StudyMed医師国家試験

エストロゲンが去ったあとに―閉経で増える病気、増えない病気

第99回医師国家試験 E問題 第48問

国試問題にチャレンジ

第99回 E問題 第48問

閉経後に頻度が上昇しないのはどれか。

  1. a.脂質異常症
  2. b.骨粗鬆症
  3. c.子宮体癌
  4. d.腹圧性尿失禁
  5. e.子宮頸部上皮内癌

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、閉経によるエストロゲン欠乏が全身にどんな影響を与えるかを問う問題だ。「閉経後に頻度が上昇しない」ものを選ぶから、各疾患がエストロゲンとどう関わっているかを一つずつ確認していこう。まず、閉経の定義は言えるかな。
医学生医学生
最終月経から12か月以上月経がない状態で、日本の平均閉経年齢は50歳くらいだったと思います。
ドクタードクター
その通り。閉経で卵巣からのエストロゲン分泌が急に減る。エストロゲンは生殖器だけでなく、骨、脂質代謝、血管、尿道や骨盤底の支持組織など、全身の多くの臓器に作用しているんだ。だから欠乏すると、いろいろな臓器に変化が起こる。
医学生医学生
更年期というとホットフラッシュのイメージが強いですが、それ以外にも長い目で見た影響があるんですね。
ドクタードクター
そう。時間軸で整理するとわかりやすい。短期にはほてり・発汗や不眠、抑うつ。中期には萎縮性腟炎や尿失禁などの泌尿生殖器症状。長期には骨粗鬆症や脂質異常症、動脈硬化性疾患だ。では骨粗鬆症から考えよう。なぜ閉経後に増えるのかな。
医学生医学生
エストロゲンが減ると骨の代謝が落ちて、骨が作られなくなるから…でしょうか。
ドクタードクター
惜しい、そこはよくある誤解なんだ。エストロゲンは破骨細胞の分化・活性化を抑えて骨吸収をブレーキしている。閉経でそのブレーキが外れると骨吸収が骨形成を上回る「高回転型」になり、閉経後の数年で骨量が急速に失われる。代謝が落ちるのではなく、むしろ回転が速くなって削られる量が勝つんだ。
医学生医学生
なるほど、だからビスホスホネートみたいな骨吸収抑制薬が治療の中心になるんですね。整形外科の実習で大腿骨近位部骨折の高齢女性をたくさん見ました。
ドクタードクター
まさにそのつながりだ。椎体骨折、大腿骨近位部骨折、橈骨遠位端骨折のリスクが高まる。次は脂質異常症だ。
医学生医学生
エストロゲンには肝臓のLDL受容体を増やす作用があるので、閉経でLDLコレステロールが上がる、と生化学で習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。さらに加齢に伴う内臓脂肪の増加やインスリン抵抗性も重なる。閉経後の女性で冠動脈疾患が増えてくるのはこのためだ。では腹圧性尿失禁はどうだろう。
医学生医学生
出産の影響が大きいイメージで、閉経とどう関係するのかピンときません。
ドクタードクター
経腟分娩は確かに大きな危険因子だね。でも尿道の粘膜や粘膜下の血管叢、尿道を支える骨盤底の結合組織や筋もエストロゲンの影響を受けている。閉経で尿道粘膜が萎縮して尿道閉鎖圧が下がり、骨盤底の支持も弱まるから、咳やくしゃみで漏れやすくなるんだ。骨盤臓器脱が増えるのも同じ背景だよ。
医学生医学生
そうすると、子宮体癌はエストロゲン依存性なのに閉経後に増えるのは、ちょっと矛盾しているように感じます。
ドクタードクター
いい疑問だ。カギは「プロゲステロンの拮抗を受けないエストロゲン刺激」なんだ。閉経が近づくと無排卵周期が増えて、黄体ホルモンが出ないままエストロゲンが内膜を刺激し続ける。閉経後も肥満の女性では脂肪組織でアンドロゲンがエストロゲンに変換される。この刺激が子宮内膜増殖症から癌への素地となり、好発は50〜60歳代になる。閉経後の不正性器出血は子宮体癌を疑う重要なサインだ。
医学生医学生
エストロゲンの量より、ブレーキ役のプロゲステロンがないことが問題なんですね。ということは、残る子宮頸部上皮内癌が答えでしょうか。
ドクタードクター
正解。子宮頸部上皮内癌は、高リスク型HPV、特に16型や18型の持続感染によって扁平円柱上皮境界付近に生じる病変だ。HPVは性交渉で感染し、CIN1から2、3へと時間をかけて進むから、好発は20歳代後半〜30歳代と若い。エストロゲン欠乏とは関係しないので、閉経で頻度が上がる疾患ではないんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、HPVワクチンと子宮頸がん検診が20歳から推奨されていると習ったのも、若い世代に多いからなんですね。
ドクタードクター
その通り。子宮頸癌はHPVが原因で若年に多く扁平上皮癌が主体、子宮体癌はエストロゲン依存性で50〜60歳代に多く類内膜癌が主体。この対比は試験でも臨床でも必須だよ。最後に臨床での注意点として、ホルモン補充療法にも触れておこう。子宮のある女性にエストロゲンを補充するときは、必ず黄体ホルモンを併用する。
医学生医学生
エストロゲン単独だと、さっきの「拮抗されないエストロゲン刺激」になって子宮体癌のリスクが上がるからですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。閉経後の女性を診るときは、更年期症状だけでなく、骨密度や脂質、排尿の悩み、不正出血の有無まで意識して聞くことが大切だよ。

まとめ

閉経に伴うエストロゲン欠乏は、骨吸収の亢進による骨粗鬆症、肝臓のLDL受容体減少などによる脂質異常症・動脈硬化性疾患、尿道粘膜の萎縮と骨盤底の脆弱化による腹圧性尿失禁や骨盤臓器脱など、全身に多彩な変化をもたらします。子宮体癌はプロゲステロンの拮抗を受けないエストロゲン刺激を背景に、閉経前後から増えて50〜60歳代に好発し、閉経後の不正性器出血が重要な症状です。一方、子宮頸部上皮内癌は高リスク型HPVの持続感染が原因で20歳代後半〜30歳代に多く、閉経とは直接関係しません。子宮のある女性へのホルモン補充療法では黄体ホルモンの併用が必要であることも、同じ機序から理解できます。エストロゲンの作用を臓器ごとに整理しておくと、更年期以降の女性の健康管理を包括的に考える力が身につきます。

解答・解説

正解はeです

閉経に伴うエストロゲン欠乏が、全身にどのような変化をもたらすかを問う問題である。

考え方

閉経(最終月経から12か月以上月経がない状態。わが国の平均閉経年齢は約50歳)により卵巣からのエストロゲン分泌が急減する。エストロゲンは生殖器だけでなく、骨、脂質代謝、血管、泌尿生殖器の粘膜や骨盤底の支持組織など多くの臓器に作用しているため、その欠乏は次のような変化につながる。 ・骨: 骨吸収が亢進し、骨量が急速に減る → 骨粗鬆症 ・脂質: LDLコレステロールが上昇する → 脂質異常症、動脈硬化性疾患 ・泌尿生殖器・骨盤底: 尿道粘膜の萎縮、骨盤底支持組織の脆弱化 → 腹圧性尿失禁、骨盤臓器脱、萎縮性腟炎 また子宮体癌は、閉経前後にプロゲステロンの拮抗を受けないエストロゲン刺激が続くことを背景に、50〜60歳代に好発する。 一方、子宮頸部の上皮内癌はヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染が原因であり、性交渉によるHPV感染から時間を経て生じるため、30歳代を中心とした生殖年齢に多い。閉経によるホルモン変化とは直接関係しないため、これが「頻度が上昇しない」ものにあたる。

選択肢考察

  1. ×a.  脂質異常症

    閉経後に増加するので本問の答えではない。エストロゲンには肝臓のLDL受容体の発現を高めてLDLコレステロールを血中から取り込ませる作用がある。閉経でこの作用が失われると、LDLコレステロールと総コレステロールが上昇する。加えて、加齢に伴う内臓脂肪の増加、インスリン抵抗性(耐糖能低下)、運動量の減少によるエネルギー過剰、卵巣でのステロイドホルモン合成に使われていたコレステロール需要の減少も関与する。閉経後女性で冠動脈疾患が増えるのはこのためである。

  2. ×b.  骨粗鬆症

    閉経後に増加するので本問の答えではない。エストロゲンは破骨細胞の分化・活性化を抑え、骨吸収を抑制している。閉経でエストロゲンが減ると骨吸収が骨形成を上回る高回転型の骨代謝となり、特に閉経後数年間に骨量が急速に失われる。これが閉経後骨粗鬆症であり、椎体骨折、大腿骨近位部骨折、橈骨遠位端骨折のリスクが高まる。

  3. ×c.  子宮体癌

    閉経前後から増加するので本問の答えではない。子宮体癌(子宮内膜癌)の多く(類内膜癌、I型)はエストロゲン依存性である。閉経が近づくと無排卵周期が増え、黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されないままエストロゲンが内膜を刺激し続ける。閉経後も肥満女性では脂肪組織でアンドロゲンがエストロゲンに変換される。こうしたプロゲステロンの拮抗を受けないエストロゲン刺激が子宮内膜増殖症から癌への素地となり、好発年齢は50〜60歳代である。閉経後の不正性器出血は子宮体癌を疑う重要な症状である。

  4. ×d.  腹圧性尿失禁

    閉経後に増加するので本問の答えではない。尿道の粘膜・粘膜下の血管叢や、尿道を支える骨盤底の結合組織・筋はエストロゲンの影響を受けている。閉経でエストロゲンが低下すると尿道粘膜が萎縮して尿道閉鎖圧が下がり、骨盤底の支持も弱まるため、咳・くしゃみ・重い物を持つなど腹圧がかかった際に尿が漏れやすくなる。経腟分娩の既往、肥満、加齢も危険因子である。

  5. ○e.  子宮頸部上皮内癌

    子宮頸部上皮内癌は、HPV(特に16型、18型などの高リスク型)の持続感染によって扁平円柱上皮境界(SCJ)付近に生じる前癌病変・早期病変である。HPVは性交渉で感染し、持続感染から子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)1→2→3(上皮内癌を含む)と進行するため、好発年齢は20歳代後半〜30歳代と若い。発生にはエストロゲン欠乏が関与しておらず、閉経によって頻度が上昇する疾患ではない。

閉経後のエストロゲン欠乏で生じる変化

・短期(閉経前後の更年期): ほてり・発汗(ホットフラッシュ)などの血管運動神経症状、不眠、抑うつなどの精神症状。 ・中期: 萎縮性腟炎、性交痛、頻尿・尿失禁などの泌尿生殖器症状(閉経関連泌尿生殖器症候群、GSM)、骨盤臓器脱。 ・長期: 骨粗鬆症、脂質異常症、動脈硬化性疾患(冠動脈疾患など)。

子宮頸癌と子宮体癌の対比

・子宮頸癌: HPV感染が原因。好発年齢は30〜40歳代(上皮内癌はさらに若い)。組織型は扁平上皮癌が多い。予防にHPVワクチン、早期発見に細胞診・HPV検査による検診。 ・子宮体癌: エストロゲン依存性が多い。好発年齢は50〜60歳代。組織型は類内膜癌が多い。危険因子は肥満、未経産、糖尿病、高血圧、無排卵(多囊胞性卵巣症候群)、エストロゲン単独補充療法、タモキシフェン。

ホルモン補充療法(HRT)

子宮のある女性にエストロゲンを補充する場合は、子宮体癌の予防のため黄体ホルモンを併用する。

POINT

・閉経後のエストロゲン欠乏で増えるもの: 骨粗鬆症、脂質異常症・動脈硬化、腹圧性尿失禁、萎縮性腟炎、骨盤臓器脱。 ・子宮体癌はエストロゲン依存性で閉経前後から増える(50〜60歳代)。 ・子宮頸部上皮内癌はHPV感染が原因で、生殖年齢(20歳代後半〜30歳代)に多く、閉経とは関係しない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。