頸静脈が張っているか、しぼんでいるか―ショックは「どこが壊れたか」で4つに分ける
第99回医師国家試験 D問題 第70問
国試問題にチャレンジ
ショックと原因の組合せで誤っているのはどれか。
- a.心原性ショック ―― 心筋梗塞
- b.神経原性ショック ―― 頸髄損傷
- c.敗血症性ショック ―― 化膿性胆管炎
- d.アナフィラキシーショック ―― 薬物アレルギー
- e.循環血液量減少性ショック ―― 心タンポナーデ
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ショックは、循環のどこが破綻したかによって、循環血液量減少性、心原性、血液分布異常性、心外閉塞・拘束性の4つに分類されます。心タンポナーデは血液量もポンプ機能も保たれたまま心臓の拡張が妨げられる病態で、緊張性気胸や肺血栓塞栓症とともに閉塞性ショックに属するため、循環血液量減少性ショックとの組合せは誤りです。心筋梗塞は心原性、頸髄損傷による神経原性ショック・化膿性胆管炎による敗血症性ショック・薬物によるアナフィラキシーショックは血液分布異常性ショックで、神経原性ショックは低血圧に徐脈を伴う点が特徴です。閉塞性ショックでは頸静脈が怒張し、循環血液量減少性ショックでは虚脱するといった身体所見の違いは鑑別の大きな手がかりになります。分類ごとに治療方針が大きく異なるため、病態から分類できる力は救急診療の基本となります。
解答・解説
正解はeです
ショックとは、全身の組織への酸素供給が需要に見合わなくなり、細胞レベルの代謝障害と臓器障害をきたす急性循環不全の状態である。血圧低下(収縮期血圧 90 mmHg 未満など)、頻脈、皮膚蒼白・冷汗、意識障害、乏尿、乳酸上昇などがみられる。 現在広く用いられる分類は、循環を成り立たせる要素(ポンプ・血管内容量・血管抵抗・血流路の開通)のどこが破綻したかによる 4 分類である。 1. 循環血液量減少性ショック(hypovolemic): 出血、脱水、熱傷などで血管内容量そのものが減る。 2. 心原性ショック(cardiogenic): 心筋梗塞、重症心筋炎、致死性不整脈、急性弁膜障害などでポンプ機能自体が低下する。 3. 血液分布異常性ショック(distributive): 血管が拡張して相対的に血液が末梢にプールされる。敗血症性、アナフィラキシー、神経原性がここに入る。 4. 心外閉塞・拘束性ショック(obstructive): 心臓自体は正常でも、心臓の外側の原因で心臓への流入や心臓からの駆出が妨げられる。心タンポナーデ、緊張性気胸、肺血栓塞栓症が代表である。 本問は「誤っている組合せ」を選ぶ問題である。各選択肢の原因疾患が、上の 4 分類のどこに属するかを当てはめれば、心タンポナーデだけが分類を取り違えていることがわかる。
選択肢考察
- ×a. 心原性ショック ―― 心筋梗塞
組合せとして正しい。急性心筋梗塞で左室心筋の広範な壊死(一般に左室心筋の約 40% 以上)が起こると心拍出量が維持できなくなり、心原性ショックに陥る。乳頭筋断裂による急性僧帽弁閉鎖不全、心室中隔穿孔などの機械的合併症もショックの原因となる。心原性ショックは心筋梗塞の代表的な死因の一つである。なお左室自由壁破裂では心嚢内に出血して心タンポナーデ(閉塞性ショック)をきたす点は区別しておく。
- ×b. 神経原性ショック ―― 頸髄損傷
組合せとして正しい。交感神経の節前線維は胸髄〜上位腰髄(T1〜L2 付近)から出るため、頸髄や上位胸髄が損傷されると下位への交感神経の出力が途絶える。その結果、末梢血管が拡張して血圧が低下し、同時に心臓への交感神経支配も失われて迷走神経(副交感神経)が相対的に優位となり徐脈を伴う。「低血圧なのに徐脈で、皮膚は温かく乾燥している」のが神経原性ショックの特徴で、出血性ショック(頻脈・冷汗・皮膚蒼白)との鑑別点になる。
- ×c. 敗血症性ショック ―― 化膿性胆管炎
組合せとして正しい。胆管結石や腫瘍などで胆汁の流れが閉塞し、そこに細菌感染が起こると急性胆管炎となる。胆管内圧が高いと細菌やエンドトキシンが血中へ逆流しやすく、敗血症から敗血症性ショックに至りやすい。発熱・黄疸・右上腹部痛(Charcot 3 徴)にショックと意識障害を加えたものを Reynolds 5 徴と呼び、急性閉塞性化膿性胆管炎の重症化を示す。治療は抗菌薬に加え、内視鏡的胆道ドレナージなどによる緊急の減圧が必要である。その他、肺炎、腎盂腎炎、髄膜炎、感染性心内膜炎なども敗血症の原因として多い。
- ×d. アナフィラキシーショック ―― 薬物アレルギー
組合せとして正しい。アナフィラキシーは多くの場合、抗原(薬物・食物・ハチ毒など)と肥満細胞や好塩基球に結合した IgE 抗体が反応する I 型アレルギーである。放出されたヒスタミンなどのメディエーターにより血管拡張と血管透過性亢進が起こり、血圧低下(ショック)、蕁麻疹、喉頭浮腫、気管支攣縮などをきたす。抗菌薬(βラクタム系など)、非ステロイド性抗炎症薬、造影剤、筋弛緩薬などの薬物は代表的な原因である(造影剤などでは IgE を介さない機序も含まれる)。第一選択の治療はアドレナリン筋注である。
- ○e. 循環血液量減少性ショック ―― 心タンポナーデ
誤った組合せであり、これが正解である。心タンポナーデは心嚢内に血液や滲出液が貯留して心嚢内圧が上昇し、心室、特に壁の薄い右心系が拡張期に十分広がれなくなる状態である。静脈還流が妨げられて心室の充満が不足し、心拍出量が低下する。体内の血液量は減っておらず、心筋のポンプ機能自体も保たれているため、循環血液量減少性ショックでも心原性ショックでもなく、心外閉塞・拘束性ショック(閉塞性ショック)に分類される。緊張性気胸、肺血栓塞栓症も同じ分類である。所見としては Beck 3 徴(血圧低下、頸静脈怒張、心音減弱)や奇脈が知られ、頸静脈が怒張する点で、頸静脈が虚脱する循環血液量減少性ショックとは対照的である。治療は心嚢穿刺・ドレナージによる減圧である。
ショックの 4 分類と代表的原因
循環血液量減少性: 外傷・消化管出血・大動脈瘤破裂などの出血、嘔吐・下痢・熱中症などの脱水、広範囲熱傷(血漿成分の喪失) 心原性: 急性心筋梗塞、心筋炎、心筋症の末期、重症不整脈、急性の弁膜障害(乳頭筋断裂など) 血液分布異常性: 敗血症性ショック、アナフィラキシーショック、神経原性ショック(脊髄損傷) 心外閉塞・拘束性: 心タンポナーデ、緊張性気胸、肺血栓塞栓症
血行動態による見分け方
中心静脈圧(CVP、右心系の充満圧の目安)と心拍出量、末梢血管抵抗で整理すると理解しやすい。 循環血液量減少性: CVP 低下、心拍出量低下、末梢血管抵抗上昇(頸静脈は虚脱、皮膚は冷たい) 心原性: CVP・肺動脈楔入圧上昇、心拍出量低下、末梢血管抵抗上昇(肺うっ血を伴いやすい) 閉塞性: CVP 上昇(頸静脈怒張)、心拍出量低下、末梢血管抵抗上昇 血液分布異常性: CVP 低下〜正常、末梢血管抵抗低下。敗血症の初期は心拍出量が増加し四肢が温かい(warm shock)。
神経原性ショックと脊髄ショックの違い
神経原性ショックは交感神経遮断による循環不全(低血圧・徐脈)を指す。一方、脊髄ショックは脊髄損傷直後に損傷部以下の反射がすべて消失し弛緩性麻痺となる神経学的な状態を指し、循環のショックとは別の概念である。
POINT
・ショックは循環血液量減少性、心原性、血液分布異常性、心外閉塞・拘束性の 4 つに分類する。 ・心タンポナーデ、緊張性気胸、肺血栓塞栓症は閉塞性ショックであり、頸静脈怒張(CVP 上昇)を伴う。 ・敗血症性・アナフィラキシー・神経原性ショックは血液分布異常性ショックである。 ・神経原性ショック(頸髄損傷など)は低血圧に徐脈を伴い、皮膚は温かいのが特徴。 ・化膿性胆管炎は Reynolds 5 徴を示すと重症であり、緊急胆道ドレナージの適応。
