おむつ交換で泣く乳児の高熱―化膿性股関節炎は「一刻を争う整形外科の救急」
第119回医師国家試験 A問題 第43問
国試問題にチャレンジ
8か月の女児。発熱と右下肢を動かさなくなったことを主訴に来院した。2日前から寝返りをしなくなり,おむつ交換の際に痛がるようになった。昨夜39.1℃の発熱があり,今朝から右下肢を動かさなくなったため受診した。身長67.5cm,体重8,100g。体温38.9℃。右下肢を他動的に動かすと痛がり,啼泣する。赤沈42mm/1時間。血液所見:Hb 11.2g/dL,白血球18,500(桿状核好中球15%,分葉核好中球70%,好酸球1%,好塩基球1%,単球2%,リンパ球12%),血小板37万。CRP 15mg/dL。股関節のエックス線写真(A)と股関節単純MRIの脂肪抑制T2強調冠状断像(B)とを下に示す。 行うべき対応はどれか。

- a.牽引治療
- b.切開排膿術
- c.NSAID投与
- d.股関節ギプス固定
- e.グルココルチコイドの股関節内注入
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
乳児の発熱、患肢を動かさない偽性麻痺、おむつ交換時の啼泣、白血球増多やCRP高値などの強い炎症反応、画像での股関節内液体貯留がそろえば化膿性股関節炎を考えます。乳児の大腿骨頭は軟骨が多く血流が乏しいため、膿による軟骨破壊と関節内圧上昇による骨頭壊死が短時間で進み、緊急の切開排膿・洗浄と抗菌薬の経静脈投与が治療の基本です。NSAID、牽引、ギプス固定は根本治療にならず、感染関節へのステロイド注入は禁忌です。3〜10歳で炎症反応がほぼ正常の単純性股関節炎、Perthes病、大腿骨頭すべり症などとは年齢と炎症所見で鑑別します。治療の遅れが一生の後遺症につながる疾患であり、早期に疑って迅速に対応する姿勢が臨床で最も重要です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・8か月の乳児(女児)で、2日前から寝返りをしなくなり、おむつ交換時(股関節を開排・屈曲する動作)に痛がる。 ・昨夜から39℃台の高熱があり、今朝から右下肢を自分で動かさなくなった(偽性麻痺:痛みのために動かさない状態で、神経麻痺ではない)。 ・右下肢を他動的に動かすと痛がって泣く → 罹患部位は右股関節が強く疑われる。 ・赤沈42mm/1時間と亢進、白血球18,500/μLと増多し、好中球(桿状核15%+分葉核70%=85%)が優位で桿状核の増加(左方移動)を伴う。CRP 15mg/dLと著明高値 → 細菌感染による強い炎症を示す。 ・エックス線写真(A):右大腿骨近位骨端(骨頭)が外側へ偏位し、関節裂隙が開大している。関節内に液体(膿)が貯留し関節包が膨らんだ結果、骨頭が押し出された所見(亜脱臼傾向)と読める。 ・MRI脂肪抑制T2強調冠状断像(B):右股関節内に高信号の液体貯留を認める。
診断
乳児の急性発症の発熱、患肢の偽性麻痺、他動運動時痛、高度の炎症反応、画像での股関節内液体貯留から、化膿性股関節炎と診断できる。
鑑別
・単純性股関節炎(一過性滑膜炎):3〜10歳に多く、全身状態は良好で発熱は軽度、炎症反応はほぼ正常。乳児で高熱・CRP 15mg/dLの本例とは合わない。 ・Perthes病:4〜8歳の男児に多い大腿骨頭の阻血性壊死で、急性の高熱や高度の炎症反応は伴わない。 ・大腿骨頭すべり症:肥満傾向の思春期に多く、乳児には起こらない。 ・発育性股関節形成不全(DDH):開排制限はあるが、発熱や炎症反応上昇は伴わない。
設問の考え方
化膿性股関節炎は小児整形外科の緊急疾患である。乳児の大腿骨頭は血流が乏しく軟骨成分が多いため、関節内に膿がたまると、細菌由来の酵素や炎症細胞による関節軟骨の破壊と、関節内圧上昇による骨頭への血流障害(骨頭壊死)が短時間で進む。したがって、関節穿刺で膿の確認と起因菌の同定を行ったうえで、できるだけ早く関節を切開して排膿・洗浄し、内圧を下げることが最優先となる。これに経静脈的な抗菌薬投与を併用する。
選択肢考察
- ×a. 牽引治療
牽引は、発育性股関節形成不全(DDH)の整復準備や一部の骨折・Perthes病などで用いられる保存療法であり、関節内の膿を除去する効果はない。化膿性股関節炎で牽引だけを行って時間を費やせば、関節軟骨破壊や骨頭壊死が進行するため不適切である。
- ○b. 切開排膿術
化膿性股関節炎では、関節内に貯留した膿が軟骨を破壊し、関節内圧の上昇が大腿骨頭への血流を障害する。これを防ぐ唯一確実な方法は、早期に関節を切開して膿を排出し、生理食塩水で十分に洗浄して内圧を下げることである。股関節は深部にあり穿刺だけでは排膿が不十分になりやすいため、診断がついたら緊急で切開排膿(関節切開・洗浄・ドレナージ)を行い、抗菌薬の全身投与を併用する。したがって、行うべき対応である。
- ×c. NSAID投与
NSAID(非ステロイド性抗炎症薬)は鎮痛・解熱に役立つが、感染源である膿や細菌を除去しないため根本治療にならない。むしろ解熱・鎮痛によって症状が覆い隠され、病勢の評価や治療開始が遅れるおそれがある。薬物療法として優先すべきは抗菌薬の全身投与であり、それも切開排膿と組み合わせて行う。
- ×d. 股関節ギプス固定
ギプス固定は骨折や脱臼整復後の保持などに用いる処置であり、外傷ではない本例の感染を治療する効果はない。排膿しないまま固定すれば、関節破壊が進行する間に経過観察が困難になる。なお術後に安静・肢位保持を目的とした固定を併用することはあるが、それは排膿後の補助的処置であり、最初に行うべき対応ではない。
- ×e. グルココルチコイドの股関節内注入
グルココルチコイドは局所の免疫反応を抑制するため、細菌感染を起こしている関節に注入すれば感染を増悪させる。化膿性関節炎はステロイド関節内注入の禁忌である。また関節内注入は変形性関節症などの非感染性関節疾患に用いる処置であり、本例には適応がない。
化膿性股関節炎の概要
・乳幼児、とくに1〜2歳以下に好発する。起因菌は黄色ブドウ球菌が最も多く、ほかにレンサ球菌などがある(Hibワクチン普及前はインフルエンザ菌b型も重要であった)。新生児・乳児では大腿骨近位骨幹端の血管が骨端線を越えて関節内に通じやすく、また股関節では骨幹端が関節包内にあるため、骨髄炎から関節炎へ波及しやすい。 ・症状:発熱、不機嫌、哺乳不良などの全身症状と、患肢を動かさない(偽性麻痺)、おむつ交換時に激しく泣く、患肢を屈曲・外転・外旋位に保つ、などの局所症状。乳児では局所の腫脹がわかりにくく、見逃されやすい。 ・検査:白血球増多、赤沈亢進、CRP高値。エックス線では関節裂隙の開大、骨頭の外側偏位(亜脱臼〜脱臼)、周囲軟部組織の腫脹を認めることがある。超音波やMRIで関節液貯留を確認し、関節穿刺で膿性関節液を証明し、グラム染色と培養で起因菌を同定する。血液培養も行う。 ・治療:緊急の切開排膿・洗浄と、抗菌薬の経静脈投与(培養結果に応じて変更し、数週間継続)。 ・予後:治療が遅れると、大腿骨頭の破壊・消失、病的脱臼、骨端線障害による脚長差、変形性股関節症などの重い後遺症を残す。
小児の股関節疾患の整理
・化膿性股関節炎:乳幼児、高熱、炎症反応著明、緊急手術。 ・単純性股関節炎:3〜10歳、軽度の症状、炎症反応ほぼ正常、安静で1〜2週間程度で軽快。化膿性との鑑別が難しいときは関節穿刺を行う。 ・Perthes病:4〜8歳の男児、骨頭の阻血性壊死、跛行や大腿前面〜膝の痛みを訴えることがある。 ・大腿骨頭すべり症:思春期の肥満男児、膝痛として訴えることもある。 ・発育性股関節形成不全:乳児期の開排制限、大腿皮膚溝の非対称。
POINT
・乳児の発熱+患肢を動かさない+おむつ交換時の啼泣+炎症反応高値 → 化膿性股関節炎を疑う。 ・画像で股関節内液体貯留、骨頭の外側偏位(関節裂隙開大)。 ・治療は緊急の切開排膿・洗浄+抗菌薬の全身投与。遅れると骨頭壊死・関節破壊を残す。 ・感染関節へのステロイド注入は禁忌。牽引・ギプス・NSAIDは根本治療ではない。 ・単純性股関節炎(3〜10歳、炎症反応ほぼ正常)との鑑別が重要。
