StudyMed医師国家試験

「入社のとき」は必須、「辞めるとき」は不要―法律が定める職場健診のタイミング

第119回医師国家試験 F問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第119回 F問題 第8問

職場で健康診断の実施が規定されているのはどれか。

  1. a.雇入時
  2. b.退職した時
  3. c.労働災害発生時
  4. d.長時間労働した時
  5. e.休職から復職した時

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、労働安全衛生法に基づく職場の健康診断が、どのタイミングで義務づけられているかを問う問題だ。ポイントは、法定健診が「業務の開始・変更の時点」と「定期」の2つを軸に組み立てられていること。そして、健康診断と混同しやすい別の制度を見分けることだよ。
医学生医学生
どれも健康状態をチェックしたほうがよさそうな場面に見えて、全部ありそうに思えてしまいます。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だね。でも問われているのは「望ましいか」ではなく「法令で規定されているか」だ。まず基本から。事業者に健康診断の実施を義務づけているのは労働安全衛生法の第66条で、具体的な内容は労働安全衛生規則などで定められている。一般健康診断の代表は何か知っているかな。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、雇入時健診と年1回の定期健診を習いました。
ドクタードクター
その通り。常時使用する労働者を雇い入れるときの雇入時健康診断と、1年以内ごとに1回の定期健康診断が二本柱だ。だから正解は雇入時になる。雇入時健診の目的は、採用時点の健康状態を把握して、適切な配置や入職後の健康管理の基礎資料にすることなんだ。
医学生医学生
採用するかどうかを決めるための健診ではないんですね。
ドクタードクター
そこは大事な点だね。採否の選考に使うためのものではない。また、定期健診と違って医師の判断による項目の省略は認められていない。ただし、雇入れ前3か月以内に受けた健診結果を書面で提出すれば、その項目は省略できる。
医学生医学生
ほかに時期が決まっている健診はありますか。
ドクタードクター
深夜業などの特定業務に就く人は、配置替えのときと6か月以内ごとに1回。6か月以上の海外派遣では派遣前と帰国後。有機溶剤や鉛、電離放射線などの有害業務には特殊健康診断があって、雇入時・配置替え時とその後定期的に行う。どれも「業務の開始・変更」と「定期」という枠組みに沿っているよね。
医学生医学生
では退職時は?有害業務をしていた人なら、辞めるときにもチェックが必要そうですけど。
ドクタードクター
良い疑問だ。事業者が退職時に健康診断を行う義務は法令にはない。ただし、石綿など重い健康障害を起こすおそれのある特定業務に一定期間従事した人には、離職時や離職後に国から健康管理手帳が交付され、離職後も国の費用で健診を受けられる制度がある。これは事業者の義務とは別物だと区別しておこう。
医学生医学生
長時間労働のときは健診が必要だと思っていました。過労死の問題もありますし。
ドクタードクター
そこが一番引っかかりやすいところだ。長時間労働者に義務づけられているのは、健康診断ではなく医師による面接指導なんだ。時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者が申し出た場合に、事業者は医師の面接指導を行い、その意見を聴いて労働時間の短縮などの就業上の措置を講じる。
医学生医学生
健診ではなく面接指導、という言葉の違いがポイントなんですね。労働災害が起きたときはどうでしょう。
ドクタードクター
労働災害の発生時に一律に健診を行う規定はない。被災者には必要な診療を行い、事業者は労働者死傷病報告を出すけれど、それは健診ではない。有害物質の漏えいなど特定の状況での診察・処置を定めた個別規則はあるが、「労災発生時」として一般的に時期が決められた健診ではないんだ。
医学生医学生
休職からの復職も同じですか。精神科の実習で、うつ病で休職していた患者さんが復職の相談をしていました。
ドクタードクター
復職時の健診も法令上の義務はない。実務では主治医の診断書や産業医の復職面談をもとに就業可否を判断し、試し出勤や段階的な業務調整を行う。メンタルヘルス不調については厚生労働省の職場復帰支援の手引きがあるけれど、これは指針であって法定健診ではないよ。
医学生医学生
健診は「雇入れ・配置替え・定期」、長時間労働は「面接指導」、復職は「面談」と分けて覚えればよさそうです。
ドクタードクター
その整理で十分だ。発展として、労働衛生には作業環境管理、作業管理、健康管理の3管理があって、健診は健康管理の中核にあたる。健診後は結果を本人に通知し、異常があれば医師の意見を聴いて就業上の措置を講じる。個人票は原則5年間保存で、常時50人以上の事業場は定期健診の結果を労働基準監督署に報告する義務がある。
医学生医学生
50人以上というと、産業医の選任やストレスチェックの基準とも同じですね。
ドクタードクター
よく気づいたね。常時50人以上で産業医の選任とストレスチェックが義務になり、1,000人以上、一定の有害業務では500人以上で専属産業医が必要になる。ストレスチェックは50人未満の事業場にも義務を広げる法改正が決まっている。将来どの診療科に進んでも、患者さんの就労と健康の両立を考える場面は必ずあるから、こうした制度の枠組みは知っておいて損はないよ。

まとめ

労働安全衛生法に基づく職場の健康診断は、雇入時と1年以内ごとの定期健康診断を二本柱とし、特定業務従事者や海外派遣労働者、有害業務従事者の特殊健康診断も「雇入れ・配置替え」と「定期」の時点で実施されます。雇入時健診は採否の判断ではなく、適正配置と入職後の健康管理の基礎資料とするためのものです。一方、退職時・労働災害発生時・復職時の健診は法定されておらず、長時間労働者に義務づけられているのは健診ではなく医師による面接指導である点が頻出の引っかけです。特定の有害業務の離職者には国が健康管理手帳を交付するなど、事業者の義務とは別の制度もあわせて整理しておくと、産業保健の問題全般に対応しやすくなります。

解答・解説

正解はaです

職場の健康診断は、労働安全衛生法第66条とそれを具体化した労働安全衛生規則などによって、事業者に実施が義務づけられている。法令で実施時期が定められている主な健康診断は次のとおりである。

一般健康診断

・雇入時の健康診断(常時使用する労働者を雇い入れるとき) ・定期健康診断(1年以内ごとに1回) ・特定業務従事者の健康診断(深夜業などの有害業務に配置替えするとき、および6か月以内ごとに1回) ・海外派遣労働者の健康診断(6か月以上海外に派遣するとき、および6か月以上の派遣から帰国して国内業務に就かせるとき) ・給食従業員の検便(雇入時・配置替え時)

特殊健康診断

有機溶剤、鉛、特定化学物質、電離放射線、高気圧業務、石綿などの有害業務に従事する労働者に対し、雇入時・配置替え時と、その後6か月以内ごとに1回(物質により異なる)行う。じん肺法によるじん肺健康診断もある。 このように、法定の健康診断は「雇入れ・配置替え」という業務の開始・変更の時点と、「定期」の時点を軸に組み立てられている。選択肢のうち法令上の実施時期として明記されているのは雇入時のみである。長時間労働や休職からの復職では、健康診断ではなく医師による面接指導や復職面談が行われる点を区別して覚えておく。

選択肢考察

  1. ○a.  雇入時

    労働安全衛生規則第43条により、事業者は常時使用する労働者を雇い入れるときに医師による健康診断を行わなければならない。目的は、採用時点の健康状態を把握し、適切な配置や入職後の健康管理の基礎資料とすることである(採否の選考に用いるためのものではない)。項目は既往歴・業務歴の調査、自覚症状・他覚症状の有無、身長・体重・腹囲・視力・聴力、胸部X線検査、血圧、貧血検査、肝機能検査、血中脂質検査、血糖検査、尿検査、心電図検査などであり、定期健康診断と異なり医師の判断による項目の省略は認められていない。ただし雇入れ前3か月以内に医師の健康診断を受け、その結果を証明する書面を提出した場合は、その項目を省略できる。

  2. ×b.  退職した時

    退職(離職)時に事業者が健康診断を行う義務は法令上規定されていない。なお、がんなど重い健康障害を起こすおそれのある特定の業務(石綿、ベンジジン、ベータナフチルアミン、粉じんなど)に一定期間従事した人については、離職の際または離職後に申請すると国から健康管理手帳が交付され、離職後も国の費用で定期的に健康診断を受けられる制度がある。これは事業者による退職時健診とは別の、国による制度である。

  3. ×c.  労働災害発生時

    労働災害が起きたときに、事業者が一律に健康診断を実施すべきとする規定はない。被災した労働者には必要な診療が行われ、事業者は労働者死傷病報告などを提出するが、これは健康診断ではない。なお、都道府県労働局長が労働衛生指導医の意見に基づいて事業者に臨時の健康診断の実施を指示できる規定(労働安全衛生法第66条第4項)や、有害物質の漏えい・事故的な被ばくなど特定の状況での診察・処置を定めた個別の規則はあるが、「労働災害発生時」として一般的に実施時期が定められた健康診断ではない。

  4. ×d.  長時間労働した時

    長時間労働者に対して規定されているのは、健康診断ではなく医師による面接指導である(労働安全衛生法第66条の8など)。時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者が申し出た場合、事業者は医師による面接指導を行い、その医師の意見を聴いて就業上の措置(労働時間の短縮、作業の転換など)を講じなければならない。研究開発業務従事者では月100時間を超えた場合、申出がなくても面接指導が義務となる。健康状態は定期健康診断で把握されており、長時間労働を理由に新たに健康診断を行う規定はない。混同しやすいので注意する。

  5. ×e.  休職から復職した時

    休職から復職する際の健康診断は法令で義務づけられていない。実務上は、主治医の診断書や産業医による復職面談をもとに就業可否を判断し、試し出勤や段階的な業務負荷の調整などの職場復帰支援を行う。メンタルヘルス不調による休業については、厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」で手順が示されているが、これは指針であり、法定の健康診断ではない。

労働衛生の3管理

労働衛生管理は、作業環境管理(有害要因の除去・低減と作業環境測定)、作業管理(作業方法・作業時間の管理、保護具の使用)、健康管理(健康診断、面接指導、保健指導など)の3つを柱とする。健康診断は健康管理の中核であり、これに労働衛生教育と総括管理を加えて5管理ともいう。

健康診断後の事後措置

事業者は健康診断結果を労働者に通知し、異常所見がある場合は医師の意見を聴いて就業上の措置(就業制限、配置転換、労働時間短縮など)を講じ、必要に応じて保健指導を行う。個人票(健康診断個人票)は原則5年間保存する。常時50人以上の労働者を使用する事業場は、定期健康診断の結果を所轄の労働基準監督署に報告する。

健康診断以外の法定の健康管理

・長時間労働者への医師による面接指導 ・ストレスチェック(常時50人以上の事業場で年1回の実施が義務。高ストレス者が申し出れば医師による面接指導を行う。50人未満の事業場への義務拡大が法改正で決まっている) ・深夜業従事者の自発的健康診断(自ら受けた健診結果を提出できる)

産業医

常時50人以上の労働者を使用する事業場では産業医の選任が義務であり、1,000人以上(一定の有害業務では500人以上)では専属の産業医が必要である。

POINT

・労働安全衛生法に基づく一般健康診断:雇入時、定期(1年以内ごとに1回)、特定業務従事者(配置替え時と6か月以内ごとに1回)、海外派遣労働者(派遣前・帰国後)など。 ・特殊健康診断:有害業務への雇入時・配置替え時と、その後定期的に(多くは6か月以内ごと)。 ・退職時・労働災害発生時・復職時の健康診断は法定されていない。 ・長時間労働者に義務づけられているのは健康診断ではなく医師による面接指導(月80時間超の時間外・休日労働+疲労蓄積+本人の申出)。 ・特定の有害業務の離職者には国が健康管理手帳を交付し、離職後の健康診断を行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。