「平らな斑」か「盛り上がる結節」か―写真で見抜くvon Recklinghausen病の神経線維腫
第120回医師国家試験 D問題 第9問
国試問題にチャレンジ
von Recklinghausen病患者の皮膚の写真を下に示す。 写真にみられる皮膚所見はどれか。

- a.ケロイド
- b.葉状白斑
- c.血管線維腫
- d.神経線維腫
- e.café au lait斑
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
von Recklinghausen病(神経線維腫症1型)の代表的な皮膚所見は、乳幼児期から現れる扁平な淡褐色斑のcafé au lait斑と、思春期以降に増える軟らかい隆起性腫瘤の神経線維腫です。写真で四肢に大小多数の半球状・有茎性の結節が散在していれば、神経線維腫と判断できます。葉状白斑と顔面の血管線維腫は結節性硬化症の所見で、ケロイドは創傷に続発する線維増殖であり、いずれもこの病気の特徴ではありません。NF1は色素が増える斑と軟らかい腫瘤、結節性硬化症は色素が抜ける斑と顔面の硬い丘疹と対比して覚えると整理しやすくなります。「斑か隆起か」を見極める皮疹の基本は、遺伝性疾患の早期発見や合併腫瘍への注意にもつながります。
解答・解説
正解はdです
写真の所見
前腕から手背にかけて、常色からやや淡紅色の半球状・ドーム状に隆起した結節が、大小さまざまな大きさで無数に散在している。一部は有茎性にぶら下がるように盛り上がっている。皮膚の色調の変化(色素斑)が主体の写真ではなく、皮膚から隆起する多発性の腫瘤が主たる所見である。
考え方
von Recklinghausen病(神経線維腫症1型、NF1)の代表的な皮膚所見は、出生時ないし乳幼児期から現れるcafé au lait斑(扁平な淡褐色斑)と、思春期前後から増加する皮膚の神経線維腫(軟らかい腫瘤)である。写真で目立つのは「平らな色の変化」ではなく「多発する隆起性病変」であるから、神経線維腫と判断できる。 選択肢には結節性硬化症(葉状白斑、血管線維腫)や外傷後の線維増殖(ケロイド)の所見も含まれている。「平坦な斑か、隆起する病変か」「色素の増加か、脱失か」「どの疾患に特徴的か」を整理しておくと、写真と疾患名の両方から正解に到達できる。
選択肢考察
- ×a. ケロイド
ケロイドは、外傷・手術創・痤瘡などの創傷が治る過程で膠原線維が過剰に増生し、元の創の範囲を越えて広がる境界明瞭な紅色〜褐色の硬い扁平隆起である。前胸部、肩、耳垂などに好発し、痛みやかゆみを伴うことが多い。創傷に続発するため、写真のように半球状の軟らかい結節が全身に無数に生じることはなく、von Recklinghausen病に特徴的な皮疹でもない。
- ×b. 葉状白斑
葉状白斑は結節性硬化症(Bourneville-Pringle病)の早期から現れる皮膚所見で、木の葉のような楕円形をした脱色素斑(色が抜けた白い斑)である。体幹や四肢にみられ、乳児期から出現するため、早期診断の手がかりとして重要である。平坦な白斑であり、隆起する腫瘤ではないので写真の所見とは異なる。
- ×c. 血管線維腫
顔面の血管線維腫は結節性硬化症の代表的な皮膚所見で、幼児期以降に鼻や頬など顔面中央部に左右対称性に多発する、常色〜淡紅色の硬い小丘疹である(かつては脂腺腫とよばれた)。好発部位が顔面であり、写真のように四肢に大小の軟らかい結節が散在する像とは異なる。
- ○d. 神経線維腫
皮膚の神経線維腫は、末梢神経の構成細胞(Schwann細胞、線維芽細胞など)が増殖してできる良性腫瘍で、常色〜淡紅色の半球状あるいは有茎性に隆起する軟らかい腫瘤である。押すと指が沈み込むような弾性軟の触感が特徴である。von Recklinghausen病では思春期ごろから増え始め、年齢とともに数と大きさが増して全身に多発する。写真の前腕〜手背に散在する大小多数のドーム状結節はこれに一致する。
- ×e. café au lait斑
café au lait斑はミルクコーヒー色の境界明瞭な扁平な淡褐色斑で、von Recklinghausen病ではほぼ全例にみられ、出生時ないし乳幼児期から出現する。ただし平坦な色素斑であり、隆起しない。写真の主たる所見は多発する隆起性腫瘤であるため、本問の答えにはならない。なお、単発のcafé au lait斑は健常人にも約10%程度みられ、多発する場合にvon Recklinghausen病やMcCune-Albright症候群などを考える。
von Recklinghausen病(神経線維腫症1型、NF1)
・常染色体顕性(優性)遺伝で、17番染色体長腕(17q11.2)にあるNF1遺伝子の病的変異による。NF1遺伝子は、Rasの働きを抑える腫瘍抑制因子ニューロフィブロミンをコードする。患者の約半数は家族歴のない新生突然変異による。発生頻度はおよそ3,000人に1人である。 ・主な症状:café au lait斑、皮膚の神経線維腫、叢状神経線維腫(神経の走行に沿って広がる大きな腫瘍で、悪性末梢神経鞘腫瘍の発生母地となりうる)、腋窩・鼠径部の雀卵斑様色素斑(freckling)、虹彩小結節(Lisch結節)、視神経膠腫、骨病変(脊柱側弯、脛骨の偽関節など)、学習障害など。 ・診断基準(主なもの):6個以上のcafé au lait斑(最大径が思春期前で5mm超、思春期以降で15mm超)、2個以上の神経線維腫または1個の叢状神経線維腫、腋窩・鼠径部の雀卵斑様色素斑、視神経膠腫、2個以上のLisch結節、特徴的な骨病変、第1度近親者の罹患などのうち、2項目以上で診断する。 ・合併しうる腫瘍:悪性末梢神経鞘腫瘍、褐色細胞腫、消化管間質腫瘍(GIST)、脳腫瘍など。
結節性硬化症との対比
結節性硬化症(TSC1/TSC2遺伝子異常、常染色体顕性遺伝)は、葉状白斑、顔面の血管線維腫、粒起革様皮(シャグリンパッチ)、爪囲線維腫などの皮膚所見に加え、てんかん、知的障害、脳の皮質結節・上衣下結節、腎血管筋脂肪腫、心横紋筋腫、肺リンパ脈管筋腫症などを伴う。 ・NF1:色素が「増える」斑(café au lait斑)+軟らかい腫瘤(神経線維腫) ・結節性硬化症:色素が「抜ける」斑(葉状白斑)+顔面の硬い丘疹(血管線維腫) と対にして覚えるとよい。
POINT
・von Recklinghausen病(NF1)の皮膚所見は、café au lait斑(出生時〜乳幼児期から、平坦な淡褐色斑)と神経線維腫(思春期以降に増加、軟らかい隆起性腫瘤)である。 ・写真で多発する半球状・有茎性の軟らかい結節をみたら神経線維腫を考える。 ・葉状白斑と顔面の血管線維腫は結節性硬化症の所見である。 ・ケロイドは創傷に続発する線維増殖であり、NF1とは関係しない。
