「見える」「聞こえる」か「されている」か―幻覚と妄想を言葉で見分ける
第118回医師国家試験 B問題 第20問
国試問題にチャレンジ
妄想はどれか。
- a.「床に小さな虫が沢山見えます」
- b.「母親の声で名前を呼ばれるのが聞こえます」
- c.「盗聴器を体に埋め込まれて監視されています」
- d.「腹の中にあるゴムの球が動き回るのを感じます」
- e.「何を食べても砂を嚙んでいるようでおいしくないです」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクターまとめ
精神症状の評価では、訴えが知覚の異常(幻覚)か思考内容の異常(妄想)かを区別することが基本です。幻覚は「対象なき知覚」で、小動物幻視は振戦せん妄、幻聴は統合失調症に多く、体内の奇妙な感覚は体感幻覚にあたります。妄想は根拠に乏しく訂正不能な誤った確信であり、体に盗聴器を埋め込まれ監視されているという訴えは被害妄想(注察妄想・物理的被害妄想)です。味気なさの訴えは幻覚でも妄想でもなく、うつ病などでみられる喜びの低下と考えます。被害妄想(統合失調症)、微小妄想(うつ病)、誇大妄想(躁状態)、嫉妬妄想(アルコール依存症)、もの盗られ妄想(認知症)といった分類を押さえることは、診断の手がかりと適切な対応につながります。
解答・解説
正解はcです
精神症状を評価するときは、その訴えが「知覚の異常」なのか「思考(内容)の異常」なのかを区別することが基本である。 幻覚は知覚の異常であり、「対象なき知覚」と定義される。実際には存在しない対象を、見える(幻視)、聞こえる(幻聴)、体で感じる(体感幻覚)など、感覚として体験するものである。 妄想は思考内容の異常であり、根拠が乏しく現実にはあり得ない内容であるにもかかわらず、本人は強い確信をもっており、周囲が論理的に説明しても訂正できない誤った信念をいう。その人の属する文化や教育から説明できる信念(宗教的信仰など)は妄想に含めない。 本問では、各訴えが「見える・聞こえる・感じる」という知覚の体験を述べているのか、「〜されている」という確信(判断・信念)を述べているのかに注目する。「体に盗聴器を埋め込まれ、監視されている」という訴えは、何かを知覚した報告ではなく、他者から害を加えられているという誤った確信の表明であり、被害妄想に該当する。
選択肢考察
- ×a. 「床に小さな虫が沢山見えます」
存在しない虫が見えるという視覚の異常であり、幻視(幻覚の一種)である。虫や小動物が多数見えるものは小動物幻視と呼ばれ、アルコール離脱による振戦せん妄(アルコールの急な中断後に生じる意識障害・自律神経症状・振戦を伴う状態)で典型的に出現する。せん妄全般やLewy小体型認知症でも具体的で生々しい幻視がみられる。知覚の異常であり、妄想ではない。
- ×b. 「母親の声で名前を呼ばれるのが聞こえます」
実際には聞こえない声が聞こえるという聴覚の異常であり、幻聴(幻覚の一種)である。幻聴は統合失調症で最も頻度の高い幻覚であるが、精神病症状を伴ううつ病や双極性障害、物質関連障害など様々な疾患でみられる。知覚の異常であり、妄想ではない。
- ○c. 「盗聴器を体に埋め込まれて監視されています」
現実にはあり得ない「体内に盗聴器を埋め込まれ、監視されている」という内容を事実として確信しており、他者から害を加えられているという被害妄想にあたる。見られている・監視されているという内容は注察妄想、器械や電波など物理的手段で害を受けているという内容は物理的被害妄想と呼ばれ、いずれも統合失調症に多い。体内の異物を感覚として感じていると述べているのではなく、監視されているという確信を説明するための考えとして語られている点で、思考内容の異常(妄想)と判断できる。
- ×d. 「腹の中にあるゴムの球が動き回るのを感じます」
体内に実在しないものが動く感覚を体験しており、体感幻覚(セネストパチー、体の内部に生じる奇妙な異常感覚)である。幻覚の一種であり、主に統合失調症でみられる。「感じます」と知覚体験として述べられている点が、確信を述べるcとの違いである。
- ×e. 「何を食べても砂を嚙んでいるようでおいしくないです」
存在しない味を感じているのではなく、食物の味わいが乏しく感じられるという味覚・食事の喜びの低下の訴えであり、「対象なき知覚」ではないため幻覚でも妄想でもない。うつ病では興味・喜びの喪失や食欲低下に伴ってこのような訴えがよくみられ、離人症(現実感や感覚の生々しさが失われる状態)でも生じうる。身体疾患では亜鉛欠乏による味覚障害も鑑別となる。
幻覚の種類と代表的な疾患
・幻聴:統合失調症で最多。自分の考えが声になって聞こえる考想化声、自分を噂する声、命令する声などが特徴的。 ・幻視:せん妄(特にアルコール離脱による振戦せん妄の小動物幻視)、Lewy小体型認知症(人や動物の具体的な幻視)、薬物中毒など。器質的・中毒性の疾患を示唆することが多い。 ・体感幻覚:統合失調症に多い。 ・幻嗅・幻味:側頭葉てんかんの前兆、統合失調症など。
妄想の大まかな分類
・被害妄想:他者から害を受けていると確信する。注察妄想(見られている)、追跡妄想(つけ狙われている)、被毒妄想(毒を盛られている)、物理的被害妄想(電波などで攻撃される)、迫害妄想など。統合失調症に多い。統合失調症以外では、アルコール依存症の嫉妬妄想(配偶者が浮気していると確信する)、Alzheimer型認知症のもの盗られ妄想が重要である。 ・微小妄想:自分を過小に評価する妄想で、うつ病(精神病症状を伴ううつ状態)でみられる。罪業妄想(重大な罪を犯した)、貧困妄想(財産がなくなった)、心気妄想(重い病気にかかっている)が三大微小妄想である。 ・誇大妄想:自分を過大に評価する妄想で、双極性障害の躁状態でみられる。血統妄想(高貴な家柄の出である)、発明妄想、宗教妄想など。
妄想の成立様式
妄想は、了解できる心理的背景から生じる二次妄想(妄想様観念)と、背景から了解できない一次妄想に分けられる。一次妄想には、知覚した事柄に特別な意味づけをする妄想知覚、突然ひらめく妄想着想、周囲が不気味に変わったと感じる妄想気分があり、統合失調症に特徴的である。
POINT
・幻覚は「対象なき知覚」(見える・聞こえる・感じる)、妄想は「訂正不能な誤った確信」(〜されている、〜である)である。 ・体内に盗聴器を埋め込まれ監視されているという訴えは被害妄想(注察妄想・物理的被害妄想)である。 ・小動物幻視は振戦せん妄、体感幻覚は統合失調症に多い。 ・妄想は被害・微小(うつ病)・誇大(躁状態)に大別される。嫉妬妄想(アルコール依存症)、もの盗られ妄想(認知症)も頻出である。
