StudyMed医師国家試験

「口約束」では始められない―治験を支えるGCPと文書同意のルール

第99回医師国家試験 B問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第99回 B問題 第2問

成人を対象にした糖尿病治療薬の治験を実施するための条件として十分でないのはどれか。

  1. a.口頭での同意取得
  2. b.説明文書の作成
  3. c.治験実施計画書の作成
  4. d.治験責任医師から施設長への申請
  5. e.IRB〈施設内倫理委員会〉での審議

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、新薬の治験を始めるまでに何が必要かを問う問題だ。臨床薬理を専門にしている立場から言うと、着眼点は「被験者の権利をどう守るか」と「データの信頼性をどう担保するか」の2つ。選択肢を、この2つを満たす手続きかどうかで見ていこう。
医学生医学生
治験って、普通の臨床研究と何が違うんでしょうか。公衆衛生学の講義で倫理指針の話は聞いたんですが、区別があいまいです。
ドクタードクター
いい出発点だね。臨床試験のうち、医薬品や医療機器の製造販売承認を得るためのデータを集めるものを特に治験と呼ぶ。治験は薬機法に基づく省令、いわゆるGCP、つまり医薬品の臨床試験の実施の基準に従わなければならない。それ以外の臨床研究は臨床研究法や生命科学・医学系研究の倫理指針の枠組みで動くんだ。
医学生医学生
GCPに従うということは、手順がかなり細かく決まっているんですね。
ドクタードクター
そう。大まかな流れは、まず治験実施計画書と被験者向けの説明文書を作り、実施医療機関の長に申請する。長は治験審査委員会、つまりIRBに意見を求め、IRBの審議・承認を経て長が実施を了承する。最後に被験者一人ひとりに説明して同意を得て、ようやく開始だ。
医学生医学生
そうすると、計画書の作成も説明文書の作成も、施設長への申請もIRBでの審議も、全部その流れに入っていますね。残るのは口頭での同意取得ですが、同意を取ること自体は必要ですよね。
ドクタードクター
鋭いね。同意が必要なのはその通り。問題は「口頭で」という部分なんだ。GCPでは、説明文書を用いて十分に説明したうえで、被験者から文書による同意を得ることが義務づけられている。同意文書には本人と説明した医師が署名し、日付を書く。口頭だけでは、何をどう説明して同意を得たのかを後から誰も確認できない。
医学生医学生
だから口頭での同意取得が「十分でない」条件、つまり正解なんですね。臨床実習で内科を回ったとき、CRCの方が同意書の控えを患者さんに渡していたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれ。治験コーディネーター、CRCは説明の補助や被験者の対応、データ管理を担う大事な存在だ。ほかの選択肢も確認しておこう。説明文書には何を書く必要があると思う?
医学生医学生
目的や方法、副作用の可能性くらいでしょうか。
ドクタードクター
それに加えて、治験であること、期間、ほかの治療法の有無、健康被害が出たときの補償、参加は任意でいつでも不利益なく撤回できること、個人情報の保護、問い合わせ先なども必要だ。この説明文書自体もIRBの審査対象になる。
医学生医学生
治験実施計画書は、研究のレシピのようなものですか。
ドクタードクター
いい例えだね。選択・除外基準、投与方法と期間、観察項目、有効性・安全性の評価法、統計解析、中止基準などを明記する。企業の治験なら治験依頼者が、医師主導治験なら医師自らが作る。計画書がなければ、科学的にも倫理的にも審査のしようがない。
医学生医学生
施設長への申請は、形式的な手続きのように感じてしまいます。
ドクタードクター
そう思いがちだけど、治験は医療機関として責任をもって管理するものだから、長の了承は欠かせない。企業依頼の治験では、実際には治験依頼者が責任医師の合意のもとで長に依頼する形になるけれど、いずれにせよ長を通すことが必要な手続きだ。そしてIRBは、倫理的・科学的妥当性や被験者の安全、説明文書の適切さを審議する。医学の専門家だけでなく、非専門家や施設と利害関係のない外部委員を含めることが求められている。
医学生医学生
外部の目を入れることで、身内の甘い審査にならないようにするわけですね。IRBは承認したら終わりですか。
ドクタードクター
いや、承認後も重篤な有害事象の報告などを受けて、継続してよいかを審議し続ける。治験の相も整理しておこう。第I相は少数の健康成人で安全性と薬物動態、第II相は少数の患者で有効性と用量探索、第III相は多数の患者で既存薬やプラセボと比較、承認後が第IV相だ。抗がん剤では第I相から患者を対象にすることが多い。
医学生医学生
CBTの勉強で、こうした倫理の土台はヘルシンキ宣言だと覚えました。
ドクタードクター
その通り。ヘルシンキ宣言は、被験者の利益を科学や社会の利益より優先すること、自由意思による同意を得ることを掲げていて、GCPの理念的な基盤になっている。同意は一度取れば終わりではなく、被験者はいつでも撤回できることも、臨床の現場では丁寧に伝えてほしい。

まとめ

治験は医薬品の承認申請のためのデータを集める臨床試験であり、GCP省令に従って実施しなければなりません。必要な手続きは、治験実施計画書と説明文書の作成、実施医療機関の長への申請、IRB(治験審査委員会)での審議・承認、長の了承、そして被験者からの文書による同意取得です。同意は説明文書を用いて説明したうえで文書で得る必要があり、口頭での同意だけでは要件を満たしません。IRBには非専門家委員や外部委員を含め、承認後も安全性情報をもとに継続審議を行います。ヘルシンキ宣言に根ざした被験者保護の仕組みを理解しておくことは、将来治験や臨床研究に関わる医師にとって欠かせない基礎となります。

解答・解説

正解はaです

治験(新しい医薬品の製造販売承認を得るために、人を対象として有効性と安全性を調べる臨床試験)を行うための手続きを問う問題である。 治験は「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」、いわゆるGCP(Good Clinical Practice)に従って実施しなければならない。GCPは医薬品医療機器等法(薬機法)に基づく省令であり、被験者の人権・安全・福祉の保護と、得られるデータの科学的な信頼性の確保を目的としている。 GCPが求める主な手続きの流れは次のとおりである。 1. 治験実施計画書(プロトコル)と、被験者向けの説明文書・同意文書を作成する。 2. 実施医療機関の長に治験の実施を申請する。 3. 医療機関の長は治験審査委員会(IRB)に意見を求め、IRBが倫理的・科学的妥当性を審議する。 4. IRBの承認を受けて医療機関の長が実施を了承する。 5. 被験者一人ひとりに説明文書を用いて説明し、文書による同意を得たうえで治験を開始する。 本問は成人(同意能力のある被験者)が対象であり、特別な代諾の問題はない。そのうえで、上記の条件に照らして「十分でない」もの、つまりGCPの要件を満たさないものを選べばよい。

選択肢考察

  1. ○a.  口頭での同意取得

    十分でない(正解)。GCPでは、治験責任医師(または分担医師)が説明文書を用いて十分に説明し、被験者から文書による同意を得ることが義務づけられている。同意文書には被験者本人と説明した医師が署名(記名押印)し日付を記入する。口頭での同意だけでは、同意の有無や内容を後から確認できず、要件を満たさない。なお、同意後も被験者はいつでも不利益を受けずに参加を取りやめることができる。

  2. ×b.  説明文書の作成

    必要な条件である。被験者が参加の可否を判断できるよう、治験であること、目的、方法、期間、予測される効果と危険性、ほかの治療法の有無、健康被害が生じた場合の補償、参加は任意でいつでも撤回できること、個人情報の保護、問い合わせ先などを記載した説明文書を作成しなければならない。この文書はIRBの審査対象にもなる。

  3. ×c.  治験実施計画書の作成

    必要な条件である。治験実施計画書(プロトコル)には、目的、対象となる被験者の選択・除外基準、投与方法と期間、観察・検査項目、有効性・安全性の評価方法、統計解析の方法、中止基準などを明記する。企業が依頼する治験では治験依頼者が、医師主導治験では自ら治験を実施する医師が作成する。計画書のない治験は科学的にも倫理的にも審査できない。

  4. ×d.  治験責任医師から施設長への申請

    必要な条件である。治験はその医療機関の長の了承のもとで行われる。医療機関の長は申請を受けて治験審査委員会に意見を求め、その結論を踏まえて実施の可否を決定する。医療機関として治験を管理し、責任をもつための手続きである。

  5. ×e.  IRB〈施設内倫理委員会〉での審議

    必要な条件である。IRB(Institutional Review Board)は、GCP上は治験審査委員会と呼ばれ、治験の倫理的・科学的妥当性、被験者の安全確保、説明文書の適切さなどを審議する第三者的な委員会である。医学・薬学の専門家だけでなく、非専門家の委員や、医療機関と利害関係のない外部委員を含めて構成しなければならない。承認後も、重篤な有害事象の報告などを受けて治験継続の適否を審議する。

治験と臨床試験

臨床試験のうち、医薬品・医療機器の製造販売承認申請のためのデータを集める目的で行うものを治験という。治験はGCP省令、それ以外の人を対象とする医学研究(臨床研究)は臨床研究法や「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」に従う。

治験の相

・第I相:少数の健康成人(抗がん剤などでは患者)を対象に、安全性や薬物動態を調べる。 ・第II相:少数の患者を対象に、有効性・安全性を検討し、用法・用量を探る。 ・第III相:多数の患者を対象に、既存薬やプラセボとの比較などで有効性・安全性を確認する。 ・第IV相:承認後の製造販売後臨床試験。

関係者と役割

・治験依頼者:治験を依頼する製薬企業など。 ・治験責任医師:医療機関で治験を統括する医師。治験分担医師を指揮する。 ・治験コーディネーター(CRC):被験者の対応やデータ管理などで治験を支援する。 ・実施医療機関の長:治験の実施を了承し、管理する。 ・治験審査委員会(IRB):倫理的・科学的妥当性を審査する。

倫理的基盤

ヘルシンキ宣言(人を対象とする医学研究の倫理的原則)がGCPの理念的な土台であり、被験者の利益を科学や社会の利益より優先すること、自由意思による同意を得ることなどが定められている。

POINT

・治験はGCP省令に従って実施する。 ・被験者の同意は、説明文書を用いて説明したうえで「文書」で得る。口頭同意のみは不可。 ・必要な手続き:治験実施計画書と説明文書の作成 → 医療機関の長への申請 → IRB(治験審査委員会)での審議・承認 → 長の了承 → 文書同意 → 実施。 ・IRBには非専門家委員と外部委員を含める。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。