英語で問われる新生児スクリーニング―タンデムマス法が「見ている」ものは何か
第119回医師国家試験 F問題 第19問
国試問題にチャレンジ
Which of the following is a target disease for neonatal screening using tandem mass spectrometry?
- a.Wilson disease
- b.Spinal muscular atrophy 〈SMA〉
- c.Methylmalonic acidemia 〈MMA〉
- d.Severe combined immunodeficiency 〈SCID〉
- e.Congenital cytomegalovirus infection 〈cCMV〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
タンデムマス法は、新生児のろ紙血中のアミノ酸とアシルカルニチンを一斉に測定する方法で、アミノ酸代謝異常症・有機酸代謝異常症・脂肪酸代謝異常症が対象となります。有機酸代謝異常症であるメチルマロン酸血症は、プロピオニルカルニチン(C3)の上昇として検出され、発症前に蛋白制限やビタミンB12・L-カルニチンなどの治療を始められる点に大きな意義があります。SMA(SMN1欠失)やSCID(TREC低値)は遺伝子をPCRで調べる拡大新生児スクリーニングの対象であり、Wilson病や先天性CMV感染症はタンデムマス法では検出できません。先天性甲状腺機能低下症や先天性副腎過形成症も別の測定法で検査されており、「何を測る検査か」で整理することが、新生児スクリーニング全体を正確に理解する近道です。
解答・解説
正解はcです
設問の意味
英文の設問で、新生児マススクリーニングのうちタンデム質量分析(タンデムマス法)で拾い上げる疾患を5つの中から1つ選ばせている。選択肢はWilson病、脊髄性筋萎縮症(SMA)、メチルマロン酸血症(MMA)、重症複合免疫不全症(SCID)、先天性サイトメガロウイルス感染症(cCMV)である。
考え方
タンデムマス法(タンデム質量分析法、MS/MS)は、2台の質量分析計を直列につないだ装置で、ろ紙に染み込ませた新生児の乾燥血液から多数のアミノ酸とアシルカルニチン(脂肪酸や有機酸がカルニチンと結合した物質)を一度に測定する方法である。したがって検出できるのは、これらの代謝物が異常値を示す先天代謝異常症、すなわちアミノ酸代謝異常症、有機酸代謝異常症、脂肪酸代謝異常症の3群に限られる。 選択肢を見ると、メチルマロン酸血症は有機酸代謝異常症であり、プロピオニルカルニチン(C3)の上昇としてタンデムマス法で捉えられる。一方、Wilson病は銅代謝異常、SMAは遺伝子(SMN1)欠失、SCIDはT細胞産生の障害、cCMVはウイルス感染であり、いずれもアミノ酸・アシルカルニチンの異常を指標にできないため、タンデムマス法の対象にはならない。SMAとSCIDは近年、遺伝子を調べるPCR法による「拡大新生児スクリーニング」として導入が進んでいるが、これはタンデムマス法とは別の検査である点を区別することが本問の鍵である。
選択肢考察
- ×a. Wilson disease
Wilson病はATP7B遺伝子変異による常染色体潜性(劣性)遺伝の銅代謝異常症で、胆汁中への銅排泄障害とセルロプラスミンへの銅の組み込み障害により、肝臓・脳(大脳基底核)・角膜(Kayser-Fleischer輪)などに銅が蓄積する。診断には血清セルロプラスミン低値、血清銅低値、尿中銅排泄増加、肝銅含量の増加、遺伝子検査を用いる。アミノ酸やアシルカルニチンの異常を示さないためタンデムマス法では検出できない。過去にろ紙血のセルロプラスミンを測るスクリーニングが試みられたが、新生児期はセルロプラスミンが生理的に低いことなどから実用化されておらず、新生児スクリーニングの対象外である。
- ×b. Spinal muscular atrophy 〈SMA〉
SMAは運動神経細胞生存(SMN1)遺伝子の欠失・変異による常染色体潜性遺伝の疾患で、脊髄前角細胞の変性により筋力低下と筋萎縮をきたす。ヌシネルセン(アンチセンス核酸)やオナセムノゲン アベパルボベク(遺伝子治療薬)、リスジプラムなどの治療薬が登場し、発症前の早期治療ほど効果が高いことから、新生児スクリーニングが各地で導入されている。ただしその方法は乾燥ろ紙血からDNAを抽出し、SMN1エクソン7の欠失をリアルタイムPCR法で調べるものであり、代謝物を測るタンデムマス法の対象ではない。
- ○c. Methylmalonic acidemia 〈MMA〉
メチルマロン酸血症は代表的な有機酸代謝異常症で、メチルマロニルCoAムターゼの欠損、またはその補酵素であるアデノシルコバラミン(ビタミンB12の活性型)の代謝異常によって、メチルマロニルCoAからスクシニルCoAへの変換が障害される。上流のプロピオニルCoAが蓄積し、これがカルニチンと結合したプロピオニルカルニチン(C3)が血中で増加するため、タンデムマス法でC3の上昇(およびC3/C2比の上昇)として検出できる。新生児期から代謝性アシドーシス、高アンモニア血症、哺乳不良、嘔吐、意識障害などで急激に発症しうるため、発症前に発見して食事療法(蛋白制限)や薬物療法(ビタミンB12、L-カルニチンなど)を開始する意義が大きく、タンデムマス・スクリーニングの対象疾患となっている。
- ×d. Severe combined immunodeficiency 〈SCID〉
SCIDはT細胞の分化が障害され、B細胞機能も含めた細胞性・液性免疫がともに高度に障害される先天性免疫不全症で、乳児期早期から重症感染症を繰り返し、造血幹細胞移植を行わなければ致死的となる。スクリーニングの際は、T細胞受容体(TCR)の遺伝子が再構成される際に生じる環状DNA断片であるTREC(T-cell receptor excision circles)をリアルタイムPCR法で定量し、新たに産生されたT細胞が少ないことを捉える。弱毒生ワクチン(ロタウイルスワクチン、BCGなど)の接種前に診断することが重要で、拡大新生児スクリーニングとして導入が進んでいるが、タンデムマス法の対象ではない。
- ×e. Congenital cytomegalovirus infection 〈cCMV〉
先天性サイトメガロウイルス感染症は妊娠中の母体感染が胎児に移行して起こり、感音難聴、小頭症、脳室周囲石灰化、発達遅滞、肝脾腫、血小板減少などを呈する。先天感染と診断するには、生後3週間以内に採取した尿などからウイルスDNAをPCR法で検出する(それ以降では生後の感染と区別できない)。病原体の核酸を調べる検査であり、代謝物を測るタンデムマス法では検出できない。
日本の新生児マススクリーニング
生後4〜6日(日齢4〜6)に足底から採血したろ紙血を用いて行う。公費で実施される対象疾患は約20疾患で、以下の2系統に分けられる。 1. タンデムマス法で検出する疾患(2014年度から全国で導入) ・アミノ酸代謝異常症:フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、シトルリン血症1型、アルギニノコハク酸尿症 ・有機酸代謝異常症:メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症、イソ吉草酸血症、メチルクロトニルグリシン尿症、ヒドロキシメチルグルタル酸(HMG)血症、複合カルボキシラーゼ欠損症、グルタル酸血症1型 ・脂肪酸代謝異常症:中鎖アシルCoA脱水素酵素(MCAD)欠損症、極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症、三頭酵素(TFP)欠損症、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ(CPT)1欠損症、CPT2欠損症 2. タンデムマス法以外の方法で検出する疾患 ・先天性甲状腺機能低下症(TSH測定) ・先天性副腎過形成症(17-ヒドロキシプロゲステロン測定) ・ガラクトース血症(ガラクトース・酵素活性測定)
拡大新生児スクリーニング
上記に加え、SCID(TREC測定)、SMA(SMN1遺伝子のPCR)、ライソゾーム病(ポンペ病、ファブリー病、ムコ多糖症など:酵素活性測定)などが、自治体ごとの事業や国の実証事業として実施されつつある。
メチルマロン酸血症の要点
・常染色体潜性遺伝。 ・プロピオン酸代謝経路(バリン・イソロイシン・メチオニン・スレオニン、奇数鎖脂肪酸の代謝)の障害。 ・ビタミンB12反応型と不応型がある。 ・急性期:代謝性アシドーシス(アニオンギャップ開大)、ケトーシス、高アンモニア血症、低血糖。 ・確定診断:尿中有機酸分析でメチルマロン酸の著増、酵素活性・遺伝子検査。
POINT
・タンデムマス法は乾燥ろ紙血のアミノ酸とアシルカルニチンを一斉測定する方法で、アミノ酸代謝異常症・有機酸代謝異常症・脂肪酸代謝異常症が対象。 ・メチルマロン酸血症は有機酸代謝異常症で、C3(プロピオニルカルニチン)上昇として検出される。 ・SCID(TREC)とSMA(SMN1欠失)はPCR法による拡大新生児スクリーニングの対象で、タンデムマス法ではない。 ・先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎過形成症、ガラクトース血症はタンデムマス法以外で検査される公費対象疾患。 ・先天性CMV感染の診断は生後3週以内の尿のPCR。
