命を削るのは目立つ硬さではない―全身性強皮症の予後を握る「肺」と「腎」
第99回医師国家試験 E問題 第68問
国試問題にチャレンジ
全身性強皮症〉患者の生命予後を悪化させるのはどれか。2つ選べ。
- a.皮膚病変
- b.関節病変
- c.肺病変
- d.腎病変
- e.消化管病変
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
全身性強皮症は血管障害・線維化・自己免疫異常を柱とする膠原病で、皮膚硬化や関節拘縮、消化管の運動障害は頻度が高いもののQOLの問題が中心で、直接の死因になることは少ない。生命予後を左右するのは、間質性肺疾患と肺動脈性肺高血圧症からなる肺病変と、急激な高血圧と腎不全をきたす強皮症腎クリーゼであり、心病変も予後不良因子となる。腎クリーゼは高レニン状態が本態でACE阻害薬が第一選択、高用量ステロイドが誘因となる点が臨床上重要である。抗Scl-70抗体と間質性肺疾患、抗セントロメア抗体と肺高血圧症、抗RNAポリメラーゼIII抗体と腎クリーゼという対応や、びまん皮膚硬化型が内臓病変を合併しやすいことも押さえておきたい。「目立つ症状」と「命に関わる症状」を区別する視点は、膠原病の診療と定期的なスクリーニングの組み立てに欠かせない。
解答・解説
正解はc, dです
全身性強皮症(systemic sclerosis: SSc、全身性硬化症)は、①小血管の障害(血管内皮障害と内膜肥厚による血管内腔の狭小化)、②線維芽細胞の活性化によるコラーゲンの過剰産生(線維化)、③自己免疫異常(抗核抗体の出現)の3つを病態の柱とする膠原病である。線維化と血管障害は皮膚だけでなく肺・腎・心・消化管など多くの臓器に及ぶ。 症状として最も目立つのは皮膚硬化とRaynaud現象であり、関節のこわばりや消化管の運動低下も高頻度にみられる。しかし、これらは生活の質(QOL)を大きく損なうものの、それ自体が直接死因となることは少ない。生命予後を左右するのは、呼吸不全や右心不全に至る肺病変(間質性肺疾患〈ILD〉と肺動脈性肺高血圧症〈PAH〉)と、急激な高血圧と腎不全をきたす腎病変(強皮症腎クリーゼ)、さらに心病変である。 設問は「生命予後を悪化させる」病変を2つ選ぶもので、臓器障害の頻度ではなく致死的となりうるかどうかで判断する。選択肢の中で致命的な臓器不全に直結するのは肺病変と腎病変である。
選択肢考察
- ×a. 皮膚病変
皮膚硬化は手指から始まり(手指硬化)、中枢側へ進むのが典型で、Raynaud現象、指尖部の潰瘍や陥凹性瘢痕、毛細血管拡張、色素沈着・脱失なども伴う。診断や病型分類には重要であり、指尖潰瘍の感染や壊疽は大きな問題となるが、皮膚病変そのものが直接死因となることは少ない。ただし、皮膚硬化が肘・膝より近位の体幹にまで及ぶびまん皮膚硬化型は、発症早期に内臓病変(間質性肺疾患や腎クリーゼ)を合併しやすく、予後不良因子の指標となる点は押さえておく。
- ×b. 関節病変
関節痛や朝のこわばりは高頻度にみられ、皮膚や腱の線維化によって関節が屈曲位で固まる(屈曲拘縮)こともある。手の機能障害などQOLの低下をもたらすが、関節リウマチのような高度の骨破壊は通常起こらず、生命予後に影響することはほとんどない。
- ○c. 肺病変
肺病変は現在の全身性強皮症における最大の死因である。主に2つあり、1つは間質性肺疾患(肺線維症)で、両側下肺野背側優位にすりガラス影や網状影を呈し、非特異性間質性肺炎(NSIP)パターンが多い。抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体陽性のびまん皮膚硬化型で合併しやすく、進行すると呼吸不全に至る。もう1つは肺動脈性肺高血圧症で、肺の小動脈の内膜肥厚により肺血管抵抗が上がり、右心不全をきたす。頻度はそれより低いが、抗セントロメア抗体陽性の限局皮膚硬化型に後年合併しやすく、予後は不良である。
- ○d. 腎病変
強皮症腎クリーゼは、腎の小葉間動脈などの内膜肥厚により腎血流が低下し、レニン・アンジオテンシン系が強く活性化される結果、突然の高血圧(悪性高血圧を呈することが多い)と急速進行性の腎不全をきたす病態である。高血圧性脳症、心不全、血栓性微小血管症(溶血性貧血・血小板減少)を伴うこともある。抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性のびまん皮膚硬化型で発症早期に起こりやすく、高用量の副腎皮質ステロイド投与が誘因となる。かつては最大の死因の一つであったが、ACE阻害薬の導入により予後は大きく改善した。それでも透析導入や死亡に至る例があり、生命予後を悪化させる重要な病変である。
- ×e. 消化管病変
消化管病変は皮膚に次いで頻度が高い。平滑筋の萎縮と線維化により、下部食道の蠕動低下・拡張と下部食道括約筋圧の低下が起こり、逆流性食道炎や嚥下障害を生じる。小腸・大腸の蠕動低下では、便秘・下痢、腸内細菌の異常増殖による吸収不良、偽性腸閉塞をきたすことがある。舌小帯の短縮・硬化も特徴的所見である。重症例では栄養障害が問題となるが、多くは対症療法で管理でき、肺・腎病変と比べて生命予後への影響は小さい。
病型分類
・びまん皮膚硬化型(diffuse cutaneous SSc): 皮膚硬化が肘・膝より近位や体幹に及ぶ。発症後数年以内に進行しやすく、間質性肺疾患・腎クリーゼ・心病変などの内臓病変を早期に合併しやすい。抗トポイソメラーゼI抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体と関連する。 ・限局皮膚硬化型(limited cutaneous SSc): 皮膚硬化が肘・膝より遠位と顔面にとどまる。進行は緩徐で予後は比較的良いが、長い経過の後に肺動脈性肺高血圧症を合併することがある。抗セントロメア抗体と関連し、石灰沈着・Raynaud現象・食道運動障害・手指硬化・毛細血管拡張を特徴とするCREST症候群はこの型に含まれる。
生命予後に関わる臓器病変
・肺: 間質性肺疾患(KL-6・SP-Dの上昇、呼吸機能検査での拘束性障害と拡散能低下)、肺動脈性肺高血圧症(心エコーでの三尖弁逆流速度の上昇、右心カテーテルで診断)。間質性肺疾患にはシクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、抗線維化薬ニンテダニブ、トシリズマブなどが用いられる。 ・腎: 強皮症腎クリーゼ。治療の第一選択はACE阻害薬で、血圧を速やかに正常化させる。高用量ステロイド(プレドニゾロン換算で1日15mg程度を超える量)は誘因となるため避ける。 ・心: 心筋の線維化による刺激伝導障害・不整脈、心不全、心膜炎。症状が出ると予後不良である。
死因の変遷
かつては強皮症腎クリーゼが主要な死因であったが、ACE阻害薬の普及により減少し、現在は間質性肺疾患と肺高血圧症が死因の上位を占めている。
POINT
・全身性強皮症の生命予後を左右するのは肺病変(間質性肺疾患、肺動脈性肺高血圧症)、腎病変(強皮症腎クリーゼ)、心病変。 ・皮膚・関節・消化管病変は頻度は高いが、単独で致死的になることは少ない。 ・強皮症腎クリーゼ: 急激な高血圧+腎不全、高レニン血症、治療はACE阻害薬、高用量ステロイドが誘因。抗RNAポリメラーゼIII抗体と関連。 ・現在の最大の死因は肺病変。抗トポイソメラーゼI抗体は間質性肺疾患、抗セントロメア抗体は肺高血圧症と関連が深い。
