StudyMed医師国家試験

上も下も異常なし、それでも血は出ている―小腸出血を追いつめる検査の順番

第120回医師国家試験 D問題 第69問

国試問題にチャレンジ

第120回 D問題 第69問

62歳の男性。血便を主訴に来院した。2か月前に暗赤色の血便があったが,1回のみで自然軽快したため様子をみていた。1週間前と3日前にも同様の血便があったため受診した。今朝の便は普通便である。45歳から高血圧症で治療中であり,60歳から心房細動のため直接経口抗凝固薬〈DOAC〉を内服している。意識は清明。身長168cm,体重60kg。体温36.8℃。脈拍84/分,整。血圧136/84mmHg。呼吸数16/分。SpO2 98%(room air)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,圧痛を認めない。腸雑音は軽度亢進している。直腸指診で異常を認めない。血液所見:赤血球426万,Hb 11.8g/dL,Ht 38%,白血球7,400,血小板26万,PT-INR 1.1(基準0.9~1.1)。血液生化学所見:総蛋白6.8g/dL,アルブミン3.6g/dL,総ビリルビン0.9mg/dL,AST 26U/L,ALT 27U/L,LD 265U/L(基準124~222),アミラーゼ65U/L(基準44~132),尿素窒素21mg/dL,クレアチニン0.8mg/dL,血糖101mg/dL,Fe 20μg/dL,TIBC 422μg/dL(基準290~390),フェリチン18ng/mL(基準20~120)。CRP 0.1mg/dL。上部消化管内視鏡検査および下部消化管内視鏡検査を施行したが出血源を認めない。  現時点でこの患者に行うのはどれか。2つ選べ。

  1. a.胆道鏡検査
  2. b.腹腔鏡検査
  3. c.腹部造影CT
  4. d.超音波内視鏡検査
  5. e.小腸バルーン内視鏡検査

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、上部と下部の消化管内視鏡で出血源が見つからない消化管出血を、次にどう調べるかという問題だ。着眼点は「出血源はどこに隠れていそうか」と「全身状態は安定しているか」の2つ。まずは血液検査から、この出血がどんな性質のものか考えてみよう。
医学生医学生
Feが低くてTIBCが高く、フェリチンも低いので鉄欠乏性貧血ですね。少しずつ出血が続いているということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。貯蔵鉄が減っていて、慢性的な出血で鉄を失っている状態だ。計算するとMCVはまだ正球性の範囲だけれど、MCHCはやや低めで、鉄欠乏が進みつつある段階と読める。一方でバイタルは安定していて、ショックの徴候はない。
医学生医学生
DOACを飲んでいるのに、PT-INRは正常なんですね。抗凝固は効いていないと考えていいんでしょうか。
ドクタードクター
そこは注意が必要なところ。DOACではPT-INRが薬の効き具合を正確に反映しないから、正常範囲でも抗凝固作用がないとは言えない。そしてもう一つ大事なのは、出血を「抗凝固薬のせい」と決めつけないこと。抗凝固薬は、もともとある腫瘍や血管病変からの出血を表に出すきっかけになるんだ。
医学生医学生
上も下も内視鏡で何もないとなると、残るのは小腸ですか。消化器内科の講義で「OGIB」という言葉を習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。上下部内視鏡で出血源がわからない消化管出血は、以前は原因不明消化管出血と呼ばれていた。でもその大部分が十二指腸乳頭部より先から回盲弁までの小腸由来だとわかってきて、今は「小腸出血疑い」として扱うのが一般的だ。暗赤色の血便という点も、鮮血便より口側の出血を思わせて小腸出血に合う。
医学生医学生
小腸出血の原因にはどんなものがありますか。
ドクタードクター
大きく分けて、血管拡張症などの血管性病変、GISTや悪性リンパ腫、小腸癌などの腫瘍、NSAIDs潰瘍やクローン病などの潰瘍性病変、それに若年者ならメッケル憩室がある。高齢で抗凝固薬を飲んでいる人では、血管拡張症と腫瘍が特に重要だね。では、どの検査から始める?
医学生医学生
まずは負担の少ない腹部造影CTでしょうか。
ドクタードクター
正解。造影CTは短時間で小腸を含む腹部全体を評価できて、小腸腫瘍や腸管壁の肥厚、血管性病変を拾えるし、活動性出血があれば造影剤の血管外漏出として部位がわかる。腎機能も問題ないから造影剤も使える。さらに、病変の位置がわかれば、次の内視鏡を口から入れるか肛門から入れるかを決める手がかりにもなるんだ。
医学生医学生
次は小腸を直接見る検査ですね。カプセル内視鏡かバルーン内視鏡か、どちらがいいのか迷います。
ドクタードクター
どちらも小腸を観察できるけれど、決定的な違いがある。カプセル内視鏡は飲み込むだけで負担は少ないが、撮影するだけで生検や止血はできない。一方、小腸バルーン内視鏡は、バルーンとオーバーチューブで小腸をたぐり寄せながら奥へ進めていく検査で、観察に加えて生検による病理診断、クリップや焼灼による止血、ポリープ切除までできる。今回の選択肢にあるのはバルーン内視鏡のほうだね。
医学生医学生
診断と治療を一度にできるのは強みですね。超音波内視鏡は使えないんですか。病院実習で膵臓の精査に使っているのを見学しました。
ドクタードクター
超音波内視鏡は、胃や十二指腸の中から膵臓や胆道、消化管壁の内部を詳しく見る検査で、膵腫瘍や粘膜下腫瘍の評価、癌の深達度診断に使う。でも届く範囲は上部消化管や直腸周辺に限られ、小腸の大部分は観察できない。粘膜表面の出血源を探す目的にも向かないんだ。
医学生医学生
胆道鏡は、胆道出血を探すために使うことはないんでしょうか。
ドクタードクター
胆道出血という病態自体はまれにあるけれど、そのときは腹痛や黄疸、肝胆道系酵素の異常などが手がかりになる。今回はそうした所見がなく、上部内視鏡で十二指腸乳頭からの出血も確認されていない。胆道鏡は胆管癌の進展評価や大きな胆管結石の破砕に使う検査で、今の段階で選ぶものではないよ。
医学生医学生
腹腔鏡でお腹の中を直接見るのはどうですか。
ドクタードクター
腹腔鏡は全身麻酔下で腹壁に穴をあける侵襲的な検査で、しかも見えるのは腸管の外側の漿膜側だけ。粘膜にある小さな出血源を見つけるのには向かない。負担の少ない検査で出血源を探すのが先だね。
医学生医学生
造影CTで病変を探して、バルーン内視鏡で直接見て生検や止血をする、という流れなんですね。
ドクタードクター
そう。全身状態が安定していれば、造影CT、カプセル内視鏡、バルーン内視鏡と進むのが基本だ。カプセルは腸に狭窄があると滞留するおそれがあるので、狭窄が疑われるときは事前に開通性を確かめる。逆に出血が大量で循環が不安定なら、造影CTで部位を確認して血管造影による塞栓術で止血することもある。出血シンチグラフィや、若い人ならメッケル憩室シンチグラフィも選択肢になるよ。
医学生医学生
抗凝固薬を飲んでいる高齢の方の貧血を見たら、薬のせいで済ませずに小腸まで調べる意識を持ちたいと思います。
ドクタードクター
その姿勢が大切だね。CBTや国試でも、「上下部内視鏡で異常なし」の一文が出たら小腸出血を思い浮かべて、検査の順番と各検査でできることを整理しておこう。

まとめ

上部・下部消化管内視鏡で出血源が見つからない消化管出血は、以前は原因不明消化管出血と呼ばれましたが、その多くは小腸由来であり、現在は小腸出血疑いとして扱います。原因には血管拡張症などの血管性病変、GISTや悪性リンパ腫などの腫瘍、NSAIDs潰瘍やクローン病、メッケル憩室があり、高齢の抗凝固薬内服者では血管拡張症や腫瘍が重要です。全身状態が安定していれば、まず負担の少ない腹部造影CTで病変や出血部位を探し、続いてカプセル内視鏡や小腸バルーン内視鏡で粘膜を直接観察します。バルーン内視鏡は生検や止血もできる一方、超音波内視鏡・胆道鏡・腹腔鏡は小腸粘膜の出血源検索には適しません。抗凝固薬内服中の出血を薬のせいと決めつけず、慢性出血による鉄欠乏を手がかりに出血源を系統的に探す姿勢は、日常診療で見逃しを防ぐ基本となります。

解答・解説

正解はc, eです

所見の整理

・62歳男性。2か月前から暗赤色の血便を3回繰り返している。出血はそのつど自然に止まり、今朝は普通便(間欠的な出血)。 ・心房細動に対して直接経口抗凝固薬(DOAC:トロンビンやXa因子を直接阻害する抗凝固薬)を内服している(出血しやすい状態)。 ・バイタルサインは安定しており、出血性ショックの徴候はない。眼瞼結膜の貧血所見もはっきりしない。直腸指診は異常なし(痔核や直腸の腫瘍などは考えにくい)。 ・Hb 11.8g/dLと軽度の貧血。Fe低値、TIBC高値、フェリチン低値で、体内の貯蔵鉄が減っている(鉄欠乏)。MCV(平均赤血球容積)は Ht÷RBC で 38÷426×1,000 ≒ 89fLとまだ正球性だが、MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)は 11.8÷38×100 ≒ 31%とやや低く、慢性出血による鉄欠乏が進みつつある段階と考えられる。 ・尿素窒素/クレアチニン比は約26とやや高い。血液が腸管内で分解・吸収されることで上昇しうる所見で、比較的口側の出血とも矛盾しない。 ・上部・下部消化管内視鏡検査でいずれも出血源が見つからない。

診断へのプロセス

上部消化管内視鏡で食道・胃・十二指腸を、下部消化管内視鏡で大腸(と回腸末端)を観察しても出血源が見つからない消化管出血は、かつて「原因不明消化管出血(OGIB)」と呼ばれた。現在はその大部分が十二指腸乳頭部より先から回盲弁までの小腸からの出血とわかってきたため、「小腸出血疑い」として扱う。本例は暗赤色の血便で、鮮血便よりも口側の出血を思わせる点も小腸出血に合う。 小腸出血の原因には、血管性病変(血管拡張症〈angioectasia〉など)、腫瘍(GIST、悪性リンパ腫、小腸癌など)、潰瘍性病変(NSAIDsによる潰瘍、クローン病など)、メッケル憩室などがある。高齢者で抗凝固薬を飲んでいる場合は、血管拡張症や腫瘍が重要である。

設問の考え方

全身状態が安定している小腸出血疑いでは、まず体への負担が少ない腹部造影CTで出血部位や腫瘍性病変を探す。次に、小腸カプセル内視鏡や小腸バルーン内視鏡で小腸の粘膜を直接観察する。バルーン内視鏡なら生検や止血処置もできる。したがって、現時点で行う検査は腹部造影CTと小腸バルーン内視鏡検査である。

選択肢考察

  1. ×a.  胆道鏡検査

    胆道鏡は胆管内に細い内視鏡を入れて直接観察する検査で、胆管癌の広がりを調べたり、大きな胆管結石を砕いたりするのに使う。胆道出血(胆管から十二指腸乳頭を通って出血するもの)はまれにあるが、本例には肝胆道系酵素やビリルビンの異常、腹痛、黄疸などそれを疑う所見がない。また、上部消化管内視鏡で乳頭からの出血も確認されていない。現時点で選ぶ検査ではない。

  2. ×b.  腹腔鏡検査

    腹腔鏡検査は、全身麻酔下で腹壁に穴をあけ、腹腔内を観察する侵襲的な検査である。腹腔内からは腸管の外側(漿膜側)しか見えず、粘膜にある小さな出血源を見つけるのには向かない。造影CTやカプセル内視鏡・バルーン内視鏡などの負担の少ない検査で出血源を探すのが先で、出血源不明の段階で行う検査ではない。

  3. ○c.  腹部造影CT

    腹部造影CTは体への負担が少なく、短時間で小腸を含む腹部全体を評価できる。小腸腫瘍(GIST、悪性リンパ腫、小腸癌など)や腸管壁の肥厚、血管性病変を見つけたり、活動性出血があれば造影剤の血管外漏出として出血部位を示したりできる。結果からバルーン内視鏡の挿入経路(経口か経肛門か)を決める手がかりにもなる。腎機能も正常(クレアチニン0.8mg/dL)で造影剤を使える。小腸出血疑いの初期検査として行う。

  4. ×d.  超音波内視鏡検査

    超音波内視鏡検査(EUS)は、先端に超音波装置を付けた内視鏡で、胃や十二指腸の中から膵臓・胆道や消化管壁の内部を詳しく見る検査である。膵腫瘍、胆道疾患、粘膜下腫瘍の評価、消化管癌の深達度診断などに使う。届く範囲は上部消化管や直腸周辺に限られ、小腸の大部分は観察できない。粘膜表面の出血源を探す目的にも向かず、本例の出血源の検索には適さない。

  5. ○e.  小腸バルーン内視鏡検査

    小腸バルーン内視鏡(ダブルバルーン内視鏡、シングルバルーン内視鏡)は、バルーンを付けた内視鏡とオーバーチューブで小腸をたぐり寄せながら奥へ進める検査である。経口または経肛門的に挿入し、両方を組み合わせれば小腸全体を観察できる。粘膜を直接観察するだけでなく、生検による病理診断、クリップや焼灼による止血、ポリープ切除などの治療もできる。小腸出血疑いの診断と治療に有用である。CTやカプセル内視鏡の結果から病変の位置が予想できれば、病変に近い側から挿入する。

消化管出血の部位による分類

・上部消化管出血:トライツ靱帯より口側(食道・胃・十二指腸)。吐血や黒色便になることが多い。 ・中部消化管出血(小腸出血):十二指腸乳頭部より先から回盲弁まで。黒色便から暗赤色便までさまざまである。 ・下部消化管出血:大腸・直腸・肛門。鮮血便や暗赤色便になる。 上下部の内視鏡で出血源がわからない消化管出血は以前「原因不明消化管出血(OGIB)」と呼ばれていた。その多くが小腸由来であることがわかり、現在は「小腸出血(疑い)」として診療するのが一般的である。目に見える出血がある「顕性出血」と、便潜血陽性や鉄欠乏性貧血だけの「潜在性出血」に分けられる。本例は顕性出血にあたる。

小腸出血の主な原因

・血管性病変:血管拡張症(angioectasia)、動静脈奇形、Dieulafoy病変など。高齢者や慢性腎臓病、抗血栓薬内服者に多い。 ・腫瘍性病変:GIST、悪性リンパ腫、小腸癌、転移性腫瘍、ポリープ(Peutz-Jeghers症候群など)。 ・炎症・潰瘍性病変:NSAIDsや低用量アスピリンによる小腸潰瘍、クローン病、腸結核など。 ・その他:メッケル憩室(若年者に多い。異所性胃粘膜からの出血)など。

小腸出血の検査

・腹部造影CT(CT enterographyを含む):負担が少なく、まず行う。活動性出血があれば造影剤の血管外漏出がみられる。 ・小腸カプセル内視鏡:カプセル型のカメラを飲み込んで小腸全体を撮影する。負担は少ないが、生検や止血はできない。腸管の狭窄があるとカプセルが詰まる(滞留する)おそれがあるため、狭窄が疑われるときは事前に開通性を確認する。 ・小腸バルーン内視鏡:経口・経肛門的に挿入し、観察・生検・止血・ポリープ切除ができる。 ・その他:出血シンチグラフィ(少量の出血も検出できる)、腹部血管造影(活動性出血の部位を調べ、塞栓術で止血もできる)、メッケル憩室シンチグラフィ(99mTcO4-)など。 全身状態が安定していれば、造影CTで病変を探し、カプセル内視鏡で小腸全体を観察し、バルーン内視鏡で精査・治療する流れが基本である。出血が大量で不安定な場合は、造影CTで出血部位を確かめてから血管造影による塞栓術を行うことがある。

抗凝固薬内服中の消化管出血

抗凝固薬は出血を増やし、もともとあった病変(腫瘍や血管拡張症など)を明らかにするきっかけになる。「抗凝固薬のせい」と決めつけずに、出血源を探すことが重要である。DOACではPT-INRが薬の効き具合を正確に表さないため、PT-INRが正常範囲でも抗凝固作用がないとは言えない。

POINT

・上下部消化管内視鏡で出血源がない消化管出血 → 小腸出血を疑う(以前のOGIB)。 ・小腸出血の検査:まず腹部造影CT、次に小腸カプセル内視鏡・小腸バルーン内視鏡。 ・小腸バルーン内視鏡は観察に加えて生検・止血もできる。カプセル内視鏡は観察のみ。 ・小腸出血の原因:血管拡張症、腫瘍(GIST、悪性リンパ腫など)、NSAIDs潰瘍、クローン病、メッケル憩室。 ・慢性の消化管出血は鉄欠乏(Fe低値、TIBC高値、フェリチン低値)を起こす。 ・胆道鏡・超音波内視鏡・腹腔鏡は小腸粘膜の出血源の検索には使わない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。