鼻の奥の「小さな関所」―成長とともに消えていくアデノイドの素顔
第120回医師国家試験 A問題 第13問
国試問題にチャレンジ
アデノイド増殖症で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.成人に多い。
- b.抗菌薬が有効である。
- c.自然退縮することが多い。
- d.診断に組織生検が必要である。
- e.睡眠時無呼吸症候群の原因となる。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
アデノイド(咽頭扁桃)はWaldeyer咽頭輪を構成する上咽頭のリンパ組織で、3〜6歳頃に最大となり、10歳前後から退縮して思春期以降には大部分が消えるため、アデノイド増殖症は小児の疾患であり自然退縮が期待できます。肥大したアデノイドは上咽頭を塞ぎ、小児の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の主要な原因となるほか、滲出性中耳炎、副鼻腔炎、アデノイド顔貌などを引き起こします。診断は鼻咽腔内視鏡や頭部側面X線による形態評価で行って典型例では生検は不要であり、抗菌薬は肥大そのものには無効です。合併症があり自然退縮を待てない場合にはアデノイド切除術を行い、成人の上咽頭腫瘤では上咽頭癌や悪性リンパ腫を、思春期男子では若年性鼻咽腔血管線維腫を疑う姿勢が重要です。年齢とともに変化するリンパ組織の性質を理解しておくと、小児のいびきや難聴の診療で適切な判断ができるようになります。
解答・解説
正解はc, eです
問われていること
アデノイド(咽頭扁桃)は上咽頭(鼻咽腔)の後上壁にあるリンパ組織で、口蓋扁桃・舌扁桃・耳管扁桃などとともにWaldeyer咽頭輪(ワルダイエル輪:咽頭を輪状に取り囲むリンパ組織の総称)を構成し、鼻や口から入る病原体に対する免疫の最前線として働く。本問は、アデノイドが大きくなって症状を起こす「アデノイド増殖症」の好発年齢、自然経過、診断法、合併症を問う。
病態と自然経過
アデノイドは乳幼児期から大きくなり始め、免疫反応が盛んな3〜6歳頃に最も大きくなる。その後10歳前後から徐々に縮小し、思春期以降には大部分が退縮する。つまりアデノイドの肥大は、多くは小児期に特有の生理的な現象である。ただし、肥大の程度が強く、相対的に狭い小児の上咽頭を塞いでしまうと、さまざまな症状や合併症が生じる。この状態をアデノイド増殖症とよぶ。
肥大による障害
上咽頭が狭くなることで、次のような問題が起こる。 ・鼻呼吸の障害:鼻閉、口呼吸、いびき、閉鼻声(鼻にかかったこもった声) ・上気道の閉塞:小児の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)。睡眠の質の低下による日中の眠気・集中力低下・多動、成長障害、夜尿、重症例では陥没呼吸による漏斗胸などの胸郭変形 ・耳管咽頭口の閉塞:耳管の換気障害による滲出性中耳炎とそれに伴う難聴 ・後鼻孔の閉塞:鼻汁がうっ滞し、副鼻腔炎を合併しやすい ・長期の口呼吸:口が開いたまま、上口唇の挙上、鼻唇溝の消失などを特徴とするアデノイド顔貌
考え方
「小児に多い」「成長とともに自然に退縮する」「診断は内視鏡や画像による形態観察で行う」「OSASや滲出性中耳炎の原因となる」を押さえれば、正解の2つを選ぶことができる。
選択肢考察
- ×a. 成人に多い。
アデノイドは3〜6歳頃に最大となり、10歳前後から退縮するため、アデノイド増殖症は幼児〜学童期の小児に多い。成人ではアデノイドはほとんど退縮しており、増殖症が問題となることはまれである(ごく一部で成人後も残存することはある)。成人で上咽頭に腫瘤を認めた場合には、上咽頭癌や悪性リンパ腫などの腫瘍性病変をまず考えて精査する必要がある。
- ×b. 抗菌薬が有効である。
アデノイド増殖症は細菌感染症ではなく、主にリンパ組織の生理的な肥大であるため、抗菌薬で肥大そのものが縮小することは期待できない。アデノイドに急性炎症(アデノイド炎)を起こした場合や、合併した急性中耳炎・副鼻腔炎の治療には抗菌薬が使われることがあるが、増殖症の治療にはならない。症状が軽い場合は経過観察とし、OSASや難治性の滲出性中耳炎などの合併症があって自然退縮を待てない場合には、アデノイド切除術を行う。
- ○c. 自然退縮することが多い。
アデノイドなどのリンパ組織は小児期に大きく発達し、成長に伴って縮小するという特性をもつ。アデノイドは3〜6歳頃に最大となった後、10歳前後から縮小し始め、思春期以降には大部分が退縮する。さらに成長に伴い上咽頭の空間(骨格)も広がるため、相対的な狭窄は改善していく。このため、合併症のない軽症例では自然経過をみるのが基本である。
- ×d. 診断に組織生検が必要である。
上咽頭は口や鼻の外から直接見えにくい部位にあるため、診断は鼻咽腔内視鏡(ファイバースコープ)による直接観察や、頭部側面X線撮影でアデノイドの大きさと気道の狭さを評価して行う。典型例で生検を行う必要はない。悪性腫瘍(上咽頭癌、悪性リンパ腫)が疑われる場合に限り生検を行う。また、思春期男子に好発する若年性鼻咽腔血管線維腫は血管に富む腫瘍で、安易に生検すると大出血をきたすおそれがあるため、上咽頭の腫瘤に対しては画像で血流を評価してから慎重に判断する。
- ○e. 睡眠時無呼吸症候群の原因となる。
肥大したアデノイドは上咽頭を物理的に狭くし、鼻呼吸を妨げる。睡眠中は咽頭の筋緊張が低下するため気道がさらに狭くなり、いびきや無呼吸が生じる。アデノイド肥大は、口蓋扁桃肥大とともに小児の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の最も重要な原因である。小児のOSASでは、日中の眠気よりも多動・集中力低下、成長障害、夜尿、陥没呼吸や胸郭変形が目立つことがある。治療としてアデノイド切除術(口蓋扁桃肥大を伴えば口蓋扁桃摘出術を同時に行う)が有効である。
Waldeyer咽頭輪の構成
咽頭扁桃(アデノイド:上咽頭後上壁)、耳管扁桃(耳管咽頭口周囲)、口蓋扁桃(中咽頭側壁、一般に「扁桃腺」とよばれるもの)、舌扁桃(舌根部)、咽頭側索などからなる。
アデノイドの大きさの年齢変化
乳児期から増大し、3〜6歳頃に最大となる。10歳前後から退縮が始まり、思春期以降は大部分が退縮する。口蓋扁桃も学童期に大きく、その後縮小する。
診断
・鼻咽腔内視鏡(ファイバースコープ):アデノイドの大きさや後鼻孔・耳管咽頭口の閉塞の程度を直接観察する ・頭部側面X線撮影:上咽頭後壁の軟部陰影の厚さと気道の幅を評価する ・OSASが疑われる場合:睡眠ポリグラフ検査(PSG)や簡易検査で無呼吸の重症度を評価する ・滲出性中耳炎の評価:鼓膜所見、ティンパノメトリー(B型を示すことが多い)、聴力検査
治療
症状が軽ければ経過観察する。OSAS、難治性の滲出性中耳炎、反復する副鼻腔炎・中耳炎、高度の鼻閉などがあり、自然退縮を待てない場合にはアデノイド切除術を行う。滲出性中耳炎を伴う場合は鼓膜換気チューブ留置術(または鼓膜切開術)を、口蓋扁桃肥大を伴う場合は口蓋扁桃摘出術を同時に行うことが多い。
鑑別疾患
上咽頭癌(成人、EBウイルスとの関連、頸部リンパ節腫脹や滲出性中耳炎で発見されることがある)、悪性リンパ腫、若年性鼻咽腔血管線維腫(思春期男子、反復する鼻出血と鼻閉、生検は大出血の危険)。
POINT
・アデノイド(咽頭扁桃)は3〜6歳頃に最大、10歳前後から退縮し、思春期以降には大部分が退縮する(小児の疾患) ・合併症:鼻閉・口呼吸・いびき、小児の閉塞性睡眠時無呼吸症候群、滲出性中耳炎(耳管咽頭口の閉塞)、副鼻腔炎、アデノイド顔貌、漏斗胸 ・診断は内視鏡と頭部側面X線撮影による形態評価で、生検は不要 ・抗菌薬は無効。合併症があり自然退縮を待てなければアデノイド切除術 ・成人の上咽頭腫瘤は上咽頭癌・悪性リンパ腫を疑い、思春期男子では若年性鼻咽腔血管線維腫に注意(安易な生検は禁忌)
