StudyMed医師国家試験

血圧240/140とクレアチニン急上昇―「臓器が壊れつつある高血圧」にまず何をするか

第120回医師国家試験 A問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第120回 A問題 第15問

40歳の男性。頭痛を主訴に来院した。10年前から高血圧症に対して自宅近くの診療所からアンジオテンシン変換酵素〈ACE〉阻害薬が処方されていたが,内服は不定期であった。約2週間前から頭痛と全身倦怠感が出現し,次第に増悪したため受診した。息切れはない。体温36.4℃。脈拍88/分,整。血圧240/140mmHg。項部硬直はない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部に血管雑音はない。両下腿に圧痕性浮腫を認める。尿所見:蛋白3+,潜血2+。血液生化学所見:尿素窒素60mg/dL,クレアチニン4.2mg/dL,尿酸7.0mg/dL,Na 139mEq/L,K 3.4mEq/L,Cl 104mEq/L,Ca 8.8mg/dL,P 5.0mg/dL。腹部超音波検査で両腎は軽度萎縮しているが左右差はなく,水腎症は認めない。4週間前の定期血液検査ではクレアチニン値は1.5mg/dLであった。  まず行うべき対応はどれか。

  1. a.経過観察
  2. b.緊急血液透析
  3. c.グルココルチコイドの投与
  4. d.カルシウム拮抗薬の持続静脈投与
  5. e.アンジオテンシン受容体拮抗薬の投与

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、著しい高血圧に臓器障害が重なったときの初期対応を問う問題だ。注目してほしいのは血圧の数字そのものよりも、「どの臓器が、どれくらいの速さで傷んでいるか」という点。服薬が不規則だった長年の高血圧という背景も含めて、まず病態をどう捉えるか考えてみよう。
医学生医学生
血圧がとても高くて頭痛もあるので、まず脳の病気、たとえばくも膜下出血を心配してしまいます。
ドクタードクター
頭痛と高血圧の組み合わせで脳血管障害を思い浮かべるのは大切な姿勢だね。実臨床では頭部画像で除外する必要がある。ただ、この症例は項部硬直がなく、症状も2週間かけてじわじわ増悪している。むしろ目を向けてほしいのは腎臓だ。4週間前のクレアチニンと比べてどうなっている?
医学生医学生
1.5から4.2なので、1か月で約3倍です。腎機能が急に悪くなっています。
ドクタードクター
そう。しかも尿蛋白と尿潜血も出ている。ここで大事なのは、腎機能が急速に悪化している原因が何か、ということ。腹部に血管雑音がなく腎臓の大きさに左右差もないので腎動脈狭窄は考えにくいし、水腎症もないので腎後性も否定的だ。
医学生医学生
両腎が軽く萎縮しているのは、もともと慢性腎臓病があったということでしょうか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。40歳の男性で4週間前の時点ですでにクレアチニン1.5というのは高値で、長年の高血圧による腎硬化症が下地にあったと考えられる。そこへ血圧コントロールの破綻が加わって、拡張期140という著しい高血圧とともに腎障害が一気に進んだ。これが加速型-悪性高血圧、つまり高血圧緊急症だ。
医学生医学生
腎臓の講義で、悪性腎硬化症の病理でフィブリノイド壊死やタマネギ様の内膜肥厚を見ました。あれが今まさに起きているイメージですか。
ドクタードクター
まさにそのイメージ。細動脈が傷んで腎が虚血になるとレニンが出て、アンジオテンシンIIがさらに血圧を上げる悪循環に入る。Kがやや低めなのは、この系の亢進による二次性アルドステロン症を反映している可能性もある。では、まず行うべき対応は何だろう。
医学生医学生
クレアチニンが4.2もあるので、緊急透析が必要かと一瞬思いました。
ドクタードクター
数字に引っ張られやすいところだね。緊急透析を考えるのは、治療に反応しない高カリウム血症、利尿薬に反応しない肺水腫、高度の代謝性アシドーシス、意識障害や心膜炎などの尿毒症症状があるときだ。この症例はKがむしろ低めで、息切れもなく呼吸音も正常。今やるべきは、腎障害の原因である高血圧を是正することなんだ。
医学生医学生
では降圧ですね。もともとACE阻害薬を飲んでいたので、同じRAA系を抑えるARBで下げるのはどうでしょう。
ドクタードクター
そこが二つ目の落とし穴。ARBは経口薬で効き始めが緩やかなので、血圧を見ながら細かく調節するという目的に向かない。さらにACE阻害薬やARBは輸出細動脈を拡張させて糸球体内圧を下げるから、腎機能が急速に悪化している時期やRAA系が強く亢進している状態では、GFRや血圧が急激に落ちて腎障害を悪化させるおそれがある。導入するなら急性期を脱して腎機能が落ち着いてからだ。
医学生医学生
腎臓が悪いなら、ステロイドで炎症を抑えるという考えはどうですか。急速進行性糸球体腎炎も鑑別に浮かびました。
ドクタードクター
鑑別に挙げたこと自体はいいね。ただグルココルチコイドが効くのは、急速進行性糸球体腎炎やループス腎炎のような免疫学的機序の腎障害だ。今回は高血圧そのものが腎障害の主因で、全身性の炎症や自己免疫を示す所見はない。しかもステロイドはナトリウムと水を貯めて血圧を上げる方向に働くから、むしろ逆効果になりうる。もちろん経過観察は論外で、放置すれば末期腎不全や脳出血、大動脈解離などにつながりかねない。
医学生医学生
となると、入院して点滴で降圧する、ニカルジピンのようなカルシウム拮抗薬の持続静注が正解ですね。
ドクタードクター
その通り。ニカルジピンなどのジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬は血管平滑筋へのカルシウム流入を抑えて末梢血管を広げる。静注なら効果発現が速く作用時間も比較的短いので、投与速度を変えて降圧の程度を細かく調節できるし、腎機能障害があっても使いやすい。
医学生医学生
血圧はできるだけ早く正常値まで下げたほうがいいんですよね。
ドクタードクター
実はそこが臨床で一番注意したいところ。慢性的な高血圧の人は、脳や腎臓、冠動脈の自動調節能の範囲が高いほうへずれている。急に下げすぎると、その範囲を下回ってかえって臓器虚血を起こしてしまう。目安としては、最初の1時間以内は平均血圧の低下を25%以内にとどめ、次の2〜6時間で160/100〜110mmHg程度を目指し、その後24〜48時間かけてさらに下げていく。
医学生医学生
循環器内科の実習で、指導医の先生がニカルジピンの流量を細かく調整しながら動脈ラインの値を見ていたのを思い出しました。ああいう慎重さが必要なんですね。
ドクタードクター
そういうこと。ただし急性大動脈解離のように、より速く強い降圧が必要な病態もあるので、目標は病態ごとに変わることも覚えておこう。あわせて、高血圧緊急症と切迫症の区別も大事だ。血圧が著しく高くても急性の臓器障害がなければ切迫症で、経口薬で数時間から数日かけて下げればよい。
医学生医学生
血圧の値だけでなく、臓器障害があるかどうかで緊急症か切迫症かが分かれるんですね。眼底も確認したほうがいいですか。
ドクタードクター
ぜひ確認したい。網膜出血や白斑、乳頭浮腫は加速型-悪性高血圧を裏づける所見だ。血栓性微小血管症を合併して溶血性貧血や血小板減少を起こすこともあるので、血液像もチェックしておこう。そして急性期を乗り切ったあとは、服薬が不規則だったという誘因に向き合い、継続的な治療につなげることが再発予防の鍵になる。

まとめ

著しい高血圧に急速に進行する標的臓器障害が加わった状態が高血圧緊急症であり、本例は長期のコントロール不良を背景に腎機能が数週間で急激に悪化した加速型-悪性高血圧と考えられます。初期対応は入院のうえ、ニカルジピンなどのカルシウム拮抗薬を持続静注し、効果を見ながら段階的に降圧することです。自動調節能が右方へずれているため、最初の1時間は平均血圧の低下を25%以内にとどめ、2〜6時間で160/100〜110mmHg程度を目標とします。腎機能が急速に悪化している急性期にはARBやACE阻害薬は腎障害を悪化させうるため用いず、緊急透析は高カリウム血症・肺水腫・高度アシドーシス・尿毒症症状などの適応がなければまず降圧を優先し、免疫機序を示す所見がなければステロイドの適応もありません。血圧の値ではなく臓器障害の有無で緊急症と切迫症を見分け、適切な速さで降圧するという考え方は、救急外来や病棟で必ず役立つ基本です。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・40歳男性。10年来の高血圧症で、ACE阻害薬の服薬が不規則であった(血圧コントロール不良が長く続いていた背景)。 ・2週間前からの頭痛・全身倦怠感が進行している。 ・血圧240/140mmHgと著しく高い。拡張期血圧が120mmHgを大きく超えている。 ・項部硬直なし:くも膜下出血や髄膜炎を積極的に疑う所見はない。 ・息切れなし、心音・呼吸音正常:急性心不全・肺水腫を示す所見はない。 ・両下腿の圧痕性浮腫:腎機能低下に伴う体液貯留を示唆する。 ・尿蛋白3+、潜血2+、尿素窒素60mg/dL、クレアチニン(Cr)4.2mg/dL:4週間前のCr 1.5mg/dLから約4週間で約3倍に上昇しており、腎機能が急速に悪化している。 ・腹部血管雑音なし、腎サイズに左右差なし:腎動脈狭窄による腎血管性高血圧は考えにくい。 ・水腎症なし:尿路閉塞による腎後性腎不全は否定的。 ・両腎の軽度萎縮と、4週間前の時点ですでにCr 1.5mg/dL(40歳男性としては高値)であったこと:長期の高血圧による腎硬化症を背景とする慢性腎臓病(CKD)がもともと存在したと考えられる。 ・K 3.4mEq/L(軽度低値)、P 5.0mg/dL(やや高値):前者は悪性高血圧でみられるレニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系の亢進による二次性アルドステロン症を反映しうる。後者は腎機能低下によるリン排泄低下を示す。

診断

長期間コントロール不良であった高血圧が著しく悪化し(拡張期血圧140mmHg)、それに伴って腎機能が急速に悪化している。これは加速型-悪性高血圧(いわゆる悪性高血圧)であり、標的臓器(腎臓)の障害が急速に進行している高血圧緊急症である。頭痛も高血圧に伴う症状と考えられる。実臨床では眼底検査で網膜出血・白斑・乳頭浮腫の有無を確認し、頭部画像検査で脳血管障害を除外することも必要である。

何をまず行うか

高血圧緊急症では、臓器障害の進行を止めるために、入院のうえで経静脈的に降圧薬を投与し、血圧をモニターしながら速やかかつ段階的に降圧する。用いる薬剤は、効果発現が速く投与量の調節がしやすいカルシウム拮抗薬(ニカルジピンなど)の持続静脈投与が代表的である。ただし急激すぎる降圧は、慢性高血圧で右方へずれた脳・腎・冠動脈の自動調節能の範囲を下回り、かえって臓器虚血を招く。一般に、最初の1時間以内は平均血圧の低下を25%以内にとどめ、その後2〜6時間で160/100〜110mmHg程度を目標とする。

選択肢考察

  1. ×a.  経過観察

    誤り。高血圧緊急症を放置すると、腎機能低下が進行して末期腎不全に至るほか、脳出血・高血圧性脳症、急性左心不全、大動脈解離などの致死的合併症を起こしうる。臓器障害が現在進行形で悪化している以上、直ちに降圧治療を開始すべきであり、経過観察は選んではならない対応である。

  2. ×b.  緊急血液透析

    誤り。Crは4.2mg/dLと高度に上昇しているが、緊急透析の適応となる病態、すなわち内科的治療に反応しない高カリウム血症(本例はK 3.4mEq/Lとむしろ低め)、利尿薬に反応しない肺水腫などの体液過剰、高度の代謝性アシドーシス、尿毒症症状(意識障害、心膜炎、消化器症状など)は認められない。息切れもなく、呼吸音も正常である。まず原因である著しい高血圧を是正することが優先され、そのうえで腎機能の推移をみて透析の要否を判断する。

  3. ×c.  グルココルチコイドの投与

    誤り。グルココルチコイドは急速進行性糸球体腎炎やループス腎炎など、免疫学的機序による腎障害で用いられる。本例は著しい高血圧に伴う腎障害で、全身性の炎症や自己免疫疾患を示唆する所見はなく、適応がない。むしろグルココルチコイドはナトリウム・水分貯留を介して血圧を上昇させる作用があり、本例の病態を悪化させうる。

  4. ○d.  カルシウム拮抗薬の持続静脈投与

    正解。ニカルジピンなどのジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬は、血管平滑筋へのカルシウム流入を抑えて末梢血管を拡張させ、血圧を下げる。静脈内投与では効果発現が速く、作用時間も比較的短いため、持続投与の速度を変えることで降圧の程度を細かく調節できる。また腎機能障害があっても使いやすい。過度な急降圧による臓器虚血を避けつつ段階的に降圧するという高血圧緊急症の治療原則に合致し、本例で最初に行うべき対応である。

  5. ×e.  アンジオテンシン受容体拮抗薬の投与

    誤り。アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は経口薬で効果発現が緩やかであり、高血圧緊急症の初期治療として血圧を調節しながら下げる目的には適さない。さらに、ARBやACE阻害薬はアンジオテンシンIIによる輸出細動脈の収縮を解除して糸球体内圧を下げるため、腎機能が急速に悪化している時期や、悪性高血圧でRAA系が強く亢進している状態で投与すると、糸球体濾過量(GFR)や血圧が急激に低下し、腎機能をさらに悪化させるおそれがある。急性期を脱し腎機能が安定してから、慎重に導入を検討する薬剤である。

高血圧緊急症と切迫症

・高血圧緊急症:単に血圧が著しく高い(多くは180/120mmHg以上)だけでなく、脳・心臓・腎臓・大血管などの標的臓器に急性の障害が生じ、進行している状態。入院のうえ経静脈的降圧薬で直ちに治療する。 ・高血圧切迫症:血圧は著しく高いが急性の臓器障害を伴わない状態。経口薬で数時間〜数日かけて降圧する。

高血圧緊急症に含まれる主な病態

加速型-悪性高血圧、高血圧性脳症、急性大動脈解離を合併した高血圧、肺水腫を伴う高血圧性左心不全、急性冠症候群を伴う高血圧、脳出血・脳梗塞に伴う著しい高血圧、褐色細胞腫クリーゼ、子癇・重症の妊娠高血圧症候群など。

加速型-悪性高血圧

拡張期血圧が多くは120〜130mmHg以上となり、腎機能障害が急速に進行し、放置すると全身症状が急激に悪化する病態。眼底では網膜出血・白斑(加速型)や乳頭浮腫(悪性)を認める。腎では細動脈のフィブリノイド壊死や小動脈の内膜増殖(タマネギ様肥厚)による悪性腎硬化症をきたす。腎虚血によりレニン分泌が亢進し、アンジオテンシンIIがさらに血圧を上げるという悪循環が生じる。血栓性微小血管症を合併して溶血性貧血・血小板減少を伴うこともある。降圧薬の自己中断や服薬不良が誘因として多い。

降圧の目安

最初の1時間以内に平均血圧で25%以内の降圧にとどめ、次の2〜6時間で160/100〜110mmHgを目標にする。その後24〜48時間かけてさらに下げていく。ただし急性大動脈解離ではより速やかで強い降圧が求められるなど、病態ごとに目標は異なる。

主な静注降圧薬

ニカルジピン(カルシウム拮抗薬)、ジルチアゼム(カルシウム拮抗薬)、ニトログリセリン(静脈系優位の血管拡張薬、心不全・冠症候群で有用)、ニトロプルシド(強力な血管拡張薬)、フェントラミン(α遮断薬、褐色細胞腫クリーゼ)など。

POINT

・著しい高血圧+急速に進行する臓器障害(本例では腎機能の急速な悪化)=高血圧緊急症(加速型-悪性高血圧)。 ・初期治療は入院・経静脈的降圧薬(ニカルジピンなどのカルシウム拮抗薬の持続静注)で、調節しながら段階的に降圧する。 ・過度の急降圧は臓器虚血を招く。最初の1時間は平均血圧の低下を25%以内にとどめる。 ・急性期の腎機能悪化時には、ACE阻害薬・ARBは腎機能をさらに悪化させうるため初期治療には用いない。 ・緊急透析の適応(治療抵抗性の高カリウム血症、肺水腫、高度アシドーシス、尿毒症症状)がなければ、まず降圧を優先する。 ・経過観察は不適切である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。