画像を待つな、まず抜け―ショックを伴う片側呼吸音消失が告げる緊張性気胸
第120回医師国家試験 E問題 第26問
国試問題にチャレンジ
40歳の女性。突然の胸痛と呼吸困難を主訴に救急車で搬入された。意識レベルはJCSⅡ-10。身長168cm,体重60kg。体温36.9℃。心拍数120/分,整。血圧80/60mmHg。呼吸数30/分。SpO2 91%(リザーバー付マスク10L/分酸素投与下)。毛細血管再充満時間3秒。皮膚はチアノーゼを認める。眼瞼結膜に貧血を認めない。頸静脈の怒張を認める。呼吸音は左前胸部で消失し,打診で左胸部に鼓音を認める。胸部エックス線写真を下に示す。 まず行うのはどれか。

- a.胸腔ドレナージ
- b.昇圧薬投与
- c.赤血球輸血
- d.用手的陽圧換気
- e.β刺激薬投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
突然の胸痛・呼吸困難にショックを伴い、片側の呼吸音消失と鼓音、さらに頸静脈怒張を認めれば、緊張性気胸による閉塞性ショックを考えます。チェックバルブ機序で胸腔内圧が上昇し、縦隔偏位と大静脈圧迫によって静脈還流が途絶えることがショックの本態であり、治療は直ちに胸腔を減圧すること、すなわち緊急針脱気や胸腔ドレナージです。昇圧薬や輸血は根本治療にならず、減圧前の陽圧換気は胸腔内圧をさらに高めて心停止を招くおそれがあるため避けなければなりません。緊張性気胸は身体所見から臨床診断し、画像確認のために処置を遅らせないことが原則です。ショックを4分類に当てはめ、原因に応じた初期対応を選ぶ思考は、あらゆる救急診療の基盤となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・40歳女性、突然発症の胸痛と呼吸困難 ・意識障害(JCSⅡ-10:刺激がないと眠り込むが、普通の呼びかけで開眼する状態) ・心拍数120/分の頻脈、血圧80/60 mmHgの低血圧、毛細血管再充満時間(CRT)3秒(正常は2秒以内)→ 末梢循環不全を伴うショック ・呼吸数30/分、リザーバー付マスク10 L/分の高流量酸素でもSpO2 91%、チアノーゼ → 高度の低酸素血症 ・眼瞼結膜の貧血なし → 出血によるショックは考えにくい ・頸静脈怒張 → 胸腔内圧や心膜腔内圧の上昇などにより、静脈血が右心系に戻れない状態(閉塞性ショックを示唆) ・左前胸部で呼吸音消失、左胸部の打診で鼓音 → 左胸腔内に多量の空気が貯留している(気胸) ・胸部エックス線:左肺野の透過性が著明に亢進し、肺紋理が消失して左肺が虚脱している
診断へのプロセス
突然の胸痛・呼吸困難にショックを伴う場合、急性冠症候群、急性大動脈解離、肺血栓塞栓症、心タンポナーデ、緊張性気胸といった致死的疾患を想起する。このうち頸静脈怒張を伴うショック(閉塞性ショック)をきたすのは、肺血栓塞栓症、心タンポナーデ、緊張性気胸である。本例では片側の呼吸音消失と鼓音という気胸の身体所見がそろっており、これにショックと頸静脈怒張が加わっていることから、緊張性気胸と診断できる。 緊張性気胸では、肺の損傷部位が一方弁(チェックバルブ)のように働き、吸気のたびに空気が胸腔へ流入するが呼気で抜けない。そのため患側の胸腔内圧が進行性に上昇し、肺が完全に虚脱するだけでなく、縦隔が健側へ偏位し、上・下大静脈が圧迫されて静脈還流(前負荷)が急激に減少する。これにより心拍出量が低下し、閉塞性ショックに陥る。
設問の考え方
緊張性気胸は放置すると数分単位で心停止に至りうる。ショックの原因が胸腔内圧の上昇という「物理的な閉塞」であるため、原因そのものを解除する処置、すなわち胸腔内の空気を抜いて減圧することが最優先となる。本来、緊張性気胸は身体所見から臨床的に診断し、画像検査を待たずに減圧すべき病態である。
選択肢考察
- ○a. 胸腔ドレナージ
緊張性気胸によるショックの根本原因は、胸腔内圧上昇による静脈還流障害である。胸腔ドレーンを挿入して胸腔内の空気を排出すると、胸腔内圧が下がり、縦隔偏位と大静脈の圧迫が解除されて循環が速やかに改善し、虚脱した肺も再膨張して酸素化が回復する。ドレーン挿入の準備に時間がかかる場合は、太い穿刺針(静脈留置針など)で胸腔を穿刺する緊急脱気(針脱気)を先行させ、その後に胸腔ドレーンを留置する。
- ×b. 昇圧薬投与
本例の低血圧は、心臓に戻る血液が胸腔内圧の上昇で妨げられていること(前負荷の低下)による閉塞性ショックである。昇圧薬で血管を収縮させたり心収縮力を高めたりしても、心臓に流入する血液自体が不足しているため効果は乏しく、原因の解除にもならない。昇圧薬が主役となるのは、敗血症性ショックなどの血液分布異常性ショックである。
- ×c. 赤血球輸血
赤血球輸血は、外傷や消化管出血などによる出血性(循環血液量減少性)ショックで行う治療である。本例は眼瞼結膜に貧血がなく、出血を示唆する所見もない。ショックの原因は失血ではなく胸腔内圧上昇による閉塞性ショックであるため、輸血の適応はない。
- ×d. 用手的陽圧換気
バッグバルブマスクなどによる陽圧換気を行うと、損傷部位から胸腔へ押し込まれる空気がさらに増え、胸腔内圧が一層上昇する。その結果、静脈還流がさらに減少して循環が破綻し、心停止を招くおそれがある。減圧前の緊張性気胸に陽圧換気を先行させてはならず、禁忌である。気管挿管・人工呼吸が必要な場合も、まず胸腔の減圧を行ってから実施する。
- ×e. β刺激薬投与
β2刺激薬は気管支平滑筋を弛緩させる薬で、気管支喘息の発作やアナフィラキシーに伴う気管支攣縮に用いられる。本例の低酸素血症は肺の虚脱によるもので、喘鳴など気道狭窄を示す所見もないため、β刺激薬は無効である。
ショックの4分類と代表疾患
・循環血液量減少性ショック:出血、脱水、熱傷など。治療は輸液・輸血と止血。 ・心原性ショック:急性心筋梗塞、重症不整脈、心筋炎など。 ・血液分布異常性ショック:敗血症、アナフィラキシー、脊髄損傷(神経原性)など。輸液に加え昇圧薬を用いる。アナフィラキシーではアドレナリン筋注が第一選択。 ・閉塞性ショック:緊張性気胸、心タンポナーデ、肺血栓塞栓症。頸静脈怒張を伴うのが特徴で、原因の解除(胸腔減圧、心嚢穿刺、血栓溶解療法など)が治療の中心となる。
緊張性気胸の特徴的所見
・患側の呼吸音減弱〜消失、打診で鼓音、患側胸郭の膨隆と呼吸運動の低下 ・頸静脈怒張、低血圧、頻脈(閉塞性ショック) ・気管の健側への偏位 ・胸部エックス線:患側肺の虚脱、肺紋理の消失、縦隔の健側偏位、患側横隔膜の低位・平坦化
緊急脱気(針脱気)の穿刺部位
従来は患側の第2肋間鎖骨中線上が標準とされてきた。ただし胸壁の厚い成人では針が胸腔に届かないことがあるため、外傷診療では第4〜5肋間の中腋窩線付近(胸腔ドレーン挿入部位と同じ領域)での穿刺も推奨されている。針脱気はあくまで一時的な処置であり、続いて胸腔ドレーンを留置する。
原因
自然気胸の進行のほか、胸部外傷、中心静脈カテーテル挿入時の合併症、人工呼吸中の圧損傷などで生じる。特に陽圧換気中の患者で急激に換気・循環が悪化した場合は、緊張性気胸を疑う。
POINT
・片側の呼吸音消失+鼓音+ショック+頸静脈怒張 → 緊張性気胸(閉塞性ショック) ・治療は直ちに胸腔の減圧:緊急針脱気 → 胸腔ドレナージ ・臨床診断が原則で、画像確認のために減圧を遅らせない ・減圧前の陽圧換気は胸腔内圧をさらに上げるため禁忌 ・閉塞性ショックに昇圧薬や輸血は根本治療にならない
