表皮側が光るか、真皮側が光るか―食塩水処理皮膚で見抜く水疱性類天疱瘡
第119回医師国家試験 D問題 第63問
国試問題にチャレンジ
80歳の男性。皮疹を主訴に来院した。3週間前から,体幹および四肢に水疱やびらんが出現し,徐々に増数,拡大してきたため受診した。皮膚生検組織のH-E染色標本を下に示す。蛍光抗体直接法で表皮基底膜部にIgGとC3との線状沈着を認める。食塩水処理皮膚を用いた蛍光抗体間接法で表皮側にIgGの陽性反応を認める。 診断はどれか。

- a.尋常性天疱瘡
- b.水疱性類天疱瘡
- c.Hailey-Hailey病
- d.後天性表皮水疱症
- e.先天性表皮水疱症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
自己免疫性水疱症は、まず水疱の位置で表皮内(天疱瘡群)と表皮下(類天疱瘡群・後天性表皮水疱症)に分け、蛍光抗体直接法の沈着パターンで絞り込みます。基底膜部へのIgG・C3の線状沈着は水疱性類天疱瘡と後天性表皮水疱症に共通するため、食塩水処理皮膚を用いた蛍光抗体間接法で、表皮側陽性ならBP180(17型コラーゲン)・BP230を標的とする水疱性類天疱瘡、真皮側陽性なら7型コラーゲンを標的とする後天性表皮水疱症と鑑別します。水疱性類天疱瘡は高齢者に最も多い自己免疫性水疱症で、強いかゆみを伴う紅斑と緊満性水疱、好酸球浸潤が特徴であり、DPP-4阻害薬との関連や神経疾患の合併にも注意が必要です。Hailey-Hailey病や先天性表皮水疱症は遺伝性で蛍光抗体法が陰性になる点も押さえておきましょう。標的抗原の位置と検査所見を結びつける理解は、皮膚の構造と免疫学をつなぐ基本であり、臨床での水疱症診療の土台になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・80歳の高齢男性。3週間前から体幹と四肢に水疱やびらん(水疱が破れて表皮がはがれた状態)が出ており、次第に数が増え、範囲も広がっている。後天性で、比較的急に進む水疱症である。 ・H-E染色(ヘマトキシリン・エオジン染色)の病理組織では、表皮が真皮から丸ごと離れている。すなわち表皮下水疱である。 ・蛍光抗体直接法では、表皮基底膜部にIgGとC3が線状に沈着している。蛍光抗体直接法とは、患者の皮膚に沈着している抗体を蛍光標識で見る方法である。この所見は、基底膜部の成分に対する自己抗体があることを示す。 ・食塩水処理皮膚を用いた蛍光抗体間接法では、表皮側にIgGが陽性である。蛍光抗体間接法とは、患者の血清中の抗体を正常皮膚と反応させて見る方法である。
診断のプロセス
(1) 水疱の位置で、自己免疫性水疱症は大きく2つに分かれる。表皮内水疱をつくるのは天疱瘡群、表皮下水疱をつくるのは類天疱瘡群・後天性表皮水疱症などである。本例は表皮下水疱であり、天疱瘡は否定的である。 (2) 蛍光抗体直接法で基底膜部にIgGとC3が線状に沈着するのは、水疱性類天疱瘡と後天性表皮水疱症に共通する所見である。この所見だけでは両者を区別できない。 (3) この2つを区別するのが食塩水処理皮膚である。正常皮膚を1M食塩水に浸すと、基底膜部の透明帯(lamina lucida)で表皮と真皮が人工的に分かれる。 ・水疱性類天疱瘡の標的抗原(BP180=17型コラーゲン、BP230)は、この分離面より表皮側にある。そのため、表皮側(水疱の天井側)が光る。 ・後天性表皮水疱症の標的抗原(7型コラーゲン)は真皮側にある。そのため、真皮側(水疱の底側)が光る。 本例は表皮側が陽性であり、高齢での発症という臨床像とも合わせて、水疱性類天疱瘡と診断する。
選択肢考察
- ×a. 尋常性天疱瘡
尋常性天疱瘡は、デスモグレイン3(粘膜優位型)、またはデスモグレイン1と3の両方(粘膜皮膚型)に対する自己抗体によって起こる。デスモグレインは表皮細胞どうしをつなぐデスモソームの構成蛋白である。細胞どうしの接着がはずれる棘融解が起こり、基底層の直上に表皮内水疱ができる。蛍光抗体直接法では、IgGが表皮細胞の間に網目状に沈着する。臨床的には、中高年に好発し、口腔粘膜のびらんと、破れやすい弛緩性の水疱が特徴で、Nikolsky現象が陽性になる。本例の表皮下水疱と基底膜部の線状沈着とは一致しない。
- ○b. 水疱性類天疱瘡
水疱性類天疱瘡は、高齢者に最も多い自己免疫性水疱症である。ヘミデスモソーム(表皮基底細胞を基底膜に固定する構造)の成分であるBP180(17型コラーゲン)とBP230に対する自己抗体(IgG)が原因となる。表皮と真皮の接着が壊れて表皮下水疱ができ、蛍光抗体直接法では基底膜部にIgGとC3が線状に沈着する。BP180は食塩水で分かれる面より表皮側にあるため、食塩水処理皮膚を用いた蛍光抗体間接法では表皮側が陽性になる。高齢での発症、体幹・四肢の水疱とびらん、表皮下水疱、蛍光抗体法の所見がすべて合致する。
- ×c. Hailey-Hailey病
Hailey-Hailey病(家族性良性慢性天疱瘡)は、ATP2C1遺伝子(細胞内のカルシウムポンプをコードする)の変異による常染色体顕性(優性)遺伝の病気である。家族歴がはっきりしない例もある。多くは青年期から壮年期に発症し、腋窩、鼠径部、頸部などのこすれやすい部位に、水疱・びらんを繰り返す。病理では、表皮の下層を中心に広く棘融解が起こり、表皮内に裂け目ができる。その様子は「崩れかけたレンガ壁」にたとえられる。自己免疫性の病気ではないため、蛍光抗体法は陰性である。本例とは合わない。
- ×d. 後天性表皮水疱症
後天性表皮水疱症は、係留線維(基底膜を真皮につなぎとめる線維)を構成する7型コラーゲンに対する自己抗体によって起こる。成人以降に発症し、肘・膝・手足などこすれたりぶつけたりしやすい部位に、張りのある水疱ができる。治った後に瘢痕や稗粒腫(小さな白い粒)を残しやすい。表皮下水疱と、蛍光抗体直接法で基底膜部にIgGが線状に沈着する点は、水疱性類天疱瘡と同じである。しかし7型コラーゲンは食塩水で分かれる面より真皮側にあるため、食塩水処理皮膚を用いた蛍光抗体間接法では真皮側(水疱の底)が陽性になる。本例は表皮側が陽性であり、否定される。
- ×e. 先天性表皮水疱症
先天性表皮水疱症は、表皮と基底膜の接着に関わる蛋白(ケラチン5/14、ラミニン332、17型コラーゲン、7型コラーゲンなど)の遺伝子変異によって起こる遺伝性の病気である。出生時または生後早期から、軽い刺激で水疱・びらんができる。裂け目のできる位置によって、主に単純型(表皮内)、接合部型(透明帯)、栄養障害型(基底板の下)に分けられる。自己抗体が原因ではないため、蛍光抗体法でIgGやC3は沈着しない。80歳で初めて発症し、IgGとC3が沈着している本例とは合わない。
自己免疫性水疱症の整理
・尋常性天疱瘡:抗原はデスモグレイン3(±1)。表皮内(基底層の直上)に水疱ができ、蛍光抗体直接法ではIgGが表皮細胞の間に沈着する。 ・落葉状天疱瘡:抗原はデスモグレイン1。表皮内(角層の直下)に水疱ができ、蛍光抗体直接法ではIgGが表皮細胞の間に沈着する。 ・水疱性類天疱瘡:抗原はBP180(17型コラーゲン)とBP230。表皮下に水疱ができ、蛍光抗体直接法では基底膜部にIgGとC3が線状に沈着する。食塩水処理皮膚では表皮側が陽性になる。 ・粘膜類天疱瘡:抗原はBP180、ラミニン332など。表皮下に水疱ができ、主に粘膜が侵される。瘢痕を残すことがある。 ・後天性表皮水疱症:抗原は7型コラーゲン。表皮下に水疱ができ、蛍光抗体直接法では基底膜部にIgGが線状に沈着する。食塩水処理皮膚では真皮側が陽性になる。 ・Dühring疱疹状皮膚炎:抗原は表皮トランスグルタミナーゼ。表皮下に水疱ができ、蛍光抗体直接法では真皮乳頭にIgAが顆粒状に沈着する。
水疱性類天疱瘡の臨床像
・主に高齢者に発症し、自己免疫性水疱症の中で最も頻度が高い。 ・強いかゆみを伴う浮腫性紅斑と、破れにくく張りのある大きな水疱(緊満性水疱)が体幹・四肢にできる。粘膜疹は比較的少ない。Nikolsky現象は原則として陰性である。 ・病理では表皮下水疱と、好酸球の浸潤が特徴的である。血液検査でも好酸球が増えることがある。 ・血清診断として、ELISA法(酵素免疫測定法)で抗BP180抗体(NC16a領域)を測定し、診断や病勢の評価に用いる。 ・DPP-4阻害薬(糖尿病治療薬)を内服中に発症する薬剤関連の類天疱瘡が知られている。この場合は原因薬の中止を検討する。高齢者に多いため、脳血管障害や認知症などの神経疾患を合併していることも多い。
治療の概略
軽症では、強力なステロイド外用薬や、テトラサイクリン系抗菌薬とニコチン酸アミドの併用を用いる。中等症以上では副腎皮質ステロイドの内服が中心となる。難治例では、免疫抑制薬、ステロイドパルス療法、免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)、血漿交換療法などを組み合わせる。高齢者が多いため、ステロイドによる感染症、糖尿病、骨粗鬆症などの副作用に十分注意する。
POINT
・水疱の位置が表皮内なら天疱瘡群、表皮下なら類天疱瘡群・後天性表皮水疱症を考える。 ・蛍光抗体直接法で基底膜部にIgGとC3が線状に沈着していれば、水疱性類天疱瘡か後天性表皮水疱症である。 ・食塩水処理皮膚を用いた蛍光抗体間接法で、表皮側が陽性なら水疱性類天疱瘡(BP180=17型コラーゲン、BP230)、真皮側が陽性なら後天性表皮水疱症(7型コラーゲン)である。 ・水疱性類天疱瘡は高齢者に多く、かゆみの強い紅斑と緊満性水疱が特徴で、病理では好酸球の浸潤がみられる。DPP-4阻害薬との関連にも注意する。
