StudyMed医師国家試験

手のひらの膿疱と胸の痛み―掌蹠膿疱症が狙う「前胸壁」

第118回医師国家試験 A問題 第45問

国試問題にチャレンジ

第118回 A問題 第45問

50歳の女性。両手掌と両足底の皮疹を主訴に来院した。数年前から両手掌と両足底の皮疹が出現し消長を繰り返す。瘙痒と疼痛がある。しばしば扁桃炎に罹患する。喫煙は20本/日を30年間。皮疹部の真菌検査は陰性。右手掌の写真(A)と右足の写真(B)を示す。  この患者に合併しやすい関節炎の部位はどれか。

第118回 A問題 第45問の問題画像
  1. a.顎関節
  2. b.胸鎖関節
  3. c.遠位指節間関節
  4. d.仙腸関節
  5. e.足関節

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、手のひらと足の裏に繰り返す皮疹から病名を決めて、その病気に合併しやすい関節炎の部位を答える問題だ。注目したいのは、皮疹の分布と性状、そして喫煙と扁桃炎という背景の2点。写真では、手掌と足底の紅斑・鱗屑の上に小さな黄白色の膿疱が多数散在し、乾いて褐色の痂皮になったものや角層が剝がれたところも混じっている。どんな病気を考えるかな。
医学生医学生
手足に膿疱というと、まず水虫を考えてしまいます。
ドクタードクター
自然な発想だね。手足白癬も水疱や膿疱をつくることがあるから、鑑別の第一歩としては正しい。でも今回は真菌検査が陰性だ。皮膚科の外来では、まずKOH直接鏡検で白癬を除外するのが基本なんだよ。
医学生医学生
皮膚科の臨床実習で、鱗屑を削ってKOHで見るのをやらせてもらいました。陰性なら白癬ではない、と。
ドクタードクター
そうだね。では、掌蹠だけに膿疱が出たり引いたりを繰り返し、喫煙者で扁桃炎をよく起こす、という組み合わせから何を考える?
医学生医学生
掌蹠膿疱症でしょうか。喫煙と病巣感染が関係すると習いました。
ドクタードクター
正解。掌蹠膿疱症は手掌・足底に無菌性の小膿疱が多発し、再燃と寛解を繰り返す慢性炎症性皮膚疾患だ。膿疱といっても細菌感染ではなく無菌性という点が大事。小水疱から膿疱、そして褐色の痂皮へと進み、新旧の皮疹が混在するのが特徴だね。30〜50歳代の女性に多く、喫煙と、扁桃炎・歯周病などの病巣感染が代表的な増悪因子だ。
医学生医学生
乾癬でも手のひらに病変が出ることがありますよね。区別はどうしますか。
ドクタードクター
乾癬なら頭部や肘・膝の伸側、体幹などにも境界明瞭な銀白色鱗屑を伴う紅斑局面があることが多い。掌蹠だけに膿疱が多発する像は典型的ではないんだ。汗疱も鑑別に挙がるけれど、こちらは小水疱が主体で膿疱が多発することは通常ない。
医学生医学生
では本題の関節炎ですね。乾癬性関節炎ならDIP関節だと覚えていますが、掌蹠膿疱症でも同じですか。
ドクタードクター
そこが一番の引っかけだね。DIP関節炎は乾癬性関節炎の特徴的な病変で、変形性関節症のHeberden結節でも侵される部位だ。掌蹠膿疱症には掌蹠膿疱症性骨関節炎という合併症があって、これは前胸壁、つまり胸鎖関節・胸肋関節・胸骨柄結合とその周囲の骨に最も好発する。だから答えは胸鎖関節だ。
医学生医学生
皮疹が足にあるので足関節かと一瞬思いましたが、関係ないんですね。
ドクタードクター
そう、皮疹の場所と関節炎の好発部位は無関係だ。足関節炎はむしろ反応性関節炎、痛風、サルコイドーシスのLöfgren症候群などで目立つ。顎関節も掌蹠膿疱症の典型的な部位ではなく、関節リウマチや若年性特発性関節炎で問題になることがある部位だね。
医学生医学生
仙腸関節はどうでしょう。脊椎関節炎の仲間なら起こりそうな気がします。
ドクタードクター
いい疑問だ。実際、掌蹠膿疱症性骨関節炎では脊椎や仙腸関節が侵されることもある。ただ頻度は前胸壁病変に比べて明らかに低い。仙腸関節炎は強直性脊椎炎や乾癬性関節炎など体軸性脊椎関節炎の代表的病変として覚えておき、合併しやすい部位を一つ選ぶなら胸鎖関節が優先される。
医学生医学生
乾癬はDIPと仙腸関節、掌蹠膿疱症は前胸壁、と分けて覚えればいいですね。
ドクタードクター
その整理で十分だ。発展知識として、滑膜炎・痤瘡・膿疱症・骨肥厚・骨炎の頭文字をとったSAPHO症候群という概念があり、掌蹠膿疱症に伴う前胸壁の骨関節炎はその代表的な病態だ。画像では胸鎖関節周囲の骨硬化や骨肥厚がみられ、骨シンチグラフィでは胸鎖関節周囲に左右対称性の集積を示すことがある。
医学生医学生
皮疹より先に胸の痛みが出ることもあるんですか。
ドクタードクター
あるよ。だから原因のはっきりしない前胸部の痛みや腫れで整形外科やリウマチ科を受診した患者さんに、手のひらや足の裏を見せてもらうことが診断の近道になることがある。治療の基本は禁煙と病巣感染の治療で、扁桃摘出や歯科治療で皮疹や関節症状が改善する例もある。歯科金属アレルギーが関与する場合もあるからパッチテストも検討する。皮疹にはステロイドや活性型ビタミンD3の外用、紫外線療法などを用い、近年はIL-23を標的とする生物学的製剤も使われるようになっている。

まとめ

手掌・足底に限局した無菌性膿疱が紅斑・鱗屑・痂皮を伴って再燃と寛解を繰り返し、喫煙や扁桃炎などの病巣感染を背景にもつ場合は掌蹠膿疱症を考え、真菌検査で手足白癬を除外します。掌蹠膿疱症の重要な皮膚外症状は掌蹠膿疱症性骨関節炎で、胸鎖関節・胸肋関節・胸骨柄結合といった前胸壁に最も好発し、SAPHO症候群の代表的病態でもあります。DIP関節炎は乾癬性関節炎、仙腸関節炎は体軸性脊椎関節炎の代表的病変として区別して覚えることが大切です。治療は禁煙と扁桃・歯などの病巣感染の治療が基本で、外用療法や光線療法、生物学的製剤を組み合わせます。原因不明の前胸部痛をみたら手のひらと足の裏を確認するという視点は、診療科をまたいだ診断に役立ちます。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・50歳の女性。数年前から両手掌・両足底に限局した皮疹が出たり引いたりを繰り返している(慢性・再発性の経過)。 ・自覚症状として瘙痒と疼痛がある。 ・扁桃炎を繰り返している(病巣感染の存在)。 ・1日20本×30年の喫煙歴がある。 ・皮疹部の真菌検査(KOH直接鏡検など)は陰性である。 ・写真では手掌・足底に紅斑と鱗屑があり、その上に小さな黄白色の膿疱が多数散在し、古い膿疱が乾いた褐色の痂皮や角層の剝がれも混じっている。

診断へのプロセス

手掌と足底に左右対称に生じ、膿疱を主体とする皮疹が慢性に再燃・寛解を繰り返す場合、まず掌蹠膿疱症を考える。鑑別には、手足白癬(汗疱型白癬)、汗疱(異汗性湿疹)、尋常性乾癬(掌蹠に病変があるもの)、膿疱性乾癬、接触皮膚炎などが挙がる。 ・手足白癬は水疱や膿疱を作ることがあるが、真菌検査陰性で否定的である。 ・汗疱は小水疱が主体で、膿疱が多発することは通常ない。 ・尋常性乾癬なら頭部・肘・膝・体幹などにも境界明瞭な鱗屑性紅斑局面がみられることが多く、掌蹠だけに膿疱が多発する像は典型的でない。 さらに、扁桃炎(病巣感染)と喫煙はいずれも掌蹠膿疱症の代表的な発症・増悪因子であり、診断を強く支持する。以上より掌蹠膿疱症と診断する。

設問の考え方

掌蹠膿疱症の重要な皮膚外症状は、掌蹠膿疱症性骨関節炎(pustulotic arthro-osteitis:PAO)である。PAOは前胸壁、すなわち胸鎖関節・胸肋関節・胸骨柄結合およびその周囲の骨(鎖骨・胸骨・肋骨)に最も好発し、前胸部の痛みや腫れとして現れる。したがって、本患者に合併しやすい関節炎の部位は胸鎖関節である。

選択肢考察

  1. ×a.  顎関節

    顎関節は掌蹠膿疱症性骨関節炎の好発部位ではない。顎関節の関節炎は関節リウマチや若年性特発性関節炎などで問題になることがあるが、掌蹠膿疱症で典型的に合併する部位とはいえない。

  2. ○b.  胸鎖関節

    掌蹠膿疱症性骨関節炎は前胸壁に最も多く生じ、胸鎖関節・胸肋関節・胸骨柄結合の関節炎や、鎖骨・胸骨の骨炎(骨硬化・骨肥厚)を起こす。前胸部の疼痛・腫脹・圧痛で気づかれることが多く、骨シンチグラフィで胸鎖関節周囲に左右対称性の集積(いわゆる bull's head 様の像)を示すことがある。本患者のような掌蹠膿疱症で合併しやすい部位として最も適切である。

  3. ×c.  遠位指節間関節

    遠位指節間関節(DIP関節:指先に最も近い関節)の関節炎は、乾癬性関節炎の特徴的な病変であり、変形性関節症(Heberden結節)でも侵される部位である。掌蹠膿疱症性骨関節炎の好発部位ではない。乾癬の爪病変を伴うDIP関節炎と混同しないよう注意する。

  4. ×d.  仙腸関節

    掌蹠膿疱症性骨関節炎では前胸壁に次いで脊椎や仙腸関節が侵されることもあり、仙腸関節炎は合併しうる。しかしその頻度は前胸壁病変に比べて明らかに低い。仙腸関節炎は強直性脊椎炎や乾癬性関節炎などの体軸性脊椎関節炎で代表的な病変であり、「合併しやすい部位」として一つ選ぶなら胸鎖関節が優先される。

  5. ×e.  足関節

    足関節炎は反応性関節炎、痛風、サルコイドーシス(Löfgren症候群)などで目立つことがあるが、掌蹠膿疱症で典型的に合併する部位ではない。皮疹が足底にあることと、関節炎の好発部位とは無関係である。

掌蹠膿疱症とは

手掌・足底に無菌性の小膿疱が多発し、紅斑・鱗屑・痂皮を伴いながら再燃と寛解を繰り返す慢性炎症性皮膚疾患である。膿疱は細菌感染によるものではなく無菌性である。好発年齢は30〜50歳代で、女性に多い(男女比はおよそ1:2とされる)。小水疱として始まり、膿疱化し、やがて褐色の痂皮となって剝がれるという経過を、新旧の皮疹が混在しながら繰り返す。爪の変形(点状陥凹、肥厚など)を伴うこともある。

発症・増悪因子

・喫煙:患者の多くが喫煙者であり、最も重要な増悪因子の一つである。禁煙指導が治療の基本となる。 ・病巣感染:慢性扁桃炎、う歯・歯周病、副鼻腔炎など。扁桃摘出術や歯科治療で皮疹・関節症状が改善する例がある。 ・金属アレルギー:歯科金属などが関与する場合があり、パッチテストで確認する。

掌蹠膿疱症性骨関節炎(PAO)

掌蹠膿疱症患者の一部(報告によりおよそ1〜3割)に骨関節炎を合併する。PAOのうち大多数は前胸壁(胸鎖関節・胸肋関節・胸骨柄結合)に病変を持ち、ほかに脊椎、仙腸関節、末梢関節が侵されることがある。皮疹に先行して骨関節症状が出ることもある。画像では胸鎖関節周囲の骨硬化・骨肥厚がみられ、骨シンチグラフィが病変の検出に有用である。 なお、滑膜炎(Synovitis)・痤瘡(Acne)・膿疱症(Pustulosis)・骨肥厚(Hyperostosis)・骨炎(Osteitis)を合わせたSAPHO症候群という概念があり、掌蹠膿疱症に伴う前胸壁の骨関節炎はその代表的病態である。

鑑別のポイント

・手足白癬:KOH直接鏡検で菌糸を確認する。本問では陰性。 ・汗疱(異汗性湿疹):小水疱が主体で、膿疱は目立たない。 ・乾癬:掌蹠以外(頭部、肘・膝の伸側、体幹)に境界明瞭な銀白色鱗屑を伴う紅斑局面。乾癬性関節炎ではDIP関節炎、指趾炎(ソーセージ指)、付着部炎、仙腸関節炎がみられる。

治療

禁煙と病巣感染の治療(扁桃摘出、歯科治療)、金属除去が基本である。皮疹にはステロイド外用薬や活性型ビタミンD3外用薬、紫外線療法、内服療法(エトレチナートなど)を用いる。近年は生物学的製剤(IL-23を標的とするグセルクマブなど)も保険適用となっている。骨関節症状にはNSAIDsなどを用いる。

POINT

・掌蹠に限局する無菌性膿疱が再燃・寛解を繰り返す+喫煙・扁桃炎(病巣感染)→掌蹠膿疱症。 ・真菌検査陰性で手足白癬を除外する。 ・掌蹠膿疱症に合併する骨関節炎(PAO)は前胸壁(胸鎖関節・胸肋関節・胸骨柄結合)に最も多い。 ・DIP関節炎は乾癬性関節炎、仙腸関節炎は体軸性脊椎関節炎の代表的病変として区別して覚える。 ・治療の基本は禁煙と病巣感染(扁桃・歯)の治療である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。