「おしるし」が来た初妊婦―分娩が始まったかを見極める4つの物差し
第99回医師国家試験 F問題 第34問
国試問題にチャレンジ
32歳の初妊婦。妊娠40週に少量の性器出血と軽度の下腹部痛とを主訴に来院した。これまでの妊婦健康診査で異常の指摘はない。意識は清明。身長158cm,体重60kg。体温36.8℃。脈拍88/分,整。血圧132/80mmHg。胎児は頭位で,発育は良好である。胎児心拍数陣痛図に異常を認めない。破水の所見もない。 この時点で重要でない所見はどれか。
- a.頸管開大度
- b.頸管展退度
- c.児頭下降度
- d.児頭回旋
- e.子宮収縮頻度
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクターまとめ
正期産の妊婦にみられる少量の性器出血と軽い下腹部痛は、多量出血や強い持続痛、胎児機能不全がなければ、産徴や前駆陣痛といった分娩開始の徴候としてまず考えます。この段階では、陣痛周期10分以内を目安とする子宮収縮の頻度と規則性、内診による頸管開大度・展退度、児頭下降度を評価し、分娩が始まっているかと分娩の近さを判断します。開大度・展退度・児頭の位置に頸部の硬さと子宮口の位置を加えたものがBishopスコアで、頸管の熟化を示す指標となります。一方、児頭の回旋は児頭が骨盤内へ十分に下降してから問題になる所見で、分娩開始を判断する段階では重要度が低く、下降が停止したときに回旋異常を確認する意味をもちます。分娩の段階ごとに評価すべき所見を整理しておくことが、適切な分娩管理につながります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
妊娠40週(正期産)の初妊婦が、少量の性器出血と軽い下腹部痛を訴えて受診した。妊婦健診での異常はなく、バイタルサインは安定し、胎児は頭位で発育良好、胎児心拍数陣痛図(CTG:胎児心拍と子宮収縮を同時に記録する検査)も正常、破水もない。
状況の解釈
正期産の時期に出現する少量の血性分泌物は「産徴(いわゆる『おしるし』)」と呼ばれ、子宮頸管が開き始めて卵膜が子宮壁からわずかに剥がれることで生じる。軽度の下腹部痛は前駆陣痛、あるいは分娩開始直前〜直後の陣痛と考えられる。常位胎盤早期剥離や前置胎盤のような異常出血を疑わせる所見(多量出血、持続する強い腹痛、胎児機能不全など)はない。したがってこの場面で医師が判断すべきことは「分娩がすでに始まっているのか、始まるとしたらどの程度近いのか」であり、入院させて分娩管理を始めるかどうかを決めることである。
設問の考え方
分娩開始の判定と分娩進行度の評価に用いるのは、①子宮収縮(陣痛)の頻度と規則性、②内診による子宮頸管の状態(開大度・展退度・硬さ・位置)、③児頭の下降度である。②と③はBishopスコア(頸管成熟度の評価法)の構成項目でもある。一方、児頭の回旋は、胎児が産道を通過していく過程で順次起こる動きであり、主に分娩が進行してから(とくに児頭が骨盤内に深く進入する分娩第1期後半〜第2期に)臨床的な意味を持つ。分娩が始まったかどうかを判断する段階では優先度が低い所見である。
選択肢考察
- ×a. 頸管開大度
重要な所見である。子宮口がどれだけ開いているか(0〜10cm、10cmで全開大)を内診で評価するもので、Bishopスコアの項目の一つである。分娩開始前であれば頸管の熟化の程度を示し、分娩開始後は分娩第1期の進行を示す最も基本的な指標となる。時間経過に伴う開大度の推移はFriedman曲線やパルトグラム(分娩経過図)に記録され、分娩遷延の判断にも用いられる。
- ×b. 頸管展退度
重要な所見である。展退とは、本来3cm前後の長さをもつ子宮頸管が、分娩が近づくにつれて短く薄くなっていく変化をいい、0〜100%で表す。Bishopスコアの構成項目であり、頸管の熟化(分娩準備がどこまで進んでいるか)を反映する。初産婦では展退が先行してから開大が進むことが多く、分娩開始時期の予測に役立つ。
- ×c. 児頭下降度
重要な所見である。児頭の最先進部の高さを、坐骨棘を結ぶ線を0とした位置(station、−3〜+3cmなどで表記)で評価する。Bishopスコアの構成項目であり、児頭が骨盤入口に固定(嵌入)しているかは分娩の近さの目安になる。分娩開始後は頸管開大度とともに分娩進行を評価する二本柱であり、パルトグラムにも記録される。また児頭の下降が得られない場合は児頭骨盤不均衡などを疑う契機となる。
- ○d. 児頭回旋
この時点では重要でない所見であり、これが正解である。児頭は産道を通過する際に、屈曲(第1回旋)、内回旋(第2回旋)、伸展(第3回旋)、外回旋(第4回旋)という一連の回旋を行う。第1回旋は児頭が骨盤入口から骨盤内に進入するころに始まり、内回旋は骨盤濶部〜峡部で起こるため、回旋が問題になるのは分娩が進行し児頭が十分に下降してからである。分娩が始まったかどうかを判断する段階では、回旋の評価は優先度が低い。なお、分娩が進んで下降が停止した際には、回旋異常(後方後頭位、低在横定位など)の有無を確認することが重要となる。
- ×e. 子宮収縮頻度
重要な所見である。分娩開始は、規則的な子宮収縮(陣痛)の周期が10分以内、あるいは1時間に6回以上となった時点と定義される。したがって子宮収縮の頻度と規則性は、本例が前駆陣痛(不規則で自然に消退する)なのか分娩陣痛なのかを区別するうえで欠かせない。分娩開始後も、陣痛周期・持続時間・強さは陣痛の強弱(微弱陣痛・過強陣痛)の評価に用いられる。
Bishopスコア(頸管成熟度)
内診で以下の5項目を点数化して合計する(合計0〜13点)。 ・子宮口開大度:0cm=0点、1〜2cm=1点、3〜4cm=2点、5cm以上=3点 ・頸管展退度:0〜30%=0点、40〜50%=1点、60〜70%=2点、80%以上=3点 ・児頭の位置(station):−3=0点、−2=1点、−1〜0=2点、+1以上=3点 ・頸部の硬さ:硬=0点、中=1点、軟=2点 ・子宮口の位置:後方=0点、中央=1点、前方=2点 合計点が高いほど頸管は熟化しており、おおむね9点以上で熟化、4点以下で未熟と判断する。分娩誘発の成功の見込みを予測する際にも用いられる。
分娩の開始と分娩期の区分
・分娩開始:陣痛周期が10分以内(または1時間に6回以上)の規則的な陣痛が始まった時点。 ・分娩第1期:分娩開始から子宮口全開大まで(開口期)。 ・分娩第2期:子宮口全開大から児娩出まで(娩出期)。 ・分娩第3期:児娩出から胎盤娩出まで(後産期)。
産徴と前駆陣痛
・産徴:分娩開始前後にみられる少量の血性粘液の排出。頸管の開大に伴い卵膜が子宮壁から剥がれて起こる。 ・前駆陣痛:妊娠末期にみられる不規則で痛みの弱い子宮収縮。規則性がなく、時間とともに強くならず、頸管の変化を伴わない点で分娩陣痛と区別される。
児頭の回旋(前方後頭位の場合)
・第1回旋:屈曲。顎を胸につけ、最小周囲径(小斜径周囲)で骨盤に進入する。 ・第2回旋:内回旋。骨盤内で小泉門が母体前方(恥骨側)を向くように回る。 ・第3回旋:伸展。児頭が恥骨弓下をくぐり抜けて娩出される。 ・第4回旋:外回旋。娩出後に児頭が母体の側方を向き、肩甲が縦に並ぶ。
Friedman曲線・パルトグラム
頸管開大度と児頭下降度を時間軸に沿って記録した分娩経過図で、潜伏期・活動期の進行を視覚的に把握し、分娩遷延や停止を早期に発見するために用いる。
POINT
・正期産妊婦の少量性器出血+軽い下腹部痛は産徴・前駆陣痛(分娩開始の徴候)をまず考える。 ・分娩開始の判定と進行評価には、子宮収縮頻度(陣痛周期10分以内で分娩開始)、頸管開大度、頸管展退度、児頭下降度が重要である。 ・Bishopスコア=開大度・展退度・児頭の位置・頸部の硬さ・子宮口の位置の5項目。 ・児頭回旋は分娩が進行し児頭が骨盤内に下降してから問題となる所見であり、分娩開始判定の段階では重要度が低い。
