引っかいただけで潰瘍が広がる―潰瘍性大腸炎に潜む壊疽性膿皮症
第120回医師国家試験 D問題 第65問
国試問題にチャレンジ
25歳の女性。右下腿の皮疹を主訴に来院した。1週間前に右下腿に小丘疹が出現し,搔破後に急速に潰瘍が拡大した。その後,潰瘍は多発してきた。潰瘍性大腸炎で治療中である。体温36.1℃。下腿は強い疼痛を伴い,潰瘍辺縁は紫紅色調を呈している。潰瘍部の細菌培養は陰性。病変部の病理検査で真皮に好中球の浸潤を多数認めるが,乾酪壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫を認めない。右下腿の皮疹の写真を下に示す。 診断はどれか。

- a.結節性紅斑
- b.硬結性紅斑
- c.壊死性筋膜炎
- d.壊疽性膿皮症
- e.血栓性静脈炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
炎症性腸疾患の患者に、小外傷を契機として急速に拡大する有痛性潰瘍が生じ、辺縁が紫紅色で穿掘性であれば、壊疽性膿皮症を考えます。本症は無菌性の好中球浸潤を主体とする好中球性皮膚症の代表で、特異的な検査がないため、細菌培養陰性や乾酪壊死性肉芽腫の欠如などで感染症・血管炎・悪性腫瘍を除外して診断します。結節性紅斑は同じく炎症性腸疾患に合併しますが潰瘍をつくらず、硬結性紅斑は結核との関連と肉芽腫、壊死性筋膜炎は強い全身症状を伴う細菌感染である点で区別します。針反応のためデブリードマンは原則避け、治療はステロイド全身投与を中心に免疫抑制薬やTNF-α阻害薬を用います。見た目が感染症に似ていても対応が正反対になりうる疾患であり、正しく診断することが患者を守ることに直結します。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・25歳女性、潰瘍性大腸炎で治療中。 ・1週間前に右下腿に小丘疹が出現し、搔破(引っかくこと)をきっかけに潰瘍が急速に拡大し、さらに多発した。小さな外傷を契機に皮疹が出現・悪化する現象を針反応(パテルギー現象)と呼ぶ。 ・強い疼痛を伴い、潰瘍辺縁は紫紅色調である。写真では、下腿に中心部が壊死組織で覆われた潰瘍が複数みられる。 ・体温36.1℃で発熱はない。潰瘍部の細菌培養は陰性である。 ・病理では真皮に好中球が多数浸潤しているが、乾酪壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫(結核を示唆する所見)はない。
診断へのプロセス
下腿の有痛性潰瘍をみたら、感染症(細菌、結核・抗酸菌、真菌)、血管障害(静脈うっ滞、動脈閉塞、血管炎)、悪性腫瘍、そして好中球性皮膚症を考える。 ・感染症:細菌培養が陰性で発熱もなく、細菌感染は考えにくい。乾酪壊死を伴う肉芽腫がないため、結核関連の病変も否定的である。 ・病理で真皮に好中球が密に浸潤しているのに菌が検出されない場合、「無菌性の好中球性皮膚症」を考える。 ・炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・Crohn病)の合併、針反応を伴う急速な潰瘍の拡大、紫紅色で穿掘性(辺縁が内側にえぐれる形)の潰瘍辺縁、強い疼痛は、いずれも壊疽性膿皮症に典型的な所見である。 以上から壊疽性膿皮症と診断する。壊疽性膿皮症に特異的な検査はなく、感染症・血管炎・悪性腫瘍などを除外したうえで、臨床像と病理所見を合わせて診断する除外診断である点も重要である。
選択肢考察
- ×a. 結節性紅斑
結節性紅斑は皮下脂肪組織に炎症が起こる疾患(隔壁性脂肪織炎)で、両下腿の伸側(すね)に、境界の不明瞭な、圧痛を伴う紅斑・皮下結節が左右対称に多発する。若年~中年女性に多く、原因として溶連菌などの上気道感染、薬剤、Behçet病、サルコイドーシス、炎症性腸疾患などがある。炎症性腸疾患に合併する点は本例と共通するが、通常は潰瘍を作らずに数週で瘢痕を残さず消える。本例の、急速に拡大する壊死性潰瘍や真皮の好中球浸潤とは合わない。
- ×b. 硬結性紅斑
硬結性紅斑(Bazin硬結性紅斑)は中年以降の女性の下腿、特に屈側(ふくらはぎ)に好発する皮下硬結で、潰瘍化することもある。結核菌に対する過敏反応(結核疹)が代表的な原因で、静脈うっ滞などの循環障害も関与する。病理では小葉性脂肪織炎と血管炎がみられ、乾酪壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫を認めることがある。本例は乾酪壊死を伴う肉芽腫がなく、経過も急速すぎるため否定的である。
- ×c. 壊死性筋膜炎
壊死性筋膜炎は、A群β溶血性レンサ球菌や嫌気性菌を含む混合感染などにより、浅層筋膜に沿って感染が急速に広がる重症の細菌感染症である。見た目の皮膚所見に比べて強すぎる疼痛が特徴で、高熱・頻脈・血圧低下など敗血症症状を伴い、緊急のデブリードマン(壊死組織の外科的切除)が必要となる。本例は発熱がなく全身状態も保たれ、細菌培養も陰性であり、合わない。
- ○d. 壊疽性膿皮症
壊疽性膿皮症は、無菌性の好中球浸潤を主体とする好中球性皮膚症の代表である。丘疹や膿疱から始まり、急速に拡大して強い疼痛を伴う潰瘍となる。潰瘍辺縁は紫紅色で、穿掘性となるのが特徴で、下腿に好発する。小外傷を契機に発症・悪化する針反応を示す。半数前後に炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・Crohn病)、高安動脈炎、関節リウマチ、骨髄異形成症候群や白血病などの血液疾患といった基礎疾患を合併する。本例は、潰瘍性大腸炎の合併、搔破を契機とした潰瘍の急速な拡大・多発、強い疼痛、紫紅色の辺縁、細菌培養陰性、真皮の好中球浸潤、肉芽腫の欠如がすべてそろっており、壊疽性膿皮症と診断できる。
- ×e. 血栓性静脈炎
血栓性静脈炎(表在性血栓性静脈炎)は、下肢の表在静脈に血栓が生じて炎症を起こすもので、静脈の走行に沿った索状の硬結と、発赤・熱感・圧痛を伴う。静脈瘤、カテーテル留置、悪性腫瘍、Behçet病などが背景となる。壊死性の潰瘍が急速に多発することは典型的ではなく、本例とは合わない。
壊疽性膿皮症のまとめ
・好発:20~50歳代、やや女性に多い。下腿に好発するが、体幹や、人工肛門(ストーマ)・手術創の周囲にも生じる。 ・合併症:炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎)、高安動脈炎、関節リウマチ、血液疾患(骨髄異形成症候群、白血病、IgA型の単クローン性ガンマグロブリン血症など)。腸の病勢と連動する場合も、しない場合もある。 ・臨床像:膿疱・丘疹で始まり、急速に拡大する有痛性潰瘍。辺縁は紫紅色で堤防状に隆起し、穿掘性。治ると篩(ふるい)状の瘢痕を残す。 ・針反応(パテルギー):軽い外傷や手術操作で病変が誘発・悪化する。そのため、外科的なデブリードマンや皮膚移植は原則として避ける。Behçet病でもみられる所見である。 ・病理:真皮への好中球の密な浸潤。特異的な所見ではないため、感染症・血管炎・悪性腫瘍を除外する必要がある。 ・治療:副腎皮質ステロイドの全身投与が基本。シクロスポリンなどの免疫抑制薬、TNF-α阻害薬(アダリムマブは日本で本症に保険適用がある)も用いる。基礎疾患の治療と、潰瘍に対する湿潤環境を保つ創傷管理を並行して行う。
炎症性腸疾患に合併する主な皮膚病変
結節性紅斑(腸の病勢と連動しやすい)、壊疽性膿皮症、Sweet病(急性熱性好中球性皮膚症)、口腔内アフタなど。
下腿の結節・潰瘍の鑑別のポイント
・結節性紅斑:伸側、両側性、有痛性紅斑、潰瘍を作らない。 ・硬結性紅斑:屈側、潰瘍化あり、結核との関連、病理で肉芽腫。 ・壊死性筋膜炎:全身症状が強く、見た目以上の激痛、細菌感染で緊急手術。 ・うっ滞性潰瘍:下腿下1/3の内側(内果の周囲)、静脈瘤・色素沈着を伴う。
POINT
・炎症性腸疾患の患者に、急速に拡大する有痛性潰瘍(辺縁が紫紅色で穿掘性)が生じたら、壊疽性膿皮症を考える。 ・小外傷を契機に病変が誘発・悪化する(針反応)。デブリードマンは原則禁忌である。 ・細菌培養は陰性で、病理は真皮の好中球浸潤。感染症などを除外したうえでの除外診断である。 ・治療はステロイドの全身投与が中心で、免疫抑制薬やTNF-α阻害薬も用いる。 ・結節性紅斑も炎症性腸疾患に合併するが、潰瘍を作らない点で区別する。
