かかとの一滴が未来を守る―新生児マススクリーニング採血の「正しい作法」
第112回医師国家試験 F問題 第43問
国試問題にチャレンジ
ろ紙血による新生児マススクリーニングについて正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.採血を日齢1に行う。
- b.採血は足踵外側部から行う。
- c.ろ紙に血液を二度塗りする。
- d.血液塗布後,ろ紙を熱風で乾燥させる。
- e.インフォームド・コンセントが必要である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
新生児マススクリーニングは、先天性代謝異常症や内分泌疾患を発症前に見つけて治療につなげるための検査で、乾燥ろ紙血をタンデム質量分析法などで測定します。採血は哺乳が確立しTSHサージが落ち着いた日齢4〜6ごろに、踵骨骨髄炎を避けるため踵の外側部(または内側部)から行い、1滴目は拭き取って2滴目以降を一度で裏面まで浸透させます。重ね塗りは単位面積あたりの血液量を増やして偽陽性の原因となり、熱風乾燥は酵素やホルモンを変性させるため、室温での自然乾燥が原則です。公費で行われますが義務ではなく、保護者への説明と同意が必要です。各手順の「理由」を理解しておくことが、偽陽性・偽陰性を防ぐ確かな手技と、保護者への的確な説明につながります。
解答・解説
正解はb, eです
新生児マススクリーニングは、症状が出る前に発見して治療を始めれば知的障害や生命の危機を防げる先天性疾患(先天性代謝異常症や内分泌疾患)を、すべての新生児を対象に見つけ出すための検査である。少量の血液を専用のろ紙にしみ込ませた乾燥ろ紙血を検査機関に送り、タンデム質量分析法(アミノ酸やアシルカルニチンを一度に多数測定する方法)や免疫測定法などで測定する。 本問は採血の「時期」「部位」「手技」「検体の扱い」「実施の手続き」を問うている。考え方のポイントは以下である。 ・時期:哺乳が確立して異常な代謝産物が血中に蓄積し、かつ出生直後の生理的なホルモン変動(TSHサージなど)が落ち着いた時期でないと、偽陰性・偽陽性が増える。 ・手技と検体:ろ紙上の一定面積の血液量から濃度を算出するため、血液量が一定になる採り方と、成分を変質させない乾燥方法が求められる。 ・手続き:公費で行われる事業だが強制ではなく、保護者への説明と同意のうえで実施する医療行為である。 これらに照らすと、正しいのは足踵外側部からの採血と、インフォームド・コンセントが必要という記述である。
選択肢考察
- ×a. 採血を日齢1に行う。
採血は日齢4~6(生後5日前後。日齢4~7とする記載もある)に行う。アミノ酸代謝異常症(フェニルケトン尿症など)は、哺乳によって蛋白質を摂取し始めてから異常な代謝産物が蓄積するため、哺乳が不十分な日齢1では偽陰性になりやすい。また先天性甲状腺機能低下症の指標であるTSH(甲状腺刺激ホルモン)は、出生直後に寒冷刺激などで生理的に急上昇(TSHサージ)し数日で下がるため、早すぎる採血では偽陽性が増える。なお、極低出生体重児などでは初回採血に加え、一定期間後の再採血が推奨される。
- ○b. 採血は足踵外側部から行う。
新生児の採血は足底の踵部から行い、穿刺部位は踵の外側部または内側部とする。踵の中央後方部は皮膚から踵骨までの距離が短く、深く穿刺すると骨髄炎(踵骨骨髄炎)を起こす危険があるため避ける。手順は、足を温めて血流を良くし、アルコール綿で消毒して十分乾燥させた後(アルコールが残ると溶血や検体の希釈の原因になる)、ランセットで穿刺する。1滴目は組織液が混じりやすいのでガーゼで拭い、2滴目以降の自然に湧き出る血液をろ紙に吸収させる。強く絞り出すと組織液混入や溶血を起こすため避ける。
- ×c. ろ紙に血液を二度塗りする。
ろ紙には、印の円を満たし裏面まで十分しみ通る量の血液を、一度でしみ込ませる。ろ紙を皮膚に押し当てず、盛り上がった血滴にろ紙を軽く触れさせて吸い取るのが原則である。同じ円に血液を重ねて付ける(二度付け・重ね塗り)と単位面積あたりの血液量が増え、測定値が高く出て偽陽性の原因になる。逆に量が少なく裏面まで浸透していない場合は偽陰性の原因となる。
- ×d. 血液塗布後,ろ紙を熱風で乾燥させる。
採血後のろ紙は、直射日光や高温多湿を避け、室温で水平に置いて自然乾燥させる。ろ紙同士を重ねたり、血液面を他のものに接触させたりしない。ドライヤーなどの熱風を当てると、測定対象である酵素活性(ガラクトース血症の検査など)や蛋白・ホルモンが熱で変性し、正しい結果が得られなくなる。十分に乾燥させてから検査機関へ送付する。
- ○e. インフォームド・コンセントが必要である。
新生児マススクリーニングは都道府県・指定都市が実施主体となり、検査費用は公費で負担されるが、法律で義務づけられた検査ではなく、保護者の任意の申し込みに基づいて行われる。採血は侵襲を伴う医療行為であり、検査結果や残余検体の扱いなど個人情報にも関わるため、出産施設の医師・助産師らが検査の目的、対象疾患、方法、再検査の可能性などを保護者に説明し、同意(申込書への記入)を得てから実施する。
新生児マススクリーニングの概要
・日本では1977年に開始された。当初はフェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、ガラクトース血症、ヒスチジン血症の5疾患(ヒスチジン血症は後に除外)で、その後先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)、先天性副腎過形成症が加わった。 ・2014年度からタンデム質量分析法が全国で導入され、アミノ酸代謝異常症、有機酸代謝異常症、脂肪酸代謝異常症が多数対象となった。現在の一次対象疾患は20疾患程度であり、ほかに副次的に見つかる疾患もある(対象疾患数は見直しにより変動する)。 ・近年は、重症複合免疫不全症(SCID)や脊髄性筋萎縮症(SMA)などを対象とする拡大スクリーニングも、公費の実証事業や有料の任意検査として広がっている。
主な対象疾患と測定指標
・先天性甲状腺機能低下症:TSH(施設によりFT4も)。治療はレボチロキシン補充。 ・先天性副腎過形成症(21-水酸化酵素欠損症):17-OHP(17-ヒドロキシプロゲステロン)。早産児・低出生体重児では偽陽性が多い。 ・ガラクトース血症:ガラクトース、酵素活性。 ・アミノ酸代謝異常症(フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症など):タンデムマスでアミノ酸を測定。 ・有機酸代謝異常症、脂肪酸代謝異常症:タンデムマスでアシルカルニチンを測定。
採血の要点のまとめ
・時期:日齢4~6(哺乳確立後、TSHサージ消退後) ・部位:踵の外側部または内側部(中央後方は避ける) ・手技:消毒後よく乾燥、1滴目は拭き取り、2滴目以降を一度で裏まで浸透させる。二度付けしない。 ・乾燥:室温で水平に自然乾燥。熱風・直射日光・高温多湿を避ける。 ・手続き:保護者への説明と同意が必要。
POINT
・採血は日齢4~6。早すぎると代謝異常の偽陰性、TSHサージによる偽陽性が起こる。 ・穿刺は踵の外側部(または内側部)。中央後方は踵骨骨髄炎の危険があるため避ける。 ・ろ紙には一度で裏面まで浸透させ、二度付けしない(偽陽性の原因)。 ・乾燥は自然乾燥で、熱風は不可。 ・公費で行われるが任意の検査であり、保護者の同意が必要。
