StudyMed医師国家試験

皮膚炎・下痢・認知症―「役割」から逆算するビタミン・微量元素の欠乏症

第99回医師国家試験 D問題 第72問

国試問題にチャレンジ

第99回 D問題 第72問

ビタミン・微量元素と欠乏症状の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.アスコルビン酸 ―― 血栓症
  2. b.ニコチン酸 ―― 下痢
  3. c.葉酸 ―― 赤血球増加症
  4. d.マグネシウム ―― 味覚障害
  5. e.燐 ―― 糖尿病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はビタミンや微量元素と、その欠乏症状の組合せを問う問題だ。丸暗記で挑むと混乱しやすいけれど、「その栄養素が体内で何をしているか」から考えると欠乏症は自然に導ける。この視点で一つずつ見ていこう。
医学生医学生
生化学の講義で補酵素の表を必死に覚えましたが、欠乏症と結びつけるのは苦手でした。
ドクタードクター
それなら今回はいい練習になるよ。まずアスコルビン酸、つまりビタミンCから。体内での役割は何だったかな。
医学生医学生
コラーゲン合成に必要だったと思います。プロリンの水酸化でしたっけ。
ドクタードクター
その通り。プロリンやリシン残基を水酸化する酵素の補因子として働き、血管壁や骨、歯の結合組織を支えている。欠乏するとコラーゲンが不安定になって血管がもろくなるから、何が起こる?
医学生医学生
血管が弱くなるなら……出血しやすくなる、つまり壊血病ですね。血栓症とは逆です。
ドクタードクター
そうだね。歯肉出血、毛包周囲の点状出血、関節内出血、創傷治癒の遅延が典型で、小児では骨の発育障害であるMöller-Barlow病も起こる。欠乏症状は出血傾向で、血栓症ではない。次にニコチン酸、ナイアシンはどうかな。
医学生医学生
NADやNADPになって、酸化還元反応の補酵素として働くんでしたよね。
ドクタードクター
正解。代謝の盛んな皮膚、消化管、神経が障害されてペラグラになる。皮膚炎、下痢、認知症の3徴、英語の頭文字をとって3D、放置すると死に至るので4Dとも呼ばれる。だから「ニコチン酸と下痢」は正しい組合せだ。
医学生医学生
皮膚炎は日光の当たるところに出るんでしたよね。皮膚科の実習で写真を見せてもらいました。
ドクタードクター
そう、日光露出部に対称性の紅斑や色素沈着が出る。ちなみにナイアシンは必須アミノ酸のトリプトファンからも合成されるんだ。だからトウモロコシ主食の地域、アルコール依存症に加えて、腫瘍がトリプトファンを消費するカルチノイド症候群、トリプトファンの吸収障害を起こすHartnup病、イソニアジドの長期投与でも起こりうる。
医学生医学生
カルチノイドでペラグラが起こるのは意外でした。セロトニンの材料にトリプトファンが取られてしまうんですね。
ドクタードクター
その理解でいいよ。では葉酸。赤血球増加症という組合せはどう思う?
医学生医学生
葉酸欠乏は巨赤芽球性貧血なので、赤血球はむしろ減ります。増加は逆ですね。
ドクタードクター
その通り。葉酸は核酸合成で一炭素単位を運ぶ補酵素だから、分裂の盛んな骨髄の赤芽球でDNA合成が障害される。核の成熟が細胞質より遅れて巨赤芽球になり、無効造血で大球性貧血となる。白血球や血小板も減りうる。妊娠初期の不足が胎児の神経管閉鎖障害のリスクになる点も重要だね。
医学生医学生
ビタミンB12欠乏とは神経症状の有無が違うと血液内科で習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。B12欠乏では亜急性連合性脊髄変性症を起こしうるけれど、葉酸欠乏では通常みられない。次はマグネシウムと味覚障害だ。
医学生医学生
味覚障害といえば亜鉛のイメージがあります。マグネシウムは違う気がします。
ドクタードクター
正しい直感だ。味覚障害の代表的な原因は亜鉛欠乏で、皮膚炎や脱毛、創傷治癒遅延も伴う。マグネシウム欠乏では神経筋の興奮性が高まってテタニー、振戦、けいれんが起き、torsades de pointesを含む不整脈も出る。さらにPTHの分泌と作用が障害されて低カルシウム血症、腎からのカリウム喪失で低カリウム血症を合併しやすい。
医学生医学生
低カリウム血症がなかなか補正できないときは、マグネシウムを測れということですね。
ドクタードクター
まさに臨床で大事なポイントだ。マグネシウムを補わないとカルシウムもカリウムも是正されにくい。最後に燐と糖尿病。
医学生医学生
リン欠乏で糖尿病というのは聞いたことがありません。骨の成分なので、骨軟化症のほうが思い浮かびます。
ドクタードクター
その通り。リンはヒドロキシアパタイトとして骨を作り、ATPや赤血球の2,3-DPGにも含まれる。慢性の欠乏では成人で骨軟化症、小児でくる病。急性の高度な低リン血症は、リフィーディング症候群などで起こり、筋力低下、横紋筋融解、呼吸筋障害、溶血、意識障害を招く。耐糖能異常と結びつく電解質異常としては、インスリン分泌が落ちる低カリウム血症のほうが知られているね。
医学生医学生
結局、正しいのはニコチン酸と下痢の組合せですね。ほかは症状が逆だったり、別の元素の症状だったり、関係のない病気だったりしました。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。最後に臨床の話をしておこう。長期の絶食や低栄養の患者さんに栄養を再開するとき、リンやカリウム、マグネシウムが急低下するリフィーディング症候群には特に注意が必要で、ビタミンB1の補充も忘れてはいけない。アルコール依存症の患者さんではB1、ナイアシン、葉酸、マグネシウムなどが複合的に不足していることが多いから、一つの欠乏を見つけたら他も疑う習慣をつけておこう。

まとめ

ビタミン・微量元素の欠乏症は、その栄養素の体内での役割から考えると整理しやすくなります。ニコチン酸(ナイアシン)はNAD・NADPとして酸化還元反応を担い、欠乏すると皮膚炎・下痢・認知症の3徴を示すペラグラとなるため、「ニコチン酸―下痢」が正しい組合せです。ビタミンC欠乏はコラーゲン合成障害による出血傾向(壊血病)、葉酸欠乏はDNA合成障害による巨赤芽球性貧血、味覚障害は亜鉛欠乏、マグネシウム欠乏はテタニー・不整脈と低カルシウム・低カリウム血症、リン欠乏は骨軟化症・くる病や急性の筋力低下・溶血が代表です。ペラグラはトリプトファン代謝と関わるためカルチノイド症候群やHartnup病でも起こる点、リフィーディング症候群で電解質が急低下する点も押さえておきましょう。役割と欠乏症状を結びつけて理解しておくことは、低栄養やアルコール依存症の患者を診る際の総合的な栄養評価に直結します。

解答・解説

正解はbです

問われていること

ビタミン・微量元素(ミネラル)それぞれについて、生体内での役割と、欠乏したときに現れる代表的な症状を対応づけられるかが問われている。

考え方

欠乏症は「その栄養素が体内で何をしているか」から考えると整理しやすい。 ・ビタミンC(アスコルビン酸):コラーゲン合成に必要 → 欠乏で血管がもろくなり出血する(壊血病)。 ・ナイアシン(ニコチン酸):NAD・NADPとして酸化還元反応の補酵素 → 代謝の盛んな皮膚・消化管・神経が障害される(ペラグラ)。 ・葉酸:核酸(DNA)合成の補酵素 → 分裂の盛んな造血細胞が障害される(巨赤芽球性貧血)。 ・マグネシウム:多くの酵素反応やイオンチャネルの調節に関与 → 神経筋の興奮性亢進や不整脈。 ・リン:骨の構成成分であり、ATPなどのエネルギー代謝にも必須 → 骨軟化症・くる病、筋力低下など。 このように整理すると、ニコチン酸欠乏によるペラグラの3徴の一つである下痢が、正しい組合せであるとわかる。ほかの選択肢は、欠乏症状として本来とは逆の現象(出血ではなく血栓、貧血ではなく赤血球増加)や、別の元素の欠乏症状(味覚障害は亜鉛)、関連の乏しい疾患(糖尿病)が組み合わされている。

選択肢考察

  1. ×a.  アスコルビン酸 ―― 血栓症

    誤り。アスコルビン酸(ビタミンC)は、コラーゲンのプロリン・リシン残基を水酸化する酵素の補因子として働き、血管壁・骨・軟骨・歯の結合組織を形成するのに不可欠である。欠乏するとコラーゲンが不安定になって血管が脆弱化し、歯肉出血、皮下出血(紫斑、毛包周囲の点状出血)、関節内出血、創傷治癒の遅延などを示す壊血病となる。小児では骨の発育障害(Möller-Barlow病)もみられる。欠乏症状は出血傾向であり、血栓症ではない。

  2. ○b.  ニコチン酸 ―― 下痢

    正しい組合せである。ニコチン酸(ナイアシン)は体内でNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)やNADPとなり、多くの脱水素酵素の補酵素として酸化還元反応を担う。欠乏するとペラグラを生じ、皮膚炎(dermatitis:日光露出部の対称性の紅斑・色素沈着)、下痢(diarrhea)、認知症(dementia:精神神経症状)の3徴(3D)を呈し、放置すれば死(death)に至る(4Dとも呼ばれる)。ナイアシンは必須アミノ酸のトリプトファンからも合成されるため、トウモロコシを主食とする地域、アルコール依存症、トリプトファンが腫瘍に消費されるカルチノイド症候群、トリプトファンの吸収障害をきたすHartnup病、イソニアジドの長期投与などが原因となる。

  3. ×c.  葉酸 ―― 赤血球増加症

    誤り。葉酸は核酸(プリン塩基やチミジル酸)合成に必要な一炭素単位の運搬を担う補酵素である。欠乏すると細胞分裂の盛んな骨髄の赤芽球でDNA合成が障害され、核の成熟が細胞質より遅れた巨赤芽球が出現し、無効造血による巨赤芽球性貧血(大球性貧血)となる。白血球・血小板も減少しうる。赤血球は増加ではなく減少する。妊娠初期の葉酸不足は胎児の神経管閉鎖障害の危険因子でもある。なお、ビタミンB12欠乏と異なり、葉酸欠乏では亜急性連合性脊髄変性症のような神経症状は通常みられない。

  4. ×d.  マグネシウム ―― 味覚障害

    誤り。味覚障害を起こす代表的な微量元素欠乏は亜鉛欠乏である(亜鉛欠乏ではほかに皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延なども生じる)。マグネシウム欠乏(低マグネシウム血症)では、神経筋の興奮性亢進によるテタニー、振戦、けいれん、筋力低下と、心室性期外収縮・心室頻拍(torsades de pointesを含む)などの不整脈がみられる。さらにPTHの分泌と作用が障害されて低カルシウム血症を、腎からのカリウム喪失により低カリウム血症を合併しやすく、マグネシウムを補わないとこれらが是正されにくい。

  5. ×e.  燐 ―― 糖尿病

    誤り。リンの欠乏が糖尿病を引き起こすという関係はない。リンはヒドロキシアパタイトとして骨の主要な構成成分であり、またATPや赤血球の2,3-DPG(2,3-ジホスホグリセリン酸)などにも含まれる。慢性的な欠乏では骨の石灰化が障害され、成人では骨軟化症、小児ではくる病を生じる。急性の高度な低リン血症(リフィーディング症候群などで起こる)では、筋力低下、横紋筋融解、呼吸筋障害、溶血、意識障害などがみられる。電解質異常で耐糖能障害をきたすものとしては、インスリン分泌が低下する低カリウム血症がよく知られている。

主なビタミン欠乏症

・ビタミンA:夜盲症、眼球乾燥症、角膜軟化症 ・ビタミンB1(チアミン):脚気(末梢神経障害、高拍出性心不全)、Wernicke脳症、乳酸アシドーシス ・ビタミンB2(リボフラビン):口角炎、口唇炎、舌炎、脂漏性皮膚炎 ・ナイアシン(ニコチン酸):ペラグラ(皮膚炎・下痢・認知症) ・ビタミンB6(ピリドキシン):末梢神経障害、口内炎、けいれん(乳児)、鉄芽球性貧血 ・ビタミンB12:巨赤芽球性貧血、亜急性連合性脊髄変性症、Hunter舌炎 ・葉酸:巨赤芽球性貧血、胎児の神経管閉鎖障害 ・ビタミンC:壊血病(出血傾向、歯肉出血、創傷治癒遅延) ・ビタミンD:くる病(小児)、骨軟化症(成人) ・ビタミンK:出血傾向(新生児メレナ、頭蓋内出血)

主なミネラル・微量元素欠乏症

・鉄:小球性低色素性貧血、匙状爪、異食症 ・亜鉛:味覚障害、皮膚炎(腸性肢端皮膚炎)、脱毛、創傷治癒遅延、性腺機能低下 ・銅:貧血、好中球減少、骨病変(Menkes病は銅輸送の先天異常) ・セレン:心筋症(克山病)、筋症状 ・ヨウ素:甲状腺腫、甲状腺機能低下症 ・マグネシウム:テタニー、不整脈、低カルシウム血症・低カリウム血症の合併 ・リン:骨軟化症・くる病、急性では筋力低下・溶血・呼吸不全

ペラグラの原因

食事性(トウモロコシ主食)、アルコール依存症、カルチノイド症候群、Hartnup病、イソニアジド投与など。

POINT

・ナイアシン(ニコチン酸)欠乏=ペラグラ:皮膚炎・下痢・認知症の3D。 ・ビタミンC欠乏は壊血病(出血傾向)で、血栓症ではない。 ・葉酸欠乏は巨赤芽球性貧血で、赤血球は減る。 ・味覚障害は亜鉛欠乏。マグネシウム欠乏はテタニー・不整脈、低Ca・低K血症の合併。 ・リン欠乏は骨軟化症・くる病。耐糖能障害と結びつく電解質異常は低カリウム血症。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。