StudyMed医師国家試験

1ポイントだけ陽性でも妊娠糖尿病―「減らさず、動いて、産後に測る」が鉄則

第120回医師国家試験 D問題 第70問

国試問題にチャレンジ

第120回 D問題 第70問

27歳の初妊婦(1妊0産)。妊娠26週,耐糖能の評価を目的に来院した。妊娠24週時に随時血糖が120mg/dLであった。身長156cm,体重64kg(妊娠前体重58kg)。75g経口ブドウ糖負荷試験〈OGTT〉を施行し,負荷前値90mg/dL,1時間値184mg/dL,2時間値148mg/dLであった。  適切な対応はどれか。2つ選べ。

  1. a.運動を勧める。
  2. b.減量を指導する。
  3. c.直ちにインスリン療法を導入する。
  4. d.分娩6週間後に耐糖能を再評価する。
  5. e.非妊婦と同じ摂取エネルギー量を指導する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は妊娠中の耐糖能異常、つまり妊娠糖尿病の診断と管理を考える問題だ。着眼点は3つ。OGTTの結果をどう解釈するか、妊婦ならではの食事・体重管理の考え方、そして分娩後のフォローだ。まずOGTTの値を見て、診断はどうなるかな。
医学生医学生
空腹時は正常、2時間値も基準内で、1時間値だけが少し高いですね。非妊娠時の糖尿病診断なら境界型にも届かないくらいなので、経過観察でいい気がします。
ドクタードクター
そこがよくある落とし穴なんだ。妊娠中の75g OGTTは基準が別に決められていて、空腹時92、1時間値180、2時間値153mg/dLのうち、1つでも超えれば妊娠糖尿病と診断する。今回は1時間値が180を超えているから、いわゆる「1ポイント陽性」で妊娠糖尿病だ。
医学生医学生
1項目だけで診断なんですね。内分泌代謝の講義で習った非妊娠時の基準と頭の中で混ざっていました。
ドクタードクター
混同しやすいところだね。妊婦では軽い高血糖でも胎児への影響が出るから、基準が厳しく設定されている。そもそも、なぜ妊娠中に血糖が上がりやすいかわかるかな。
医学生医学生
胎盤から出るホルモンのせいでしょうか。hPLがインスリン抵抗性を起こすと生理学で習いました。
ドクタードクター
その通り。妊娠中期以降、胎盤由来のhPLやプロゲステロンなどがインスリンを効きにくくする。胎児に優先的にブドウ糖を送るための合目的なしくみだけど、インスリン分泌の余力が少ない人では高血糖になる。母体が高血糖だと胎児も高血糖になり、胎児の膵臓がインスリンを多く出して過剰発育、つまり巨大児や肩甲難産、出生後の新生児低血糖につながるんだ。では管理に移ろう。治療の基本は何だと思う?
医学生医学生
食事療法と運動療法ですね。運動を勧めるのは素直に正しいと思います。
ドクタードクター
そう、運動は筋肉での糖の取り込みを増やしてインスリン抵抗性を改善し、食後の血糖上昇を抑える。ウォーキングのような軽〜中等度の有酸素運動がよい。ただし切迫早産や前置胎盤、妊娠高血圧症候群など産科的な問題があれば控える。今回はそうした記載がないから、勧めるのが適切だ。
医学生医学生
減量の指導はどうでしょう。体重が妊娠前から6kg増えているので、減らしたほうが血糖にもよさそうですが。
ドクタードクター
気持ちはわかるけど、妊娠中に体重を減らすことは目標にしないんだ。胎児の発育には一定の体重増加が必要で、過度なエネルギー制限は胎児発育不全やケトン体の増加を招きうる。それにこの方の妊娠前BMIは約23.8で普通体重、26週で6kg増というのも推奨範囲から見て極端ではない。目指すのは体格に合った適正な増加であって、減量ではないんだよ。
医学生医学生
なるほど。それなら摂取エネルギーも非妊婦と同じにするのは違うということですか。
ドクタードクター
その通り。肥満でない妊婦では、標準体重をもとにした基本量に、妊娠時期に応じた付加量を加える。初期プラス50、中期プラス250、末期プラス450kcalが目安だ。付加しないのは妊娠前BMIが25以上の肥満妊婦の場合で、今回は当てはまらない。1日の食事を4〜6回に分ける分割食にして、食後高血糖と空腹時のケトン体産生の両方を防ぐ工夫もする。
医学生医学生
インスリンはすぐには使わないんですね。産婦人科の実習で、妊婦さんがインスリンの自己注射をしていたのを見たので、早めに始めるものかと思っていました。
ドクタードクター
インスリンは、食事・運動療法をしたうえで血糖自己測定の値が目標、たとえば空腹時95mg/dL未満、食後1時間140未満や食後2時間120未満などに届かないときに導入する。今回は1ポイント陽性で空腹時も正常だから、診断した時点ですぐ始める段階ではない。薬が必要なときは胎盤を通過しにくいインスリンを使うのが原則だよ。
医学生医学生
最後の、分娩後の再評価が正解なのは、産後に耐糖能が戻るかを確かめるためですか。
ドクタードクター
それが一つ。胎盤がなくなれば多くの人は耐糖能が元に戻るけど、妊娠糖尿病を経験した女性は将来2型糖尿病になるリスクが約7倍と高い。だから産後6〜12週に75g OGTTで再評価し、正常でも長期に定期検査を続ける。分娩6週間後というのはこの推奨に合っている。
医学生医学生
妊娠糖尿病は、妊娠中だけの問題じゃなくて、将来の糖尿病の予告でもあるんですね。
ドクタードクター
いい言い方だね。発展として、妊娠中の糖代謝異常は3つに分けて覚えておこう。妊娠糖尿病、妊娠中の明らかな糖尿病、糖尿病合併妊娠だ。空腹時126mg/dL以上やHbA1c 6.5%以上なら明らかな糖尿病として扱い、妊娠前からの見逃しが多く含まれる。妊娠初期から高血糖が続く糖尿病合併妊娠では先天異常や流産も増えるから、計画妊娠が重要になる。また、授乳は母体の糖代謝にもよい影響があり、次の妊娠では再発しやすいことも伝えておきたい。
医学生医学生
産後の健診で耐糖能の話までつなげられる医師になりたいです。

まとめ

妊娠中の75g OGTTでは、空腹時92、1時間値180、2時間値153mg/dLのうち1つでも基準を超えれば妊娠糖尿病と診断し、非妊娠時の糖尿病診断とは基準が異なります。治療の基本は食事療法と運動療法で、目標血糖に届かない場合に胎盤を通過しにくいインスリンを導入します。胎児発育のために妊娠中の減量は目標とせず、肥満でない妊婦では妊娠時期に応じたエネルギー付加量を加え、付加しないのは妊娠前BMI 25以上の肥満妊婦に限られます。妊娠糖尿病の女性は将来2型糖尿病を発症するリスクが高いため、産後6〜12週に75g OGTTで耐糖能を再評価し、長期にフォローすることが大切です。妊娠中の生理的なインスリン抵抗性を理解しておくと、診断基準や管理方針の意味が一貫して捉えられます。

解答・解説

正解はa, dです

所見の整理

・27歳の初妊婦、妊娠26週。妊娠中期の血糖スクリーニング(妊娠24週)で随時血糖が120mg/dLだった。日本では随時血糖100mg/dL以上をスクリーニング陽性とする方法があり、本例はこれに当たるため75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)で精査された。 ・妊娠前のBMIは 58÷1.56² ≒ 23.8 で普通体重(18.5以上25未満)。妊娠26週で6kg増えており、普通体重の妊婦の推奨体重増加量(妊娠全期間で10~13kg)から見て、極端な増え方ではない。 ・75g OGTTの結果:負荷前値90mg/dL(基準92mg/dL未満)、1時間値184mg/dL(基準180mg/dL未満)、2時間値148mg/dL(基準153mg/dL未満)。

診断

妊娠糖尿病(GDM)は、75g OGTTで「空腹時(負荷前)92mg/dL以上」「1時間値180mg/dL以上」「2時間値153mg/dL以上」のうち1つ以上を満たし、かつ妊娠中の明らかな糖尿病(空腹時血糖126mg/dL以上、HbA1c 6.5%以上など)や糖尿病合併妊娠に当たらない場合に診断する。非妊娠時の糖尿病の診断とは違い、1項目だけでも診断となる。本例は1時間値だけが基準を超える「1ポイント陽性」で、妊娠糖尿病と診断される。

対応の考え方

妊娠糖尿病の管理は、母体の高血糖による胎児の過剰発育(巨大児、肩甲難産)、新生児低血糖、妊娠高血圧症候群などの合併症を防ぐことが目的である。治療の基本は食事療法と運動療法で、血糖自己測定などで目標の血糖値に達しなければインスリン療法を加える。食事では、胎児の発育に必要なエネルギーを確保するため、肥満でない妊婦には妊娠時期に応じた付加量を加える。妊娠中に体重を減らすことは目標にしない。 また、妊娠糖尿病の女性は、将来2型糖尿病を発症するリスクが高い。分娩後は胎盤由来ホルモンの影響がなくなるため、産後6~12週に75g OGTTで耐糖能を評価し直し、その後も定期的にフォローする。 したがって、適切な対応は運動を勧めることと、産後に耐糖能を再評価することである。

選択肢考察

  1. ○a.  運動を勧める。

    運動は筋肉での糖の取り込みを増やし、インスリン抵抗性を改善して食後の血糖上昇を抑えるため、食事療法とともに妊娠糖尿病の基本の治療となる。ウォーキングなど軽~中等度の有酸素運動が勧められる。ただし、切迫早産、頸管無力症、前置胎盤、妊娠高血圧症候群などの産科的な問題があるときは運動を控える。本例ではそうした合併症の記載はないため、運動を勧めるのが適切である。

  2. ×b.  減量を指導する。

    妊娠中は胎児の発育のために一定の体重増加が必要で、体重を減らすことを目標にした指導は行わない。妊娠中の過度なエネルギー制限は、胎児発育不全や低出生体重児のリスクを高め、エネルギー不足によるケトン体の増加も胎児に悪影響を及ぼしうる。本例は妊娠前のBMIが約23.8の普通体重で、妊娠26週までの体重増加6kgも過剰とはいえない。行うのは、妊娠前の体格に応じた適正な体重増加になるように管理することであり、減量ではない。

  3. ×c.  直ちにインスリン療法を導入する。

    妊娠糖尿病と診断されたら、まず食事療法と運動療法を行い、血糖自己測定などで血糖を評価する。目標値(目安として空腹時95mg/dL未満、食後1時間値140mg/dL未満または食後2時間値120mg/dL未満)に届かない場合に、インスリン療法を始める。本例は1ポイント陽性で空腹時血糖も正常であり、診断した時点ですぐにインスリンを使う段階ではない。なお、妊娠中に薬物療法が必要な場合は、胎盤を通過しにくいインスリンを用いるのが原則である。

  4. ○d.  分娩6週間後に耐糖能を再評価する。

    妊娠中の血糖上昇は、胎盤から出るヒト胎盤性ラクトゲンやプロゲステロンなどがインスリンを効きにくくすることが主な原因で、分娩後には多くの場合、耐糖能は元に戻る。しかし、妊娠糖尿病になった女性は、将来2型糖尿病を発症するリスクが非妊娠女性の約7倍と高い。そのため、産後6~12週に75g OGTTを行って耐糖能を再評価し、正常であっても長く定期的に検査を続ける。分娩6週間後の再評価はこの推奨に合う。

  5. ×e.  非妊婦と同じ摂取エネルギー量を指導する。

    妊娠中は胎児や胎盤の発育、母体の組織の増加のためにエネルギー需要が増える。肥満でない妊婦の妊娠糖尿病の食事療法では、標準体重(目標体重)に基づく基本のエネルギー量に、妊娠時期に応じた付加量(初期+50kcal、中期+250kcal、末期+450kcal)を加えるのが基本である。非妊婦と同じエネルギー量(付加なし)とするのは、妊娠前BMI 25以上の肥満妊婦の場合であり、本例(妊娠前BMI 約23.8)には当たらない。

妊娠中の糖代謝異常の分類

・妊娠糖尿病(GDM):妊娠中にはじめて発見・発症した、糖尿病に至っていない糖代謝異常。75g OGTTで空腹時92mg/dL以上、1時間値180mg/dL以上、2時間値153mg/dL以上のうち1点以上を満たす。 ・妊娠中の明らかな糖尿病:妊娠中に見つかった、糖尿病の診断基準を満たす状態。空腹時血糖126mg/dL以上、HbA1c 6.5%以上のいずれかを満たす場合などで判定する。随時血糖200mg/dL以上や75g OGTTの2時間値200mg/dL以上のときは、明らかな糖尿病を考えて空腹時血糖やHbA1cを確かめる。妊娠前から見逃されていた糖尿病が多く含まれる。 ・糖尿病合併妊娠:妊娠前から糖尿病と診断されている場合、または確実な糖尿病網膜症がある場合。

スクリーニング

妊娠初期に随時血糖を測り、妊娠中期(24~28週)には随時血糖(100mg/dL以上で陽性)または50gグルコースチャレンジテスト(1時間値140mg/dL以上で陽性)でスクリーニングを行う。陽性であれば75g OGTTで診断する。

なぜ妊娠中に血糖が上がるのか

妊娠中期以降、胎盤からヒト胎盤性ラクトゲン(hPL)、プロゲステロン、エストロゲン、コルチゾールなどが分泌され、インスリン抵抗性が強くなる。これは胎児にブドウ糖を優先的に送るためのしくみだが、インスリン分泌の余力が少ない女性では高血糖になる。リスク因子には肥満、糖尿病の家族歴、高年妊娠、巨大児出産の既往、妊娠糖尿病の既往、多囊胞性卵巣症候群などがある。

母体の高血糖がもたらす影響

・胎児・新生児:巨大児(母体の高血糖 → 胎児の高血糖 → 胎児の高インスリン血症 → 過剰発育)、肩甲難産、新生児低血糖、新生児呼吸窮迫症候群、多血症、高ビリルビン血症、低カルシウム血症など。妊娠初期から高血糖がある糖尿病合併妊娠では、先天異常や流産も増える。 ・母体:妊娠高血圧症候群、羊水過多、帝王切開の増加、将来の2型糖尿病。

管理

・食事療法:肥満でない妊婦は「目標(標準)体重×30kcal+妊娠時期に応じた付加量」、肥満妊婦(妊娠前BMI 25以上)は付加量を加えない。1日の食事を4~6回に分ける分割食で、食後の血糖上昇を抑えつつ空腹時のケトン体の産生を防ぐ。 ・運動療法:産科的な問題がなければ、軽~中等度の有酸素運動を勧める。 ・血糖自己測定で評価し、目標に届かなければインスリン療法を行う。 ・産後:授乳は母体の糖代謝にも良い影響がある。産後6~12週に75g OGTTで再評価し、その後も長期のフォローが必要である。次の妊娠でも妊娠糖尿病が再発しやすい。

POINT

・妊娠糖尿病の診断(75g OGTT):空腹時92以上、1時間値180以上、2時間値153以上(mg/dL)のうち1つ以上。 ・治療の基本は食事療法と運動療法。目標血糖に届かなければインスリン(経口血糖降下薬は原則使わない)。 ・妊娠中に減量は指導しない。 ・肥満でない妊婦の摂取エネルギー:基本量に妊娠時期の付加量(初期+50、中期+250、末期+450kcal)。肥満妊婦は付加しない。 ・産後6~12週に75g OGTTで再評価し、将来の2型糖尿病に備えて長期にフォローする。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。