精巣が1つでもEDにならない理由―勃起の「神経・血管・ホルモン」から原因を整理する
第99回医師国家試験 E問題 第49問
国試問題にチャレンジ
勃起不全をきたさないのはどれか。
- a.精巣機能不全
- b.骨盤神経損傷
- c.糖尿病
- d.エストロゲン薬
- e.片側精巣摘除
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
勃起は、骨盤神経(副交感神経)の興奮によるNO放出、海綿体平滑筋の弛緩と動脈血の流入、静脈閉塞機構、そしてテストステロンによる維持がそろって成立します。そのため骨盤神経損傷は神経性、精巣機能不全やエストロゲン薬は内分泌性、糖尿病は神経と血管の両方が障害される混合性のEDの原因となります。一方、片側精巣摘除では対側精巣がテストステロン分泌を代償するため、それ自体ではEDをきたしませんが、術後の心因性EDや、後腹膜リンパ節郭清による射精障害は別に考える必要があります。治療の第一選択はPDE5阻害薬で、硝酸薬との併用禁忌は必ず押さえておきましょう。勃起の生理から原因を分類する視点は、問診や薬歴確認、背景にある生活習慣病の発見にも役立ちます。
解答・解説
正解はeです
勃起不全(erectile dysfunction: ED)の原因を、勃起の成り立ちから整理できるかを問う問題である。
勃起の仕組み
性的刺激を受けると、仙髄(S2〜S4)から出る副交感神経である骨盤神経(勃起神経)が興奮し、陰茎海綿体の神経終末や血管内皮から一酸化窒素(NO)が放出される。NOは平滑筋細胞内のcGMPを増やして海綿体平滑筋と陰茎動脈を弛緩させ、動脈血が海綿体洞に流れ込む。膨らんだ海綿体が白膜下の静脈を圧迫して流出が抑えられ(静脈閉塞機構)、勃起が維持される。さらに、性欲や勃起機能の維持には十分なテストステロン(男性ホルモン)が必要である。
EDの原因分類
・心因性: ストレス、不安、うつ病など。 ・器質性: 血管性(動脈硬化、高血圧、喫煙)、神経性(骨盤内手術、脊髄損傷、糖尿病性神経障害)、内分泌性(性腺機能低下症、高プロラクチン血症)、陰茎自体の異常。 ・混合性: 心因と器質の両方、または糖尿病のように血管と神経が同時に障害されるもの。 ・薬剤性: エストロゲン製剤・抗アンドロゲン薬、降圧薬(サイアザイド系利尿薬、β遮断薬)、抗うつ薬、抗精神病薬など。 選択肢のうち、精巣機能不全・エストロゲン薬は内分泌性、骨盤神経損傷は神経性、糖尿病は混合性の原因である。片側精巣摘除では、残った対側の精巣がテストステロンを十分に分泌するため、内分泌的な異常は生じず、それ自体でEDの原因とはならない。
選択肢考察
- ×a. 精巣機能不全
EDをきたすので本問の答えではない。精巣機能不全(原発性性腺機能低下症。Klinefelter症候群、両側精巣の炎症・外傷後など)ではLeydig細胞からのテストステロン分泌が減少する。テストステロンは性欲を保つほか、陰茎海綿体でNO合成酵素の発現を維持するなど勃起機能そのものにも関わるため、その低下は性欲減退とEDを招く(内分泌性ED)。
- ×b. 骨盤神経損傷
EDをきたすので本問の答えではない。骨盤神経(勃起神経)は勃起を起こす副交感神経線維を含み、前立腺・膀胱の周囲を走行する。前立腺全摘除術、直腸癌手術、膀胱全摘除術などの骨盤内手術や骨盤骨折でこの神経が損傷されると、NOの放出が起こらず神経性EDとなる。前立腺全摘除術で勃起神経を温存する術式(神経温存手術)が工夫されているのはこのためである。
- ×c. 糖尿病
EDをきたすので本問の答えではない。糖尿病は器質性EDの代表的な原因で、非糖尿病者と比べてEDの頻度が数倍高い。自律神経障害による神経性の要因と、動脈硬化や血管内皮機能障害(NO産生低下)による血管性の要因が重なるため、混合性(複合的)なEDとなる。さらに合併しやすい肥満・脂質異常症や心理的要因も加わる。EDは冠動脈疾患など全身の血管障害の早期徴候であることもある。
- ×d. エストロゲン薬
EDをきたすので本問の答えではない。エストロゲンは視床下部・下垂体に負のフィードバックをかけてゴナドトロピン(LH)の分泌を抑え、精巣からのテストステロン分泌を低下させる。その結果、性欲低下とEDが生じ、女性化乳房を伴うこともある。かつて前立腺癌の内分泌療法にエストロゲン製剤が用いられていたが、EDは代表的な副作用であった。同様にGnRHアゴニスト・アンタゴニストや抗アンドロゲン薬もEDの原因となる。
- ○e. 片側精巣摘除
精巣腫瘍(高位精巣摘除術)や精巣捻転などで片側の精巣を摘除しても、対側の健常な精巣がテストステロンを代償的に分泌するため、血中テストステロン値は通常正常範囲に保たれる。また勃起に関わる神経や陰茎の血管には手を加えない手術である。したがって片側精巣摘除自体はEDの原因とならない。なお、術後の心理的影響による心因性EDや、精巣腫瘍に対する後腹膜リンパ節郭清による射精障害(交感神経損傷)は別の問題として区別する。
勃起・射精に関わる神経
・勃起: 副交感神経(骨盤神経、S2〜S4)が主役。 ・射精: 交感神経(下腹神経、T10〜L2)が精液の後部尿道への排出(emission)を、体性神経(陰部神経)が球海綿体筋の律動的収縮による射出を担う。 ・覚え方として「副交感神経で勃起(Point)、交感神経で射精(Shoot)」とされる。
EDの診断と治療
・問診と質問票(国際勃起機能スコア: IIEF-5など)で評価し、糖尿病・高血圧・脂質異常症・喫煙などの危険因子、服用薬、テストステロン値を確認する。 ・第一選択はホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬(シルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィル)。cGMPの分解を抑えて勃起を助ける。硝酸薬との併用は重篤な低血圧を起こすため禁忌である。 ・無効例には陰茎海綿体注射(プロスタグランジンE1)、陰圧式勃起補助具、陰茎プロステーシス挿入術などがある。 ・性腺機能低下が明らかな場合はテストステロン補充を考慮する。
POINT
・勃起は副交感神経(骨盤神経)、射精は交感神経が主に担う。 ・EDの原因: 心因性、血管性、神経性(骨盤内手術・骨盤神経損傷)、内分泌性(テストステロン低下)、混合性(糖尿病)、薬剤性(エストロゲン、抗アンドロゲン薬、降圧薬、抗うつ薬など)。 ・片側精巣摘除では対側精巣がテストステロン分泌を維持するため、それ自体ではEDをきたさない。
