菌薬治療の適応がある。喀痰Gram染色は短時間で結果が得られ、グラム陽性双球菌(肺炎球菌)、グラム陰性小桿菌(インフルエンザ菌)、グラム陰性双球菌(モラクセラ・カタラーリス)などの推定が可能であり、初期の抗菌薬選択の根拠となる。同時に喀痰培養・薬剤感受性検査を提出し、後の治療調整に役立てる。
COPDの急性増悪
・定義:息切れの増加、咳や喀痰の増加、胸部不快感・違和感の出現あるいは増強などを認め、安定期の治療の変更が必要となる状態。 ・誘因:気道感染(細菌・ウイルス)が最多で、大気汚染なども関与する。心不全、気胸、肺血栓塞栓症などは急性増悪と似た症状を示すため鑑別が必要である。 ・主な起炎菌:インフルエンザ菌、肺炎球菌、モラクセラ・カタラーリス。重症例では緑膿菌も考慮する。 ・抗菌薬の適応の目安:呼吸困難の増悪、喀痰量の増加、喀痰の膿性化の3症状がそろう場合、または喀痰の膿性化を含む2症状がある場合、あるいは人工呼吸管理を要する場合。
急性増悪の初期治療(ABCアプローチ)
・A(antibiotics):抗菌薬 ・B(bronchodilators):短時間作用性β2刺激薬の吸入を中心とした気管支拡張薬 ・C(corticosteroids):全身性ステロイド(プレドニゾロン30〜40mg/日を5日間程度) ・酸素療法:SpO2 88〜92%程度を目標に低流量から開始し、CO2ナルコーシスに注意する。 ・換気補助:呼吸性アシドーシス(pH<7.35かつPaCO2>45Torr)を伴う場合はNPPVを考慮する。無効例や意識障害・喀痰排出困難例では気管挿管・人工呼吸を検討する。
Hugh-Jones分類(呼吸困難の程度)
・Ⅰ度:同年齢の健常者と同様に動作でき、歩行・階段昇降も健常者並みにできる。 ・Ⅱ度:同年齢の健常者と同様に歩行できるが、坂・階段は健常者並みには昇れない。 ・Ⅲ度:平地でも健常者並みには歩けないが、自分のペースなら1.6km(1マイル)以上歩ける。 ・Ⅳ度:休み休みでなければ50m以上歩けない。 ・Ⅴ度:会話や衣服の着脱でも息切れがし、息切れのため外出できない。
Ⅱ型呼吸不全
PaO2 60Torr以下の呼吸不全のうち、PaCO2が45Torrを超えるものをⅡ型呼吸不全という。COPDではⅡ型をとりやすく、高濃度酸素投与で換気ドライブが低下するとPaCO2がさらに上昇し、意識障害をきたすCO2ナルコーシスに陥る危険がある。
POINT
・COPD患者の呼吸困難増悪+痰の増加・膿性化+発熱→気道感染を契機とした急性増悪。 ・初期対応では、動脈血ガス分析(低酸素血症・CO2貯留・アシドーシスの評価)と喀痰Gram染色・培養(起炎菌推定と抗菌薬選択)を優先する。 ・スパイロメトリは安定期の診断・病期分類の検査であり、急性増悪期には行わない。 ・COPDへの酸素投与はCO2ナルコーシスに注意し、SpO2 88〜92%程度を目標とする。 ・急性増悪の治療はABCアプローチ(抗菌薬・気管支拡張薬・ステロイド)。
