脳死でも膝は跳ねる―「反射の中枢はどこか」で解く脳死判定基準
第99回医師国家試験 D問題 第74問
国試問題にチャレンジ
脳死判定基準に含まれないのはどれか。
- a.咳反射消失
- b.対光反射消失
- c.角膜反射消失
- d.前庭反射消失
- e.深部(腱)反射消失
対話形式の解説
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ドクターまとめ
日本の脳死は脳幹を含む全脳の不可逆的な機能停止(全脳死)であり、判定では深昏睡、瞳孔固定・散大(左右4mm以上)、7つの脳幹反射(対光・角膜・毛様脊髄・眼球頭・前庭・咽頭・咳)の消失、平坦脳波、自発呼吸の消失(無呼吸テストは最後)を確認します。咳反射は延髄、対光反射は中脳、角膜反射は橋、前庭反射は橋・中脳を中枢とする脳幹反射なので判定項目に含まれます。一方、深部腱反射は脊髄に中枢をもつ反射で脳死でも残存しうるため判定基準に含まれず、脊髄自動反射(Lazarus徴候)がみられても脳死は否定されません。2回目の判定は6時間以上(6歳未満は24時間以上)あけて行い、その終了時刻が死亡時刻となります。「反射の中枢がどこにあるか」で考える姿勢は、脳死判定の理解だけでなく、ご家族への説明や神経診察全般の土台になります。
解答・解説
正解はeです
脳死とは
日本では脳死を「脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止した状態」(全脳死)と定義している。したがって脳死判定では、大脳の機能停止(深昏睡、平坦脳波)と、脳幹の機能停止(瞳孔の固定・散大、脳幹反射の消失、自発呼吸の消失)を確認する。一方、脊髄は脳の外にある中枢神経であり、脳が機能を失っても脊髄の反射弓は保たれうるため、脊髄の機能は判定の対象にならない。
判定の対象となる反射
脳幹反射は、求心路・反射中枢・遠心路が脳幹(中脳・橋・延髄)にある反射である。法的脳死判定では、対光反射、角膜反射、毛様脊髄反射、眼球頭反射、前庭反射、咽頭反射、咳反射の7つすべての消失を確認する。
本問の考え方
選択肢のうち、咳反射・対光反射・角膜反射・前庭反射はいずれも上記の脳幹反射であり、判定項目に含まれる。深部(腱)反射は反射中枢が脊髄にある脊髄反射であり、脳死でも残存しうるため、判定基準には含まれない。「反射中枢がどこにあるか」で判断するのが要点である。
選択肢考察
- ×a. 咳反射消失
脳死判定基準に含まれる。咳反射は、気管内に吸引カテーテルを挿入して気管・気管支粘膜を刺激し、咳が出るかどうかをみる。求心路・遠心路ともに迷走神経(X)で、反射中枢は延髄にある。延髄の機能を評価する脳幹反射の一つである。
- ×b. 対光反射消失
脳死判定基準に含まれる。対光反射は瞳孔に光を当てたときの縮瞳をみる反射で、求心路は視神経(II)、中枢は中脳(視蓋前域からEdinger-Westphal核)、遠心路は動眼神経(III)の副交感線維である。中脳の機能を評価する脳幹反射である。なお判定基準では、これとは別に「瞳孔固定・瞳孔径が左右とも4mm以上」であることも確認する。
- ×c. 角膜反射消失
脳死判定基準に含まれる。角膜反射は綿棒などで角膜に触れたときに瞬目(閉眼)が起こるかをみる反射で、求心路は三叉神経(V)、遠心路は顔面神経(VII)であり、反射中枢は橋にある。橋の機能を評価する脳幹反射である。
- ×d. 前庭反射消失
脳死判定基準に含まれる。前庭反射は、外耳道に冷水を注入して前庭(内耳)を刺激し、眼球の偏位(前庭眼反射)が起こるかをみる(カロリックテスト)。求心路は内耳神経(VIII)、反射経路は橋・中脳を通り、動眼神経(III)・外転神経(VI)を介して眼球が動く。事前に鼓膜損傷がないことを確認して行う。
- ○e. 深部(腱)反射消失
脳死判定基準に含まれない。膝蓋腱反射やアキレス腱反射などの深部腱反射は、筋紡錘からの求心性線維が脊髄前角の運動ニューロンに直接つながる単シナプス反射であり、反射中枢は脊髄にある。脳が機能を失っても脊髄の反射弓は保たれるため、脳死状態でも腱反射や、刺激に応じて四肢が動く脊髄自動反射(Lazarus徴候など)がみられることがある。したがって腱反射の有無は脳死の判断に用いず、これが残っていても脳死判定は妨げられない。
法的脳死判定の概要(臓器移植法に基づく)
1. 前提条件 ・器質的脳障害により深昏睡かつ無呼吸(人工呼吸管理下)であること ・原疾患が確実に診断されていること ・あらゆる適切な治療を行っても回復の可能性がないこと 2. 除外例 ・急性薬物中毒、代謝・内分泌障害による昏睡 ・低体温(深部温32℃未満。6歳未満では35℃未満) ・収縮期血圧が基準未満の低血圧 ・生後12週未満(在胎週数40週未満では出産予定日から起算) ・知的障害者など本人の意思表示が有効でない可能性がある者、虐待を受けた疑いのある18歳未満の児童 など 3. 判定項目(すべてを満たす) ・深昏睡(JCS 300、GCS 3) ・瞳孔固定、瞳孔径が左右とも4mm以上 ・脳幹反射の消失:対光反射、角膜反射、毛様脊髄反射、眼球頭反射、前庭反射、咽頭反射、咳反射 ・平坦脳波(脳波上の電気的無活動) ・自発呼吸の消失(無呼吸テスト:PaCO2が60mmHg以上に上昇しても自発呼吸がない。項目の中で最後に行う) 4. 判定間隔 ・1回目の判定から6時間以上(6歳未満では24時間以上)経過した後に2回目を行い、2回目の判定終了時刻を死亡時刻とする。 ・判定は脳死判定に経験のある2名以上の医師(移植に関わる医師は除く)が行う。
脳幹反射と反射中枢の対応
・対光反射:中脳(II→III) ・角膜反射:橋(V→VII) ・毛様脊髄反射:頸部の痛み刺激で散瞳(交感神経経路) ・眼球頭反射(人形の目現象):橋・中脳 ・前庭反射(カロリックテスト):橋・中脳(VIII→III、VI) ・咽頭反射:延髄(IX→X) ・咳反射:延髄(X→X)
植物状態との違い
植物状態は大脳の機能が広く失われているが脳幹機能は保たれ、自発呼吸があることが多い。脳死は脳幹を含む全脳の機能停止であり、自発呼吸がない点で区別される。
POINT
・脳死=脳幹を含む全脳の不可逆的機能停止(全脳死)。 ・判定項目:深昏睡、瞳孔固定・散大(左右4mm以上)、脳幹反射7つの消失、平坦脳波、自発呼吸の消失(無呼吸テストは最後)。 ・脳幹反射7つ:対光・角膜・毛様脊髄・眼球頭・前庭・咽頭・咳。 ・深部腱反射などの脊髄反射は判定に含まれず、脳死でも残存しうる。 ・2回目の判定は6時間以上後(6歳未満は24時間以上後)。
