かゆい高齢者の張りつめた水疱―自己抗体は「どこ」に沈着するのか
第99回医師国家試験 F問題 第36問
国試問題にチャレンジ
78歳の女性。1週前から体幹に痒みとともに水疱が出現し,次第に増加してきたため来院した。発熱と体重減少とはない。口腔内病変を認めない。体幹部の写真(A)と皮膚生検組織のH-E染色標本(B)とを別に示す。 蛍光抗体法で免疫グロブリンの沈着を認める部位はどれか。

- a.血管壁
- b.表皮細胞間
- c.表皮細胞核
- d.表皮基底膜部
- e.真皮乳頭部
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
高齢者に強い瘙痒を伴う緊満性水疱が多発し、口腔粘膜病変を欠き、組織で好酸球浸潤を伴う表皮下水疱を認めれば水疱性類天疱瘡を考えます。自己抗原はヘミデスモソームのBP180(XVII型コラーゲン)とBP230であり、蛍光抗体直接法では表皮基底膜部にIgGとC3が線状に沈着します。これに対し、天疱瘡はデスモグレインを標的として表皮細胞間に、疱疹状皮膚炎は真皮乳頭部に顆粒状IgAが、IgA血管炎は血管壁に沈着し、表皮細胞核への沈着は膠原病でみられる所見です。血清抗BP180抗体は診断と病勢評価に役立ち、DPP-4阻害薬との関連もあるため服薬歴の確認が欠かせません。「自己抗原の局在が沈着部位と水疱の裂ける層を決める」という原則を押さえれば、自己免疫性水疱症全体を一貫して理解できます。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・78歳という高齢の女性 ・1週間前から体幹に瘙痒(かゆみ)を伴う水疱が出現し、増えてきている ・発熱や体重減少はなく、全身状態は保たれている ・口腔内病変(粘膜疹)はない ・写真A:胸部から体幹にかけて、大小さまざまな緊満性(張りのある)水疱が多発し、水疱が破れた後のびらんや痂皮(かさぶた)、紅斑も混在している。 ・写真B(H-E染色):表皮はほぼ全層が保たれたまま、基底層の直下で表皮と真皮が離れて裂隙(表皮下水疱)を形成している。水疱内や真皮上層には好酸球を主体とする炎症細胞の浸潤がみられ、表皮細胞どうしがばらばらになる棘融解(きょくゆうかい)の像はない。
診断へのプロセス
水疱症をみたら、まず水疱が表皮内にできているのか(天疱瘡群)、表皮下にできているのか(類天疱瘡群など)を考える。本例は ①高齢者に好発する、②瘙痒の強い、③緊満性で破れにくい水疱、④口腔粘膜病変を欠く、⑤組織学的に表皮下水疱で好酸球浸潤を伴う、という特徴をそろえており、水疱性類天疱瘡と診断できる。尋常性天疱瘡は口腔粘膜病変がほぼ必発で、水疱は弛緩性で破れやすく、組織では表皮内水疱(棘融解)を示すため否定的である。
設問の考え方
自己免疫性水疱症の確定診断には、病変周囲の皮膚を採取して行う蛍光抗体直接法(患者皮膚に沈着している免疫グロブリンや補体を蛍光標識抗体で可視化する方法)が重要である。どの部位に沈着するかは、自己抗体が標的とする抗原の局在に対応する。水疱性類天疱瘡の自己抗原は、表皮基底細胞と基底膜をつなぐヘミデスモソーム(半接着斑)の構成蛋白であるBP180(XVII型コラーゲン)とBP230であるため、IgGとC3が表皮基底膜部に線状に沈着する。
選択肢考察
- ×a. 血管壁
誤り。真皮血管壁への免疫グロブリン・補体の沈着は、免疫複合体が血管に沈着して生じる皮膚血管炎でみられる。代表例はIgA血管炎(旧称Henoch-Schönlein紫斑病)で、血管壁にIgAとC3が沈着する。臨床的には触知可能な紫斑が主体であり、本例のような緊満性水疱とは異なる。
- ×b. 表皮細胞間
誤り。表皮細胞間(網目状)へのIgG沈着は天疱瘡群の特徴である。天疱瘡では表皮細胞同士を接着するデスモソームの構成蛋白であるデスモグレイン(尋常性天疱瘡ではDsg3±Dsg1、落葉状天疱瘡ではDsg1)に対する自己抗体により細胞間の接着が失われ、表皮内水疱(棘融解)が生じる。本例は口腔病変を欠き、組織も表皮下水疱であるため該当しない。
- ×c. 表皮細胞核
誤り。表皮細胞の核に免疫グロブリンが沈着する所見(生体内抗核抗体、in vivo ANA)は、抗U1-RNP抗体が高値となる混合性結合組織病(MCTD)などの膠原病でみられ、斑紋状の核染色として観察される。水疱症の診断所見ではない。
- ○d. 表皮基底膜部
正解。水疱性類天疱瘡では、ヘミデスモソームの構成蛋白BP180(XVII型コラーゲン)・BP230に対する自己抗体(主にIgG)が産生され、蛍光抗体直接法で表皮基底膜部にIgGとC3が線状に沈着する。自己抗体が補体を活性化し、好酸球などの炎症細胞が集まって蛋白分解酵素を放出することで、表皮と真皮の接着が破綻し表皮下水疱が形成される。本例の臨床像と組織像(表皮下水疱、好酸球浸潤)に合致する。
- ×e. 真皮乳頭部
誤り。真皮乳頭部へのIgAの顆粒状沈着は、疱疹状皮膚炎(Duhring病)に特徴的である。疱疹状皮膚炎はグルテン過敏性腸症(セリアック病)と関連し、抗トランスグルタミナーゼ抗体が関与する。臨床的には肘・膝・臀部などに強い瘙痒を伴う小水疱が集簇してみられ、組織では真皮乳頭部に好中球が集まる微小膿瘍を伴う表皮下水疱を示す。日本人ではまれである。
自己免疫性水疱症と蛍光抗体直接法の沈着部位
・尋常性天疱瘡:表皮細胞間にIgG(C3)。抗原はDsg3(粘膜優位型)、Dsg3+Dsg1(粘膜皮膚型)。 ・落葉状天疱瘡:表皮細胞間にIgG。抗原はDsg1。口腔粘膜病変を欠き、表皮上層で裂ける。 ・水疱性類天疱瘡:表皮基底膜部に線状のIgG・C3。抗原はBP180・BP230。 ・後天性表皮水疱症:表皮基底膜部に線状のIgG。抗原はVII型コラーゲン(係留線維)。 ・線状IgA水疱性皮膚症:表皮基底膜部に線状のIgA。 ・疱疹状皮膚炎:真皮乳頭部に顆粒状のIgA。 ※水疱性類天疱瘡と後天性表皮水疱症の鑑別には、1M食塩水で表皮と真皮を人工的に剥離した皮膚を用いる蛍光抗体法(食塩水剥離皮膚法)が用いられ、前者は表皮側、後者は真皮側に抗体が結合する。
水疱性類天疱瘡の要点
・自己免疫性水疱症の中で最も頻度が高く、70歳以上の高齢者に多い。 ・強い瘙痒を伴う浮腫性紅斑と、その上や正常皮膚上に生じる緊満性水疱が特徴。水疱は破れにくく、Nikolsky現象は通常陰性。粘膜病変は少ない。 ・病理:表皮下水疱、好酸球浸潤。 ・検査:蛍光抗体直接法で基底膜部にIgG・C3の線状沈着。血清抗BP180抗体(ELISA法)が陽性となり、病勢の指標にもなる。末梢血好酸球増多や血清IgE高値を伴うことがある。 ・誘因:DPP-4阻害薬(糖尿病治療薬)の内服に関連して発症する例が知られており、服薬歴の確認が重要である。 ・治療:軽症では強力なステロイド外用やテトラサイクリン系抗菌薬とニコチン酸アミドの併用、中等症以上ではステロイド内服が基本。難治例では免疫抑制薬、大量γグロブリン療法、血漿交換療法などを用いる。
天疱瘡との対比
・天疱瘡:中年に多い、弛緩性水疱・びらん、口腔粘膜病変が高頻度、Nikolsky現象陽性、表皮内水疱(棘融解)、細胞間IgG。 ・類天疱瘡:高齢者に多い、緊満性水疱、強い瘙痒、粘膜病変は少ない、表皮下水疱、基底膜部IgG・C3。
POINT
・高齢者+瘙痒+緊満性水疱+口腔病変なし+表皮下水疱(好酸球浸潤)→水疱性類天疱瘡。 ・蛍光抗体直接法:水疱性類天疱瘡は表皮基底膜部にIgG・C3が線状沈着。 ・天疱瘡は表皮細胞間IgG、疱疹状皮膚炎は真皮乳頭部IgA、IgA血管炎は血管壁IgA、MCTDは表皮細胞核(in vivo ANA)。 ・自己抗原:類天疱瘡=BP180(XVII型コラーゲン)・BP230、天疱瘡=デスモグレイン1・3。
