ホルモンは十分なのに効かない―偽性副甲状腺機能低下症で学ぶ「受容体異常症」の考え方
第119回医師国家試験 C問題 第29問
国試問題にチャレンジ
ホルモン受容体異常症はどれか。
- a.骨軟化症
- b.Basedow病
- c.慢性甲状腺炎
- d.副甲状腺機能亢進症
- e.偽性副甲状腺機能低下症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
内分泌疾患は、ホルモンの分泌異常、受容体・受容体以降の異常、受容体に対する自己抗体という段階で整理すると理解しやすくなります。ホルモン受容体異常症(ホルモン不応症)は、ホルモンが高値なのに作用欠乏の症状が出るのが特徴で、その代表が偽性副甲状腺機能低下症です。本症ではPTH受容体に共役するGsαの機能低下により、PTH高値にもかかわらず低Ca血症・高P血症を呈し、Ellsworth-Howard試験で尿中cAMP・リン排泄が増えないことで診断され、1a型ではAlbright遺伝性骨異栄養症を伴います。Basedow病は受容体自体は正常で自己抗体が刺激する疾患、副甲状腺機能亢進症や慢性甲状腺炎は分泌量の異常であり、受容体異常症とは区別されます。「ホルモン値と作用のずれ」に注目する視点は、甲状腺ホルモン不応症や腎性尿崩症など他の不応症の理解にもそのまま応用できます。
解答・解説
正解はeです
ホルモンが作用を発揮するには、①内分泌腺からホルモンが分泌され、②標的細胞の受容体に結合し、③受容体以降の細胞内シグナル伝達が働く、という段階が必要である。内分泌疾患はどの段階に異常があるかで整理できる。 ・分泌の異常:ホルモンの過剰分泌(腫瘍・過形成など)や分泌低下(腺の破壊・欠損など)。血中ホルモン濃度そのものが異常となる。 ・受容体・受容体以降の異常(ホルモン不応症):ホルモンは十分に、あるいは過剰に分泌されているのに、標的臓器が反応しない。血中ホルモン濃度は高値なのに、作用は欠乏したときと同じ症状が出るのが特徴である。 ・受容体に対する自己抗体:受容体そのものは正常だが、抗体が受容体を刺激または遮断する。 ホルモン受容体異常症(ホルモン不応症)の代表は偽性副甲状腺機能低下症であり、副甲状腺ホルモン(PTH:parathyroid hormone)が高値にもかかわらず低Ca血症・高P血症を呈する。各選択肢について、病態の主座がホルモンの量の異常なのか、自己免疫なのか、受容体系の異常なのかを見極めることが解答の鍵となる。
選択肢考察
- ×a. 骨軟化症
骨軟化症は、骨基質(類骨)へのカルシウム・リンの沈着(石灰化)が障害され、骨が軟らかく脆くなる疾患である。骨端線閉鎖前の小児に起こり骨の成長障害を伴うものをくる病、骨端線閉鎖後の成人に起こるものを骨軟化症と呼ぶ。主な原因はビタミンD欠乏(摂取不足・日光曝露不足・吸収不良)、ビタミンD活性化障害(慢性腎臓病など)、リン欠乏や腎からのリン喪失(FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症、腫瘍性骨軟化症など)であり、一般にホルモン受容体の異常は病態の中心ではない。なお、ビタミンD受容体遺伝子の変異によるビタミンD依存性くる病2型(遺伝性ビタミンD抵抗性くる病)はまれな受容体異常症であるが、「骨軟化症」という疾患概念全体を受容体異常症とはいわない。
- ×b. Basedow病
Basedow病は、甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体に対する自己抗体(TRAb、とくに刺激型のTSAb)が受容体に結合してTSHと同様に刺激し続けることで、甲状腺ホルモンが過剰に合成・分泌される自己免疫疾患である。TSH受容体という分子自体は正常であり、異常なのは受容体に結合する抗体の存在である。したがって受容体抗体による疾患であって、ホルモン受容体異常症(受容体の構造・機能異常によるホルモン不応症)には当たらない。血中TSHはネガティブフィードバックにより抑制されている。
- ×c. 慢性甲状腺炎
慢性甲状腺炎(橋本病)は、甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)やサイログロブリンに対する自己抗体(抗TPO抗体、抗サイログロブリン抗体)を伴い、リンパ球浸潤による慢性炎症で甲状腺組織が破壊されていく自己免疫疾患である。一部の患者で甲状腺ホルモンの産生が低下し甲状腺機能低下症となるが、これは甲状腺自体の破壊によるホルモン分泌低下であり、ホルモン受容体に異常はない。機能低下症ではTSHが上昇し、甲状腺ホルモン補充に反応する点でもホルモン不応症とは異なる。
- ×d. 副甲状腺機能亢進症
副甲状腺機能亢進症はPTHが過剰に分泌される状態である。原発性は副甲状腺腺腫(大部分)・過形成・癌が原因で、高Ca血症・低P血症をきたす。続発性は慢性腎臓病やビタミンD欠乏などで低Ca血症傾向となり、それを補うためにPTH分泌が亢進するものである。いずれもホルモンの分泌量の異常であり、PTH受容体は正常に機能している(受容体が正常に応答するからこそ高Ca血症などの作用過剰が現れる)。ホルモン受容体異常症ではない。
- ○e. 偽性副甲状腺機能低下症
偽性副甲状腺機能低下症は、副甲状腺からPTHは正常に、むしろ代償的に過剰に分泌されているにもかかわらず、標的臓器(主に腎尿細管、骨)がPTHに反応しないため、低Ca血症・高P血症などの副甲状腺機能低下症と同じ病態を呈する疾患である。血中PTHが高値である点が、PTH分泌が低下する真の副甲状腺機能低下症との決定的な違いである。原因はPTH受容体(PTH/PTHrP受容体、PTH1R)からの信号を細胞内に伝えるGsα蛋白(受容体と共役する促進性G蛋白質)の機能低下であり、受容体レベルでのホルモン作用伝達が障害されるため、ホルモン受容体異常症(ホルモン不応症)の代表例とされる。PTH負荷試験(Ellsworth-Howard試験)で尿中cAMPやリンの排泄増加がみられないことで診断される。
偽性副甲状腺機能低下症の病型
・1a型:GNAS遺伝子(Gsαをコードする)の母由来アレルの機能喪失変異による。PTHへの抵抗性に加え、低身長、円形顔貌、短指症(第4・第5中手骨の短縮)、異所性石灰化、知能低下などのAlbright遺伝性骨異栄養症(AHO)を伴う。Gsαは他のホルモン受容体にも共役するため、TSHやゴナドトロピンへの抵抗性を合併することがある。 ・1b型:GNAS領域のメチル化(インプリンティング)異常により、主に腎尿細管でGsαの発現が低下する。AHOを伴わないことが多い。 ・2型:受容体からcAMP産生までは正常だが、それ以降の経路に異常があるとされる。PTH負荷で尿中cAMPは増加するがリン排泄は増加しない。 ・偽性偽性副甲状腺機能低下症:父由来アレルのGNAS変異により、AHOの身体的特徴はあるがPTH抵抗性はなく、血清Ca・P・PTHは正常である。
Ellsworth-Howard試験
PTHを投与し、尿中cAMPとリンの排泄の増加を見る。副甲状腺機能低下症(特発性・術後など)では両者とも増加するが、偽性副甲状腺機能低下症1型ではいずれも増加しない。
ホルモン受容体異常症・ホルモン不応症の主な例
・偽性副甲状腺機能低下症(PTH) ・甲状腺ホルモン不応症(甲状腺ホルモン受容体β遺伝子の変異。甲状腺ホルモン高値なのにTSHが抑制されない) ・インスリン受容体異常症(A型:受容体遺伝子変異、B型:抗インスリン受容体抗体) ・アンドロゲン不応症(アンドロゲン受容体遺伝子変異。46,XYで女性型外性器) ・腎性尿崩症(バソプレシンV2受容体またはアクアポリン2の遺伝子変異) ・Laron型低身長症(成長ホルモン受容体異常。GH高値・IGF-I低値) ・ビタミンD依存性くる病2型(ビタミンD受容体異常) ・家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(カルシウム感知受容体の機能喪失変異)
受容体に対する自己抗体による疾患(受容体自体は正常)
Basedow病(TSH受容体刺激抗体)、重症筋無力症(アセチルコリン受容体抗体)、B型インスリン抵抗症(抗インスリン受容体抗体)など。
POINT
・ホルモン受容体異常症(ホルモン不応症)は「ホルモン高値なのに作用欠乏症状」が特徴。 ・偽性副甲状腺機能低下症:PTH高値+低Ca血症・高P血症。原因はPTH受容体に共役するGsαの機能低下(GNAS変異など)。Ellsworth-Howard試験で尿中cAMP・リン排泄が増えない。1a型はAlbright遺伝性骨異栄養症を伴う。 ・Basedow病は受容体に対する自己抗体による疾患で、受容体そのものは正常。 ・その他の不応症:甲状腺ホルモン不応症、インスリン受容体異常症、アンドロゲン不応症、腎性尿崩症、Laron型低身長症。
