ワクチンの「ゆりかご」を知れば答えが見える―卵アレルギーとインフルエンザワクチン
第99回医師国家試験 E問題 第67問
国試問題にチャレンジ
卵アレルギーを有する者が要注意となっているワクチンはどれか。
- a.水痘
- b.風疹
- c.日本脳炎
- d.三種混合〈DPT〉
- e.インフルエンザ
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ワクチンによるアレルギー反応の多くは、抗原そのものではなく製造に使われる材料や添加物に由来するため、各ワクチンの製造方法を知ることが注意点の判断につながります。インフルエンザHAワクチンは発育鶏卵の尿膜腔でウイルスを増殖させて作るため卵由来タンパクが微量残りうることから、日本の添付文書では鶏卵アレルギーのある人が接種要注意者とされており、接種時は問診と接種後の十分な観察が求められます。水痘はヒト二倍体細胞、風疹はウサギ腎細胞など、日本脳炎(現行品)はVero細胞で製造され、DPTはトキソイドと細菌成分から成るため鶏卵とは無関係で、麻疹・おたふくかぜもニワトリ胚細胞を用いるものの卵アレルギーのみでは通常問題になりません。黄熱ワクチンも鶏卵で製造されるため注意が必要で、ゼラチンや抗菌薬など他の添加物によるアレルギーも念頭に置く必要があります。海外では卵アレルギーがあっても通常どおりインフルエンザワクチンを接種してよいとする推奨に変わっており、製造過程と最新の知見の両方を踏まえて安全な接種を判断する力が臨床では求められます。
解答・解説
正解はeです
ワクチンの副反応のうち、アレルギー反応の多くはワクチン本体の抗原ではなく、製造過程で混入する成分や添加物(培養に使った動物由来のタンパク、ゼラチン、抗菌薬、安定剤など)が原因となる。そのため「どのワクチンが何を使って作られているか」を知っておくと、アレルギー歴のある人への注意点を推測できる。 卵アレルギーで問題となるのは、ウイルスを発育鶏卵(ふ化途中の有精卵)の中で増やして作るワクチンである。代表がインフルエンザHAワクチンで、鶏卵の尿膜腔でウイルスを増殖させ、その液からウイルスを精製して作る。高度に精製されるものの、卵白由来のタンパク(オボアルブミンなど)がごく微量に残る可能性がある。このため日本の添付文書では、鶏卵・鶏肉など鶏由来のものにアレルギーを呈するおそれのある者が「接種要注意者」(接種の判断を慎重に行い、接種後の観察を十分に行うべき者)に挙げられている。 一方、選択肢の他のワクチンは、ヒト由来の培養細胞、ウサギなどの培養細胞、Vero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来の株化細胞)で作られるか、細菌毒素を無毒化したトキソイドであり、鶏卵を原料としない。したがって本問では、製造に鶏卵を用いるインフルエンザワクチンを選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 水痘
水痘ワクチンは弱毒生ワクチン(岡株)で、ウイルスをヒト二倍体細胞(ヒト胎児肺由来の線維芽細胞)で培養して作られる。鶏卵は使われていないため、卵アレルギーは接種上の注意点にならない。水痘ワクチンで注意すべきアレルギーとしては、安定剤などの添加物成分に対する過敏症が挙げられる。
- ×b. 風疹
風疹ワクチンは弱毒生ワクチンで、国内製品ではウサギ腎臓の初代培養細胞などの動物細胞でウイルスを増やして作る。鶏卵そのものは原料としておらず、卵アレルギーのために接種を控える必要はない。なお、麻疹・おたふくかぜのワクチンはニワトリ胚の培養細胞で作られるが、卵白タンパクの混入は無視できるほど少なく、これらも卵アレルギーのみを理由に要注意とはされていない。
- ×c. 日本脳炎
日本脳炎ワクチンは不活化ワクチンである。かつてはウイルスを感染させたマウスの脳から精製して作られており、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)との関連が問題視されて2005年に積極的勧奨が差し控えられた経緯がある。現在は2009年以降に導入されたVero細胞由来の乾燥細胞培養ワクチンが用いられている。いずれの製法でも鶏卵は使われておらず、卵アレルギーとは関係しない。
- ×d. 三種混合〈DPT〉
DPTはジフテリア(D)・百日咳(P)・破傷風(T)の混合ワクチンで、ジフテリアと破傷風は毒素をホルマリンで無毒化したトキソイド、百日咳は菌体から精製した成分(無細胞百日咳ワクチン)からなる。いずれも細菌の培養で得られ、鶏卵は用いない。現在の定期接種では、不活化ポリオ(IPV)を加えた四種混合やHib(インフルエンザ菌b型)も加えた五種混合として接種されている。
- ○e. インフルエンザ
インフルエンザHAワクチンは、発育鶏卵の尿膜腔内でウイルスを増殖させ、回収した尿膜腔液からウイルスを精製・分解して、表面抗原であるヘマグルチニン(HA)を主成分とする不活化ワクチンとして作られる。精製後も卵由来タンパクが極微量残りうるため、鶏卵・鶏肉など鶏由来成分へのアレルギーがある者は添付文書上の接種要注意者とされる。接種する場合は問診でアレルギーの程度を確認し、接種後はアナフィラキシーに備えて一定時間(通常30分程度)観察する。
ワクチンの製造と注意すべき成分
・発育鶏卵で製造: インフルエンザHAワクチン、黄熱ワクチン。卵由来タンパクが残りうるため卵アレルギーに注意する。特に黄熱ワクチンは生ワクチンで卵タンパクの含有量が多く、重い卵アレルギーでは接種を避けるのが原則である。 ・ニワトリ胚培養細胞で製造: 麻疹ワクチン、おたふくかぜワクチン。卵白タンパクの混入はごく少量で、卵アレルギーのみでは通常問題にならない。 ・ヒト二倍体細胞で製造: 水痘ワクチン。 ・Vero細胞で製造: 日本脳炎ワクチン(現行品)。 ・トキソイド・細菌成分: ジフテリア、破傷風、百日咳(DPT、四種混合、五種混合)。
その他の添加物アレルギー
・ゼラチン: かつて生ワクチンの安定剤として含まれ、アナフィラキシーの原因となったため、現在はゼラチンを除いた製品が主流となっている。 ・抗菌薬(カナマイシン、エリスロマイシンなど): 製造工程で使われ、微量残存することがある。
接種不適当者と接種要注意者
・接種不適当者: 明らかな発熱(通常37.5℃以上)、重篤な急性疾患、そのワクチン成分でアナフィラキシーを起こしたことがある者など。原則として接種しない。 ・接種要注意者: 心血管・腎・肝・血液疾患などの基礎疾患、過去の予防接種後2日以内の発熱や全身性発疹、けいれんの既往、免疫不全、ワクチン成分に対するアレルギーのおそれがある者など。接種の適否を慎重に判断し、接種後の観察を十分に行う。
近年の知見
海外(米国など)では、インフルエンザワクチンの卵タンパク含有量はごく微量で、卵アレルギー患者でも重篤な反応はまれであることが多くの研究で示され、卵アレルギーの重症度にかかわらず通常どおり接種してよいとする推奨に改められている。日本の添付文書では現在も鶏卵アレルギーを接種要注意者として記載している。
POINT
・卵アレルギーで注意を要する代表的なワクチンは、発育鶏卵で製造されるインフルエンザHAワクチン(ほかに黄熱ワクチン)。 ・麻疹・おたふくかぜはニワトリ胚細胞で作るが、卵アレルギーのみでは通常問題とならない。 ・水痘はヒト二倍体細胞、日本脳炎(現行)はVero細胞、DPTはトキソイド・細菌成分由来で、鶏卵とは無関係。 ・ワクチンのアレルギーは製造に使う成分・添加物(卵タンパク、ゼラチン、抗菌薬など)を意識して考える。
