踵の一滴が未来を守る―新生児マススクリーニングとメープルシロップ尿症
第117回医師国家試験 C問題 第14問
国試問題にチャレンジ
すべての新生児に対してマススクリーニングが行われているのはどれか。
- a.Menkes病
- b.Gaucher病
- c.Lesch-Nyhan症候群
- d.メープルシロップ尿症
- e.副腎白質ジストロフィー
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
日本の新生児マススクリーニングは、生後4〜6日に踵から採取したろ紙血で行われ、タンデムマス法で検出するアミノ酸・有機酸・脂肪酸代謝異常症に、ガラクトース血症、先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎過形成症を加えた約20疾患が公費対象です。メープルシロップ尿症は分枝鎖α-ケト酸脱水素酵素複合体の異常による疾患で、早期の食事療法により重い神経障害を防げるため、1977年の開始当初から対象とされています。Menkes病、Gaucher病、Lesch-Nyhan症候群、副腎白質ジストロフィーは全新生児対象の公費スクリーニングには含まれず、一部は任意の拡大スクリーニングとして実施されているにとどまります。「発症前に見つけられ、早期治療で予後が改善する」というスクリーニングの条件から考えると、対象疾患を理屈で整理でき、新生児診療での異常値への対応にもつながります。
解答・解説
正解はdです
問われていること
我が国で公費により全新生児を対象として実施されている新生児マススクリーニングの対象疾患を問う問題である。
考え方
新生児マススクリーニングは、症状が出る前に先天性疾患を見つけ、治療を早く始めることで死亡や知的障害などの重い後遺症を防ぐことを目的とする。対象疾患には、①発症前に検査で見つけられる、②頻度が一定以上ある、③早期に治療すれば予後が改善する治療法がある、④安価で精度の高い検査法がある、といった条件が求められる。 我が国では生後 4〜6 日(日齢 4〜6)に足の踵から採血し、ろ紙に染み込ませた血液(ろ紙血)で検査する。現在の公費対象は、タンデムマス法(タンデム質量分析法)で測定するアミノ酸代謝異常症・有機酸代謝異常症・脂肪酸代謝異常症に、ガラクトース血症、先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎過形成症を加えた約 20 疾患である。 このうちアミノ酸代謝異常症に属するメープルシロップ尿症が正解となる。その他の選択肢は、いずれも全新生児を対象とした公費スクリーニングの対象ではない(一部は自治体などが任意の拡大スクリーニングとして実施している)。
選択肢考察
- ×a. Menkes病
誤り。Menkes 病は銅を輸送する ATPase(ATP7A)の遺伝子異常による X 連鎖潜性遺伝の疾患で、腸管からの銅吸収と体内での銅の移動が障害され、著しい銅欠乏をきたす。縮れて折れやすい毛髪(kinky hair)、けいれん、進行性の中枢神経障害、結合組織の異常(血管の蛇行、膀胱憩室など)がみられる。血清銅とセルロプラスミンの低値で疑う。治療はヒスチジン銅の皮下注射であるが、新生児マススクリーニングの対象にはなっていない。
- ×b. Gaucher病
誤り。Gaucher 病は常染色体潜性遺伝のライソゾーム病で、グルコセレブロシダーゼ(酸性 β-グルコシダーゼ)の欠損によりグルコセレブロシドがマクロファージ内に蓄積する(Gaucher 細胞)。肝脾腫、汎血球減少(貧血、血小板減少)、骨病変などを呈し、神経型では中枢神経症状を伴う。血清酸性ホスファターゼ(ACP)やアンジオテンシン変換酵素(ACE)の高値が手がかりとなり、酵素活性の測定で確定する。酵素補充療法があるため一部地域で任意の拡大スクリーニングに含まれるが、全新生児を対象とする公費スクリーニングの対象ではない。
- ×c. Lesch-Nyhan症候群
誤り。Lesch-Nyhan 症候群はプリン代謝のサルベージ経路に働くヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)の欠損による X 連鎖潜性遺伝の疾患である。尿酸の過剰産生による高尿酸血症(尿中尿酸/クレアチニン比の上昇、オムツに付くオレンジ色の尿酸結晶、尿路結石、痛風)、不随意運動などの錐体外路症状、発達遅滞、そして唇や指を噛むといった自傷行為が特徴である。高尿酸血症にはアロプリノールを用いるが神経症状を改善する治療はなく、マススクリーニングの対象ではない。
- ○d. メープルシロップ尿症
正しい。メープルシロップ尿症は分枝鎖 α-ケト酸脱水素酵素複合体の異常により、分枝鎖アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、バリン)から生じる分枝鎖 α-ケト酸を代謝できなくなる常染色体潜性遺伝のアミノ酸代謝異常症である。古典型では生後数日〜1 週間ごろに哺乳不良、嘔吐、意識障害、けいれん、昏睡などをきたし、尿や汗がメープルシロップのような甘い匂いを放つ。早期に分枝鎖アミノ酸を除去した特殊ミルクによる食事療法を始めれば重い神経障害を防げるため、新生児マススクリーニングの対象とされている。かつてはガスリー法などで血中ロイシンを測定していたが、現在はタンデムマス法で血中ロイシン+イソロイシンの上昇を検出する。
- ×e. 副腎白質ジストロフィー
誤り。副腎白質ジストロフィーは ABCD1 遺伝子の異常による X 連鎖潜性遺伝の疾患で、ペルオキシソームでの極長鎖脂肪酸の分解が障害され、血中や組織に極長鎖脂肪酸が蓄積する。主に男児にみられ、小児大脳型では学童期(おおむね 3〜10 歳)に学業成績の低下や行動異常、視力・聴力障害などで発症し、急速に進行する。副腎不全を伴うことも多い。発症早期の造血幹細胞移植で進行を抑えられるため、海外や国内の一部地域ではスクリーニングが試みられているが、我が国の全新生児を対象とする公費スクリーニングには含まれていない。
我が国の新生児マススクリーニングの歩み
・1977 年:フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、ヒスチジン血症、ガラクトース血症の 5 疾患で、全新生児を対象に公費で開始。 ・1979 年:先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)を追加。 ・1989 年:先天性副腎過形成症を追加。 ・1992 年:ヒスチジン血症を除外(治療の必要性が乏しいため)。 ・2014 年度までに全国でタンデムマス法を導入し、有機酸代謝異常症や脂肪酸代謝異常症などに対象が拡大。
現在の公費対象疾患(約 20 疾患)
・アミノ酸代謝異常症:フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、シトルリン血症 1 型、アルギニノコハク酸尿症 ・有機酸代謝異常症:メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症、イソ吉草酸血症、グルタル酸血症 1 型など ・脂肪酸代謝異常症:中鎖アシル CoA 脱水素酵素(MCAD)欠損症、極長鎖アシル CoA 脱水素酵素(VLCAD)欠損症など ・糖代謝異常症:ガラクトース血症 ・内分泌疾患:先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎過形成症
検査の実際
生後 4〜6 日に踵から採血したろ紙血を検査機関に送る。哺乳が十分に始まってから採血するのは、アミノ酸などの代謝産物が蓄積して異常値として検出されやすくなるためである。検査費用は公費負担、採血料などは自己負担となることが多い。
任意の拡大スクリーニング
公費対象以外にも、脊髄性筋萎縮症(SMA)、重症複合免疫不全症(SCID)、ライソゾーム病(Pompe 病、Fabry 病、Gaucher 病、ムコ多糖症など)、副腎白質ジストロフィーなどについて、一部の自治体や医療機関が希望者を対象に拡大スクリーニングを実施している。これらは全新生児を対象としたものではない点に注意する。
メープルシロップ尿症の要点
・分枝鎖 α-ケト酸脱水素酵素複合体の異常(常染色体潜性遺伝) ・ロイシン、イソロイシン、バリンとそのケト酸が蓄積 ・新生児期の哺乳不良、嘔吐、意識障害、けいれん、尿の甘い匂い ・急性期は腹膜透析や血液浄化療法などで蓄積物質を除去し、慢性期は分枝鎖アミノ酸制限食で管理する
POINT
・新生児マススクリーニングは生後 4〜6 日のろ紙血で行い、公費対象は約 20 疾患。 ・タンデムマス法でアミノ酸・有機酸・脂肪酸代謝異常症を検出する。 ・タンデムマス法以外の対象:ガラクトース血症、先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎過形成症。 ・メープルシロップ尿症は 1977 年の開始時からの対象疾患。 ・Menkes 病、Gaucher 病、Lesch-Nyhan 症候群、副腎白質ジストロフィーは全新生児対象の公費スクリーニングには含まれない。
