「石のように硬い」は危険信号―触診で知る正常な精巣の姿
第120回医師国家試験 B問題 第11問
国試問題にチャレンジ
正常な精巣の診察所見で正しいのはどれか。
- a.精巣が石様の硬さである。
- b.精巣を鼠径部に触知する。
- c.精巣の大きさに左右差がある。
- d.精巣を圧迫すると圧痕が残る。
- e.精巣の周囲に精巣上体を触知する。
対話形式の解説
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医学生まとめ
正常な精巣は陰嚢内にあり、弾性のある硬さで表面平滑、左右ほぼ同大で、白膜に包まれているため圧迫しても圧痕は残りません。精巣の後上方から後面には精巣上体が付着しており、柔らかい構造として触れるのは正常所見です。これに対し、石様硬は精巣腫瘍、鼠径部での触知は停留精巣、明らかな左右差は腫大や萎縮、圧痕を残す腫脹は陰嚢皮膚・皮下の浮腫を示唆します。急性の有痛性腫大では緊急手術を要する精巣捻転を見逃さないことが重要で、透光性の有無や精索静脈瘤の触知とあわせて鑑別を進めます。正常像を基準として持つことが、陰嚢内容の異常を的確に拾い上げる診察力につながります。
解答・解説
正解はeです
【テーマ】陰嚢内容の触診で得られる正常所見を理解しているかを問う問題である。異常所見(腫瘍、停留精巣、萎縮、浮腫など)と対比させて覚えるとよい。
正常な陰嚢内容の解剖と触診所見
・位置:精巣は左右の陰嚢内に1個ずつ存在する。胎生期に腹腔内(後腹膜)で発生し、鼠径管を通って下降し、出生時までに陰嚢内に達する。 ・大きさ:成人では長径4〜5cm程度の卵円形で、容積はおおよそ15〜25mLである。左右はほぼ同じ大きさである。 ・硬さ:弾性のある硬さ(弾性軟〜弾性硬)で、表面は平滑である。白膜という丈夫な被膜に包まれているため、押しても凹みは残らない。 ・付属構造:精巣の後上方から後面にかけて精巣上体が付着しており、頭部・体部・尾部が触れる。精巣上体の尾部から精管が上行し、精索の中に硬いひも状の構造として触知できる。 触診は、精巣・精巣上体・精索を順に触れ、大きさ、硬さ、表面の性状、圧痛の有無、左右差を確認する。正常であれば精巣の周囲(後面)に精巣上体を触れるのが当然の所見である。
選択肢考察
- ×a. 精巣が石様の硬さである。
正常な精巣は弾力のある硬さで、石のように硬くはない。精巣が石様に硬く触れる場合、とくに無痛性に腫大・硬化している場合は精巣腫瘍(胚細胞腫瘍など)を強く疑い、超音波検査や腫瘍マーカー(AFP、hCG、LDH)の測定を行う。精巣腫瘍は20〜30歳代に好発する。
- ×b. 精巣を鼠径部に触知する。
正常では精巣は陰嚢底部に位置する。精巣が鼠径部にとどまっている場合は、下降の途中で停止した停留精巣を疑う。停留精巣は精子形成障害や悪性化のリスクがあるため、自然下降が期待しにくい生後6か月以降、1〜2歳ごろまでに精巣固定術を行うことが勧められる。なお小児では、挙睾筋反射により一時的に鼠径部へ引き上げられる移動性精巣があり、用手的に陰嚢内へ無理なく下ろせて、手を離してもとどまる点で停留精巣と区別する。
- ×c. 精巣の大きさに左右差がある。
正常の精巣の大きさは左右でほぼ等しい。明らかな左右差がある場合は異常所見であり、腫大側では精巣腫瘍、精巣炎、精巣捻転などを、縮小側では精巣萎縮(停留精巣、精索静脈瘤、ムンプス精巣炎後、捻転後など)を考える。精索静脈瘤は左側に多く、患側の精巣萎縮や男性不妊の原因となる。
- ×d. 精巣を圧迫すると圧痕が残る。
精巣実質は硬い白膜に包まれた弾性のある臓器で、指で押しても凹みは残らない。圧痕が残るのは圧痕性浮腫の性質であり、心不全、ネフローゼ症候群、低アルブミン血症などによる陰嚢皮膚・皮下の浮腫など、精巣以外の周囲組織の変化を示唆する。
- ○e. 精巣の周囲に精巣上体を触知する。
精巣上体は精巣で作られた精子を蓄えて成熟させる細長い管状の器官で、精巣の後上方から後面に沿って付着している。正常でも陰嚢の上から、精巣の後面に精巣とは区別できる柔らかい構造として触知でき、腫大や圧痛はない。精巣上体の腫大や圧痛があれば精巣上体炎などを考える。したがって、精巣の周囲に精巣上体を触れるのは正常な所見である。
陰嚢内容の主な異常所見と疾患
・無痛性の硬い精巣腫大:精巣腫瘍。透光性はない。 ・陰嚢内に精巣を触れない:停留精巣(鼠径部、腹腔内)、移動性精巣、精巣欠損。立位で腹圧をかけるなどして再度触診し、なお触れなければ鼠径部などを探す。停留精巣では精巣が小さく左右差を伴うことがある。 ・急激な有痛性腫大:精巣捻転(思春期に好発、精巣挙筋反射の消失、挙上で痛みが軽減しない〈Prehn徴候陰性〉)、精巣上体炎(発熱・膿尿を伴うことがあり、挙上で痛みが軽減する〈Prehn徴候陽性〉)。精巣捻転は緊急手術を要する。 ・透光性のある無痛性腫大:陰嚢水腫。光を当てると透過する。 ・立位で目立つ蔓状の腫瘤(bag of worms):精索静脈瘤。左側に多い。 ・精巣萎縮:ムンプス精巣炎後、Klinefelter症候群(小さく硬い精巣)など。
精巣容積の評価
Praderオルキドメーター(大きさの異なる楕円体の模型)との比較や超音波検査で測定する。思春期前は数mL以下で、思春期の開始とともに増大する。精巣容積4mL以上への増大が男子の思春期開始の目安とされる。
POINT
・正常の精巣は陰嚢内にあり、弾性のある硬さで、表面平滑、左右ほぼ同大で、圧迫しても圧痕は残らない。 ・精巣の後上方〜後面に精巣上体を触知するのは正常である。 ・石様硬は精巣腫瘍、鼠径部での触知は停留精巣、左右差は萎縮や腫大などの異常を疑う。 ・圧痕を残す浮腫は精巣ではなく陰嚢皮膚・皮下組織の変化である。
