「交互」は代わる代わるじゃない―遺伝子-環境交互作用を飲酒と顔の赤さで理解する
第119回医師国家試験 F問題 第5問
国試問題にチャレンジ
遺伝子-環境交互作用の説明で正しいのはどれか。
- a.遺伝子と環境の影響が交互に出現する。
- b.環境中の有害物質で遺伝子変異が起こる。
- c.遺伝子組み換えの生物が環境に影響を与える。
- d.遺伝子と環境のそれぞれが原因の疾患がある。
- e.遺伝子の違いにより環境の健康への影響が異なる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
疫学でいう交互作用とは、ある要因の効果の大きさが別の要因によって変わること(効果修飾)であり、時間的に交互に現れるという意味ではありません。遺伝子-環境交互作用は、同じ環境曝露でも遺伝的素因の違いによって健康影響が異なることを指し、ALDH2低活性型と飲酒による食道癌リスク、G6PD欠乏症とソラマメ・薬剤による溶血、フェニルケトン尿症と食事などが代表例です。環境による遺伝子変異(変異原性)や、遺伝要因・環境要因が独立に病気を起こすことは交互作用には当たりません。感受性の高い集団を特定して環境要因を重点的に避ける予防や、薬理遺伝学による個別化医療の土台となる概念として押さえておきましょう。
解答・解説
正解はeです
本問は、疫学・公衆衛生学で用いられる「遺伝子-環境交互作用(gene-environment interaction)」という用語の意味を問う一般問題である。
交互作用とは
疫学・統計学でいう交互作用(interaction)とは、ある要因が結果(疾病の発生など)に与える影響の大きさが、別の要因の有無や程度によって変わることをいう。効果修飾(effect modification)とほぼ同じ概念である。日本語の「交互」から「代わる代わる」という意味を連想しやすいが、時間的に交互に現れるという意味ではない。
遺伝子-環境交互作用
したがって遺伝子-環境交互作用とは、同じ環境要因(喫煙、飲酒、食事、薬剤、化学物質など)にさらされても、遺伝的素因(遺伝子多型・遺伝子変異)の違いによって健康への影響の大きさが異なること、あるいは同じ遺伝的素因をもっていても環境によって発症リスクが変わることを指す。両要因が単に足し合わされるだけでは説明できず、組み合わさったときに特有の効果が現れる点が本質である。
正解を導く考え方
選択肢のうち「遺伝要因によって環境要因の影響が変わる」という構造をもつ記述を探せばよい。環境が遺伝子を傷つける(変異原性)、遺伝子組み換え生物が環境を変える、遺伝要因・環境要因がそれぞれ独立に病気を起こす、といった記述は、いずれも一方向の影響や独立した影響を述べたもので、一方の要因が他方の効果を修飾するという交互作用の定義に当たらない。
選択肢考察
- ×a. 遺伝子と環境の影響が交互に出現する。
誤りである。「交互作用」の「交互」という字面から連想される「代わる代わる現れる」という意味を利用した選択肢である。交互作用は時間的な順序を表す言葉ではなく、一方の要因の効果が他方の要因の状態によって変化すること(効果修飾)を表す統計学・疫学の用語である。
- ×b. 環境中の有害物質で遺伝子変異が起こる。
誤りである。これは化学物質や放射線などが DNA を損傷して突然変異を誘発すること、すなわち変異原性(遺伝毒性)の説明である。環境要因が遺伝子に一方向的に作用することを述べているだけで、遺伝的素因の違いによって環境の影響の大きさが変わるという交互作用の概念とは異なる。変異原性は Ames 試験などで評価される。
- ×c. 遺伝子組み換えの生物が環境に影響を与える。
誤りである。これは遺伝子組み換え生物が生態系や生物多様性に与える影響の話であり、ヒトの疾病リスクにおける遺伝要因と環境要因の関係を表す交互作用とは無関係である。なお日本では、遺伝子組み換え生物の使用による生物多様性への悪影響を防ぐため、いわゆるカルタヘナ法(遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律)で規制されている。
- ×d. 遺伝子と環境のそれぞれが原因の疾患がある。
誤りである。遺伝要因が主因の疾患(単一遺伝子疾患など)や、環境要因が主因の疾患(中毒、感染症など)がそれぞれ存在するという記述であり、二つの要因が互いに独立に作用していることを述べているにすぎない。交互作用は、両要因が組み合わさったときに、それぞれ単独の効果からは予測できない影響が生じることを指すので、この記述は定義に合わない。なお、高血圧や2型糖尿病のように複数の遺伝要因と環境要因が関与する疾患を多因子疾患というが、多因子疾患であることそれ自体は交互作用の定義ではない。
- ○e. 遺伝子の違いにより環境の健康への影響が異なる。
正しい。同じ環境要因への曝露であっても、遺伝的素因の違いによって健康影響の大きさが変わることが遺伝子-環境交互作用の定義そのものである。代表例として、アルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)の活性が低い遺伝子型をもつ人は、飲酒によりアセトアルデヒドが蓄積しやすく、同じ飲酒量でも食道癌のリスクがより大きく上昇する。また、フェニルケトン尿症の患児ではフェニルアラニンを含む通常の食事が知的障害の原因となるが、フェニルアラニン制限食によって発症を防げる。グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠乏症の人がソラマメや特定の薬剤で溶血を起こすことも同様の例である。
交互作用の考え方
二つの要因 A(遺伝要因)と B(環境要因)があるとき、 ・交互作用がない:A と B の効果は互いに影響せず、組み合わさったときの効果は、それぞれの効果から予測できる。 ・交互作用がある:A の有無によって B の効果の大きさが変わる(またはその逆)。組み合わさると、予測より大きくなる(相乗的)ことも小さくなる(拮抗的)こともある。 交互作用の有無は、加法スケール(リスク差)で評価するか乗法スケール(相対危険・オッズ比)で評価するかによって判断が異なりうる点にも注意が必要である。
遺伝子-環境交互作用の代表例
・ALDH2 低活性型 × 飲酒:食道癌・咽頭癌のリスク増大 ・NAT2(N-アセチル転移酵素2)の遅いアセチル化型 × イソニアジド:末梢神経障害などの副作用が出やすい。芳香族アミン曝露では膀胱癌リスクとの関連が知られる ・α1-アンチトリプシン欠乏症 × 喫煙:若年での重症の肺気腫 ・フェニルケトン尿症 × フェニルアラニン摂取:知的障害(食事療法で予防可能) ・G6PD 欠乏症 × ソラマメ・抗マラリア薬などの酸化ストレス:溶血発作 ・悪性高熱症の素因(RYR1 遺伝子変異など)× 揮発性吸入麻酔薬・スキサメトニウム:悪性高熱
臨床・公衆衛生上の意義
遺伝的に感受性の高い集団を特定できれば、その集団に対して環境要因を重点的に避ける(飲酒・喫煙の制限、薬剤の選択、食事療法など)ことで効率的な予防が可能になる。薬物の効果や副作用の個人差を遺伝子多型から予測する薬理遺伝学(ファーマコゲノミクス)も、遺伝子-環境(薬剤)交互作用の応用である。
POINT
・交互作用=一方の要因の効果が、もう一方の要因によって変わること(効果修飾)。「交互に出現する」という意味ではない。 ・遺伝子-環境交互作用=遺伝的素因の違いによって、同じ環境曝露の健康影響が異なること。 ・変異原性(環境→遺伝子変異)、遺伝要因・環境要因の独立した作用は交互作用ではない。 ・例:ALDH2 低活性型と飲酒による食道癌、フェニルケトン尿症と食事、G6PD 欠乏症とソラマメ・薬剤。
