妊娠7週の体の中で何が起きている?―プロゲステロンが支配する妊娠初期の母体
第99回医師国家試験 F問題 第10問
国試問題にチャレンジ
28歳の女性。未経妊。無月経と嘔気とを主訴に来院した。最終月経から起算して無月経の期間は7週0日である。妊娠反応陽性。経腟超音波検査で子宮内に胎囊と胎芽心拍動とを認める。 正しいのはどれか。
- a.基礎体温は低温相である。
- b.頸管粘液の牽糸性が増加している。
- c.子宮内膜に脱落膜変化がある。
- d.子宮体部は硬い。
- e.卵巣に卵胞発育がみられる。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
妊娠初期の母体は、hCGに維持された妊娠黄体、のちには胎盤から分泌されるプロゲステロンが優位な状態にあります。そのため子宮内膜は脱落膜化し、基礎体温は高温相が妊娠12〜16週ごろまで続き、頸管粘液は粘稠になって牽糸性が低下し、粘液栓をつくります。性ステロイドの負のフィードバックでFSH・LHが抑制されるため卵胞発育や排卵は起こらず、子宮は充血して軟化し、Hegar徴候などとして現れます。エストロゲンとプロゲステロンの作用を対比して整理しておくと、月経周期・不妊・妊娠初期の問題を一貫して理解できます。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
28歳の未経妊女性が無月経と嘔気(つわり)を訴えて受診した。最終月経開始日から数えて7週0日、妊娠反応は陽性で、経腟超音波検査では子宮内に胎嚢と胎芽の心拍動が確認されている。
診断
妊娠週数は最終月経の初日を0週0日として数えるので、本例は妊娠7週0日(妊娠2か月)である。経腟超音波で胎嚢はおよそ妊娠5週ごろ、胎芽心拍動はおよそ6〜7週ごろから確認できるようになるので、週数相当の所見がそろった正常な子宮内妊娠と判断できる。子宮内に胎嚢があることで異所性妊娠はほぼ否定でき、心拍動が確認できることで流産(稽留流産など)も否定的である。
設問の考え方
妊娠初期の母体では、排卵後にできた黄体が絨毛から分泌されるhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の刺激を受けて妊娠黄体となり、プロゲステロン(黄体ホルモン)とエストロゲンを大量に分泌し続ける。妊娠7〜10週ごろからは胎盤がこれらのホルモン産生を徐々に引き継ぐ(黄体から胎盤への移行)。したがって各選択肢は「プロゲステロン優位の状態が続いている」「性ステロイドが多いためゴナドトロピン(FSH・LH)は抑えられている」「妊娠子宮は充血して軟らかくなる」という3つの観点から判断すればよい。
選択肢考察
- ×a. 基礎体温は低温相である。
プロゲステロンには体温中枢に作用して基礎体温を約0.3〜0.5℃上げる作用がある。排卵後の黄体期に高温相となり、妊娠が成立すると妊娠黄体からプロゲステロンが分泌され続けるので、高温相は月経予定日を過ぎても持続し、妊娠初期(おおむね妊娠12〜16週ごろ)まで続く。高温相が3週間以上続くことは妊娠を疑う手がかりになる。妊娠7週で低温相になっていれば、むしろ流産などの異常を考える。
- ×b. 頸管粘液の牽糸性が増加している。
頸管粘液はエストロゲンの作用で量が増え、透明で水っぽくなり、牽糸性(糸を引く長さ)やシダ状結晶形成が増す。これは精子が通過しやすい排卵期の状態である。一方、プロゲステロンはこれに拮抗し、粘液を少量で粘稠にし、牽糸性を低下させる。妊娠中はプロゲステロン優位のため、頸管粘液は粘稠となって粘液栓を形成し、腟から子宮内への細菌の侵入を防いでいる。したがって牽糸性は低下している。
- ○c. 子宮内膜に脱落膜変化がある。
黄体期にプロゲステロンの作用を受けた子宮内膜では、間質細胞が大きくなりグリコーゲンや脂質をため込む変化(脱落膜化)が起こる。妊娠が成立すると妊娠黄体と胎盤からプロゲステロンが供給され続けるため、この変化は保たれ、さらに進んで脱落膜となる。脱落膜は受精卵の着床と胎盤形成の足場となる組織である。妊娠7週の本例の子宮内膜には脱落膜変化がみられる。なお、脱落膜変化自体はプロゲステロン作用によるもので、異所性妊娠でも子宮内膜に起こりうる。
- ×d. 子宮体部は硬い。
妊娠すると子宮は血流が増え、筋層が肥大して軟らかくなる。特に妊娠2〜3か月にかけての軟化が著しく、子宮峡部が特に軟らかくなるHegar徴候として内診でとらえられる。ほかに腟や子宮腟部が充血して青紫色を帯びるChadwick徴候、着床部位の子宮が非対称に膨らむPiskacek徴候なども妊娠初期の所見である。子宮体部が硬いことは正常妊娠7週の所見に合わない。
- ×e. 卵巣に卵胞発育がみられる。
妊娠中は妊娠黄体と胎盤から大量のエストロゲン・プロゲステロンが分泌され、負のフィードバックにより下垂体からのFSH・LHの分泌が抑制される。そのため新たな卵胞の発育や排卵は起こらない。妊娠初期の卵巣にみられるのは卵胞ではなく妊娠黄体であり、ときに黄体嚢胞として超音波でとらえられる。
妊娠初期の内分泌
・hCG: 受精卵の着床後、絨毛(合胞体栄養膜細胞)から分泌される。LHと似た構造をもち、黄体を維持して妊娠黄体とする。血中濃度は妊娠8〜10週ごろに最大となり、その後低下する。妊娠反応はこのhCGを尿で検出するものである。 ・プロゲステロン・エストロゲン: 妊娠初期は妊娠黄体が主な供給源で、妊娠7〜10週ごろから胎盤が主な産生源となる。 ・FSH・LH: 性ステロイドの負のフィードバックにより抑制される。
エストロゲンとプロゲステロンの作用の比較
・基礎体温: エストロゲンは上昇させない/プロゲステロンは上昇させる(高温相) ・子宮内膜: エストロゲンは増殖させる(増殖期)/プロゲステロンは分泌期変化・脱落膜化を起こす ・頸管粘液: エストロゲンは量を増やし牽糸性を増す/プロゲステロンは粘稠にし牽糸性を下げる ・子宮筋: エストロゲンは肥大・収縮性を高める/プロゲステロンは収縮を抑える(妊娠の維持)
経腟超音波による妊娠初期の確認の目安
・胎嚢: 妊娠5週ごろ ・卵黄嚢: 妊娠5週ごろ ・胎芽・心拍動: 妊娠6〜7週ごろ ・頭殿長(CRL)による妊娠週数の確認・修正: 妊娠8〜11週ごろが適する
妊娠初期の身体所見
Hegar徴候(子宮峡部の軟化)、Chadwick徴候(腟・子宮腟部の青紫色化)、Piskacek徴候(着床部位の非対称な膨隆)、乳房の腫大・乳輪の色素沈着など。
POINT
・妊娠初期は妊娠黄体(hCGで維持)が分泌するプロゲステロン優位の状態である。 ・基礎体温は高温相が持続し、妊娠初期(おおむね12〜16週ごろ)まで続く。 ・頸管粘液は粘稠となり牽糸性は低下し、粘液栓を作る。 ・子宮内膜は脱落膜となり、子宮体部・峡部は軟化する(Hegar徴候)。 ・FSH・LHが抑制されるため、卵胞発育・排卵は起こらない。
