StudyMed医師国家試験

「足を動かさない」は痛みのサイン―赤くも腫れてもいない乳児の化膿性股関節炎

第120回医師国家試験 D問題 第46問

国試問題にチャレンジ

第120回 D問題 第46問

9か月の女児。左足を動かさないことに母親が気付き来院した。1週間前から発熱,不機嫌があり,自宅近くの診療所で急性上気道炎と診断されていた。月齢相当の定期予防接種は接種済みである。不機嫌であるが,嘔吐は認めていない。体温40.2℃。大泉門は平坦,軟。左下肢に発赤,腫脹は認めない。左下肢は動かそうとせず,左股関節を他動的に動かすと他動方向によらず啼泣する。右下肢は動かし,右股関節を他動的に動かしても痛がる様子はない。左鼠径部のリンパ節の腫大を認める。血液所見:赤血球380万,Hb 13.9g/dL,Ht 39%,白血球22,000(好中球88%,好酸球1%,好塩基球1%,単球5%,リンパ球5%),血小板25万。CRP 16.3mg/dL。  最も考えられるのはどれか。

  1. a.蜂巣炎
  2. b.急性白血病
  3. c.股関節脱臼
  4. d.細菌性髄膜炎
  5. e.化膿性股関節炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、発熱している乳児が片足を動かさなくなったときに何を考えるか、という問題だ。注目してほしいのは3つ。痛みはどこにあるのか、その痛みは炎症によるものか、そして全身の炎症反応はどの程度か。まず、乳児が足を動かさないと聞いて、どう考えるかな。
医学生医学生
最初は麻痺かと思いました。でも股関節を動かすと泣くので、痛いから動かさないということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。乳児は痛みを言葉で訴えられないから、患肢を動かさない、おむつ替えで激しく泣く、という形で痛みが表に出る。これを偽性麻痺と呼ぶんだ。神経の麻痺ではなく、痛みを避けるために動かさない状態だね。
医学生医学生
小児科実習で、指導医の先生に「赤ちゃんの『動かさない』はまず痛みを疑え」と言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい教えだね。では痛みの場所を絞ろう。皮膚に発赤や腫脹はなく、股関節をどの方向に動かしても泣く。これは何を意味すると思う?
医学生医学生
皮膚の病気ではなく、関節そのものに問題がある、ということでしょうか。
ドクタードクター
そう。関節内に炎症が起きて関節液や膿がたまると、関節包が張りつめる。だから屈曲でも伸展でも回旋でも、どの方向に動かしても関節包が引き伸ばされて強く痛むんだ。そこに高熱、好中球優位の白血球増多、CRPの著明な上昇が加わる。左の鼠径リンパ節が腫れているのも、股関節を含む下肢近位部の炎症を支持する所見だね。
医学生医学生
細菌感染が股関節に起きている、つまり化膿性股関節炎ですね。
ドクタードクター
正解。上気道炎とされた発熱のあとに関節症状が出ていて、菌が血流に乗って関節に届いた血行性感染として矛盾しない。ほかの選択肢も見ていこう。蜂巣炎はどうかな。
医学生医学生
蜂巣炎なら皮膚が赤く腫れて熱をもつはずなので、それがない時点で違いそうです。
ドクタードクター
そうだね。蜂巣炎は真皮深層から皮下組織の化膿性炎症だから、病変部の皮膚に発赤・腫脹・熱感・圧痛が出る。今回は皮膚所見がなく、痛みは関節を動かしたときに生じている。ただし逆も大事で、股関節は厚い筋肉に覆われた深部の関節だから、化膿性股関節炎でも外からは赤くも腫れても見えないことが多い。皮膚所見がないことで否定してはいけないんだ。
医学生医学生
急性白血病も骨痛で歩かなくなることがあると、血液内科の講義で習いました。
ドクタードクター
小児の下肢痛の鑑別として大切な視点だよ。ただ白血病では骨髄が白血病細胞に置き換わるから、貧血や血小板減少が出やすく、末梢血に芽球がみられることが多い。今回はヘモグロビンも血小板も保たれていて、増えているのは成熟した好中球。細菌感染に対する反応性の増加と考えるのが自然だね。
医学生医学生
股関節脱臼は、乳児健診で開排制限をみるあれですよね。
ドクタードクター
そう、主に発育性股関節形成不全として見つかる。開排制限や大腿のしわの左右差、脚長差で気付かれるけれど、通常は痛みも発熱もなく、炎症反応も上がらない。ちなみに化膿性股関節炎で関節包が膿で引き伸ばされると、二次的に病的脱臼を起こすことがあるから、それも覚えておこう。
医学生医学生
発熱と不機嫌なら細菌性髄膜炎も心配になります。
ドクタードクター
乳児の発熱では必ず頭に置くべき疾患だね。乳児では項部硬直がはっきりしないことも多いから、大泉門膨隆、嘔吐、哺乳不良、けいれんなどが手がかりになる。今回は大泉門が平坦で軟らかく、嘔吐もない。そもそも片側の股関節に限局した運動時痛は髄膜炎では説明できない。Hibや肺炎球菌の定期接種を済ませていることも、可能性を下げる材料だね。
医学生医学生
皮膚でも骨髄でも中枢神経でもなく、関節の内部に強い細菌感染がある、という絞り込み方ですね。
ドクタードクター
その通り。ここからは臨床での注意点だ。化膿性股関節炎は整形外科的な緊急疾患なんだ。診断が遅れると、関節内圧の上昇と細菌の酵素で軟骨や大腿骨頭が壊され、骨頭壊死や骨端線障害による脚長差、股関節の変形といった重い後遺症を残す。
医学生医学生
確定診断はどうするんですか。エックス線で分かりますか。
ドクタードクター
初期のエックス線は変化に乏しいことが多い。まず超音波で関節液の貯留を確認し、関節穿刺で膿性の関節液を証明してグラム染色と培養を行う。血液培養も採ったうえで、速やかに切開排膿・関節洗浄と抗菌薬の経静脈投与を行う。起炎菌は黄色ブドウ球菌が最も多く、MRSAにも注意が必要だ。乳幼児では、大腿骨近位の骨幹端に起きた骨髄炎が関節内に波及しやすい点も特徴だね。
医学生医学生
年長児の股関節痛だと、単純性股関節炎との区別も難しそうです。
ドクタードクター
よく気付いたね。単純性股関節炎は3〜10歳くらいに多く、上気道炎のあとに起こりやすいけれど、発熱や炎症反応は軽く、安静で自然に軽快する。荷重できない、38.5℃を超える発熱、赤沈亢進、白血球増多といった項目が多くそろうほど化膿性を疑う、という考え方が参考になる。迷ったら穿刺で確かめる、という姿勢が大切だよ。

まとめ

乳児が発熱とともに片側の下肢を動かさない場合は、麻痺ではなく痛みによる偽性麻痺を考え、どの関節に痛みがあるかを他動運動で確かめます。股関節を全方向に動かして痛がり、好中球優位の白血球増多とCRP高値を伴えば、化膿性股関節炎を強く疑います。股関節は深部にあるため皮膚の発赤や腫脹が乏しく、それだけで否定できない点が落とし穴です。蜂巣炎は皮膚所見、急性白血病は貧血・血小板減少や芽球、発育性股関節形成不全は無痛・無熱、細菌性髄膜炎は大泉門膨隆などで区別します。超音波と関節穿刺で速やかに診断し、緊急の排膿・洗浄と抗菌薬投与につなげることが、骨頭壊死などの後遺症を防ぐ鍵になります。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・9か月の女児。左足を動かさないことに母親が気付いて受診した。乳児は痛みを言葉で訴えられないため、「手足を動かさない」「おむつ替えで激しく泣く」といった形で痛みが現れる。動かさないのは麻痺ではなく、痛みのために動かさない状態(偽性麻痺)を考える。 ・1週間前から発熱と不機嫌が続いており、急性上気道炎と診断されていた。体温40.2℃の高熱が持続している。 ・月齢相当の定期予防接種は済んでいる。インフルエンザ菌b型(Hib)や肺炎球菌による重症細菌感染症の可能性は、未接種児より低い。 ・大泉門は平坦かつ軟らかく、嘔吐もないため、頭蓋内圧亢進を示す所見はない。 ・左下肢の皮膚に発赤・腫脹はない。左股関節は他動的にどの方向へ動かしても啼泣する。右股関節は動かしても痛がらない。左鼠径部リンパ節が腫大している。 ・血液検査では白血球22,000/μLと増加し、好中球88%が優位である。CRP 16.3mg/dLと著明に上昇している。Hb 13.9g/dL、血小板25万/μLと、貧血や血小板減少はない。

診断へのプロセス

(1) 病変の部位:皮膚表面に異常がなく、左股関節のあらゆる方向の他動運動で痛がる。病変は皮膚・皮下ではなく、左股関節の内部にあると考えられる。関節内に炎症や液体の貯留があると、どの方向に動かしても関節包が引き伸ばされて強く痛む。 (2) 病変の性質:高熱、好中球優位の白血球増多、CRP著明高値は、細菌感染による強い全身炎症を示す。股関節からリンパ液が流れ込む左鼠径部リンパ節が腫れていることも、左下肢近位部の炎症を支持する。 (3) 経過:「上気道炎」とされた発熱のあとに関節症状が現れており、菌が血流に乗って関節に到達した(血行性感染)経過として矛盾しない。 以上から、左化膿性股関節炎が最も考えられる。乳児の股関節は深部にあり、腫脹や発赤が外から見えにくいため、発見が遅れやすい。

この後の対応

化膿性股関節炎は、診断と治療が遅れると大腿骨頭の壊死や成長軟骨(骨端線)の破壊を起こし、脚長差や股関節の変形といった重い後遺症を残す。超音波検査で関節液の貯留を確認する。関節穿刺で膿性の関節液を証明し、グラム染色と培養を行う。血液培養も採取したうえで、速やかに切開排膿・関節洗浄と抗菌薬投与を行う。整形外科的な緊急疾患である。

選択肢考察

  1. ×a.  蜂巣炎

    蜂巣炎(蜂窩織炎)は、皮膚の小さな傷などから細菌が侵入し、真皮深層から皮下組織に広がる化膿性炎症である。病変部の皮膚に発赤・腫脹・熱感・圧痛が現れるのが特徴である。本例では左下肢に発赤も腫脹もない。また、痛みは皮膚の圧迫ではなく股関節を動かしたときに生じている。病変の主座は関節内とみるべきであり、蜂巣炎は考えにくい。

  2. ×b.  急性白血病

    急性白血病は骨痛・関節痛を契機に「足を動かさない」「歩かない」と受診することがあり、小児の下肢痛の鑑別として重要である。しかし白血病では、骨髄が白血病細胞に置き換わって正常な造血が妨げられる。そのため貧血、血小板減少による出血傾向、正常好中球の減少がみられ、末梢血に芽球(未熟な白血球)が出現することが多い。本例ではHb 13.9g/dL、血小板25万/μLと保たれている。白血球増多も成熟好中球が中心で芽球の記載はなく、細菌感染による反応性の増加と考えるのが自然である。

  3. ×c.  股関節脱臼

    乳児の股関節脱臼は、主に発育性股関節形成不全(developmental dysplasia of the hip:DDH)として生じる。開排制限(股関節を開きにくい)、大腿や鼠径部の皮膚のしわの左右差、脚長差などで気付かれる。しかし通常、痛みや発熱はなく、白血球増多やCRP上昇といった炎症所見も伴わない。本例は高熱と強い炎症反応、どの方向の動きでも生じる強い疼痛を示しており、脱臼では説明できない。なお、化膿性股関節炎で関節内に膿がたまり、関節包が引き伸ばされると、二次的に病的脱臼を起こすことがある。

  4. ×d.  細菌性髄膜炎

    細菌性髄膜炎も乳児の発熱・不機嫌の原因として見逃してはならない疾患である。乳児では項部硬直がはっきりしないことが多く、大泉門膨隆、嘔吐、哺乳不良、けいれん、意識障害などが手がかりになる。本例では大泉門が平坦かつ軟らかく、嘔吐もなく、頭蓋内圧亢進を示す所見がない。また、片側の股関節に限局した運動時痛は髄膜炎では説明できない。さらにHibワクチンと肺炎球菌ワクチンを含む定期接種を済ませていることも、可能性を下げる要素である。

  5. ○e.  化膿性股関節炎

    乳児の高熱と不機嫌に加え、片側下肢を動かさない、その股関節をどの方向に動かしても痛がる、所属リンパ節(左鼠径部)が腫れている、という所見がそろっている。さらに好中球優位の白血球増多とCRP著明高値を伴っており、化膿性股関節炎に典型的である。乳幼児では、骨幹端に起こった骨髄炎が関節内へ波及しやすい。股関節では骨幹端が関節包の内側にあるため、その傾向が特に強い。起炎菌としては黄色ブドウ球菌が最も多い。皮膚の発赤や腫脹が目立たないのは、股関節が厚い筋肉に覆われた深部の関節だからであり、本症を否定する根拠にはならない。診断の遅れが骨頭破壊などの後遺症に直結するため、関節穿刺による確認と緊急の排膿・洗浄が必要となる。

化膿性股関節炎の概要

・細菌が関節内に感染して起こる化膿性炎症である。乳幼児、特に2歳未満に多い。ほとんどが片側性である。 ・感染経路:血行性感染が多い。乳幼児では、大腿骨近位骨幹端の骨髄炎から関節内へ波及しやすい。股関節では骨幹端の一部が関節包内にあるためである。新生児・乳児では大腿静脈穿刺など医療行為に伴って発症することもある。 ・起炎菌:黄色ブドウ球菌が最多である(MRSAにも注意)。ほかにレンサ球菌、肺炎球菌、Kingella kingae(主に6か月〜4歳の乳幼児)などがある。インフルエンザ菌b型はワクチン普及で著減した。

症状・所見

・全身症状:発熱、不機嫌、哺乳不良。 ・局所症状:患肢を動かさない(偽性麻痺)、おむつ交換時の啼泣、股関節の他動運動時痛。股関節は関節内圧を最も下げられる肢位、すなわち屈曲・外転・外旋位をとることが多い。 ・検査:白血球増多(好中球優位)、CRP上昇、赤沈亢進。 ・画像:エックス線では初期の変化は乏しい。関節包の膨隆、関節裂隙の開大、骨頭の側方化がみられることがある。超音波検査は関節液の貯留を簡便に確認でき、穿刺の誘導にも用いる。MRIは骨髄炎の合併評価に有用である。 ・確定診断:関節穿刺で膿性の関節液を確認し、グラム染色・培養で起炎菌を同定する。

治療と予後

・緊急に切開排膿・関節洗浄を行い、起炎菌を考慮した抗菌薬を経静脈投与する。 ・治療が遅れると、関節内圧の上昇と細菌の蛋白分解酵素によって軟骨や骨頭が破壊される。大腿骨頭壊死、骨端線障害による脚長差、病的脱臼、股関節の変形・強直などの後遺症を残す。

小児の股関節痛・跛行の鑑別

・単純性股関節炎:3〜10歳に多く、上気道炎のあとに起こりやすい。発熱や炎症反応は軽度で、安静で1〜2週間以内に自然軽快する。化膿性股関節炎との鑑別には、Kocherの基準が参考になる(荷重不能、38.5℃超の発熱、赤沈40mm/時以上、白血球12,000/μL超。該当項目が多いほど化膿性の可能性が高い)。 ・Perthes病:4〜8歳前後の男児に多い大腿骨頭の阻血性壊死。発熱はない。 ・大腿骨頭すべり症:肥満傾向の思春期男児に多い。Drehmann徴候(股関節を屈曲すると自然に外旋する)がみられる。 ・発育性股関節形成不全:乳児期の開排制限で気付かれ、通常は無痛である。 ・その他:骨髄炎、若年性特発性関節炎、急性白血病・神経芽腫などの悪性腫瘍、虐待による外傷。

POINT

・乳児では痛みが「患肢を動かさない(偽性麻痺)」「おむつ替えで泣く」として現れる。 ・発熱、片側股関節の全方向性の他動運動時痛、好中球優位の白血球増多・CRP高値がそろえば化膿性股関節炎を疑う。 ・股関節は深部にあるため、皮膚の発赤・腫脹がなくても否定できない。 ・診断は超音波で関節液貯留を確認し、関節穿刺で膿を証明する。起炎菌は黄色ブドウ球菌が最多である。 ・骨頭壊死などの後遺症を防ぐため、緊急の切開排膿・洗浄と抗菌薬投与を行う。 ・単純性股関節炎は年長児に多く、炎症所見が軽く、自然軽快する点で鑑別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。