「足りない」のか「効かない」のか―ホルモン不応症を見抜く一本の物差し
第99回医師国家試験 D問題 第71問
国試問題にチャレンジ
ホルモン不応症でないのはどれか。2つ選べ。
- a.腎性尿崩症
- b.1型糖尿病
- c.Klinefelter症候群
- d.精巣性女性化症候群
- e.偽性副甲状腺機能低下症
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
ホルモン不応症とは、ホルモンは十分に分泌されているのに、受容体や受容体以降の情報伝達、チャネルなど標的細胞側の異常によって作用が発揮されない病態で、血中ホルモンは正常〜高値となり補充しても効果が乏しいのが特徴です。腎性尿崩症(バソプレシン不応)、偽性副甲状腺機能低下症(主にGsα異常によるPTH不応)、精巣性女性化症候群=完全型アンドロゲン不応症は代表的な不応症です。一方、1型糖尿病は自己免疫によるβ細胞破壊でインスリンが欠乏する病態、Klinefelter症候群は精巣自体の機能不全によるテストステロン欠乏であり、いずれも補充療法が有効な欠乏症です。甲状腺ホルモン不応症やLaron型低身長症、インスリン受容体異常症なども同じ枠組みで整理できます。「足りないのか、効かないのか」をホルモン本体と上位ホルモンの値から判断する考え方は、内分泌疾患全般の検査解釈の基礎になります。
解答・解説
正解はb, cです
ホルモン不応症とは
ホルモン不応症(ホルモン抵抗症)とは、ホルモンは十分に(しばしば過剰に)分泌されているにもかかわらず、標的細胞の側に異常があるためにホルモン作用が発揮されない病態である。原因は、受容体そのものの異常、受容体より下流の細胞内情報伝達(Gタンパク、セカンドメッセンジャーなど)の異常、作用を実行する分子(チャネルなど)の異常に大別される。
見分け方
不応症かどうかは「ホルモンが足りないのか、ホルモンが効かないのか」で判定する。 ・分泌不全(欠乏症):内分泌腺の破壊や発育不全により、ホルモン自体が不足する。血中ホルモン濃度は低く、ホルモンを補充すれば症状は改善する。 ・不応症:血中ホルモン濃度は正常〜高値であり、フィードバックにより上位ホルモンも上昇していることが多い。ホルモンを投与しても効果が乏しい。 本問の選択肢のうち、腎性尿崩症(バソプレシン不応)、精巣性女性化症候群(アンドロゲン不応)、偽性副甲状腺機能低下症(PTH不応)は典型的な不応症である。一方、1型糖尿病は膵β細胞の破壊によるインスリン分泌の欠乏、Klinefelter症候群は染色体異常に基づく精巣自体の機能不全(原発性性腺機能低下症)であり、いずれもホルモンの産生側の障害であって不応症ではない。
選択肢考察
- ×a. 腎性尿崩症
ホルモン不応症である。腎性尿崩症では抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)は下垂体後葉から正常に分泌されているが、腎集合管がそれに反応できないため尿を濃縮できず、多尿・低張尿をきたす。先天性の多くはX連鎖性のバソプレシンV2受容体(AVPR2)遺伝子異常であり、一部は常染色体遺伝の水チャネル(アクアポリン2)遺伝子異常による。後天性にはリチウム製剤、高カルシウム血症、低カリウム血症などでも起こる。血中ADHは高値となり、デスモプレシン(DDAVP)を投与しても尿浸透圧が上昇しない点で、ADH分泌が低下する中枢性尿崩症と区別される。
- ○b. 1型糖尿病
ホルモン不応症ではない。1型糖尿病は主に自己免疫機序(抗GAD抗体などの膵島関連自己抗体が陽性となる)によって膵ランゲルハンス島のβ細胞が破壊され、インスリン分泌が絶対的に欠乏する疾患である。標的臓器のインスリン反応性は基本的に保たれているため、インスリン補充療法が治療の根幹となる。インスリンが効きにくいこと(インスリン抵抗性)が病態に関与するのは2型糖尿病であり、さらにインスリン受容体遺伝子の異常による高度のインスリン抵抗症(A型インスリン抵抗症など)が狭義の不応症にあたる。
- ○c. Klinefelter症候群
ホルモン不応症ではない。Klinefelter症候群は性染色体の数的異常(代表的核型は47,XXY)により精巣が発育不全となる疾患で、精巣でのテストステロン産生と精子形成が障害される原発性(高ゴナドトロピン性)性腺機能低下症である。小さく硬い精巣、無精子症による男性不妊、高身長、女性化乳房などを示し、検査ではテストステロン低値に対してLH・FSHが高値となる。アンドロゲン受容体は正常であり、テストステロン補充療法で二次性徴の改善が得られることからも、ホルモンの産生不足による病態であるとわかる。
- ×d. 精巣性女性化症候群
ホルモン不応症である。精巣性女性化症候群は現在、完全型アンドロゲン不応症(complete androgen insensitivity syndrome:CAIS)と呼ばれる。X染色体上のアンドロゲン受容体遺伝子の異常により、核型は46,XYで精巣を有しテストステロンも正常〜高値に産生されるが、標的組織が反応しないため外性器は女性型となる。精巣から分泌される抗Müller管ホルモンは作用するため子宮・卵管は欠如し、腟は盲端に終わる。アンドロゲン作用がないため陰毛・腋毛は乏しい一方、過剰なテストステロンが芳香化されて生じるエストロゲンにより乳房は発達する。原発性無月経を契機に発見されることが多い。かつては男性仮性半陰陽の代表とされ、現在は46,XY性分化疾患(DSD)に分類される。
- ×e. 偽性副甲状腺機能低下症
ホルモン不応症である。副甲状腺ホルモン(PTH)は十分に分泌されているにもかかわらず、腎尿細管や骨などの標的細胞がPTHに反応しないため、低カルシウム血症・高リン血症をきたす。PTHは正常〜高値である点が、PTH分泌自体が低下する特発性・術後性副甲状腺機能低下症との違いである。多くは受容体そのものではなく、受容体と共役する促進性Gタンパクαサブユニット(Gsα、GNAS遺伝子がコード)の異常など、受容体以降の情報伝達障害による。PTH負荷試験(Ellsworth-Howard試験)で尿中cAMPやリン排泄の増加が乏しいことで診断する。Ia型ではAlbright遺伝性骨異栄養症(低身長、円形顔貌、第4・5中手骨短縮など)を伴う。
代表的なホルモン不応症
・腎性尿崩症:バソプレシン(ADH)不応。V2受容体またはアクアポリン2の異常。 ・偽性副甲状腺機能低下症:PTH不応。主にGsα(GNAS)の異常。 ・アンドロゲン不応症(精巣性女性化症候群など):アンドロゲン受容体の異常。 ・5α還元酵素欠損症:テストステロンからジヒドロテストステロンへの変換障害で、外性器の男性化が不十分となる(厳密には受容体異常ではないが、アンドロゲン作用不全として並べて学ぶ)。 ・甲状腺ホルモン不応症:甲状腺ホルモン受容体β(THRB)遺伝子の異常。FT3・FT4高値にもかかわらずTSHが抑制されない。 ・インスリン受容体異常症(A型インスリン抵抗症など):高度のインスリン抵抗性と黒色表皮腫。 ・Laron型低身長症:成長ホルモン受容体の異常。GHは高値だがIGF-Iが低値。 ・偽性低アルドステロン症:ミネラルコルチコイド受容体または上皮型Naチャネルの異常で、高カリウム血症と高レニン・高アルドステロンを呈する。 ・ビタミンD依存性くる病2型:ビタミンD受容体の異常。
不応症に共通する検査所見
・当該ホルモンの血中濃度は正常〜高値。 ・フィードバックが働く系では上位ホルモンも上昇する(例:アンドロゲン不応症でのLH高値)。 ・ホルモン補充の効果が乏しい。
Klinefelter症候群と1型糖尿病の位置づけ
いずれもホルモン産生臓器(精巣、膵β細胞)の障害による「欠乏症」であり、補充療法(テストステロン、インスリン)が有効である。
POINT
・ホルモン不応症=ホルモンは十分あるのに標的細胞が反応しない病態。血中ホルモンは正常〜高値となる。 ・腎性尿崩症(ADH不応)、精巣性女性化症候群=完全型アンドロゲン不応症(アンドロゲン不応)、偽性副甲状腺機能低下症(PTH不応)は不応症の代表。 ・1型糖尿病はβ細胞破壊によるインスリン分泌欠乏であり、不応症ではない(インスリン抵抗性は2型糖尿病やインスリン受容体異常症)。 ・Klinefelter症候群(47,XXY)は精巣自体の機能不全による原発性性腺機能低下症で、テストステロン低値・LH/FSH高値となる。
