エストロゲンが去ったあとに―閉経で増える病気、増えない病気
第99回医師国家試験 E問題 第48問
国試問題にチャレンジ
閉経後に頻度が上昇しないのはどれか。
- a.脂質異常症
- b.骨粗鬆症
- c.子宮体癌
- d.腹圧性尿失禁
- e.子宮頸部上皮内癌
対話形式の解説
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ドクターまとめ
閉経に伴うエストロゲン欠乏は、骨吸収の亢進による骨粗鬆症、肝臓のLDL受容体減少などによる脂質異常症・動脈硬化性疾患、尿道粘膜の萎縮と骨盤底の脆弱化による腹圧性尿失禁や骨盤臓器脱など、全身に多彩な変化をもたらします。子宮体癌はプロゲステロンの拮抗を受けないエストロゲン刺激を背景に、閉経前後から増えて50〜60歳代に好発し、閉経後の不正性器出血が重要な症状です。一方、子宮頸部上皮内癌は高リスク型HPVの持続感染が原因で20歳代後半〜30歳代に多く、閉経とは直接関係しません。子宮のある女性へのホルモン補充療法では黄体ホルモンの併用が必要であることも、同じ機序から理解できます。エストロゲンの作用を臓器ごとに整理しておくと、更年期以降の女性の健康管理を包括的に考える力が身につきます。
解答・解説
正解はeです
閉経に伴うエストロゲン欠乏が、全身にどのような変化をもたらすかを問う問題である。
考え方
閉経(最終月経から12か月以上月経がない状態。わが国の平均閉経年齢は約50歳)により卵巣からのエストロゲン分泌が急減する。エストロゲンは生殖器だけでなく、骨、脂質代謝、血管、泌尿生殖器の粘膜や骨盤底の支持組織など多くの臓器に作用しているため、その欠乏は次のような変化につながる。 ・骨: 骨吸収が亢進し、骨量が急速に減る → 骨粗鬆症 ・脂質: LDLコレステロールが上昇する → 脂質異常症、動脈硬化性疾患 ・泌尿生殖器・骨盤底: 尿道粘膜の萎縮、骨盤底支持組織の脆弱化 → 腹圧性尿失禁、骨盤臓器脱、萎縮性腟炎 また子宮体癌は、閉経前後にプロゲステロンの拮抗を受けないエストロゲン刺激が続くことを背景に、50〜60歳代に好発する。 一方、子宮頸部の上皮内癌はヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染が原因であり、性交渉によるHPV感染から時間を経て生じるため、30歳代を中心とした生殖年齢に多い。閉経によるホルモン変化とは直接関係しないため、これが「頻度が上昇しない」ものにあたる。
選択肢考察
- ×a. 脂質異常症
閉経後に増加するので本問の答えではない。エストロゲンには肝臓のLDL受容体の発現を高めてLDLコレステロールを血中から取り込ませる作用がある。閉経でこの作用が失われると、LDLコレステロールと総コレステロールが上昇する。加えて、加齢に伴う内臓脂肪の増加、インスリン抵抗性(耐糖能低下)、運動量の減少によるエネルギー過剰、卵巣でのステロイドホルモン合成に使われていたコレステロール需要の減少も関与する。閉経後女性で冠動脈疾患が増えるのはこのためである。
- ×b. 骨粗鬆症
閉経後に増加するので本問の答えではない。エストロゲンは破骨細胞の分化・活性化を抑え、骨吸収を抑制している。閉経でエストロゲンが減ると骨吸収が骨形成を上回る高回転型の骨代謝となり、特に閉経後数年間に骨量が急速に失われる。これが閉経後骨粗鬆症であり、椎体骨折、大腿骨近位部骨折、橈骨遠位端骨折のリスクが高まる。
- ×c. 子宮体癌
閉経前後から増加するので本問の答えではない。子宮体癌(子宮内膜癌)の多く(類内膜癌、I型)はエストロゲン依存性である。閉経が近づくと無排卵周期が増え、黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されないままエストロゲンが内膜を刺激し続ける。閉経後も肥満女性では脂肪組織でアンドロゲンがエストロゲンに変換される。こうしたプロゲステロンの拮抗を受けないエストロゲン刺激が子宮内膜増殖症から癌への素地となり、好発年齢は50〜60歳代である。閉経後の不正性器出血は子宮体癌を疑う重要な症状である。
- ×d. 腹圧性尿失禁
閉経後に増加するので本問の答えではない。尿道の粘膜・粘膜下の血管叢や、尿道を支える骨盤底の結合組織・筋はエストロゲンの影響を受けている。閉経でエストロゲンが低下すると尿道粘膜が萎縮して尿道閉鎖圧が下がり、骨盤底の支持も弱まるため、咳・くしゃみ・重い物を持つなど腹圧がかかった際に尿が漏れやすくなる。経腟分娩の既往、肥満、加齢も危険因子である。
- ○e. 子宮頸部上皮内癌
子宮頸部上皮内癌は、HPV(特に16型、18型などの高リスク型)の持続感染によって扁平円柱上皮境界(SCJ)付近に生じる前癌病変・早期病変である。HPVは性交渉で感染し、持続感染から子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)1→2→3(上皮内癌を含む)と進行するため、好発年齢は20歳代後半〜30歳代と若い。発生にはエストロゲン欠乏が関与しておらず、閉経によって頻度が上昇する疾患ではない。
閉経後のエストロゲン欠乏で生じる変化
・短期(閉経前後の更年期): ほてり・発汗(ホットフラッシュ)などの血管運動神経症状、不眠、抑うつなどの精神症状。 ・中期: 萎縮性腟炎、性交痛、頻尿・尿失禁などの泌尿生殖器症状(閉経関連泌尿生殖器症候群、GSM)、骨盤臓器脱。 ・長期: 骨粗鬆症、脂質異常症、動脈硬化性疾患(冠動脈疾患など)。
子宮頸癌と子宮体癌の対比
・子宮頸癌: HPV感染が原因。好発年齢は30〜40歳代(上皮内癌はさらに若い)。組織型は扁平上皮癌が多い。予防にHPVワクチン、早期発見に細胞診・HPV検査による検診。 ・子宮体癌: エストロゲン依存性が多い。好発年齢は50〜60歳代。組織型は類内膜癌が多い。危険因子は肥満、未経産、糖尿病、高血圧、無排卵(多囊胞性卵巣症候群)、エストロゲン単独補充療法、タモキシフェン。
ホルモン補充療法(HRT)
子宮のある女性にエストロゲンを補充する場合は、子宮体癌の予防のため黄体ホルモンを併用する。
POINT
・閉経後のエストロゲン欠乏で増えるもの: 骨粗鬆症、脂質異常症・動脈硬化、腹圧性尿失禁、萎縮性腟炎、骨盤臓器脱。 ・子宮体癌はエストロゲン依存性で閉経前後から増える(50〜60歳代)。 ・子宮頸部上皮内癌はHPV感染が原因で、生殖年齢(20歳代後半〜30歳代)に多く、閉経とは関係しない。
