皮膚炎・下痢・認知症―「役割」から逆算するビタミン・微量元素の欠乏症
第99回医師国家試験 D問題 第72問
国試問題にチャレンジ
ビタミン・微量元素と欠乏症状の組合せで正しいのはどれか。
- a.アスコルビン酸 ―― 血栓症
- b.ニコチン酸 ―― 下痢
- c.葉酸 ―― 赤血球増加症
- d.マグネシウム ―― 味覚障害
- e.燐 ―― 糖尿病
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ビタミン・微量元素の欠乏症は、その栄養素の体内での役割から考えると整理しやすくなります。ニコチン酸(ナイアシン)はNAD・NADPとして酸化還元反応を担い、欠乏すると皮膚炎・下痢・認知症の3徴を示すペラグラとなるため、「ニコチン酸―下痢」が正しい組合せです。ビタミンC欠乏はコラーゲン合成障害による出血傾向(壊血病)、葉酸欠乏はDNA合成障害による巨赤芽球性貧血、味覚障害は亜鉛欠乏、マグネシウム欠乏はテタニー・不整脈と低カルシウム・低カリウム血症、リン欠乏は骨軟化症・くる病や急性の筋力低下・溶血が代表です。ペラグラはトリプトファン代謝と関わるためカルチノイド症候群やHartnup病でも起こる点、リフィーディング症候群で電解質が急低下する点も押さえておきましょう。役割と欠乏症状を結びつけて理解しておくことは、低栄養やアルコール依存症の患者を診る際の総合的な栄養評価に直結します。
解答・解説
正解はbです
問われていること
ビタミン・微量元素(ミネラル)それぞれについて、生体内での役割と、欠乏したときに現れる代表的な症状を対応づけられるかが問われている。
考え方
欠乏症は「その栄養素が体内で何をしているか」から考えると整理しやすい。 ・ビタミンC(アスコルビン酸):コラーゲン合成に必要 → 欠乏で血管がもろくなり出血する(壊血病)。 ・ナイアシン(ニコチン酸):NAD・NADPとして酸化還元反応の補酵素 → 代謝の盛んな皮膚・消化管・神経が障害される(ペラグラ)。 ・葉酸:核酸(DNA)合成の補酵素 → 分裂の盛んな造血細胞が障害される(巨赤芽球性貧血)。 ・マグネシウム:多くの酵素反応やイオンチャネルの調節に関与 → 神経筋の興奮性亢進や不整脈。 ・リン:骨の構成成分であり、ATPなどのエネルギー代謝にも必須 → 骨軟化症・くる病、筋力低下など。 このように整理すると、ニコチン酸欠乏によるペラグラの3徴の一つである下痢が、正しい組合せであるとわかる。ほかの選択肢は、欠乏症状として本来とは逆の現象(出血ではなく血栓、貧血ではなく赤血球増加)や、別の元素の欠乏症状(味覚障害は亜鉛)、関連の乏しい疾患(糖尿病)が組み合わされている。
選択肢考察
- ×a. アスコルビン酸 ―― 血栓症
誤り。アスコルビン酸(ビタミンC)は、コラーゲンのプロリン・リシン残基を水酸化する酵素の補因子として働き、血管壁・骨・軟骨・歯の結合組織を形成するのに不可欠である。欠乏するとコラーゲンが不安定になって血管が脆弱化し、歯肉出血、皮下出血(紫斑、毛包周囲の点状出血)、関節内出血、創傷治癒の遅延などを示す壊血病となる。小児では骨の発育障害(Möller-Barlow病)もみられる。欠乏症状は出血傾向であり、血栓症ではない。
- ○b. ニコチン酸 ―― 下痢
正しい組合せである。ニコチン酸(ナイアシン)は体内でNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)やNADPとなり、多くの脱水素酵素の補酵素として酸化還元反応を担う。欠乏するとペラグラを生じ、皮膚炎(dermatitis:日光露出部の対称性の紅斑・色素沈着)、下痢(diarrhea)、認知症(dementia:精神神経症状)の3徴(3D)を呈し、放置すれば死(death)に至る(4Dとも呼ばれる)。ナイアシンは必須アミノ酸のトリプトファンからも合成されるため、トウモロコシを主食とする地域、アルコール依存症、トリプトファンが腫瘍に消費されるカルチノイド症候群、トリプトファンの吸収障害をきたすHartnup病、イソニアジドの長期投与などが原因となる。
- ×c. 葉酸 ―― 赤血球増加症
誤り。葉酸は核酸(プリン塩基やチミジル酸)合成に必要な一炭素単位の運搬を担う補酵素である。欠乏すると細胞分裂の盛んな骨髄の赤芽球でDNA合成が障害され、核の成熟が細胞質より遅れた巨赤芽球が出現し、無効造血による巨赤芽球性貧血(大球性貧血)となる。白血球・血小板も減少しうる。赤血球は増加ではなく減少する。妊娠初期の葉酸不足は胎児の神経管閉鎖障害の危険因子でもある。なお、ビタミンB12欠乏と異なり、葉酸欠乏では亜急性連合性脊髄変性症のような神経症状は通常みられない。
- ×d. マグネシウム ―― 味覚障害
誤り。味覚障害を起こす代表的な微量元素欠乏は亜鉛欠乏である(亜鉛欠乏ではほかに皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延なども生じる)。マグネシウム欠乏(低マグネシウム血症)では、神経筋の興奮性亢進によるテタニー、振戦、けいれん、筋力低下と、心室性期外収縮・心室頻拍(torsades de pointesを含む)などの不整脈がみられる。さらにPTHの分泌と作用が障害されて低カルシウム血症を、腎からのカリウム喪失により低カリウム血症を合併しやすく、マグネシウムを補わないとこれらが是正されにくい。
- ×e. 燐 ―― 糖尿病
誤り。リンの欠乏が糖尿病を引き起こすという関係はない。リンはヒドロキシアパタイトとして骨の主要な構成成分であり、またATPや赤血球の2,3-DPG(2,3-ジホスホグリセリン酸)などにも含まれる。慢性的な欠乏では骨の石灰化が障害され、成人では骨軟化症、小児ではくる病を生じる。急性の高度な低リン血症(リフィーディング症候群などで起こる)では、筋力低下、横紋筋融解、呼吸筋障害、溶血、意識障害などがみられる。電解質異常で耐糖能障害をきたすものとしては、インスリン分泌が低下する低カリウム血症がよく知られている。
主なビタミン欠乏症
・ビタミンA:夜盲症、眼球乾燥症、角膜軟化症 ・ビタミンB1(チアミン):脚気(末梢神経障害、高拍出性心不全)、Wernicke脳症、乳酸アシドーシス ・ビタミンB2(リボフラビン):口角炎、口唇炎、舌炎、脂漏性皮膚炎 ・ナイアシン(ニコチン酸):ペラグラ(皮膚炎・下痢・認知症) ・ビタミンB6(ピリドキシン):末梢神経障害、口内炎、けいれん(乳児)、鉄芽球性貧血 ・ビタミンB12:巨赤芽球性貧血、亜急性連合性脊髄変性症、Hunter舌炎 ・葉酸:巨赤芽球性貧血、胎児の神経管閉鎖障害 ・ビタミンC:壊血病(出血傾向、歯肉出血、創傷治癒遅延) ・ビタミンD:くる病(小児)、骨軟化症(成人) ・ビタミンK:出血傾向(新生児メレナ、頭蓋内出血)
主なミネラル・微量元素欠乏症
・鉄:小球性低色素性貧血、匙状爪、異食症 ・亜鉛:味覚障害、皮膚炎(腸性肢端皮膚炎)、脱毛、創傷治癒遅延、性腺機能低下 ・銅:貧血、好中球減少、骨病変(Menkes病は銅輸送の先天異常) ・セレン:心筋症(克山病)、筋症状 ・ヨウ素:甲状腺腫、甲状腺機能低下症 ・マグネシウム:テタニー、不整脈、低カルシウム血症・低カリウム血症の合併 ・リン:骨軟化症・くる病、急性では筋力低下・溶血・呼吸不全
ペラグラの原因
食事性(トウモロコシ主食)、アルコール依存症、カルチノイド症候群、Hartnup病、イソニアジド投与など。
POINT
・ナイアシン(ニコチン酸)欠乏=ペラグラ:皮膚炎・下痢・認知症の3D。 ・ビタミンC欠乏は壊血病(出血傾向)で、血栓症ではない。 ・葉酸欠乏は巨赤芽球性貧血で、赤血球は減る。 ・味覚障害は亜鉛欠乏。マグネシウム欠乏はテタニー・不整脈、低Ca・低K血症の合併。 ・リン欠乏は骨軟化症・くる病。耐糖能障害と結びつく電解質異常は低カリウム血症。
