StudyMed医師国家試験

「作りすぎ」か「漏れ出し」か―無痛性甲状腺炎とBasedow病の共通点と決定的な違い

第120回医師国家試験 A問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第120回 A問題 第14問

無痛性甲状腺炎とBasedow病の両方にみられるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.眼球突出
  2. b.手指振戦
  3. c.脛骨前粘液水腫
  4. d.頸部リンパ節腫大
  5. e.びまん性甲状腺腫

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、甲状腺中毒症を起こす代表的な2疾患、無痛性甲状腺炎とBasedow病を比べて、共通する所見を選ぶ問題だ。カギは「なぜ甲状腺ホルモンが増えているのか」というメカニズムの違いを意識すること。まず、甲状腺中毒症と甲状腺機能亢進症の違いを説明できるかな。
医学生医学生
どちらも甲状腺ホルモンが多い状態ですよね……正直、同じ意味だと思っていました。
ドクタードクター
国試でよく狙われる区別だよ。甲状腺中毒症は、血中の甲状腺ホルモンが過剰で全身の代謝が亢進している「状態」のこと。その原因のうち、甲状腺がホルモンを過剰に合成・分泌しているものを甲状腺機能亢進症という。代表がBasedow病だ。もう一つは、甲状腺の濾胞が壊れて、蓄えられていたホルモンが血中に漏れ出す破壊性甲状腺中毒症。無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎がこれにあたる。
医学生医学生
工場がフル稼働しているのがBasedow病で、倉庫が壊れて在庫が流れ出しているのが無痛性甲状腺炎、というイメージですね。
ドクタードクター
わかりやすい例えだね。そうすると、両者に共通するのは何だと思う?
医学生医学生
血中ホルモンが多いという結果は同じなので、ホルモン過剰による症状は両方に出るはずです。手指振戦はそれにあたりますよね。
ドクタードクター
その通り。甲状腺ホルモンが過剰になると、β受容体を介した交感神経系の反応が高まり、細かく速い振戦が出る。動悸・頻脈、発汗、体重減少、暑がりも同じ理由で、原因が産生過剰でも漏出でも共通して現れるんだ。
医学生医学生
内分泌内科の実習で、手を前に伸ばしてもらい、指の上に紙を乗せて振戦を確認する方法を教わりました。
ドクタードクター
いい診察法だね。では、もう一つの共通所見を考えてみよう。甲状腺そのものの見た目はどうかな。
医学生医学生
Basedow病はびまん性甲状腺腫ですが、無痛性甲状腺炎でも腫れるんでしょうか。
ドクタードクター
Basedow病では、TSH受容体抗体であるTRAbが濾胞上皮を刺激し続けるので、甲状腺全体が均一に腫れる。血流も著しく増えるから、血管雑音が聴こえることもある。一方、無痛性甲状腺炎の多くは慢性甲状腺炎、つまり橋本病を基盤に起こるので、軽度のびまん性甲状腺腫を伴うことが多いんだ。どちらも圧痛はないのがポイントだよ。
医学生医学生
なるほど、だから答えは手指振戦とびまん性甲状腺腫なんですね。眼球突出はBasedow病だけですか。
ドクタードクター
そう。Basedow病眼症は、自己免疫機序で眼窩内の線維芽細胞が活性化され、外眼筋の腫大や眼窩脂肪の増生が起きて眼球が前に押し出される。無痛性甲状腺炎ではこうした眼窩の自己免疫性炎症は起こらない。ただし、甲状腺中毒症一般で交感神経の緊張による上眼瞼後退が起き、目を見開いたように見えることはあるから、眼球突出とは区別しておこう。
医学生医学生
脛骨前粘液水腫も同じ理屈で、Basedow病に特有ということですね。甲状腺機能低下症の粘液水腫とは違うんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だ。脛骨前粘液水腫は、下腿前面の皮膚で活性化された線維芽細胞がグリコサミノグリカンを過剰に沈着させ、硬く盛り上がった圧痕を残さない浮腫をつくるもの。眼症と共通する機序で、眼症のある人にみられやすい。機能低下症で全身にみられる粘液水腫とは別の病態として覚えておこう。
医学生医学生
頸部リンパ節腫大はどうですか。橋本病でリンパ球が集まるなら、腫れてもおかしくない気がします。
ドクタードクター
超音波で甲状腺周囲に小さな反応性リンパ節が見つかることは実際にあるよ。でも、どちらの疾患でも典型的な所見とは扱われない。頸部リンパ節腫大は、むしろ甲状腺乳頭癌の転移や悪性リンパ腫、感染症を考えるときに重要な所見だね。
医学生医学生
共通する所見は分かりました。でも実際に目の前の患者さんがどちらなのか、どう見分ければいいんですか。
ドクタードクター
そこが臨床で一番大事なところだ。最も有用なのは放射性ヨウ素や99mTcの甲状腺摂取率で、Basedow病は工場が稼働しているから高値、無痛性甲状腺炎は濾胞が壊れて作れないから低値になる。TRAbはBasedow病で陽性、無痛性では通常陰性。超音波カラードプラでの甲状腺内血流も、Basedow病では著明に増加する。無痛性甲状腺炎は出産後数か月に起こりやすいことも覚えておこう。
医学生医学生
治療も変わりますよね。無痛性甲状腺炎に抗甲状腺薬を出しても意味がないということですか。
ドクタードクター
その通り。抗甲状腺薬はホルモンの合成を抑える薬だから、合成が亢進していない無痛性甲状腺炎には効かない。必要に応じてβ遮断薬で症状を抑えながら経過を見ると、一過性の機能低下期を経て多くは自然に回復する。ちなみに同じ破壊性でも、発熱と甲状腺の強い痛みを伴い、CRPや赤沈が上がるのが亜急性甲状腺炎だ。「痛みの有無」も鑑別の大切な手がかりになるよ。

まとめ

甲状腺中毒症は、ホルモンの産生過剰による甲状腺機能亢進症(Basedow病)と、濾胞破壊によるホルモン漏出である破壊性甲状腺中毒症(無痛性甲状腺炎など)に分けて考えます。手指振戦・動悸・発汗・体重減少といった甲状腺中毒症状は原因を問わず両者に共通し、無痛性甲状腺炎も橋本病を基盤に軽度のびまん性甲状腺腫を伴うことが多いため、びまん性甲状腺腫も共通所見となります。一方、眼球突出や脛骨前粘液水腫はTRAbに関連した自己免疫性の甲状腺外症状でBasedow病に特有であり、頸部リンパ節腫大はどちらの典型所見でもありません。両者の鑑別には甲状腺摂取率(Basedow病で高値、無痛性で低値)、TRAb、超音波での血流評価が有用で、無痛性甲状腺炎には抗甲状腺薬が無効であり、β遮断薬による対症療法と経過観察を行います。「作りすぎ」か「漏れ出し」かという病態の視点を持つことが、検査選択と治療方針を正しく決める土台になります。

解答・解説

正解はb, eです

本問は、甲状腺中毒症をきたす代表的な2疾患である無痛性甲状腺炎とBasedow病(Graves病)を比べ、共通する所見を選ぶ問題である。

甲状腺中毒症と甲状腺機能亢進症の区別

甲状腺中毒症とは、血中の甲状腺ホルモン(FT4、FT3)が過剰になり、全身の代謝が亢進した状態をいう。原因は大きく2つに分かれる。 ・甲状腺機能亢進症:甲状腺がホルモンを過剰に「合成・分泌」する。代表がBasedow病で、甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体に結合して刺激し続ける自己抗体(TSH受容体抗体:TRAb)が原因である。 ・破壊性甲状腺中毒症:甲状腺濾胞が壊れ、蓄えられていたホルモンが血中に「漏れ出す」。無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎がこれにあたる。

考え方

両疾患に共通するのは「血中甲状腺ホルモン過剰による症状」と「甲状腺そのものの腫大」である。前者として動悸・頻脈、発汗過多、体重減少、手指振戦などがあり、後者としてびまん性甲状腺腫がある。一方、TRAbという自己抗体が眼窩や皮膚に作用して生じる甲状腺外症状(眼球突出などのBasedow病眼症、脛骨前粘液水腫)はBasedow病に特有であり、破壊性の無痛性甲状腺炎ではみられない。 したがって、甲状腺中毒症状である手指振戦と、両疾患で認めるびまん性甲状腺腫を選ぶ。

選択肢考察

  1. ×a.  眼球突出

    Basedow病に特有の所見である。Basedow病眼症では、TRAbなどの自己免疫機序により眼窩内の線維芽細胞が活性化され、外眼筋の腫大や眼窩脂肪の増生が起こって眼球が前方へ押し出される。無痛性甲状腺炎は濾胞の破壊によりホルモンが一過性に漏出する病態で、眼窩組織の自己免疫性炎症は伴わないため、眼球突出は起こらない。なお、甲状腺中毒症一般でみられる上眼瞼後退(交感神経緊張による)による「目を見開いた印象」とは区別する必要がある。

  2. ○b.  手指振戦

    手指振戦は、甲状腺ホルモン過剰により交感神経系の反応性(β受容体感受性)が高まることで生じる細かく速い振戦であり、甲状腺中毒症の一般的な症状である。原因がホルモンの産生過剰(Basedow病)でも漏出(無痛性甲状腺炎)でも、血中ホルモンが高ければ同様に出現するため、両疾患に共通してみられる。動悸・頻脈、発汗、体重減少、暑がりなども同じ理由で両者に共通する。

  3. ×c.  脛骨前粘液水腫

    Basedow病に特徴的な甲状腺外症状である。下腿前面(脛骨前面)の皮膚に、自己免疫機序により活性化された線維芽細胞がヒアルロン酸などのグリコサミノグリカン(かつてのムコ多糖)を過剰に産生・沈着させ、硬く盛り上がった浮腫状の病変を作る。グリコサミノグリカンは水分を抱え込む性質が強いため、圧痕を残さない浮腫となる。眼症と共通する機序であり、眼症を合併している例でみられやすい。無痛性甲状腺炎ではみられない。なお、甲状腺機能低下症で全身にみられる「粘液水腫」とは別の病態である。

  4. ×d.  頸部リンパ節腫大

    いずれの疾患でも典型的な所見としては扱われない。頸部リンパ節腫大はむしろ甲状腺乳頭癌のリンパ節転移や悪性リンパ腫、感染症などで重要となる所見である。ただし実際の診療では、Basedow病や、慢性甲状腺炎(橋本病)を背景にもつことが多い無痛性甲状腺炎で、甲状腺周囲の小さな反応性リンパ節腫大が超音波検査でみつかることはある。しかし、手指振戦やびまん性甲状腺腫のように両疾患に共通する代表的所見とはいえないため、本問では選ばない。

  5. ○e.  びまん性甲状腺腫

    Basedow病では、TRAbによる持続的な刺激で濾胞上皮が増殖・肥大し、甲状腺全体が均一に腫れるびまん性甲状腺腫を呈する。血流が著しく増加するため、聴診で血管雑音を聴取することもある。無痛性甲状腺炎も多くは慢性甲状腺炎(橋本病)を基盤に発症し、軽度のびまん性甲状腺腫を伴うことが多い。どちらも圧痛はないのが特徴で、強い圧痛と硬結を伴う亜急性甲状腺炎とは対照的である。

無痛性甲状腺炎とBasedow病の比較

・病態:Basedow病はTRAbによる甲状腺ホルモンの合成・分泌亢進。無痛性甲状腺炎は自己免疫性の炎症による濾胞破壊とホルモン漏出。 ・経過:Basedow病は治療しなければ持続する。無痛性甲状腺炎は一過性で、中毒症期(数週〜数か月)のあと、一過性の機能低下期を経て多くは自然に回復する。 ・TRAb:Basedow病で陽性。無痛性甲状腺炎では通常陰性。 ・放射性ヨウ素(または99mTcO4−)甲状腺摂取率:Basedow病で高値。無痛性甲状腺炎では濾胞が壊れてホルモンを作れないため低値。両者の鑑別に最も有用な検査である。 ・甲状腺超音波カラードプラ:Basedow病では甲状腺内血流が著明に増加。無痛性甲状腺炎では増加しない。 ・FT3/FT4比:Basedow病ではT3優位に産生されるため比が高くなりやすい。 ・甲状腺外症状(眼症、脛骨前粘液水腫):Basedow病のみ。 ・誘因:無痛性甲状腺炎は産後(出産後数か月、産後甲状腺炎)に起こりやすい。 ・治療:Basedow病は抗甲状腺薬・放射性ヨウ素内用療法・手術。無痛性甲状腺炎ではホルモン合成は亢進していないため抗甲状腺薬は無効であり、症状に応じてβ遮断薬で対症療法を行い経過観察する。

亜急性甲状腺炎との違い

亜急性甲状腺炎も破壊性甲状腺中毒症であるが、ウイルス感染後に発熱と甲状腺の強い痛み・圧痛(移動することがある)を伴い、CRP・赤沈が上昇する点で無痛性甲状腺炎と異なる。

POINT

・甲状腺中毒症状(手指振戦、動悸・頻脈、発汗、体重減少)は、原因によらず両疾患に共通する。 ・びまん性甲状腺腫は両疾患でみられ、いずれも圧痛はない。 ・眼球突出(Basedow病眼症)と脛骨前粘液水腫はTRAbに関連する自己免疫性の甲状腺外症状であり、Basedow病に特有である。 ・両者の鑑別には、TRAb、甲状腺摂取率(Basedow病で高値、無痛性で低値)、超音波での甲状腺内血流が有用である。 ・無痛性甲状腺炎に抗甲状腺薬は無効である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。