StudyMed医師国家試験

カルテは誰のもの?―診療情報開示の原則は「患者本人」から

第99回医師国家試験 B問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第99回 B問題 第3問

診療情報の開示において望ましいのはどれか。

  1. a.患者の遺族には開示しない。
  2. b.家族からの請求があれば開示する。
  3. c.患者へ開示する前に第三者に開示する。
  4. d.患者本人からの請求があれば開示する。
  5. e.加入している生命保険会社からの請求があれば開示する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、診療情報を誰にどんな条件で開示するかという問題だ。医療倫理や医事法の分野では頻出のテーマで、着眼点はシンプル。「その情報の主体は誰か」と「本人以外に渡すときに何が必要か」の2点を押さえれば迷わない。
医学生医学生
カルテは病院が作って保管しているので、病院のもののような気もしますが……。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。たしかに記録を作成・保管するのは医療機関だけど、書かれているのは患者本人の健康状態という高度な個人情報だ。個人情報保護法では、本人から自分の保有個人データの開示を求められたら原則として開示しなければならない。厚生労働省の診療情報の提供等に関する指針でも、患者本人からの開示請求には原則として応じるべきとされている。
医学生医学生
じゃあ、患者本人からの請求があれば開示する、が正解ですね。
ドクタードクター
その通り。患者が自分の病状を理解して治療を選ぶという、インフォームドコンセントや自己決定の考え方にも合致する。ただし例外もあって、開示によって本人の心身の状況を著しく損なうおそれがある場合や、第三者の利益を害するおそれがある場合には、全部または一部を開示しないことが認められている。その場合は理由を説明する必要がある。
医学生医学生
家族からの請求なら開示してもよさそうに思えました。臨床実習の病棟で、ご家族が主治医に病状を聞きに来る場面をよく見たので。
ドクタードクター
現場の感覚としては自然な迷いだね。でも患者が生存している間は、家族であっても本人の同意なしに請求だけで開示することはできない。医師には刑法上の守秘義務があるし、個人情報保護法でも本人の同意なく第三者に提供することは原則禁止だ。病棟での家族への説明も、本来は本人の同意を確認したうえで行っているんだよ。
医学生医学生
家族でも開示請求ができるのは、どんな場合ですか。
ドクタードクター
本人の同意がある場合、本人から代理権を与えられた場合、それに未成年者の親権者や成年後見人などの法定代理人である場合だ。つまり本人の意思か、法的に本人を代理する立場が根拠になる。
医学生医学生
遺族には開示しない、というのはどうでしょう。個人情報保護法は生きている人の情報が対象だったはずなので、亡くなった後は開示の義務もない気がします。
ドクタードクター
法律の対象範囲はよく覚えているね。確かに個人情報保護法は生存する個人の情報が対象だ。でも診療情報の提供等に関する指針では、患者が亡くなった場合、配偶者や子、父母などの遺族から求めがあれば、死亡に至るまでの診療経過や死因について診療記録を開示し、十分に説明すべきとされている。一律に開示しないという対応は望ましくない。
医学生医学生
遺族が経過を知りたいと思うのは当然ですし、それに応えるのも医療者の役目なんですね。
ドクタードクター
そう。グリーフケアの観点でも、誠実な説明は大切だ。では、患者へ開示する前に第三者に開示する、という選択肢は?
医学生医学生
これは明らかにダメですね。本人より先に、本人の同意なく第三者に渡すなんて守秘義務違反です。
ドクタードクター
その通りで、刑法の秘密漏示罪にも該当しうる。国試では禁忌肢として扱われやすいタイプだね。ただし感染症法に基づく届出のように、法令に基づく場合は本人の同意がなくても提供できる。例外は法律で決まったものだけ、と押さえておこう。
医学生医学生
生命保険会社からの請求も、第三者だから本人の同意が必要ということですか。
ドクタードクター
そうだ。保険金請求で診断書や情報が必要なときは、患者本人の同意書や委任状を得たうえで提供する。保険会社からの請求だけで渡すことはできない。
医学生医学生
整理すると、原則は本人への開示、本人以外は本人の同意や代理権、亡くなった後は遺族への開示、法令に基づく場合は例外、という4本柱ですね。OSCEの医療面接で守秘義務の説明をしたときより、ずっと立体的に理解できました。
ドクタードクター
よくまとまっているね。臨床では、電話で家族を名乗る人から病状を聞かれる場面もある。相手が本当に本人の了解を得た人物か確認できなければ、安易に答えないことが大切だ。誰に情報を渡してよいかを常に本人の意思から考える習慣をつけてほしい。

まとめ

診療情報は患者本人に関する高度な個人情報であり、その主体は患者本人です。個人情報保護法と厚生労働省の診療情報の提供等に関する指針により、本人から開示請求があれば原則として開示し、本人の心身を著しく損なうおそれがある場合などに限って例外的に開示を控えることができます。生存中の患者の情報を家族や保険会社などの第三者へ提供するには、本人の同意や代理権が必要で、無断での提供は守秘義務違反となりますが、感染症法に基づく届出など法令に基づく場合は例外です。患者の死亡後は、遺族の求めに応じて診療経過や死因を開示・説明することが望ましいとされます。「本人の意思を起点に考える」という原則は、日常診療での家族対応や書類作成の場面でも常に求められる基本姿勢です。

解答・解説

正解はdです

診療情報(診療録=カルテ、検査結果、画像など、診療の過程で得られた患者の健康状態に関する情報)を誰に、どのような条件で開示するかを問う問題である。 診療情報は患者本人に関する高度な個人情報であり、その情報の主体は患者本人である。個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法、2003年制定・2005年全面施行)では、本人から自己の保有個人データの開示を求められた場合、原則として開示しなければならないとされている。また、厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」(2003年)も、医療従事者は患者本人から診療記録の開示を求められた場合、原則として開示に応じなければならないと定めている。 一方で、本人以外への提供は慎重でなければならない。医師には刑法上の守秘義務があり、個人情報保護法でも、法令に基づく場合などの例外を除き、本人の同意なく個人データを第三者に提供してはならない。家族であっても、患者が生存している間は本人の同意(あるいは法定代理人・本人から代理権を与えられた者としての請求)が必要である。 したがって、「本人の請求に応じて開示する」ことが原則であり、本人以外の者への開示は本人の同意がある場合や、患者死亡後の遺族への開示など、定められた場合に限られる、と整理すれば正解を選べる。

選択肢考察

  1. ×a.  患者の遺族には開示しない。

    望ましくない。個人情報保護法は生存する個人の情報を対象としているため、死亡した患者の情報には直接適用されない。しかし「診療情報の提供等に関する指針」では、患者が死亡した場合、遺族(配偶者、子、父母およびこれに準ずる者)から求めがあれば、死亡に至るまでの診療経過や死因などについて診療記録を開示し、十分な説明を行うべきとされている。遺族に一律に開示しないという対応は適切でない。

  2. ×b.  家族からの請求があれば開示する。

    望ましくない。患者が生存している間、診療情報を開示する相手は原則として患者本人である。家族であっても、本人の同意がないまま請求だけで開示すれば、守秘義務や個人情報保護の原則に反する。家族が請求できるのは、本人の同意がある場合、本人から代理権を与えられている場合、未成年者の親権者などの法定代理人である場合などに限られる。

  3. ×c.  患者へ開示する前に第三者に開示する。

    望ましくない(明らかに不適切)。本人より先に、本人の同意なく第三者に診療情報を渡すことは、医師の守秘義務(刑法第134条の秘密漏示罪)や個人情報保護法の第三者提供の制限に反する。法令に基づく届出(例:感染症法に基づく届出)など、法律で認められた例外を除き、行ってはならない。

  4. ○d.  患者本人からの請求があれば開示する。

    望ましい(正解)。診療情報の主体は患者本人であり、本人から開示の請求があれば原則として開示する。これは個人情報保護法が定める本人の開示請求権に基づくとともに、患者が自分の病状を理解し治療を自ら選ぶという、インフォームドコンセントや自己決定の考え方にも合致する。なお、開示によって本人の心身の状況を著しく損なうおそれがある場合や、第三者の利益を害するおそれがある場合などには、例外的に全部または一部を開示しないことが認められている。

  5. ×e.  加入している生命保険会社からの請求があれば開示する。

    望ましくない。生命保険会社は第三者であり、保険会社からの請求だけで診療情報を提供することはできない。保険金の請求などで情報が必要な場合は、患者本人の同意書(または委任状)を得たうえで提供する。

診療情報開示の枠組み

・個人情報保護法:生存する個人の情報が対象。本人からの開示請求には原則応じる義務がある。本人の同意なく第三者に提供してはならない(法令に基づく場合、人の生命・身体・財産の保護に必要で本人の同意を得ることが困難な場合、公衆衛生の向上に特に必要な場合などは例外)。 ・厚生労働省「診療情報の提供等に関する指針」:患者本人への開示を原則とし、遺族への開示についても定めている。

開示請求ができる者

・患者本人 ・法定代理人(未成年者の親権者、成年後見人など) ・本人から代理権を与えられた親族など ・患者死亡時の遺族(配偶者、子、父母およびこれに準ずる者)

開示を拒むことができる場合(例)

・開示によって本人の心身の状況を著しく損なうおそれがある場合 ・第三者の利益を害するおそれがある場合 開示しない場合は、その理由を説明することが求められる。

守秘義務

医師は刑法第134条により、業務上知り得た人の秘密を正当な理由なく漏らしてはならない。

POINT

・診療情報開示の原則は「患者本人の請求に応じて開示」。 ・生存中の患者の情報を家族や保険会社などに渡すには本人の同意(または代理権)が必要。 ・患者死亡後は、遺族の求めに応じて開示・説明することが望ましい。 ・本人の同意なく第三者に開示することは守秘義務違反であり、禁忌肢として扱われやすい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。